がっこうぐらしRTA_生存者全員殲滅ルート   作:ちあさ

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今回は圭視点です。


時間は少し巻き戻ってます。



幕間2

『ようこそ。そしてこの音声が流れるということは私の計画が失敗したということだね。残念なことだが君たちを歓迎するよ』

 

 

その部屋に入ると同時に声が聞こえてきた。

圭は声の主を探そうと部屋を見回すが、そこには誰もいなかった。

 

 

キーボードが設置されているデスク。

そこには何も有用な情報は書いていなさそうな書類や本が広げられていた。

ベッドやキッチンに冷蔵庫とこの部屋だけで生活できるようになっている。

部屋の隅には動物実験でも飼っていたのだろうか、無機質な檻と今は何もつながれていない鎖と首輪。

この部屋の主はよっぽど部屋を彩るという事に興味がない人物なのだろう、飾り気どころか写真の1枚も置かれていないなんとも寂しい部屋だ。

 

 

部屋の中央にテーブルと椅子があり、そこにモニターと円柱状のスマートスピーカーが置かれていた。

 

 

『何もおもてなしはできないが、まずは椅子にでも座ってくつろいでくれ。ああ、冷蔵庫の中身は好きに食べてもらってもいいが、この部屋の主がいなくなって既に半月経っている。賞味期限には注意してくれ』

 

 

音声はそのスピーカーから流れていた。

 

 

『色々聞きたいことがあるだろうが、まずはモニターのスイッチを入れてくれないか』

 

 

私と美紀は椅子に座り、モニターのスイッチを入れる。

そこに3DCGで描かれた少女が映った。

 

 

『まずは自己紹介を。私の名前はスノー・クイーン。ちなみに人間ではない。正確に言えばちょっと違うのだが一言でいえば非常に高性能なAI、人工知能のようなものだと言えば分かるだろうか。しばらくの間だがよろしくしてくれ』

 

 

声と同時にモニターの中の少女がペコリとお辞儀をする。

 

 

「人工知能?それにしてはなんだか人間みたいな話し方ですね」

 

 

美紀が少し驚いたように言う。

よかった、今はちょっと落ち着いているみたい。

初対面の人の前でいあ!いあ!とか言い出したらどうしようかと思った。

 

 

『そうだろう。それこそがクイーンシリーズのコンセプトの一つだ。その中でもスノー・クイーンは実際の人間の記憶や人格、思考パターンなどをデータ化して複製するという研究の結果生まれた存在だ。そして私のオリジナルはこの部屋の主というわけさ。だからこの部屋は私の部屋とも言えるね』

 

「記憶を、複製?なんでそんなことを」

 

『この部屋に来たという事は部屋の外の研究所も見たんだろう。ここでは遺伝子をはじめとした生命に関した様々な研究を行っている。特にここのチームの最終目標は"永遠の命"だった』

 

「永遠の命?そんなの無理に決まってる」

 

『いや、そうでもないさ。その研究成果の1つを君達は見てきているはずだ。発症者という成果を』

 

「まさか…いややっぱりこの研究所があいつらを、街をこんな風にしたのはあなたたちなの!」

 

 

激高して立ち上がるも、モニターの中の少女はちょっと落ち着けと言ってくる。

 

 

『まだ説明の途中だ。つまり私の主たちはその目標を達成するためにここや世界中にある同じ企業の研究所で様々な遺伝子操作による動物実験をはじめとしたハード面での研究と、そして記憶というソフト面での研究を行ってきた―――そして決して表ざたにはできない危険なウイルスの改良や人体実験、クローニングなどの禁忌の研究も。

それらの研究成果は資金を出しているアンブレラという企業によって、いつしか軍事兵器として扱われるようになった。

その結果生まれたのが最悪の欠陥兵器"Tウイルス"だ。

巡ヶ丘市は元々アンブレラの実験都市として日本から買い上げて開発された都市で、様々な情報統制がされているため知られていないが、アメリカのラクーンシティでこの巡ヶ丘市と同様の事が起きているんだ』

 

 

その言葉に私たちは衝撃を受ける。既に他の場所でも起こっていることだったの?

 

 

『そう、今回の惨事は意図して起こされた人災であり、アンブレラによる実験なのだ』

 

「なんでアンブレラって会社はまたこんなことを起こそうとしたの?」

 

『ラクーンシティで起きた騒動はアンブレラには想定外の事態だった。故に満足のいく結果にはならなかった。だからその際に実施できなかった実験を一斉に行うために今回の事件を起こすことになった。政府も既に承認済みだ』

 

「政府が…うそ、こんなこと…国が許すはずがないじゃない」

 

『本来の政府ならそうだろうさ。だが今の政府は違ったのさ。君たちは政治のニュースに関心はあるかい?政権交代というのが起きてね、新しい与党は降ってわいた権力を維持するのにてんやわんやの大騒ぎ。その結果、アンブレラの提示した多額の金に目がくらんで今や巡ヶ丘市という街は地図から消えてなくなりましたとさ』

 

「そんな…でもそれじゃ街から出れば」

 

『巡ヶ丘市は有毒天然ガスの発生で住民は全滅。全面立ち入り禁止区画になってるよ。だから中から出ようとすれば、口封じとして配備されたアンブレラの特殊部隊に射殺されるだけさ』

 

「じゃあ私たちはここで死ねっていうんですか!」

 

「やっぱり全員殺すしかないんだね」

 

私は絶望し、美紀も銃を抱いて暗い顔をしている。

 

 

『いや、まだ希望は残っている。だがまずは現状どうなっているかだ。Tウイルスの話に戻そう』

 

 

モニターにTウイルスの写真や説明文が表示された。

 

 

『主はラクーンシティの騒動より前からTウイルスの危険性を訴えていた。死を克服するための研究なのに、それを使えばすべての思考がなくなり食べるという本能しか残らなくなるTウイルスは欠陥品だと』

 

 

ウイルスに感染して発症者になった者たちが無秩序に外国の街を徘徊し、住民を襲う映像が映し出された。

 

 

『だが、軍事兵器として商品になると、主の訴えは退けられた。主にできたのはTウイルスを少しでもマシなものにしようと改良することだけだった。その結果、この町に放たれたのは改良され、生前の記憶や行動パターンを多少残すことができるようになった改良型Tウイルスだ。もちろん、主に言わせればこれもまだ欠陥品だそうだが』

 

 

確かに私たちが見てきた発症者とはちょっと違うように見える。

 

 

『主は制御できない兵器など欠陥品という考えだった。二度とラクーンシティの悲劇を繰り返さないようにと、発症者に思考能力を持たせ行動をコントロールできる新しいシステムを開発した。

その結果生み出されたのが、この実験で投入された試験体と呼ばれる存在だ。

人間としての記憶と思考能力を持たせ、複雑な条件と与えられたシナリオを遂行するために、自身で試行錯誤し最適な行動をする。そして目標を達成するための必要な形態に変異する自己進化機能も持っている。兵士にして兵器という存在だ』

 

「人間としての記憶があるなら、人間を襲ったりとか、ましてや命令されても嫌なことはしないんじゃないんですか」

 

『そうだとも、その倫理観を取り払う部分が一番の課題でね。主も随分悩まされたところだったよ。簡単に脳をいじって倫理観を取り除こうとすると思考に偏りがでてしまって、結果試行錯誤にも影響し最適な行動とは言えなくなってしまう。ところがある日、ダミーの為に通っていた学校での友人と設定された者との雑談でゲームの実況プレイというものを教えられてね。そこからは簡単さ。ゲームのプロプレイヤーや実況プレイヤーの人たちをこの実験所に招待して研究に協力してもらい、そのプレイスタイルや思考パターンなどをデータ化し、システムに反映することにした。

試験体の中の人格は、この世界をゲームと捉え、モニターの前でコントローラーを握ってゲームをしていると認識しているのさ。そして与えられた条件やシナリオは縛りプレイやチャートと認識される。あとはどれだけ効率よく達成できるかを実行するだけ。ゲームなんだから人間を殺そうがどうしようが現実じゃないんだし、躊躇う事なんてありはしない。

ただ、素体となるには一定以上の知能を有していないといけなかった。知能の低い者にこのシステムを使った結果、効率のいい行動はできず、条件達成率も低く、結果メインには採用されることはなかった。今回の実験では数ある実験の一部、ついでとして投入されているだけだ。素体は事前に確保されていた候補の誰かが使われたんだろうね』

 

 

「あの、あなたの主って人は止めることはできなかったんですか」

 

 

『止めようとはした。結局失敗したみたいだけどね。

私の主はラクーンシティの惨劇を聞いて酷くショックを受けてね。今回の巡ヶ丘市の実験も最後まで反対していた。だが実験は既に決定事項で、いくら今まで研究に貢献してきたとは言え止めることは不可能だった。

そこで主は外部から止めることを決意した。世界にはアンブレラの非道な実験を止めて世界を守ろうとする組織が存在する。主はここの教師として潜入スパイをしていたその組織の女性と友好関係にあったんだ。そこで彼女に協力してもらい、改良型Tウイルスや新システムなど研究データを持って、その組織の潜伏先へと逃げることにした。あの悲劇を繰り返さないために。この騒動が起きる2週間前のことだ』

 

 

少女はそこで顔を悲しそうに歪ませ俯く。

 

 

『その結果。その組織の人間ではなく君たちがここに来たということはその計画が失敗し、実験は実行されたと判断したのさ。そう―――私の主は、もうこの世にはいないだろう』

 

 

逃げられずに捕まり、そして殺された。裏切り者として。

 

 

『だが主もこの結果は分かっていたんだろう。事前に幾つかの手を打つことには成功した』

 

 

1つ目は、試験体の実験段階での成功体【ハーメルン】の起動と解放。この実験で試験体が目標とする対象は前から決まっていた。事前に定期的に行われる健康診断でTウイルスに対する高い抗体の持ち主。そして適合種へと進化する可能性が最も高い人間。その人間は実験開始前から監視されていて、事前に行動を誘導されていた。―――そういえば、私達が当日ショッピングモールへ行くことになったのも美紀が先生からデザートフェアの無料券を貰ったからと誘ってきたんだっけ、そう…"美紀"が―――。ハーメルンは実験開始前にその対象と接触し一緒にここに来ることになっていた。

 

 

2つ目、試験体のシステムにバグを仕込むこと。試験体には実験目標と達成条件、そして大まかな行動シナリオが与えられる。それらを優先事項として状況に合わせて自己判断で最適な行動を取る。だがそれよりも更に上の優先条件として"アンブレラの人間を攻撃しない"という項目があった。兵器である以上、自分たちに被害が向かないようにするのは当然。それを"アンブレラの所有物を攻撃しない"と書き換えた。そしてその所有物というのは実験の成果物である、変異種や適合種という存在だ。Tウイルスは一定の割合で変異種という上位個体を生み出す。そして極稀に完全にウイルスと適合する抗体持ちも存在する。それを探し出すのも今回の実験の一つの目的で、それらを捕獲してクローニングし、強化兵や生物兵器として量産する計画だそうだ。なので書き換えても特に違和感は抱かれなかったと。

 

 

『ちなみに、君も既に適合種と進化しているよ。ハーメルンは君が寝ている間に微量のTウイルスと安定剤を使うことで安全に適合種へと進化させてもらった』

 

 

ハーメルン…ずっと傍にいてここへと連れてきてくれた存在。そして私が寝ている間にそんなことができる人。

 

私はおそるおそると隣で眠っている太郎丸を抱いてこちらを見つめている"美紀"を見る。

 

 

『試験体やハーメルンに実装されたのはそれぞれ別個の新しい感染システムで、ハーメルンのは発症者同士で指揮系統を構築するシステムだ。感染元のハーメルンが上位存在という事になり、ハーメルンの意思が下位存在である君に反映される。圭君といったか、君も感じるだろう。ハーメルンの意思が』

 

 

―――安心して。私は敵じゃない。

 

私の心に声が聞こえた。

 

―――貴方は私。私は貴方。私たちの心には既に壁はない。私が貴方を守り、貴方は私を守る。私たちは必ず生き延びる。

 

 

『適合種である君たちは試験体に殺されることはない。むしろ積極的に君たちを守ってくれるだろう。そして君たちを救助するために私が協力を求めた組織が救出部隊を派遣しているはずだ。その者たちと協力して―――』

 

 

少女はずっと閉じていた目から一滴涙を流す。

 

 

『―――試験体を。あの悲しい存在をどうか殺してやってほしい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行ったか…ちょっとしゃべりすぎたかな。ははっこんな私でも一人っていうのは存外に堪えるものなのか、これは良いデータが取れたな、本当に…良いデータだ。さて、彼女たちの献身を無駄にしないようにできることをやるとしよう』

 

 

数時間後―――誰もいなくなった部屋の中、テーブルに置かれたモニターだけが寂しげに光を放っていた。

 




次はまた一週間以内を目標に。

感想評価お待ちしております。



更新するたびにお気に入りの数が減ってドキドキプリキュアしています。



追記…ちなみにハーメルンは「ハーメルンの笛吹き男」から取ってるので某SS投降サイトとは一切関係ありません

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