「キングだ。なるほど、面白いことになってきたな。この死体でプレイヤーがどう出るかが見ものだな。おいカメラしっかり撮ってるよな? これは【人狼】のテストプレイでもあるんだからな? 大丈夫か? そうか、撮影しっかり頼むぜバイト。それにしても、この吊りはなんか引っかかんな。何かしたなあいつら」
「クイーンだ。ふむふむ、こうやって全員の会話を見て推測できるのは面白いものだ。我もあまりこういったゲームの経験が少ない分、紋を応援してしまうな……。何? 小十郎? ああ、あやつは応援するまでもない。別に見捨てているという訳ではないぞ? あれは我より初心者だから、同じ境遇ではないというだけだ」
◇ ◆ ◇
【三日目の朝】になりました。
「李静初」さんは無残な姿で発見されました。
◇ ◆ ◇
【人狼】の三日目の朝がやってきた。
二日目と違い、参加者の席が全て埋まっていない。新たに二つの空白と、そこに代わりに掛けられている遺影のような顔写真を浮かべるタブレットが、二人のゲーム的な【死】を表しているようだ。
「おはようございます。早速ですが……【霊能CO、マープルは○】でした。ここで投票理由も出していただきましょう。マープルに投票した方は理由をお答えください」
指揮権のある鯉が真っ先に目を覚ました。これが【人狼】のシステム上の問題なのかどうかは分からないが、霊能の朝一番というのは「汝は人狼なりや?」における通例と言えよう。鯉は非常にスムーズに【霊能CO】をすることができた。
「おはようございます。李が噛まれてしまいましたか。これほどまで早く狼にやられるなど、まだまだですねぇ。占い即抜きと言うのも、なにやら妙な臭いがしますな。因みに私は【あずみに投票】いたしました。恐らく一番静かだったのではないでしょうか? 序列一位なのですから、もう少しハキハキと行きましょう。しかし、私の見立ての真占いが噛まれましたか」
クラウディオが次いで目を覚ました。
クラウディオはどうやら李を本当の占い師と見ていたようだが、人狼により退場させられてしまったことを悲しみながらも苦言を呈していた。人狼に噛まれてしまうというのは狩人でなければ防ぎきれないのだが、クラウディオの苦言は李の甘さにあると指摘しているようだった。
ひょっとすると、このゲームに置いて最も役者なのは彼なのかもしれない。
「おはようございます。【投票先はあずみ】。【レアケは考慮するならいいが】、というのが少し引っかかった。本来ならレアケは最初に忘れることが重要だ。そんなこともできない初心者ではあるまい」
三日目のゾズマは早起きだ。それでいて迅速に自分の意見を述べるあたり、九鬼家従者の凄味を感じ取ることができよう。
「おはようございます!! くそっ、李さんがやられてしまうなんて……!! 人狼め、必ず根絶やしにしてやる!! 【マープルへ投票】した理由を説明いたします! グレーの中では一番このゲームに慣れているはず、全てを見通したような言い方、まるで人狼!!」
しかしその後の従者の叫びようで台無しだ。
小十郎は昨日よりも早めの起床ということもあってか、やる気に満ち溢れている。尤も、彼は起床が早かろうが遅かろうが、何かに理由を付けて大声を出すだろうが。
「……おはようございます。李がやられたか……。これは【真狂】と見ていいのかね……。さて、【マープルへの投票】の理由だな。ヒュームにも突っかかっていたし、【李の擁護も多く見えた】。厄介って言う理由もないことはないが、ちょっと目立ちすぎたか?」
小十郎の声に少し鼓膜を痛めたのか、イヤホンを外して耳を軽く叩いて耳の調子を確かめるあずみ。五人目の起床者だ。
出る杭は打たれるんだよ、そう呟いた後にあずみは小十郎に声のボリュームを下げるよう注意をしていた。
「おはようございます。先に【占いCO】だ! 【クラウディオは●】だったぜ! 【私の投票先のマープル】に絶対の信用を寄せているような発言が二つ。ちょっと気になったから占ってみたら犬っころのお出ましだ。ヒュームもなにやら誘導があったみたいだがマープルほどじゃねぇ。ご主人様が分からない狂人に見えた。占い回数勿体無いし、ちょっとスルーさせてもらったぜ?」
「おや、私に●ですか。いい度胸ですねステイシー」
「オオカミさんは黙って吊られればいいんだよ! 首吊りにした状態で蜂の巣だぜ!」
起きて早々、ステイシーとクラウディオが火花を散らす。クラウディオもステイシーも譲らない。
その冷戦を抑制させるべく、主が明るく起床する。
「フハハハハ! おはようございますだ! 【投票先はクラウディオ・ネエロ】とさせてもらった。理由、であるか。まだ完全にゲームを把握しきっていない部分もあり、正直なところ敵であったら厄介な人間に投票させてもらった。マープル、ヒュームと悩んだが、自主発言が少なかったのも理由であるぞ!」
紋白の起床に、クラウディオとステイシーは視線を互いにそらして紋白へ向けた。それだけでこの【人狼】の中の空気が少し和らいだように感じられる。
「おはようございます紋様。見事な三日目の出だしです。……さて、お前ら。俺が投票理由を言う前に聞かせてもらおうか?」
しかしその穏やかさも、最後の戦闘狂の起床により粉々に打ち砕かれることになる。ヒュームは若干苛立ちながらの起床となったようで、こめかみに血管を浮かべて従者たちを睨み付けていた。【人狼】の空気は急激に冷え込み氷河期を迎える。
「お前ら、俺かクラウディオかマープルの誰かに入れるよう、打ち合わせをしていただろう?」
クラウディオとゾズマを除いた若い従者に向け、ヒュームはまたしても人狼ゲームで不要であるはずの殺気をばらまいた。
それを受けた若い従者たちは覚悟していたように観念する。
「うわー、ばれてら」
「も、申し訳ありません!!」
「意外とあっさりばれてしまいましたね。まぁ、票の傾きが大きかったですし、仕方ありませんね」
しかし、反省の色を見せているのは小十郎だけ。他の従者はヒュームに対する罪悪感は微塵もないようだった。尤も、従者全員紋白に対する敬意と罪悪感は持ち合わせているのだが。
ヒュームの怒りを鎮めるためなのか、それとも紋白に対する弁明なのか、あずみが従者を代表して説明する。
「恐らくですけど、貴方たち三人は人狼の古くからの経験者。しかし今回の目的は紋様にこのゲームに慣れてもらうこと。三人が場を仕切ってしまったら感覚を掴めないと思い、三人のどれかに投票するよう指示を出してありました」
「余計な世話だ。俺は既に人狼を全て見抜いているが、こうやって黙ってやっているんだ。お前ら赤子のセッティングなどなくとも、初めから一歩引いて参加するつもりだった」
「その割にはマープルと楽しそうに内訳議論を――――」
「黙っていろ」
クラウディオの事実を突きつける物言いを、ヒュームが食い気味に押し止める。殺気を出したり喧嘩腰であったりと、調子に乗っていたことは自覚しているようだ。
「しかしそれは、卑怯なことでは……」
そこで紋白が小さく、少しあずみを睨み付けるように呟いた。その視線が胸に刺さった痛みを何とか堪え、あずみは説明を続ける。
「……黙っていたことは申し訳ありませんでした。しかし、あの三人の独壇場になると、人狼ゲームが人狼ゲームじゃなくなってしまうのです」
「? それはどういう……」
紋白の疑問に対し、鯉が懐からホッチキスで綴じられた数枚の資料を取り出して答える。
「三十年近く前になりますが、三人がラスベガスのホテルでの宿泊中、インディアンポーカーで戦った時のこと。どうやらホテル内のカフェでのことのようですが、周囲の食器は全滅し、防弾ガラス製の扉は粉々に砕け散り、テーブルと椅子以外の木製家具は燃え散り灰になってしまったとか。その一戦の後、多くのマフィアはホテルの経営権を手放し撤退。その後富豪たちがホテルを買収。これがラスベガスが「カジノの都」と呼ばれるようになった原因だそうで、向こうの資料にも残っていました」
「懐かしいですねぇ。あの頃の貴方はまだマープ――――」
「黙っていろと言っている」
どうやら鯉の持ってきていた資料は本物のようで、クラウディオの追撃を再び食い気味にヒュームが切断する。紋白も思わず額から汗を流してしまうような話だった。
仮にもし、ヒュームとクラウディオとマープルが本気で人狼ゲームを、それこそヒュームのように殺気をばらまけば、この極東本部は半壊してしまうだろう。そう考えた結果、紋白は若い従者の打ち合わせにも少しばかり感謝してしまった。
「そういう訳で、少なくともあの三人からせめて一人は減らそう、という考えになっていたのです」
「そ、壮絶な過去があるのだな……。気遣いは確かに有り難い。だがしかし! 今後はこのようなことがない様にしてくれ! 我もこのようなことがあると、やはり少しさみしい……」
しかし、その半壊のことを頭に入れてもなお、紋白はやはり全てを受け止めきれていなかった。九鬼家で育ったこともあってか、不正ということが認められないのだろう。まだ幼い感情がある、ということも関係しているかもしれないが。
そして若い従者たちは、「それでこそだ」と紋白の主としての認識を改めて強く持つ。ここで素直に感謝などされようものなら、紋白はヒュームの手によって再教育されていたことだろう。
――――まあ今回は俺にも非がある。大目に見てやろう……。
「勿論です。それに本来なら自由投票だったのですが、あのマープルとのやりとりが決め手になってしまい……」
「思わずあずみさんに「助けて」とアイコンタクトを送ってしまうほどです。見捨てられましたけどね」
鯉はあずみに救いの手を差し伸べられなかったことを少しだけ根に持っているようだが、あずみは鯉に視線すら送らない。罪悪感があるから見ることができない、という訳ではなく、ただ無視しているような表情だ。
「年甲斐もなくはしゃいでいたな。若い若い」
「突然死扱いにしてやろうか、ゾズマ」
ゾズマの若いという言葉に含まれた意味を「若くて青臭い」ととったヒュームは、ゾズマに対して今まで以上の殺気をぶつける。
おお、怖い怖い、そう呟いてゾズマは殺気を軽く受け流しさらに煽る。傲岸不遜な人間と皮肉を好む人間が相対すると、厄介なことこの上ない。
そこで痺れを切らしたクラウディオがヒュームに声をかける。
「それよりヒューム投票理由を」
「……ふん。【マープルへ投票】。理由は簡単、俺を【SG】にしようとしている節があったからだ。グレランで吊られるのが嫌というのは、【人柱CO】する酔狂な奴を除いた九割強の村人が思うことだ。それを俺の意見のように場に流すのは明らかな誘導、人狼以外ありえんな」
「さて、全員の挨拶も済みましたし、存分に語り合いましょう」
貴重な相談時間をヒュームを抑えるために使ってしまった八人は、早速会議を開始する。その議題をあたりまえのように提出するのは、先程弁明役を買って出た忍足あずみ。
「っつっても、議題先は決まってんだろ。【●のクラウディオ】と【占い師のステイシー】だ」
「【クラウディオさんは人狼】だったのか!! よし、早速投票に――――」
「焦んな小十郎」
タブレットを手に取って投票しようとした初心者の小十郎に対し、あずみは態々席を立って椅子を掴んで支点とし、回転して小十郎の顔に蹴りを叩きこむ。
「はぐぁっ!?」
「問題はそこじゃない。これが【ベーグル】かどうかだ」
「べ、ベーグル? 自分は朝食の際は食パン派なのですが……」
小十郎の朝食事情に対し、誰も会話を続けようとしない。言葉の意味すら教えようとしない辺り、完全なノイズとして見なされているようだ。
「…………ほっとこうぜ。で、なんだよあずみ。【占い師は真狂】で見てるってことかい?」
「早まるな、推論だ。けどよ、李が噛まれた時点でその確率は急上昇だぜ?」
お前が狂人と言う目でな、そう付け足してあずみはステイシーにかまをかける。しかしステイシーは気に食わないという表情を浮かべるだけ。従者同士の心理戦が繰り広げられている。
そこに満を持して皮肉屋が参加する。
「真狂―真か。だが、【ステイシーはクラウディオに●】を出しているぞ? どっちが早まっているか分からんな」
「狩人の動きもある。ベグったかどうかの議論は少しでもして損はないんじゃねぇか?」
「これだから三日目の●はメンドーなんだよなー。出したのは私だけどさ……」
ゾズマとあずみの間にも冷戦が発生する。ゾズマもあずみもステイシーも、表情は笑っているのに笑っていない。相手の心を読もうと、薄ら笑いを浮かべているだけだ。
「? これは?」
そして紋白がこの状況に疑問を生じさせる。それに対してクラウディオが即座に質問に答えられるよう体制を整えていた。当然と言えば当然なのだが、小十郎の時とは大違いである。
「あずみとゾズマの論点はどういうことだ?」
「あずみの言うことは最もであるのですが、ゾズマの言いたいことを好むプレイヤーも少なくない、という議論が行われているのです」
「私の母はあずみさんの意見よりでしたね。私が霊能真、かつ石榴さんがただの村人ということで固定しますと、【2―1】の内訳はまず【真狂―真】か【真狼―真】になります。ゾズマさんが言いたいのは、「真狂という内訳において、占い師二人をどちらも噛み、狂人とまとめて排除しようとする強行作戦」ということ。しかし、あずみさんが言いたいのは「真狼という内訳で、占い師の内仲間ではない真を噛み、あたかも内訳を真狂のように見せる狼の搖動作戦」と言うこと」
「……なるほど。つまり、あずみもゾズマも【ステイシーは人狼陣営】と主張しているのだが、ゾズマはステイシーを【人狼】、あずみは【狂人】と提案しているのか。そうなると人狼の数が厄介となるのだな。恐らくこうやって悩ませている時点で、人狼陣営としてはしてやったりなのだろう」
「流石です紋様。理解力が桁違いです。そして狂人なら――――」
紋白への賛辞を忘れないクラウディオ。続いてさらに会話を発展させようとするが、それは最大のノイズで遮られることとなる。
「これは分かりましたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 答えは真狂です!!」
「…………一応聞くけどよ、何でだ?」
「ふっふっふ、聞いてくださいあずみさん! 偽占いの人狼は今日の夜噛まれないため、明日に処刑が確定されます! 狼が残り一人になるのは痛手でしょう! 真狼は狼にとってリスクが高すぎるため、これは推奨される作戦ではありませぬ!」
――――おう、その話は昨日の昼にしたよな?
「あ、あれ? あずみさん何でまた足を上げてはばぁっ!!」
あずみは一周回り切らず思考が逆行している小十郎に対し、先程よりも強烈な蹴りを浴びせて小十郎を黙らせた。
「ま、深く考えず【真狂】か……。真即抜きってのも推したいけど、推し過ぎると疑われっからここいらで止めておこう。となると、狩人はステイシー護衛か、霊能護衛か……。霊能護衛してたらぶん殴りたいけどな」
「どうしてだ?」
「あ、紋様。いえ、狩人は占いを護るものだっていう固定観念が……」
「ひょっとすると、【狩人初日】かもよ?」
「ステイシー、あんま怖いこと言うな……。占い師欠けの【狼狂―真】でも提案してやろうか? レアケでいいなら【真狼―狼】ってのもあんだぜ?」
「おっと、無茶な提案は勘弁。けど、どうせ今日噛まれるんだ。アタシはどちらにしろ構わないが、吊り先は慎重に選べよ?」
――――ぐぬぬ。経験不足故、会話に着いていけぬのが悔しい……。
ステイシーとあずみの話が一気に進みすぎたせいか、紋白の思考が僅かだが遅れてしまい
、紋白は歯がゆさを禁じ得なかった。
しかし、紋白その歯がゆさを何とか堪えつつ、確りと彼女たちの会話を記憶にしまっていくことにした。
「さて、鯉。とっとと吊り先を決めろ。グレランなんか出すんじゃないぞ?」
「承知しています。私の母の体験からくる感覚では、こういう場合は人狼が占いの確率が三割だと言っていましたので、一応●もらいのクラウディオさんを優先的に吊っておきましょう」
指定権をも持っている霊能者の鯉は、自身の母の確率論を盲信してクラウディオの吊りを宣言する。
その鯉の行動にクラウディオは溜め息を吐かざるを得なかった。
「やれやれ。母親の言葉に支配されて大局を見逃しますか……。いいでしょう。紋様、残りの会議も人狼を楽しんで――――」
クラウディオはそれ以上言葉を紡がなかった、紡ぐことができなかった。
紋白が真剣に皆の表情を読み、会話を一字一句逃さず聞き取り、頭の中で要約しているような、そんな集中力。人狼でも村人でも、状況把握に長けた者が勝利の鍵を握る。
クラウディオは紋白を見て、何も言ってはいけないと思ったのだ。
――――ここで声をかけるのは執事失格ですな。黙って処刑されると致しましょうか)
◇ ◆ ◇
三日目 投票結果(五十音順)
忍足あずみ 0票 → クラウディオ・ネエロ
桐山鯉 0票 → クラウディオ・ネエロ
九鬼紋白 0票 → ステイシー・コナー
クラウディオ・ネエロ 6票 → ヒューム・ヘルシング
ステイシー・コナー 1票 → クラウディオ・ネエロ
武田小十郎 0票 → クラウディオ・ネエロ
ヒューム・ヘルシング 1票 → クラウディオ・ネエロ
ゾズマ・ベルフェゴール 0票 → クラウディオ・ネエロ
(おやおや。ふふふ……)
【三日目の夜】になりました
九鬼財閥特別会議により「クラウディオ・ネエロ」さんが処刑されました
アオーンアオーンアオーン……。
アオーン!
(……さてさて、どうしようかな)
御墓場検討会
マープル「おや、次の犠牲者はアンタかい」
クラウディオ「お恥ずかしながら、吊られてしまいましたよ」
マープル「あの場面の黒出しは読みが多くて困るねぇ」
クラウディオ「よく言いますね。配役をほとんど分かっているのでしょう?」
マープル「こっちに来たらすぐわかったさ。あの馬鹿の殺気が邪魔でしょうがなくてね」
クラウディオ「思い出しますね。ラスベガスのあの勝負。あの頃の貴方も――――」
マープル「それ以上無駄口叩くんじゃないよ」