「キングだ。おいおい、これ本当に紋のためにやってんだろうな? ところどころ奇妙な展開になってるぞ? 実にいい! やっぱり一つや二つは読み難い状況が現れてこその人狼だよな。その読み難い状況ってか、不穏分子が自分の娘だってのはちょっと複雑だけどよ」
「クイーンだ。紋は奮闘しているようだが、少し周りが見えていないのかもしれないな。まだ小十郎の方が周りが見えているやもしれぬ。もっとも、見えているだけで理解しているかどうかは別問題だ。さて、どうやらまた推理するために必要な鍵が投下されたようだぞ」
◇ ◆ ◇
【四日目の朝】になりました
死体は見つかりませんでした。何と平和な朝でしょう!
◇ ◆ ◇
四日目の朝がやってきたが、村の様子が僅かに違う。
吊られた者がいるため人数が減っていないという訳ではないが、それにしては村の空気が違う。人狼による死者がいないことで、予想と現実の空気の温かみに差が生じているのだ。
「おはようございます。さてさて朝一番の【霊能CO】のお時間です。【クラウディオさんは○】でした。おや、紋様どうしたのでしょうか?」
朝一の霊能COと共に鯉が目を覚ました。鯉は死体が出ていないことを口に出して確認せず、紋白に対しての疑問だけを発言した。
元々、霊能者と言うものは朝に霊能結果を述べてしまえば、その日の役割は終わりと言っても過言ではないのだが。
「おはようございます。そして【占いCO】、ヒ、【ヒュームは●】だったぜ! 昨日は狂人臭いから勿体無いって言っちまったけど、やっぱりキナ臭ェんだよな、うん。李噛んだのはやっぱり真狂からの占い師潰しなんだろう。さ、さっさと吊り上げようぜ?」
昨日の議論における渦中の人物であったステイシーが、若干声を震わせて意見する。ヒュームに対する恐怖感と占い師としての役割に対する使命感の板挟みになっているのだろう。
もう少しシャンとして発言してほしいものだが、どうやら恐怖の方が少しだけ色濃くステイシーい影響してしまっているようだ。そのせいか、ステイシーの顔色は決して良好とは言えない。
「おはようございます。【狩人GJ】だな。どこを護ったんだ? まっさか今の今まで霊能を護ってたとかじゃないよな?」
次いであずみが気怠そうに起床する。その気怠さは寝起きによるようなものではない。ここで死体なしが出たということに対する不満と疑問から来るものだろう。
「おはようございます。指定先投票だ。特に理由もいるまい。それにしても皆よく喋る。ノイズにならない程度によく議論を交わすものだ。その中の狩人GJ、よくやった」
それに対して、四人目に起床したゾズマは狩人に対して素直な賛辞を送っていた。自然あふれる国の出身である戦闘民族の彼からすれば、一般的な日本人と比べて村の人間を護ったということに対する評価が遥かに高いのも頷ける。
あずみとゾズマの間に不穏な空気が流れる。意見の対立とまでは言わないが、明らかに互いに牽制しあっている。
「おはようございます!! ここまで生き延びることができて私は感無量です! おお、死体がいないぞ!! 狩人GJ、ありがとうございます!!」
五人目の起床者、小十郎は相も変わらず頭に響く大音量と共に目を覚ます。その喧しさは死者が出なかったことに対する歓喜によるところも大きいだろうが、やはり生き延びていられることが嬉しいのであろう。
「おはようございます。ほう、俺に向けて●を出すなどいい度胸だ……。覚悟はいいな……?」
【人狼】の空間内の体感温度が一気に下がったように錯覚した生き残りたち。ヒュームは目を覚まして早々ステイシーに対して鋭い眼光と殺気を向ける。この場にクラウディオというストッパーがいなくなってしまったこともあってか、ヒュームは若干やりたい放題である。
――――ファック! 一歩下がって参加するって発言はどうしたんだよクソジジイ!!
ステイシーが顔をひくひくとさせながら何とか耐えぬいていると、最後の起床者がその場の空気を変える。
「……皆、おはようございますだ。まずは詫びよう」
ヒュームの冷たい殺気は、申し訳なさそうに小声で挨拶をした紋白によって打ち消されたが、【人狼】内の空気は好転の兆しを見せない。その原因は、挨拶の直後に詫びを入れた紋白自身にある。
「詫びと言うのは勿論、指定を無視したことだ。ステイシーは人狼に見えてしまってどうにも離れなかったのだ。我が噛まれることも恐れ、【遺言】として残しておきたかったのだ」
紋白の表情は凝り固まっている。初心者がこのように推理を大きく明言するということに、緊張や不安を抱いているのだろう。
しかし、度が過ぎさえしなければ推理の道しるべとなるのは正しい判断だ。
「そして一晩考えた結果なのだが……、あずみよ。何故お前は【真狂】を推したのだ?」
「何故と聞かれますと、やはり経験談ですね。【真狂―真】はやはり王道の流れですので」
「うむ、そのようだな。だがな、二日目に小十郎に諭した際【レアケースを頭に入れておけ】と言った者が、ゾズマのような意見を無視するとは思えん」
紋白は納得のいく説明がほしいのか、矢継ぎ早にあずみに問い質す。ほんの少し質問の仕方が圧殺的なのは、紋白のカリスマスキルの高さの表れとも言えよう。
あずみからすれば、自分の主からの圧迫的な質問を疑われないように返す必要がある。ほんの少しでも疑われてしまえば、村人だろうが人狼だろうが関係なく、あずみにとっては失態となってしまう。
紋白の機嫌を損ねることなく、かつ印象を悪くすることのないように、あずみは慎重に言葉を選ぶ。
「無視したという訳ではありません。今回の占い師を即噛みするというのは真狂の行動そのもの、私の経験では圧倒的な真狂の流れと感じ取ったのです……。というか、私は以前これで痛い目を見てまして――――」
「ふん。以前の意見も通せない愚か者か。それだからお前は赤子なのだ」
「ああん!?」
「あ、あずみさん! 落ち着いてください!」
机に乗ってまでヒュームにつっかかろうとしたあずみを小十郎が必死に抑える。小十郎はあずみに殴られ蹴られつつもあずみを離そうとしない。
普段から殴られ慣れている小十郎にとって、吹き飛ばされない拳などさほど脅威ではない。勿論、痛覚はあるが踏ん張っていられる内は小十郎は殴られ続けることだろう。
「私は紋様の意見に賛同だ。【真占い即噛み●出し】など人狼の占い騙りによく見られるものだ」
そんなあずみの反論に対して、ゾズマが紋白のヒュームに回ることであずみは思わず喉を詰まらせてしまう。
「し、真狂の本当の怖さを知らないからそんなこと言えんだ……。狩人が狂人護ったまま乗っ取りされてみろ、村崩壊してんぞ?」
「……我が無茶な行動を取っていることは重々承知だ。勝手な真似をしてすまなかった。さて、加えて問題は鯉、お前だ」
ゾズマの追撃によりあずみのこれ以上の反論はないと判断した紋白は、次なる論点へと話題を移そうとする。
その話題の焦点となった鯉は、ようやくかといった具合に身を乗り出す。
「来ましたね。ただ私と言うより、私に届く【霊能結果】、ですね?」
「うむ。お前は真で見ている。今回の狩人GJも、恐らくはお前を護衛したのだろう。そのような気がする。今更役職欠けなど考えたくもない。その真の霊能の結果が【全て○判定】ということは、まだ【人狼は無傷】で顕在しているということだ。」
人狼が無傷で存在しているということに対して、【人狼】内の空気がさらに悪くなってしまう。もう吊りの指定を失敗することはできない、村にとっては今が背水の陣であることの再確認だ。
「おい桐山ー! お前霊能結果ごまかしてるんじゃないぞー!」
そこに、今までほとんど喋ってこなかったステイシーが立ち上がって鯉に文句をつける。そうでもしなければならないから、ステイシーは必死に言葉を捻出したのだ。
「破綻した偽占いは吊りが確定している。最後までノイズとしてやりきる前に物理的に黙らされるか自らステになるか、どちらか選べ」
黙らされる場合は物理的に串刺しだぞ? と宣告されたステイシーは、ゆっくりと席についてタブレットを取り出して投票準備に移った。
ステイシーの顔が真っ青になってしまったのを見て、小十郎も釣られて顔面蒼白になってしまう。
「うわぁ……。容赦のない黙らせ方……」
「流石に黙ったようだな。【ステイシーが人狼陣営は確定】した」
人狼陣営の一人が露出した、そうわかっただけで村に僅かに温かみが戻ったようだ。しかし、この村が危機的な状況だと言うことには変わりがない。
「問題は、彼女が【人狼かどうか】です。【今日人狼が吊れなければ村人は敗北してしまいます】。かと言ってグレランにするのは危険すぎます。ステイシーさんを大人しく吊るしかないようですね」
私視点での話ですが、という言葉をそっと付け足した鯉。もっとも、ここで鯉の意見を重視しない限り、村には生き残る希望が無くなってしまうだろう。
「狂人がすでにいなくなっていることを祈ろう。もっとも、今まで噛まれた連中も吊られた連中も村目が強かったがな。狩人はしっかりキビキビ、人狼を返り討ちにしてやれ」
ヒュームはタブレットを取り出し、吊られてしまった住人の画像に×印が打たれている様を見てふっと微笑む。ヒュームは人狼がすべて見えているという発言の元、何かしらの自信を持っているのだろう。
◇ ◆ ◇
四日目 投票結果(五十音順)
忍足あずみ 0票 → ステイシー・コナー
桐山鯉 0票 → ステイシー・コナー
九鬼紋白 0票 → ステイシー・コナー
ステイシー・コナー 6票 → ヒューム・ヘルシング
武田小十郎 0票 → ステイシー・コナー
ヒューム・ヘルシング 1票 → ステイシー・コナー
ゾズマ・ベルフェゴール 0票 → ステイシー・コナー
(…………ファック、どーなるかね)
四日目の夜になりました。
九鬼財閥特別会議の結果、「ステイシー・コナー」さんは処刑されました。
アオーン、アオーン、アオーン……。
アオーン!
(……明日が、正念場ですね)
◇ ◆ ◇
【人狼】控室、通称【霊界】。
【人狼】における敗退者が集うこの空間は、一室畳張りの空間だ。【人狼】よりは狭いものの、二十から三十畳はあるであろう大部屋だ。そこには人数分設置されている座布団と、全員がくつろげるように机と湯呑、お茶請けがしっかりと準備されている。
そこでは、【人狼】内の会話や議論全てがモニタリングできてしまう。
そしてまた一人、【霊界】に誘われた敗退者がやってくる。
「っかー!! 吊られた吊られた!!」
「お疲れステイシー」
「ああ、ありがとうござ――――ってうおぉ!? 何でここにみか――――」
「しっ! 今の俺はキング。そう、キング・オブ・キングス。そのみかなんちゃらとやらじゃない、GMなんだ。キング様と呼べ!」
「やれやれ、キング様も子供の様なことを。もっとしっかり当主の自覚をですね……」
「まぁまぁマープル、いいじゃないですか。人狼はみなで楽しむものですよ?」
「クラウディオはよく分かっているな。人狼は友情崩壊のゲームなどと言われているが、それは違う。これを通してより絆を強くするのが真の友情なのだ」
「…………えっと、つぼ、じゃなかった。もう一人のGMは何と呼べば……」
「む、すまない。我のことはクイーンで構わないぞ」
「は、はぁ……。あれ、石榴の奴はどうした?」
「石榴ならあそこで寝てるぜ? しばらく起きないんじゃね?」
「うわぁ……。本当に強制的に寝かされてやがる……。あれ、乱暴に扱われたからか知らないが、頭から血が出てないか?」
「そう、それはもうパックリ割れてます。石榴だけに」
「「「…………」」」
「李、GM様が二人もいるんだ。口を慎んどけ」
「八十点はあったのに……」
「紋様は頑張っていますねぇ。あの時話しかけずに正解でしたよ」
「ちょっと危なっかしいけどな。紋はまだ人狼の怖さを分かっちゃいないな」
「みか、ごほん。キング様、それはどういうことなのでしょうか?」
「……クイーン、お前の方が危なっかしいかな?」
「こ、これは少し油断しただけです」
「なぁに、紋様なら大丈夫でしょう。キング様が言わんとしている危なっかしさを、紋様はまだ自覚しちゃいないでしょうがね」
「なに、明日になりゃ誰かが詰問するだろうぜ? それに、紋白をわざと勝たせるように人狼は動いちゃいない」
「そういえばステイシー。貴女の役職はなんだったのですか?」
「へへん。聞いて驚け、私は――――」
【霊界】の会話の熱は責めぬまま、【人狼】に朝が訪れる。
消極的村人による現時点のまとめ
【参加者】
忍足あずみ、桐山鯉、九鬼紋白、クラウディオ・ネエロ
ステイシー・コナー、武田小十郎、ヒューム・ヘルシング、
ゾズマ・ベルフェゴール、マープル、武蔵石榴、李静初
【占い師】
ステイシー、李
【霊能者】
鯉
【狩人】
【処刑】
マープル>クラウディオ>ステイシー>
10>8>7>5>3>
【死体】
石榴>李>【なし】>