灰の降る世界   作:Humanity

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2 : 爺と扉

—10月27日—

 

 

 

爺の朝は早い。

 

 

 

朝5:00丁度に起床した爺はいつも通りにランニングの準備を始める。適当なシャツと短パン、スニーカーを履いて部屋から出ると大広間からシェルター深部へいつもの道—昨晩の逃走と似たルート—を走る。

 

昨晩のパーティー後にシェルター内のファームハンドなどが片付けをしたのだろう。テーブルは片付けられている。もちろん、大広間内の風船などヴォルトカラーの装飾はそのままだ。

 

「と、そういえば昨日はあの群衆から逃げて部屋に入ったのだからあいつらはおれがパーティを組んだこと自体知らんのじゃないか?これは...いや深く考えるのはよそうか。」

 

面倒にならないことを祈りつつ原子力発電施設の前を通り過ぎる。折り返し地点と決めていて、ここまでで20分弱かかっている。

 

「いよいよ今日だからな、しっかり体を解さにゃならん。いやしかし...」

 

脳裏でヴォルトに入ったとき見た景色、春のアパラチアが古いテープ式の映写機のように映し出される。

 

「懐かしいな。もう季節感が怪しいがいまはきっと...秋か?」

 

Take me home, country roadを口遊みながら後半へはいる。「そういえばこの歌にはアパラチアはないじゃないか」と思い出しながら。

 

 

 

 

爺がランニング後半に入ったその頃、勇人が起きていた。ちなみに時間は5:30過ぎである。

 

ぼやける視界のなかベッドの側に置いた手帳と時計を照らし合わせる。

 

「セレモニーが7:30でヴォルトドア開放が8:00か...すんごい早く起きたな...。」

 

隣のベッドでは姉の奈々美がぐっすり眠っている。

 

「姉さんは朝弱いから6:30には起こさないとな...もしくはそれよりか。僕は...どうするかな。そうだ、プロテクトロンに朝食の予約を早めに入れておこう。6:30だともう他の人たちも起きるだろうし。」

 

寝間着の上からカーデガンを一枚羽織り、朝食の予約を入れることをメモに書き入れて置いておく。

 

「起きないと思うけど一応ね...。」

 

普段からシェルター内で姉と別れて行動するときには何か書き置きをしたりメモに書き入れたりして行き先や用向きをわかるようにしている。

 

「それじゃあ いってきます。」

 

起こさないようにそう告げると部屋の外へ出た。

 

食堂で注文を済ませて大広間に出、部屋へ戻る途中でランニングから戻ってくる老人と会った。

 

「あぁ、アダム先生おはようございます。」

 

「おっ ハヤト君か、おはよう。今日は早いねぇ。」

 

「自然に寝が覚めたので。先生はランニングの帰りですか?」

 

「あぁ。もう5:00過ぎから始めていたよ。どんな日であれ日課は欠かさない、これが大事だと思ってねハッハッハ。」

 

「5:00ですか...早いですね...いやいつも通りなのでしょうけど。」

 

「アリサカ君はまだ起きていないか?」

 

「おそらくは。」

 

「そうかそうか。ふむ、それじゃまた後でな。準備を入念にしておくんだぞ?」

 

「えぇもちろんです。それでは後ほど。」

 

「うむ、おれは7:00くらいにはヴォルトドアの前に行こうかと考えているよ。セレモニーに遅れんようにな?」

 

「分かりました。」

 

爺と別れて部屋へ入る途中でブラッドリーから声が掛かる。

 

「Pip boyもわすれんようになぁー?」

 

「えぇわかりました。」

 

軽く手を振りつつ部屋に入った。

 

 

 

部屋に戻ると行きは消えていたディスプレイに『Please stand by』の文字が映されていた。また、まだ1時間半も前にも関わらず既に画面端にはカウントダウンが表示されておりpip boyのケースもロックが外れていた。パソコンではヴォルトボーイが新着メールを知らせている。

ヴォルト全体が既に送り出す準備をほぼ終わらせているのだ。

 

 

 

 

勇人は時計を気にしつつ自分のバックパックの中を確認する。工学参考書があることを確認したあたりで6:30を過ぎた。そろそろか、と部屋の電気をつける。

 

「姉さん、朝だよ起きて。」

 

「〜…んん」

 

顔を背ける。

 

「姉さーん?」

 

「んん...」

 

布団を頭まで被って光を遮る。

 

「姉さ〜ん?今日は外にやっと出れる日なんだよ?」

 

「...」

 

「明日はもう僕以外のアダム先生にスチュワートさんもいるんだよ?今日で起きれなきゃ。」

 

「...」

 

「寝ないで。」

 

目までだけ出してジトッと見つめてくる。

 

「...もうちょっとごろごろする」

 

「駄目、起きて。」

 

「うぐぅ...」

 

首を起こしたので背中を押して手伝い、起き上がらせる。両足とも動かせないので自分で起き上がるのに苦労するのである。

 

「...考えてなかったんだけど、これから姉さん着替える時とか寝る時とか僕しかいない状況のほうが少ないんじゃないかと思うんだよね。どうしようか。」

 

「...」

 

絵に描いたようにぼんやりとしているのを見てため息をつきつつ

 

「...うん、聞いてないね。姉さんの話なんだけど。」

 

「...」

 

「まぁいいや後で話すよ。それじゃ、目が覚めたら言ってね?なるべく早くしてくれると嬉しいかな。」

 

姉を起こすまでの戦いで20分経ったことに不安げな表情を残しつつ自分の身支度を始めるのだった。

 

 

 

 

勇人が姉を起こそうと奮闘するちょうどその頃、スチュワートが寝覚めた。普段なら5:00には起きる彼は長く寝たもんだなと驚きつつこれからの行動を考える。

 

「さて、いつもならアダムさんのところへ行って講義の下準備をするんだが...いや行くか。講義ではないにしろ行程なんかについては話さなきゃならないわけだしな。」

 

ぶつぶつと独り言を言いつつvault 76のジャンプスーツに着替えて部屋を出る。アダムの部屋はすぐ隣である。

 

「ハヤト君のところにも挨拶を...いやタイミングが悪かったら不味い。やめよう。」

 

一度はハヤト、アリサカの相部屋へ向かった足を翻してアダムの部屋へ向かった。ちょうどその2人について話し合うべきことがあったと思い出しながら。

 

 

 

先行して出発していた監督官のホロテープがシェルター内の全体放送で再生されている。まだこの時点では人がまばらなヴォルトドア前には既に爺のパーティは集合が済んでいたので各々に恩師や知り合いへ声を掛け、意気込みに励ましなどを掛け合っている。

 

セレモニー30分前、さすがに他の住民もヴォルトドア前に集まり始めた。爺は再び群衆にもみくちゃにされつつ1人の男へ話しかけた。

 

「おはよう、ハルロ。」

 

「おぉ!アダム爺さん」

 

「体調は大丈夫かい?」

 

「あぁ健康体さ。昨日のバカ騒ぎでは飲まなかったからな。爺さんこそ大丈夫か?随分飲んだみたいだったが。」

爺が話しかけたこの屈強な黒人男性はハルロ=ラグウィスだ。Vault 76内では多い、米軍出身者のうち1人である。簡単な銃の解体・組み立てに撃ち方などをシェルター内では教えていた。

 

「ハルロ、そいつは大丈夫さ。なんせ昨日の逃走で酒気は飛んだからな!」

 

「ハーハッハ!あの逃走劇か。それはそれは大変なこって。」

 

「カッハッハッハッハ全くだ。まぁ、大丈夫ならよしとしよう。それで本題なんだが君に協力してほしいことがあってね。君のバディにも後で話してもらいたい事だ。」

 

「爺さんの頼みなら聞くぜ。あまりに度の過ぎたものは勘弁願いたいが。それでその内容は?」

 

「アリサカ姉弟についていや、アリサカ君についてだ。」

 

因みに、ハルロは60歳である。元気な老人たちの横では勇人と奈々美に工学を教えた男が話している。

 

「ハヤト君にアリサカ君なら大丈夫だ。私が教えたんだからな。それに君たちにあげた参考書なんかも私が持っているより役に立つハズさ。」

にこやかに2人を励ますこの男性はウィリアム・ヒルといい、元米軍の整備士だった。

 

「ありがとうございます。ところでウィリアム先生は誰とバディを...?」

 

「ハルロだよ。現役時代からなにかと付き合いがあってね。同い年でしかも扱いを心得ている奴ならツーマンセルも悪くないというものさ。華がないがね。」

 

クククッと笑うウィリアムにハルロが「おいうるさいぞウィル」と反応するその光景は2人組としての歴の長さを感じさせた。

 

 

 

Mr.ハンディがスポットライトに照らされ、拍手喝采のもとに迎えられる。セレモニーの始まりだ。

 

 

 

 




セレモニーではヴォルトドア前にあったコンテナから各住民へC.A.M.P.の配布がされます。ゲーム主人公にあたる人は遅起きでセレモニーに参加できなかった設定。

お寝坊のゲーム主人公はなんらかの形で関わるかと思います。

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