2日目、深夜
巡ヶ丘学院高校
「行った…みたいだね」
私は今にも走り出しそうな美紀の手を握り、事務室の入り口から顔を出す。
昨日まではどんどん突っ走っていく私を美紀が冷静に止める役だったのにね。
美紀は昼からどこかおかしくなってしまった。
そりゃいつ死ぬか分からないようなこんな状況だし、それにあれを読んじゃったらね。
私だってショックだったし、美紀はちょっと融通がきかない生真面目さだっただけに受け入れ難かったんだろう。
今も胸に抱えた銃に向かって何やらブツブツ言っている。
ここは私がしっかりしないといけない。
「すごい勢いで外から飛び出していったけど、あいつってやっぱりショッピングモールで見たやつだよね」
「・・・るう・・るるいえ・・うがふなぐる・・・え?なに?圭、なにかいった?」
「いや、なんでもないよ」
気づいてないならそれでもいいや。
下手にあれを追いかけるなんて言われても困るしさ。
それよりもあいつが出てきたのって倉庫・・・そしてその奥に地下への入り口がある部屋だよね。
あのレポートの内容が本当ならその地下にやつらの実験拠点があるはず。
太郎丸が倉庫の入り口に立って早く来いとこちらへ尻尾を振っている。
そういえばこの子、無駄吠えとかしないし結構賢いよね。
「ねぇ圭、早く先生たち殺しに行こう。さっき上が騒がしかったし、そっちにいると思うんだよね」
「いやいや、今は止めておこうよ、私だって疲れちゃったしね。ヘトヘトで行っても上手く行かないよ。それにほら、先に地下を調べようってここに来る前に話したよね」
むーっとふくれっ面をして不満そうにするも、それでもこくんと頷いてくれる美紀。
学校までだいぶ急いで来たし、私と違って銃や弾薬などがパンパンに詰まったバッグを手放そうとしない美紀の方が体力を消耗してるのだろう。
おかしくなってしまった今でも疲れてる状態では倒せる相手も倒せないって考えられるぐらいの理性は残っていてくれて助かる。
美紀と一緒に慎重に倉庫に、そしてその奥にある機械室から地下へと降りていく。
ウグゥァァ・・・。
真っ暗闇の中、くぐもった声が聞こえてくる。
「圭、ちょっと掃除するね」
美紀はそう言うと太郎丸を伴い平然とした足取りで暗闇の中へ向かう。
少しして小さくくぐもったような発射音が何度か鳴る。
美紀の拾った銃、たしかP-90だっけ?それはあいつら、レポートによれば発症者、それ用に用意された武器で、火薬の量を抑え反動を減らし、更に発射音が小さくなるサイレンサーという部品が付いている。それも寿命は短いらしく、換えのサイレンサーが弾と一緒にたっぷりとコンテナに入っていた。
御蔭で、銃を撃っても他の発症者が集まってくる心配は少ない。
そんなことを考えていたら美紀と太郎丸が地下から戻ってきた。
「全部やったよ」
嬉しそうな笑顔の美紀。
「それにしても、みきって暗いの大丈夫なんだったっけ?わたし、あんな中じゃ何も見えないよ」
「なんかねアレがいるところがなんとなくわかるんだよ。きっと神様のおかげだね」
やっぱり美紀おかしい。
神様が~なんて言葉を美紀から聞いたのは今日がはじめてだよ。
考え込んでいたら早く来いとせかされる。
わかったわかった、今行くよ。
えっと、うん、そっちだね。
真っ暗の地下を先導され私たちは進み、そして教えられたスイッチを入れ、明かりが灯る。
すると一面大量のコンテナが積みあがった光景が広がる。
おっと、入り口閉めないと、明かりが漏れちゃうね。
開きっぱなしだったシャッターを閉める。
このシャッターも発症者対策をしているのだろうか、音を立てないで静かにしまっていく。
美紀は不思議そうにコンテナを見て回っているけど、まず最初に確認しないといけないことがある。
えっとどれだ。
ワンッ!
奥の方で太郎丸が合図を送ってくれる。
向かうと探していた特殊薬品コンテナがあり、すでに蓋が開いていた。
中を確認すると、傘のマークが入った同じケースが綺麗に並べられて保管されていて、1ケース分だけスペースが開いている。
ケースを取り出し、中を確認すると螺旋型の特徴的な液体が入った筒と銃の形の注射機らしきものが入っていた。
これがあのレポートに書いてあった安定剤という物なんだろう。
安定剤1個持ち出しを確認。
変異種若しくは適合種1体増加の可能性有り。
私はその言葉の意味を理解して戦慄を覚える。
「圭、こっち。奥にも部屋があるみたい」
美紀がすぐ近くの閉まったドアの前で呼んでいる。
その扉はドアノブがなく、すぐ横にテンキーとカードリーダーが据え付けられていた。
私は言われて持ってきたあの死体の認証カードをそのカードリーダーへと通す。
認証OKの表示と共にドアがスライドして開き、私たちは中に入る。
映画とかで出てくるような指令室と研究室を足したような広い部屋だった。
片側にはいくつものモニターが壁一面に設置され、パソコンが設置されている机がそのモニター群に向かって並んでいる。
もう片方側はガラス窓で敷居がされている先にテーブルや試験管、顕微鏡、用途の分からない機械類、そして大人が入れそうな大きさのからっぽな円柱形のガラスケースが何個も並んである部屋。
私たちが出たのはモニターのある指令室側だった。
モニターには校舎内各所や、校庭、学校周辺などが映し出されている。
「圭!あれ!放送室」
その中のモニターの一つを美紀が指さす。
そこには確かに放送室の様子が映し出されている。
放送室の中には何人もの生徒、そして確か佐倉先生だったかな、先生の姿も見える。
そして何より、そこにはショッピングモール、そして先ほど倉庫から出て行ったあの化け物がいた。
入り口側からの映像なのでよくは見えないが化け物は佐倉先生の傍に跪き、佐倉先生と何かしている。
「やっぱり!先生たちが!あの化け物もあの先生が操っているんだ!」
美紀は興奮したように早く殺しに行こうと言うが、落ち着くように説得されてしゅんとしてしまう。
子供は親には勝てないよね。
私は苦笑しつつモニター前に並んであるパソコンを調べる。
まず、最初に警告文が表示された。
【巡ヶ丘学院高校地下研究所の放棄】
実験体に調査員が殺害されたことによってイレギュラーな被害を抑えるためにここは放棄されたらしい。
規定の退避ルートを通ってランダル医療センターへの合流指示が出ている。
圭はその画面を閉じ、他の情報を出す。
実験経過報告、状況、巡ヶ丘市役所…全滅・実験終了。鞣河小学校…継続中。巡ヶ丘中学校…全滅・実験終了。巡ヶ丘学院高校…継続中。聖イシドロス大学…継続中。リバーシティ・トロン・ショッピングモール…全滅・実験終了。
巡ヶ丘市各所で行われている実験状況が表示された。
その中の巡ヶ丘学院高校の実験詳細を出す。
セキュリティが掛かっていたが、横から教えられたパスワードを入力し解除する。
実験内容、達成条件、経過状況などが表示される。
達成条件を見てめまいがする。
実験レポートは一定時間ごとに転送されるらしく、ちょうど今、新しい実験レポートが登録されたと表示が出る。
複雑な条件下での任務遂行能力についてなんちゃらかんちゃら。
うん、よく分からない。
専門用語なども多く、半分も理解できない。
私と一緒に見ているが、よくこんなの理解できるな。
「ねぇ、圭、こっちの部屋は?」
美紀はそんなことに興味はないとばかりにあっちこっちうろうろしていたが、奥にある扉の前でこっちを呼ぶ。
私はパソコンから目を離し、いつの間にかテーブルの上へ上がっていた太郎丸を下へと降ろし、美紀が呼ぶ扉へと向かった。
「えっと、えすわいえるえーびー?」
その扉には部屋名が記載されていたけど、英語で読めない。
―ハーメルンの認証を確認しました。ロックを解除します―
私たちが扉の前に立つと合成音声が流れ、ガチャンガチョンと物々しい開錠音がし、扉が開く。
恐る恐ると中に入ると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『ようこそ。そしてこの音声が流れるということは私の計画が失敗したということだね。残念なことだが君たちを歓迎するよ』
批判はあえて受けるスタイル。