ここは、発展と輝きの町「見滝原」。
高層ビルが立ち並び、多くの店が軒を連ねる商店街に彼はいた。
時は秋。晴天の日の下で彼ーー「きゅうべえ」は伸びをして、街へ向かって歩きだした。
彼の仕事は、少女を魔法少女へと変え、魔法少女が魔女へと姿を変える際に生じる希望と絶望の相転移によって発生するエネルギーを、宇宙の平和のために集めることである。
今日も彼は、いつもと同じように時によろこばれ、時にさげすまれ、少女を魔法少女へと変えていく・・はずだった。
だがこの日、たまたまこの町に長期旅行に来ていたたった一人の人間、否、人間であるかすらも怪しい一つの生命体によって彼の一日は無茶苦茶なものとなることになる。
その恐ろしさは、感情を持たないはずの彼に恐怖を与えるほどのものだったーー。
「No1:キュウべぇ と ドゥルポン」
その不思議に最初に気づいたのは、きゅうべえの方だった。
何気なく歩いていた町の中で、彼は不思議なものを目にしたのだ。
それは、一人の人だった。
ものすごい猫背でフードを深々とかぶり、寒くなってきた秋であるのに薄いジャージをはいている。
その足取りはふらふらよろよろ、どこか危なっかしい。
少なくとも、その後姿を彼は一人の人だと思った。
姿だけはーー。
彼の仕事は、人の生に眠る因果律を見て、素質のあるものに契約を持ち掛けるというものなのだが、この時、彼がその人に感じた因果律は、「計り知れなかった」。
言葉に表すと簡単な表現になってしまうが、彼の今までの人生(キュウ生?)の中で、そんな人物に出会ったことはなかった。
彼の契約が人類がこの地球に誕生してからだといえば、その恐ろしさがわかるだろうか。
そう。
人類の誕生以来の発見なのだ。
これに彼が感じた感情は、「歓喜」であった。
もしもあの人を魔法少女(男なので魔法少年かもしれないが)にすれば、いったいどれほどのエネルギーが得られるのだろうか、このいつまで続くか分からない契約の輪廻を終わらせることげできるのではないかと考えたのだ。
ここで一つ断っておきたいのは、彼が歓喜したのは手間が省けることにであり、人類を犠牲にしなくてよくなったことに喚起したことではないということだ。
しかしながら、すぐにそんな彼の考えは甘かったと知ることになる。
彼は、その男に向かって歩みを進め、声が聞こえる程度に近づき、声をかけた。
「君」
その時だった。
彼の体がはじけ飛んだのだ。
あらゆることを想定していた彼に、想定外のことが起こったのだ。
その焦りは、すさまじいものだった。
「いやいやいやいやいやいや!え!?は!?」
彼は思わず、そう叫んでいた。
叫ばずにいられなかった。
そして男は、声の聞こえた方をきょろきょろして、何もいないとわかるとそのまま歩いて、街のほうへと消えていった。
その顔に彼は恐怖を感じ、後を追おうなどとは考えなかった。否、考えれなかった。
開いているかわからないほどの細い目に、不気味にひび割れた唇、そして、その唇から流れ落ちている血液に。
そして、この個体は二度と出会いたくないと思うほどの恐怖を覚えたのだから。
このことを、彼はのちに仲間にこう語ったという。
「あの町には、どんな魔女よりも恐ろしい生物がいるのだ・・と」