荒廃した道のりを赤いコートを羽織った青年が歩いていた。
名前は既に忘れ、記憶も虚ろ。残ったモノは精霊を具現化させる力だけだ。
夢に満ち溢れていた過去は遠の昔に消え失せ、今では嘗ての理想も希望もない。
悠久の時を経ても、姿が変わらずただただ朽ちていくその姿を、青年はただ只管に嗤い続ける。
多くを救う為に手に入れた力は、今では虐殺の限りを尽くす力に変わっている。気づけば、
最近は、日記をつけなければ数日前の記憶ですら忘れてしまう。だが、それ故に効率がいい。人を殺すのになんの躊躇いを覚えなくて済むのだから───
「……くっ」
気づけば、口元に笑みが浮かんでいた。いつだったか正義の味方を名乗っていた時期があったような気がする。
その成れの果てだこれだ。もし、過去に戻ることが出来るのならば、その夢を、過去を、呪い嘲笑うしかない。
青年は顔を持ち上げて、その口を動かした。
「そこにいる奴ら、出て来いよ。
青年のくすんだ琥珀色の瞳が変わる。黄金と翡翠。左腕を突き破るようにして異形の形をした黒い決闘盤が現れる。
左腕から赤黒い血が流れ、赤黒い鮮血が地面を汚す。しかし、痛みなど感じていないのか、青年はさして気にした様子を見せずに笑う。
「───精々、俺を楽しませてくれよ。最近骨のある奴が少ないからな」
その顔は笑っているというのに、青年の顔には嘗ての明るい光はなく、薄暗い闇が掛かっていた。
───ここ最近、ずいぶんと発展した都市が増えたような気がする。
あまり寂れた街を見かけなくなり、発展した都市が増え始めていた。
数年かけて色々な場所を巡り、青年はとある場所に辿り着いた。
ふと顔を上げて辺りを一望する。他の都市とは違う、さらに発展した都市だった。名前は───『ネオ童実野シティ』。
何処かで聞いたことがあるような、ないような。今の自分にはまったく思い出すことが出来ないが、数百年生きて初めてここでしばらく休んでみようと思った。
青年は、建物の影に隠れるように座り込んで一息つく。
「……こうやっているだけで
何もせずにしばらく宙を眺めていると、青年に近づく影が一つ。顔を上げ、その者に顔を向ける。
「……なんだ、お前」
随分と特徴的な髪型をした男だった。重力に逆らった棘のある頭髪に、左頬に刻まれた珍妙なマーク。自分よりも二回りは大きいであろうその男を舐めるように睨みつける。
しかし、男はそんな青年の様子に気づいていないのか、その開いた口を小さく動かした。
「……十代、さん?」
「……はあ?」
その十代、というのは自分のことを指すのだろうか。だとすれば、自分の正体を知っているこの男は一体───
「……なんだ、俺の知り合いか。だとしたら悪いな。最近では、日記をつけなければ数日前のことすら忘れてしまうんだ」
でも、少し前のことなら覚えているぜ、と気休め程度に言うが男の顔は晴れず、曇っていく一方だった。参ったな、と頬をかいてから男は顔を上げて言った。
「折角だから君の名前を教えてくれよ。俺は自分の名前を思い出せないけど……君が俺を十代と呼ぶのなら今はそれでいい」
もう何十年何百年と浮かべていない笑顔を模索しながら浮かべてみせる。
目の前の男は一瞬、躊躇うような表情を浮かべたが、直ぐに元の表情に戻ると小さく会釈した。
「俺は遊星。不動遊星です」
男───遊星は一言そう呟いた。
手頃な喫茶店に入った遊星と青年、十代は、向かいになって互いを見据えていた。
「……そういやなぜ君は俺のことを知っていたんだ?俺は相当昔に生きた人間なはずだが……それに、過去で出会った、か」
「はい」
「……その時に俺は知ったんだろうな。その『シンクロ召喚』ってヤツを」
最近妙な召喚をする
……最もその記憶が全くといっていいほど無いので、彼の言葉を信じるしかないのだが。
「十代さん?」
「……いや、なんでもない。ここ最近妙な召喚をする奴が増えたのはそんなカードが出てきたからかと思っただけだ」
「はい。ところで十代さんは……今もヒーローデッキを?」
「……手元にあるのはこれだけだ」
ホルスターからデッキを取り出し、遊星に手渡す。
どういうことだ?と訝しげに眉を顰めた遊星だったが、そのデッキ内容を見て絶句した。
「十代さん、これ……!」
「……正義のヒーローじゃ何も救えないんだ。だから俺は悪を蹴散らす闇となって、この世を救う道を選んだ───それだけさ」
かつての相棒、ハネクリボーにネオス。そしてユベル───今の十代にはそれすらも思い出すことが出来ない。
「……十代、さん」
「なんだ」
遊星は十代にデッキを返すと、自分のデッキを取り出して机に置いた。
「……俺と、
遊星は十代の瞳を見て、そう言った。
次回も淡々とお話が続く予定です。