「さあ、祭をはじめようじゃないか。」
祭?祭だと。人が一人死んでいるんだぞ?お祭り気分で良いわけがない。それなのに、こいつらはー
「大丈夫、コウガならば死んではいないよ。昔っからそうなんだ、死んだと思ったら急にけろりとして帰ってくるんだ。」
こちらの気持ちを察したのか、フェルナはそう語りかけてきた。しかし、その話の根拠はどこにもないことぐらい、分かっている。少なくとも、目の前にはそんな物はない。
「あ、あの、この高さじゃ、無事じゃすまないと思うんですけれども、その、皆さんは体がお丈夫だったり?」
悪意のないことを知っていれば単に驚いているだけに聞こえるが、知らなければ嫌みに聞こえるんだろうな、と思うような台詞をマコが吐いた。
「ああ、その中でも特にアイツは頑丈だ。銃弾で撃っても傷がつかないくらいにな。」
「ほえ~」とマコが感心しているのか驚いているのかよく分からない声を口にした。
マコの震えを見て、思った。絶対、寒いだけじゃないんだろう、と。スノーマンも怖いだろう。雪山も怖いだろう。でも、それ以上に自分より強い人間がたくさんいることを突きつけられて、怖がっているのだ。
何かしなくては、励ましてあげなくてはとは思ったものの、そんな言葉は到底思いつかなかった。ただ、肩に手を置いて、「大丈夫、大丈夫。」とバカみたいに繰り返している自分がいた。全く、情けないな。
(大丈夫。コウガさんもそう言っている。なら、大丈夫。大丈夫。ここまで、どうにかなってきたじゃないですか。この剣を抜くことはありません。目覚めさせる必要はありません。きっと、きっと。大丈夫、大丈夫。)
何度も同じ言葉を繰り返していた。それしか考えないようにしたかった。全員生きてかえって、祝われたかった。
生まれて、はじめてかもしれない。歓迎されると言うことを考えるのは。いや多分、生まれた瞬間は歓迎されただろう。だが、覚えていないので意味がない。
(何で、こんな思いまでして、勇者の子孫は私なのか。墓一つ守れなかった私なのか。コウガさんや、フェルナさんや、フウマさんじゃなかったのか。マスターさんじゃなかったのか。何故、私でなければならないのか。それが私にはーわからない。)
「さあ、かかってくるがいい。好きなだけ、殴ってみろよ。」
その声で、マコは目を開いた。
「ウホホ、おで、女、好き。お前、殺さない。」
「殺せないの間違いだろう?」
「ウホホ、ウホホホホ。おで、お前、倒す。土下座、させる。そして、嫁に、とる。」
「おっと、ソイツはいくら何でも願い下げだ。」
フェルナが身構えた。言葉に対してか、スノーマンに対してか。
「たたっ切る!」
フェルナが通ったと思われるあとに、血が飛散した。速すぎて見えなかったのである。飛び散った血が、フェルナにもパタパタとついた。
「ウホあ・・・」
「フン、身の程をわきまえんからそうなるのだ。」
スノーマンは笑っている。何か、怪しい?
「なーんてウホ。」
その場にいた全員が凍り付いた。
「どういうことだ?」
「血糊袋、という奴ウホ。毛の下に敷き詰めてあったウホ。白いから、分からなかったウホね?」
こいつ、本当に賢い。もしかしたら、人間よりも賢いかも。
「おでは頭脳で雪山の大将になったんだウホ。落ちてった筋肉バカと一緒にするなウホ。」
「なら、もう一度切るだけだ。」フェルナはそう言ってはじめて、自分の体が動かないことに気が付いた。
「おい、どうなっている?」
「血糊が凍ったんだウホ。アンチマジックをかけてあるから、それだけ浴びれば何も魔法を使えないウホよ。ついでに、脱力の呪いも入っているウホ。」
こいつ、すべてを分かっていたかのような戦い方をしやがる。
スノーマンが刀を取り上げた。
「土下座も出来ないウホね。しかたない、こっちを嫁にとるウホ。」
スノーマンはマコに向き直った。
「え?え?」
「背も小さくて胸も小さめウホが、それがまたかわいいウホ。」
「え?え?」
マズいな。俺等二人ではどうしようも出来ない。俺の剣は当たらない、マコはそもそも剣を抜かない。何故そう頑なに拒むのかは知らないが。
しかし、二人が闇雲に突っ込まなければ。もっと考えられる人間だったなら。こんなことにはならなくてすんだはずなのに、それなのに目の前で現実問題二人は死んだも同然だ。守ってくれるはずではなかったのか。そんな力もなかったのか。
(サア、イカレ。オマエノイカリヲトキハナツンダ。)
聞き覚えのある声がした。鬼だ。鬼の声だ。
地面がビリビリと震えるように感じた。いや、本当に震えている?
「何ウホか?」
良く耳を澄ませば、何かが聞こえてくる。
(お~↑ま~↑↑え~↑↑↑)
その「音」は地獄の底から聞こえるかのように、腹をビリビリ震わせた。
「コォッ↑ソオオォォォォ↓!!」
フウマだった。地面から飛び出る人間とは、怪奇現象だった。モグラなら飛び出しまくるけども。
口からシュウシュウと湯気を吐きながら、フウマがにらみつけた。
「突き落としやがってこの野郎!お返ししてやる!」
どういうことだ?あの高さから落ちて、こんなにピンピンしている。しかも、あの湯気。まさかとは思うがな。
「どうやって上がってきた?」
「食い進めてトンネルを作った。」
「大丈夫か?」
「ああ、見ての通りピンピンしてる。」
「いや頭」
俺の声も、どうやら届かなかったらしく、すぐに戦闘が始まった。
「うほー!」
つらら針が次々と投げられる。
「効かーん!」
つららが当たった瞬間蒸発する。
「わははどうだーっ!」
「う、ウホ。」
スノーマンはキョロキョロして、フェルナの刀を見つけて拾い上げた。
「ウホ」
「あ、それは痛そう。」
「ウホー!」
刀をめちゃくちゃに振り回しながら突進してくる。
「ぬん!」
フウマは、まさかの真剣白刃取りをした。
「心配するな。アイツも禁式の使い手だ。」
フェルナが俺にささやいた。
「破邪の者、鬼を滅し者。その皮膚鬼のように頑健で、その腕鬼のように力強く、肺には炎と怨嗟をため、鬼の力をもって鬼を葬る者なり。殺鬼の法人「オーガスレイヤー」、またの名を」
俺は、次の言葉を疑ってしまった。
「魔物狩りの「モモタロウ」だ。」
桃太郎?桃太郎だと?それで、刀に激おこぷんぷん丸なんてふざけた名前がついていたことがようやく腑に落ちた。
(他にも、外界の者がいる。それも、同年代の人間で、同世界の可能性が高い。)
もしも、会えるのなら会ってみたいがな。
(アエルサ、カナラズ。ソレガキミノサダメデ、ソシテカノジョノサダメダ。タダ、デアッタトキ、オマエハドウオモウコトヤラ。)
鬼は、知っているというのか?大体、いつの間に入ってきたんだ。
(マスターナラワカルカモナ。ソロソロネムルサ。カノジョトハ、シバラクブリナノデナ、ヤツレルワケニハイカナイ。)
その「彼女」って誰のことなんだ?
鬼はどうやらもう寝たらしく、返事はかえってこなかった。
「ウホホ、ホー!」
スノーマンが吹っ飛ばされて、その断末魔で俺は元の世界に帰ってきた。
雪が溶けるように、蒸気をあげて小さくなっていき、やがて人の姿となった。
「どうだ、フェルナ?」
「行方不明者の特徴と合致している、間違いないだろう。」
フウマは、彼を背負って山を下りはじめた。
俺は三人のしばらくあとをついて行った。
「どうした?」
フウマが振り向いて訪ねてきた。
「俺なあ、最初、お前らに対して「出来る奴に出来ない奴の何が分かるんだ」って思ってたんだ。せいぜい調子こいてへましていたい目に遭えばいい、そう本気で考えてたんだ。でもな、」
俺はいったん息を吸い込んだ。
「気づいたら、フウマ、お前の名前を叫んでた。叫んじまってたんだよ。しかもご丁寧に、お前の安否すら心配してた。」
マコが、信じられないという顔で凝視してきた。
「どうやら、根っからの悪人になれるほど、根性も覚悟もないみたいだ。俺は、情けないな。」
「ま、根っからの悪人になれるほどの奴だったら、いれないだろ普通。」
そうか。それもそうか。
「こ、コウガさんはやっぱり優しいんですよ!自信もって良いんです。」
俺は、長いため息を吐いた。
「ありがとう、マコ。そう言ってもらうのを、期待してたのかもな。」
俺は歩くスピードを上げた。
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)なお、僕のもう一つの作品、「仮面ライダーmath」も併せてお願いします。
次回予告
ギルドに帰った勇者一行。マスターからの言葉とは?そして、クロノがあることに気づく。「もしお前さんの言うとおりならーあいつは剣じゃ、大蛇のタケルじゃ。破壊をもたらす、忌むべき者じゃ。」次回魔っちょ、「短命の英雄と剣の真価」お楽しみに!