「ヘンゼルのところまでどうやって行くんだ?」
「飛んでいきゃあすぐだ。俺につかまれ」
フィリオスの家の前で、俺とマコがフウマにつかまった。
「しっかり持っとけ」
ロケットのように勢いよく、フウマは空を飛んだ。
「うわああああたかいたかいこわいさむいひえええええ!」
落ち着け。うるさい。
飛んでいると言うより、何だろう、空にぐんと近づいたといった方が的確な感触だ。飛行機じゃないからか?
寒さの中で薄れゆく意識の中、ぼんやりとそんなことを考えた。
「て、フウマ!前!前!」
「あ?どうした?」
「川!落ちる!」
「ああ、それな。車は急には止まれないって言葉、聞いたことあるだろ?」
「なら曲がれよ!」
俺は体重を思いっきりかけて引っ張った。
「あ、ちょ、じっとしてくれんと制御ができん!」
壊れたヘリのようにグルングルン回りながら、木に突っ込んでいく。
「「「あああああああああ!!!!!!!」」」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「行っちゃったけど、お茶どうすんの?」
「ああ忘れてた。全部俺が飲むからいいよ。それとも、ほしい?」
「別に」
二人は空を見上げた。
「ヘンゼルって、どんなやつなの?」
「ズズッ、ズゾゾゾゾズずぉぉぉ!」
「うるさい」
フィリオスはマスターの言葉をそのまま言った。
「ひどくひねくれた、かわいそうなガキなんだと」
「・・・身長は?」
「お前より高い」
「・・・」
「ま、気にすんな。お前は俺から見ても強いからな」
「ごめんなさい」
「は?オイオイ急にどうした」
「私のせいで、おじさんはー」
フィリオスはぽんと頭に手をおいた。
「その話は無しだと言ったよな。俺が気にしてないんだから、お前が気にする必要はない」
「でも!」
フィリオスは口に人差し指を当てた。
「騒ごうが喚こうが、俺の体は戻らない。それにお前が生き延びたという結果に満足してるんだよ俺は。だから、お互いこの話はなしな」
「・・・」
「ほんとうに、それでいいの?」
その声に、二人は振り返った。
「クロノ、お前まだいたのか」
「ええ、話は聞いたわ、本当にそれでいいの?」
「女の子二人に心配されるのはそれはそれでいいが、なに、無くてもやっていけるよ。それにー」
「それに?」
「戦士の勲章みたいでなんかかっこいいだろ」
「「・・・」」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「さあ、ついたぞ」
「ちょっとまて!」
「どうした?」
俺はさっきからずっと思っていたことを口にした。
「吐きそう。吐かさせて」
「いや、のんびりするわけにはいかないだろ?」
「そうはいっても・・・」
「うぉるぉるぉるぉるぉるぉぎょやべばー!!!!」
「すでに吐いてるやついるし」
「・・・」
フウマはためいきをついた。
ひと
「他人がゲロっとるとこ見たくないし向こうにおるわ」
フウマの影はやがて見えなくなった。
う、うぉえええ〜と言いながら胃の中をひっくり返す。あの二人、これを知ってたから来なかったんじゃ?
そんな二人の様子を木に隠れて見ている影があった。
「たぶん駄目だと思うが、まあ、一応」
そうつぶやくと、銀色の横笛を口に当てた。
「何だ、この音?」
俺たちは周囲を見回した。
「あれ?コウガさん」
「どうした?」
「なんで、笑ってるんですか?」
え?本当だ、無意識に笑ってる。
「マコも、笑ってるぞ」
「え?」
そうして、意識が遠くなり、俺たちは笑顔のまま草の上に突っ伏した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「二人とも遅いな。何やってるんだ?」
フウマはイライラと貧乏ゆすりしながら待っていた。
「先に行くか」
地面にメモを置いて、、フウマは歩き出した。
それからしばらくして。
「おかしいな…」
「何が?」
カピバラのようなものが急に出てきて、フウマはひっくりかえりそうになった。
「あ、ああ、いや、川がないなって」
「川?このあたりはずっと森よ。川なんてないわ」
「あれ?上から見えたのに」
「上?もしかして時の川じゃないの?」
フウマは首をひねった。
「なんだそりゃ?」
「時の川は、宇宙を流れる広大な川で、流れも時と同じように、過去から未来に流れてるの。学者の話では、今日中にはポロロッカ現象が起きるそうよ」
「ポロ?」
「星の力で、川が逆流するのよ。時の川でも時々起こるの。その時だけは、未来から過去へ流れるのよ」
フウマはあごに手を当てた。
(何で、そんなところに用があるんだ?あいつの目的は何なんだ?)
「どうしたの?」
カピバラ星人(と、言うことにした)は、フウマの顔をのぞき込んだ。
「いや、なんでもない。ありがとう。あと、ここらに人間が来なかったか?」
「ええ、来たけど。向こうに行ったわ。あなたの知り合いなの?」
「まあ、そうだ。ありがとう」
フウマは歩きだした。
(本人に吐かせるのが一番早い。ぶん殴ってでも聞いてやる)
フウマは言われた方向にしばらく歩いた。そしてー
「・・・でかっ!」
巨大な洋館が目の前に現れた。
(間違いない、あいつはここにいる)
フウマはそう思った。
(じゃないと、これ以上歩き回るのは嫌だ!)
重い扉を開けると、きしむ音が反響して飛び交う。
「やあ、フウマ」
声に顔をあげると、ヘンゼルが二階の回廊から見下ろしていた。
「ヘンゼル。どうしてこんなところにいるんだ?」
ヘンゼルは奥へと歩き出した。
「まあ、時間はあるし立ち話じゃあ疲れるだろう?おいでよ」
「・・・?」
フウマは妙に落ち着いたヘンゼルに違和感を覚えた。それでも、ここで引き返せば何もわからないままだとわかっているから、導かれるまま奥へと進んだ。
「とりあえず、お茶と菓子だよ。ありあわせだけどね」
「おい、お前は俺が嫌いだろ?もてなしてどうする」
ヘンゼルは紅茶をいれながら答えた。
「君の笑い方が気に入ったのさ」
「はあ?おい、どういうことだ」
「まあまあ、焦らないで・・・」
フウマはテーブルをたたいて立ち上がった。
「話す気がないなら、帰る」
フウマはドアの方向にすたすたと歩いて行った。
「あ、そっちは裏口・・・まあいっか」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
フウマはドアを出た瞬間その存在感に気おされた。
「何だこりゃ・・・石像?」
あたりにはとても細かい石像がびっしりと並んでいた。
「あいつ、なんで石像なんか集めてるんだ?」
「欲しかったんだよ。自分に合った笑顔が」
後ろに、ヘンゼルが立っていた。
「おい、どういうことだ?笑顔って、なんだよ?」
「よく見てごらん。みんな笑ってるだろう?」
言われたとおり、すべての石像が笑っている。
「なんで、こんな数の石像を・・・」
「ああ、石像じゃないよ、全部」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ねえ、そのヘンゼルってやつ、どんな魔法を使うの?」
「そうだなあ、今の若い奴は知らねえだろう魔法だ。それは昔、一人だけ、完全に従えた者がいた」
「一人だけ?」
「そう、一人だけ。その魔法は、感情にのまれてはならない。でも、感情を最高潮まで昂らせなくちゃならない。その魔法の名はー」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「こいつらは石像じゃない。魂がないんだ」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「終焉へと導く最終の物語。通称『オメガストーリー』。過去唯一、それを従えたものはこう呼ばれた。ただ、『理不尽』と」
フェミーナはしばらくものが言えなかった。
「うそでしょ!?そんな奴とあのバカをぶつけるわけ?!正気?」
「ああ、あいつは馬鹿だ。どうしようもなく馬鹿だ。救いようのない馬鹿だ。でもな、ミーナ、覚えとくといいぞ」
「何を?」
「そんな救えない馬鹿にしか、救えない奴がいることを」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「どういうことだよ、魂がないって」
「そのまんまの意味だよ。俺の魔法は感情を操る。魂を抜くことも、魂になることも可能だ」
ヘンゼルの姿が消え、近くの石像が動いた。
「こんな風に、乗っ取ることもできる」
フウマはヘンゼルをにらんだ。
「そんな力で、何をしようとしている?」
「簡単だよ。いや、君たちには、簡単なことだよ。俺は、ただ・・・笑っていたいだけ」
フウマはぽかんとした。
「たったそれだけのために、魂を抜いただと?」
「お前にはわからないだろう。お前は呪いを受けていないんだから」
ヘンゼルは銀色の横笛を鳴らし始めた。フウマの顔は笑い出し、それをお食い止めようとしているためひきつった笑顔になった。意識が遠のき始め、思わず後ずさりをして、何かにつまずいてこけた。
フウマは衝撃で正気を取り戻し、自分がつまずいたものを見て飛び上がりそうになった。
「コウガ!」
そして、その倒れたコウガの石像の近くに立っていたのは・・・
「マコ!」
フウマは二人を担いで逃げ出した。
フウマはぐんと高度を上げた。
あのカピバラ星人の言ってることが本当なら・・・」
下を見ると、宙に浮いた川があった。
「よし!」
フウマはその時を待った。
「おや、偶然同じところを目指していただなんて」
ヘンゼルが現れた。
「これは驚いた。何をする気だい?」
「それは・・・」
波が上がった。それまで静かだった川が大きな音を立て始めた。魚をついばんでいた白鳥は波を浴びて、若鳥からヒナ、そして卵に戻ってその後消えた。水面を飛んでいた大きなチョウも、さなぎから幼虫、卵、そして消えた。時の逆流が始まったのだ。
「こうするんだよ!」
フウマは二人を川の中に放り込んだ。
「へえ、なかなか賢い選択だね。でも、もうあの二人はいらない。俺に合った笑顔ではなかった」
「は?お前に合う笑顔って、なんだよ?」
「俺は馬鹿みたいに笑いたかったんだ。ちょうど・・・」
ヘンゼルが波を指さした。波の内側には、時の記憶が移っている。
「あんな感じでね」
それは、大口を開けて笑うフウマだった。
いかがでしたか?感想・アドバイスお待ちしております。(できれば推薦)記念すべき節目の10話なので、今回からキャラに次回予告させたいと思います。記念すべき一回目は、今回主役のヘンゼルでどうぞ。
次回予告
お前なんかにわかるかよ。笑いたいって願いすら、生きていたいって望みすら、あってはならないといわれる奴の気持ちなんて。お前みたいな、へらへらしてるだけの奴に、わかってしまってたまるかよ。そのくせ・・・笑わないと何も手に入らない。それが大人だ。それが世界だ。本当の呪いは、オメガストーリーなんかより、もっと・・・
次回魔っちょ、「カワイソウ」。・・・もう一度、日の光を