灰の降る世界   作:Humanity

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6 : 爺と教会

—10月28日—

 

 

 

朝日が上がるのが若干遅く、また山を背後にするフラットウッズに光が入るのも遅い。そのために朝焼けに染まる空と山とは対照的に町はまだ暗いままである。

 

 

 

時刻は朝の5:00前。

 

フラットウッズから少し離れた川辺の草原に、コックの料理店を中心に置いてぐるりと8つのテントとクッキングステーションが囲んでいる。C.A.M.P.に付属していた仮設テントセットを使用して設営した。C.A.M.P.の本領はまだ発揮されていないが、このテントの設営に昨日の残ったほとんどの時間を費やしたのも事実である。

 

そんなテントだが、この朝早くにすでに灯りをつけた物が1つある。

 

 

 

 

 

 

 

無論、爺である。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーよく寝たよく寝た。さあて朝の散歩に出るとしようかねぇ!」

 

元気なことである。

 

「しかし寒いなぁ、シェルター内がどれだけ暖かかったかよくわかるもんだ。ジャンプスーツはその点本当に快適なんだが..」

 

Pip-boyを操作してライトを点け、レザーアーマーを着てピストルとマチェーテを装備する。完全武装でなければ安心して散歩もできないというのは昨日でよくわかったのだ。

 

「やはりこれでは味気ない、そのうち服でも買えればいいが。」

 

そう1人呟きつつテントを後にする。

 

 

Pip-boyのダイヤルを操作してAppalachia radioに周波数を設定する。戦前から続くこのラジオ局は昔からコメンテーターも無しにアメリカのレトロな楽曲が選曲、放送され続けている。Vault 76内には電波が届かず、シェルター内で代替のミュージックシステムがあったがそれとはまた違った物なのだ。

 

 

扉の外であるというのもあるかもしれない。

 

 

バチバツッ...ヅヅ...

 

 

ノイズが走り静かになる。

ちょうど曲が変わるところだったらしい。

しばらくの沈黙ののちにメロディが流れ出す。

 

落ち着いた曲調で、どこか遠い音にも感じるピアノが女声を先導する。

 

 

 

 

♪Well, twirl my turban, man alive

 

Here comes Mister Five by Five

 

He's one of those big fat bouncing boys

 

Solid avoirdupois!

 

Mister Five by Five

 

He's five feet tall and he's five feet wide

 

He don't measure no more head to toe

 

Than he do from side to side♪

 

 

 

 

爺の左腕のpip-boyから女性の歌声とジャズ調のバックが流れ出す。音質が良いというわけではないがどこか懐かしい音色である。

 

爺のお気に入りの1つでもあるのだから尚更懐かしく感じるのだ。

 

 

「やはりやっているか懐かしいな。朝からMr Five by Fiveとはいいセンスじゃないか、気持ちよく散歩ができるという物だな。」

 

 

3分しかないこの曲は短いながらも「帰ってきた」という実感をよく引き立てる。続いてルイ・アームストロングと男性コーラスの渋い歌声が響く。

 

 

 

 

 

その名も”Old Man Mose(おじいさん)”である。

 

 

 

 

 

狙っているのだろうか?

 

 

 

 

「ハハッまさかな。」

 

まさか受信者の年齢を見るなどできないだろうと思いながら軽い足取りで無人の町を歩いて行った。

朝日に照らされ始めた白い廃教会が輝いて、1人町を歩く爺をステージの上のように照らしていた。

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

コックは爺が外へ出たその僅かな物音で目が覚めた。いや正確に言えば爺の独り言とラジオの音で、であるが。

 

 

「アダムがもう起きたか?料理人として失格じゃないか。」

 

自らを含めて9人分の朝食を準備するのだから早く起きなければ仕込みが間に合わないと昨晩思っていた彼は、少々鈍った体と歳を重ねても変わらない爺の調子に苦笑いしつつ起き上がって着替える。

 

爺はジャンプスーツ以外での服装を考えていたが彼—正確にはフローリィも—はそうではない。仕事着は持っているのでそれを着て行動しているのである。彼の場合ならば白地に黒い縁取り、金色のボタンの料理服と白いエプロンである。

 

 

昨日はこの姿で狩猟を行っていたのだからそのスニーク技術が窺えるが彼はただの料理人(コック)である。

 

 

「肉だけで見れば戦前の料理店がよだれを垂らす代物だからな...見た目は凄いが。」

 

双頭の牛(バラモン)のことである。

 

「油のノリはやや悪いが赤身なら最高だ。野生化した牛は脂は付かないがいい肉になる...。」

 

バラモンの話ではあるが朝からそれを食すのではない。

 

「まったく、イチボに弾丸さえ入らなければまだ量を確保できたものを...アダムのやつが...」

 

イチボとは牛の希少部位の肉のことである。非常に柔らかいのが特徴でそれなりの店でそれなりの値段がつく。

因みに昨夜はカイノミ—脇腹あたりの肉—も出すことができた。イチボに弾丸が命中したのは残念だがそのあとはアダムがマチェーテで牛の頭を切り落としたので手早く、またあまり肉に傷はつかずに済んだのである。

 

「肉への無頓着さはフローリィにも通じる物があるからな...彼女にも言っておかなければ...。」

 

おそらく「善処します」としか返ってこないのだが。

 

「彼女は彼女でクリプトン嬢にべったりだからなぁ。あまりキツく言うことができない...」

 

軽く身震いをしながら今日の朝食でオムレツとして出すつもりの卵を手に取った。明らかに鶏ではないだろう大きさだ。

 

「...もとがなんなのか知りたくはないが。」

 

知らない方がいいこともあるさ、と言いつつpip-boyのラジオを設定する。アダムはあの調子だが彼はクラシックを掛けるのだ。

 

「ドボルザークの『春』?いいじゃないか。」

 

 

そう言いながら今度はマットフルーツを手に取ってジャムを考えだすあたりは流石コックというべきか。

 

 

「きのう少し食べてみたがブラックベリーが元らしい味だったからな...日中で作っておけばパンにも合うし鹿肉あたりにもいいかな...」

 

 

「口では何かいいつつも結局は食べ物のことしか頭にはない」というのはフローリィが彼について言う常套句である。

 

 

 

 




短い幕間程度に捉えてください。

特に本編との脈絡もなく2人の爺が起きたと言うだけの回です。
—服のくだりは回収しますが。—

やたらとスローペースですが本作は内容的にこのくらいがちょうどいいかなと思っているのです。「もう少し早く!」などお声があれば調節しますが。

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