「キングだ。人数はようやく折り返し、ってことだが、人狼のゲームの流れは決して折り返しじゃねぇからな? むしろ終盤だ。こうなったらもう殴り合いになるだろうな。いい感じに盛り上がってきてるじゃないの。俺も混じりたかったぜ。おいクラウディオ! 次俺もやるからな!」
「クイーンだ。キング様もおっしゃったが、いい感じに暖まってきたな。こう、大人数から少人数にまで減らされると、緊張感も確かに増すものだが、面白さもまた一入だな。キング様が参加するのであれば我も混じりたいところだ。その場合、GMはマープルに任せてみよう」
◇ ◆ ◇
五日目になりました。
「忍足あずみ」さんは無残な姿で発見されました。
◇ ◆ ◇
【人狼】内の空気が妙に軽い。席を一つも開けることなく開始されたこの人狼ゲームも、今や参加人数は半数となってしまっている。参加者の脇をすり抜けていく空気の冷ややかさが一層強くなったことだろう。【人狼】内の空気の循環も滞りなく行われている。
しかし、それでも【人狼】内の熱は冷め止まない。寧ろ熱を帯び始め、集中力を切らそうとこの空間自体が参加者に牙を向いているようだった。
その気持ちの悪い熱量を一身に受け、参加者は議論を白熱させなければならない。
五日目の朝が訪れた。換気扇も全力で回転して空気を改善させようと努力させる中、騙し合いの再開である。
「おはようございます。何とか朝を迎えることができましたね。【霊能CO】です。お分かりでしょうが、【ステイシーさんは●】でした」
鯉が最初の起床者となるのはこれで三日連続だ。霊能COを引っ提げて起きる彼は、システム上そうなる様に管理されているのかもしれない。
【人狼】内のシステムには、まだ彼らの理解が及ばない運営能力がある可能性は捨てきれない。
「おはようございます。さあ、殴り合いのお時間がやってまいりました」
殺気を誰かに向けるわけでもなく、かと言って闘気を収めるわけでもなく、意気揚々と満面の黒い笑顔を浮かべてヒュームが起床する。
参加者全員に無言の圧力をかけるように、ヒュームは【人狼】全体に気の圧力をゆっくりと発生させていく。
「おはようございます。面白い流れだ。てっきり私が噛まれるものだと思っていたのだがな」
そんな重苦しくさせられた空気の中、ゾズマが次いで目を覚ました。戦闘派の彼にとって、殺気や闘気の混じった牽制は心地良いものなのだろうか。その表情は妙に晴れやかだ。
「お、おはようございます!! まだ生きている……! あずみさんが噛まれたことが意外で仕方がないです……!」
その圧力を払うことなく全身で受け止め、徐に起床したのは小十郎だ。いつも通りの喧しさは少しばかり落ち着いている。この少人数のプレッシャーとヒュームの圧力に充てられてしまったのか、小十郎の顔に汗が滴る。
「おはようだ! ……あずみ、か。スマヌ、人狼で見ていた」
最後の起床者、紋白は申し訳なさそうな表情と謝罪を伴った挨拶を四人にかけた。
あずみが噛まれたということに、この村の何人かは動揺しているようだったが、紋白のその申し訳の無さそうな表情は何も今日から始まったことではない。昨日の独断専行、指定無視などから来ている自己嫌悪も相まっているのだろう。
そんな元気の無さそうな紋白に、ヒュームが声をかける。
「さあ早速ですが紋様。吊られるご準備はよろしいですか?」
「な、何だと!?」
ヒュームの突然の吊り指定の対象となったことに、紋白は思わず立ち上がり驚愕の表情を浮かべる。
一方、その指定を出したヒュームの表情は笑顔から一向に崩れようとしない。確固たる自信があってこその吊り指定だろう。元々自信家の彼に自身の有無を問うのはお門違いなのかもしれないが、確りとした根拠と自信に基づかなければ二言目に吊りの指定などできないだろう。
「四日目、素晴らしい搖動でした。自身があたかも村の先導でもあるような仕切り、いたく感心しましたが、荒が目立ちます。あずみを【SG】に仕立て上げたかったようですが失敗しましたな」
「そ、それは違うぞ! 確かにあずみを人狼と見立てておった。【あずみとステイシーの二人が人狼】だとな! だが今真実が見えた! ヒューム、お前がステイシーの相方か!」
紋白が焦りながらヒュームに反駁するが、ヒュームは人狼と言われても余裕綽々とした態度を一向に崩そうとしない。
その不変的な態度に、逆に紋白が追いつめられる形となってしまう。判断材料と根拠が少なすぎるのだ。
その様子をため息交じりに眺めながら、ヒュームは現状を紋白に突きつける。
「残念ながら、私一人だけでないんですよ。紋様を人狼と見ているのは」
「な、なに……? それはどういう――――」
「この村での人狼候補は、断トツで紋様という自覚をなさってください」
「なっ……!?」
サーッ、という音が聞こえるように顔の色が悪くなった紋白。顔面蒼白とはまさにこのことだろう。一気に血の気が引いているようだ。
そのヒュームの言い分を補強、補足するようにゾズマが言葉を発する。
「お忘れですか紋様。貴方はここまで何故か生き延びているんですよ?」
「…………あっ」
今度こそ、紋白の顔が完全に血の気を失う。気絶寸前にまで追い込まれた紋白の表情から生気が失われていく。
紋白の身体から冷や汗と急速に滲み出る汗が紋白と服の間の空気を熱く籠らせる。ピリピリとむず痒くなる背中に、ムワッとあふれ出る熱気に紋白の身体がおかしくなる。
頭も妙に働かない。数秒ほど完全に思考が停止してしまい、放物線の頂点に達したような浮遊感に身を晒されてしまう。不利な状況が紋白に重くのしかかる。
「お気づきですね。【人狼扮する占い師に判定で○を出され、あそこまで人狼であるステイシーに指定を無視してまで近づいておいて噛まれない】……。あからさまな【囲い】ではないですか?」
ステイシーに匿われた、そうゾズマは紋白に突きつける。そうじゃないと言い張ることもできたが、紋白の置かれた状況は相当過酷なものだ。
反論すればするほど、惨めな道化に見えてしまう。
「自由に動きすぎましたな。叩きたいところばかり叩く、それは【噛まれる恐れのない人狼】だからこそできる芸当なのですよ」
「ぐっ……!?」
ヒュームの追い打ちがかかる。紋白は思わず苦しみの声を上げてしまうが、それもまた判断材料の一つだ。
この【人狼】の空気が、完全に紋白の負け色に染まり始めている。
中立であるべき指揮役の鯉でさえも、紋白に哀れみの言葉を投げかけるほかない。
「申し訳ありません紋様。揃いすぎています。この囲われ方は正直なところ、かなり人狼に見えてしまいます」
鯉は紋白をできるだけ立ててあげたいようではあるが、状況が状況であるため、鯉は紋白
に謝罪するしかできなかった。
「ダメ押しです。恐らくあずみは狂人でも人狼でもなんでもない、【狩人】でしょう。あずみは真狂の怖さを痛感している理由はそれです。ここであずみが処刑されて得をするのは他の誰でもない、紋様なのですよ?」
「な、に!?」
紋白の驚愕の声に満足しつつ、ヒュームはさらに言葉を紡ぐ。
「あずみは「狩人で守った占いが狼の騙りで、村を乗っ取られたことがある」という青く苦い経験を吐露していました。わかりますか? この狩人という役職だからこそ意識してしまった発言、狩人の【視点漏れ】が」
一つ、また一つと、村の推理に必要なピースを上げていくヒューム。
「さらに、狩人GJのせいで吊り数を減らされていることもあり、狩人は邪魔だと判断した。だから紋様は狩人をあたかもあずみを人狼陣営に見せかけ、SGを決めたんです。まるで狼に間違えて噛まれてしまった狂人を演出するように」
もっとも、その演出も無駄に終わったようですが、そう締めくくったヒュームの後に、数秒の沈黙が押し寄せてくる。
ぎりっ、と奥歯を噛み締め、紋白は机を勢いよく叩いて足掻く。
「よくそこまで言えるものだな、ヒューム! あずみは間違いなく狂人だ! 視点漏れだと? そんなものこじつけに過ぎん!」
対する紋白の言葉には根拠が少なすぎる。ほとんどないようなものだと言えよう。
その紋白の足掻く様に、鯉は諭すような言葉を掛ける。
「紋様、何か対抗できるものがありませんと反論は困難です。狂人と狩人に関する推理ができていないと、打ち崩すことは……」
「くっ……! ヒュームっ!」
「どうなさいました紋様。吊られるのが怖くなりましたか?」
「ふざけるなっ! 我はお前を信じていたのだぞ!」
「ならばそのまま信じていてください」
「……なにを……!!」
「ち、ちょっと待ったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
紋白がヒュームとの会話で苦しんでいたその時、この人狼ゲームが始まって以来の大声量でそれを断ち切った一人の従者が、鼻息を荒げて立ち上がっていた。
「喧しいぞ
ヒュームは抑えていた殺気を明確に小十郎に向ける。鋭い殺気に充てられ、小十郎は苦悶の表情を浮かべる。いつ気絶してもおかしくないだろう。
しかし、小十郎は倒れない。
「て、手が震える……! 足もガクガクしている……! けど! ここでやらなきゃ意味がないんだ!!」
「……一体何を――――」
「【狩人COぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお】!! 三日目と四日目の間、いや、初日から今に至るまで!! 【護衛対象は紋様】に固定させてもらっていました!! つまり、【紋様は人狼じゃない】!!」
「な――――」
「にぃ!?」
ヒュームとゾズマが声を荒げて動揺する。その動揺が大きすぎたのか、鯉に至っては絶句し口をパクパクとさせている。
数秒開け、ようやく鯉は声を発することができるようになった。
「ほ、本当ですかそれは!?」
「俺は頭が悪いし、要領も悪い……! けど!! 主を護るってことに関しては体を張らせてもらいます!! 狩人COのタイミングなんて分かりませんが、これでいいんですか紋様ぁ!?」
泣き出しそうな表情で紋白に同意を求める小十郎。
人狼のセオリーとしては最悪と言っても過言でない行動を重ねてきた小十郎に、紋白はそれが正しいと言ってやることは主としては間違いだ。
しかし、紋白はここで一人の人間として、小十郎に謝辞を送る。それが道理だと感じ取ったのだ。
「うむ、ありがたいぞ!! 最高のタイミングだ!!」
「ぐ、うっ……!」
「ふはははは! 動揺しているな、ヒューム! 形勢逆転だ!」
ヒュームの表情が歪む。先程までの余裕の詰まった笑顔は既に崩壊してしまっている。この流れを出したヒュームに、矛先が変わったのと同義だからだ。
しかし、ヒュームはまだ諦めの姿勢を見せない。
「……いえ、小十郎は狂人なのでしょう。人狼をそこまで庇うとは、どこまでも狂っている。本当に頭が悪いようだな小十郎」
新たな推理を展開させるヒューム。完全な紋白との、紋白と小十郎とのぶつかり合いだ。
その状況に困惑しつつ、ゾズマと鯉が相談を始める。
「鯉、どちらに見る」
「小十郎さんがここまで働けることに驚いて、頭が付いていけておりません」
「奇遇だな、私もだよ」
「「小十郎は狂人だ」と言われても、そこまで判断して動けるかどうか……」
「…………形勢が傾いたのは事実のようだな」
鯉とゾズマはヒュームの余裕の態度がガラガラと崩れていく音を確かに耳にした。
「あずみが狩人なら、護るのは我ではない! 真狂で見ていたあずみならば護るのは【たとえ狂人の可能性があってもステイシーだ】! しかし、ステイシーは人狼、噛まれることはないから【ステイシー護衛の狩人GJ】は出るはずがない!」
「…………」
「鯉を護っていたというのもまずない! あずみは狩人経験者だ! ならば小十郎の持つルールブックにも書いてあるはずだ! 占いの真偽を見極めている最中に【霊能護衛はご法度】! 真狂の時点で占い師を護ることを優先するあずみのことだ、あの状況で霊能護衛はしない! 考えればすぐに分かることだ!! 四日目の占いの真偽、ステイシーはまだ真の目がないこともなかった! 故にあずみが狩人ならば【ステイシー護衛でのGJは発生しない】!!」
「…………」
「意趣返しだヒューム! ステイシーが人狼であるならば、お前の判定は【逆囲い】という奴であろう? 【身内切り】という奴だろう? 鯉とのラインを繋げることで苦し紛れの●出しに見せかけた、人狼陣営の作戦だ! これで、何か反論はあるか、ヒュームっ!!」
「…………ふ、くくく、はっはっは!」
不敵に笑うヒューム。その乾いた笑いは【人狼】に響き渡り、参加者の心に何かを植え付けようとする。不安を駆りたてようとしているのかもしれない。
しかし、それを断ち切ったのもまた、ヒュームの言葉だった。
「鯉、投票タイムに移せ」
ヒュームは最後に、何の殺気も籠っていない力の抜けた笑みを浮かべた。
◇ ◆ ◇
五日目 投票結果(五十音順)
桐山鯉 0票 → ヒューム・ヘルシング
九鬼紋白 0票 → ヒューム・ヘルシング
武田小十郎 1票 → ヒューム・ヘルシング
ヒューム・ヘルシング 4票 → 武田小十郎
ゾズマ・ベルフェゴール 0票 → ヒューム・ヘルシング
九鬼財閥特別会議において、「ヒューム・ヘルシング」さんは処刑されました。
――――【村人の勝利】です!!
◇ ◆ ◇
初めての人狼×まじこい、いかがだったでしょうか。消極的村人こと霜焼雪です。
私も初めての試みでしたので、うまく流れをかけているか自信がありません。正直な話、勢いでしか書いていない作品ですので、どこかで視点漏れがあるやもしれません。ビクビクと怯えながらの執筆でした。
小十郎の役当てに関しては賛否両論、否が強めになると思われますが、バカなりに仕事をしたと思わせておいてください。
夜会話、役職独り言、反省会はまた後日更新させていただきます。しばらくお時間いただきますが、悪しからず……。
◇ ◆ ◇
GAME OVER
◇ ◆ ◇