沈痛の決闘者   作:天野菊乃

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誕生日おめでとう、十代。そして、半年ぶりの更新になりますが申し訳ないです。


傷だらけのヒーロー

「……そんなことを今頃思い出したか」

 

 金色の目の十代───覇王はやれやれと言わんばかりに目を伏せた。

 

「だけど、俺にもうそんな資格は……」

「遊城十代」

 

 覇王は十代の襟首を掴むと、自身の顔の目前で近づけた。

 

「奪い取った魂は二度と戻ってはこない。だが、お前は絶対なる力の象徴であるE-HERO(イービルヒーロー)を使って、悪の命を誰一人として奪おうとはしなかった。それはなぜだ?」

「……」

「恐れていたからだよ。人の命を奪うことを───そしてお前はオレとは違うやり方で、別の答えを得た」

「そんなこと、なんでお前がッ」

「言ったはずだ。オレはお前の心の闇。お前のことならなんでも知っていると」

 

 覇王は顔色一つ変えずに睨みつけ、襟首から手を離した。急に手を離されたことにより、背中から倒れ込む十代。勢いは強くなかったものの、背中からの落下ダメージだったため、鈍い痛みに顔を顰める。

 覇王はそんな十代を見ながら僅かに瞑目すると、自身の決闘盤(デュエルディスク)からデッキを引き抜いて、こちらを見つめてくる十代に向かって放り投げた。

 

「遊城十代。E-HERO(このデッキ)をお前に預ける。どう使うかはお前の自由だ」

 

 唐突な発言に思わず目を剥く十代だったが、その顔は直ぐに怪訝そうな表情に移り変わる。

 

「いいのか。このデッキを勝手に破棄するかもしれないぜ?」

「言っただろう。どう使うかはお前の自由だと」

 

 そんな子供騙しの脅しも、覇王には通用しない。

 当然だろう。なぜなら、覇王は十代の心の闇の象徴。つまり考えていることなどすべて筒抜けなのだ。

 顔色一つ変えずに淡々と答える覇王を見ながら十代は、思わず苦笑いを浮かべ、後頭部をかいた。

 

「決闘では俺が勝ったけど、この局面では俺の負けか」

「……」

 

 覇王は何か言おうと僅かに口を開くも、直ぐに口を閉じて瞑目した。

 不思議に思った十代が覇王に「どうしたんだ?」と訊ねようとした次の瞬間、暗闇の空間がひび割れ、眩いほどの光が差し込んだ。

 放射状に走る光が何も無かった空間を眩く照らし始め、闇がどんどん薄くなっていく。

 

「……」

 

 相変わらず瞑目しているが、何処か嬉しそうに口角を上げる覇王。

 訝しげに眉をひそめながら覇王に近づくも、あと一歩というところで目に見えない壁に阻まれる。

 

「おい……なんのつもりだよ」

 

 覇王は何も答えず、背中を向けると光射す大地に足を踏み始めた。

 

「おい、答えろよ!」

「遊城十代」

 

 そして、一瞬だけ足を止めてこちらを振り返った。

 相変わらず顔の険は凄まじいが、何処か柔らかみを感じる表情で人差し指と中指を揃えて伸ばした。そして額に指先を当てる要領で顔の前を手で隠して

 

「お前との戦い、中々楽しかったぞ。次は負けん───ガッチャ」

 

 力強く指先を十代に向け、言ったのだった。

 

 

 

「───ッ!!」

 

 目覚めた時には、病院の屋上にいた。朝日が既に昇り始め、ネオドミノシティを柔らかく照らしていた。

 夢でも見ていたのだろうか。ゆっくりと立ち上がろうとすると、右手が何かを握っていることに気づいた。

 

「え?」

 

 先程まで持っていなかった二枚のカードか手のひらの中にあった。

 一枚は純銀の鎧を身に纏った新たなネオス『E・HERO ブレイヴ・ネオス』。

 そして、もう一枚は───

 

「こいつは……?」

 

 一瞬、マリシャス・デビルかと思うが、違う。黒い鋭利な鎧で身を固め、蝙蝠のような翼を生やしたその姿は悪魔そのもの。不敵にこちらを見つめてくるその悪魔の姿を十代は見たことがなかった。

 

「『E-HERO(イービルヒーロー) マリシャス・ベイン』?」

 

 攻撃力こそ下がっているものの、すぐに理解した。

 このカードはマリシャス・デビルが進化した姿だと。

 

「……あいつ」

 

 思わず笑ってしまう。こんな置き土産をしていくなんて思いもしなかった。

 こんなことされたら、捨てようにも捨てられないじゃないか───。

 十代は小さく笑ってから二枚のカードを大事に扱いながらデッキに収めた。

 

「……ありがとう、覇王。忘れかけていた大切なことを思い出させてくれて。勿論、次も負けないからな。ガッチャ!」

 

 太陽に向けて力強く指先を向けた。

 軽く伸びをして屋上からエントランスに戻ると、神妙な面持ちをした遊星が待っていた。

 

「十代さん!」

「ああ、悪い。心配かけたな」

 

 まだ記憶が戻る気配はない。だが、それで構わない。ゆっくりと思い出していけばいい。

 十代は口角を上げて小さく笑った。

 

「なあ、遊星」

「はい、なんでしょうか」

「俺、今からあいつ……早乙女レイの見舞いに行ってくるよ。それで色々と俺の昔話を聞いてみようと思う。そうしたら───」

 

『精霊の声を聞く』という能力は未だ取り戻せていない。

 ユベルやハネクリボー、そしてネオス。決闘の一瞬だけその力を取り戻したが、まだ完璧に取り戻したわけではない。

 だからといって、焦ることはしない。

 自分に残された時間はあまりに膨大で予想出来ない。しかし、その時間を力を取り戻す方法を模索することに費やせばきっと答えは見つかるだろう。

 

「───俺と、()()()()しようぜ」

 

 だから、焦る必要は無い。そして、その膨大な時間の少しくらいは。

 十代は小さく笑いながらデッキを構えた。




これで完結が綺麗なような気がしたのでここで最終回です。
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