夢を見た。いや、正確には、見ている夢の世界にいた。おそらく俺の意識の中なのだろう、映画のフィルムに貼り付けられた俺の記憶の断片が、そこかしこをうっとうしく飛び回っている。
そして、目の前には、俺がいた。派手なシャツを着て、サングラスを頭に引っかけているが、間違いなく俺だ。
「誰だ?いや、何だ。おまえは?」
「知っているくせに。おまえは、すでに知っているくせに、何でそんなことを聞くんだ。おまえ、大丈夫か?」
「・・・俺か?」
「おしいね」
「おしい?」
「そう、惜しい」
俺は・・・いや、男は目を輝かせながら言った。
「私は鬼だ。おまえの言う、な」
鬼?あの鬼か?あのとき話しかけてきた・・・
突然、相手がその姿になった。やっぱりか。
「違う違う、この鬼じゃない。私は刀の鬼だ。本当は神だが」
そう言われて思いつくのは、妖刀だけだ。
相手が、刀になる。
「そうそう、それであってるよ」
面食らってる俺におかまいなしで話を進めようとしている。
「おまえに、言っておこうと思うことと聞いておきたいことがあってな。それでおまえの夢に現れた。私は今、おまえの内側にいるからな」
刀がしゃべっているというのはなんだか笑いたくなる。奇妙で、不気味で、とんちんかんだ。逆立ちしてコマみたいに手のひらの上で回されているかのようだ。とにかく、気が狂いそう。
俺が相手を元の姿に戻すと、わかってたとでもいうように薄ら笑いを浮かべた。
「まず、言っておくことがある。さっきも考えていた、あの鬼は私ではない。別の何かだ」
「別の何かって、それじゃあ、はっきりとはわからないんだな?」
「そうだ。ただ、あいつは異質だ」
「それくらい、見たらわかる。あんな見た目の・・・」
「違う、そうじゃない。そういう話ではない」
じゃ、どういう話なんだよ。
「人は普通、いや人程度以上の知能を持つ生物は、憎しみを受け入れない。自分のものではないと拒否し、拒まれた憎しみはやがて寄り集まって一人歩きを始める。憎しみを持っているというものは大抵、何かの拍子にふらりと帰ってきた自分の分身(ダブル)を見てそれを自分と言い張っているだけのことだ。それがあいつは、喜びとか、そういう『正の感情』を一人歩きさせていた。心の底から拒んでいると言うことだ。それは容易なことではない」
憎しみ。じゃあ、俺が持っている憎しみも、持っていると思い込んでるだけ?
「そういうことだな」
どうやら心が読めるらしい。まあ、当たり前か。心の中にいるんだから。
「あのマコとか言うやつも、憎しみを持っている。そしてそれはすでに一人歩きを始めている」
そうだ、マコのことで聞きたいことがあったんだ。
「あいつは運がいいはずなのに、ここまでずっと不運だ。なぜだ?」
「いや、運がいいよ。あいつは運がいい」
「なんで?あんな目に遭っているのに」
「あんな目に遭っているからだよ」
どういうことだ。将来のためだとか言うのか?
「いや、違うね。よく考えてごらん」
「なにを?」
「あいつは勇者という誉れ高い家系に生まれた。故に苦悩を持った。あいつは大蛇に愛された。故に傷つけられた。あいつはおまえに出会った。故に外の世界に引きずり出された。あいつは必要とされた。故に差別された。ほらね、幸運と不運は黒と白、似たもの同士、オセロの裏表。でも、本人からしたら将棋の裏表だ。裏の方が圧倒的に強い。そして他人から見たら王だ。存在が大きく、裏がない」
「俺はそうは思っていない」
「そうだね、思ってない。でも同時に思っているはずだね」
どういうことだ?
「言っただろう、オセロの裏表だと。『自分よりはましな不幸じゃないか、そんなに嘆くなよ』と思っているはずだ」
俺は言い返せなかった。そう思っていないという確信が持てなかったのだ。
「じゃあ、次は質問させてくれ。おまえは、おまえの『ヤミ』はどこにある?」
は?何を言っているんだ?
「外側からは見えない、内側からも触れない。なら、どこにあるんだ。持っていないはずがないだろう?」
闇か。俺の、闇。あの日、膨れ上がり、そしてあの日には渦を巻き、あの日には爆発した。俺の心とともに。
「お前が言っていたじゃないか、憎しみは一人歩きすると。どんなに自分のものに見えても、鏡像に過ぎないと。俺の中にいるから、お前もわからなくなっているんじゃないか?」
「そうか、なるほどね」
やけにあっさり納得した。それなら、こちらからの質問だ。
「どうしてお前は、俺の姿をしている?」
「わからないかい?さっきお前の想像通りになったじゃないか。つまり・・・おや、どうやらここまでだ。またいつか気が向いたら現れるよ。私はお前の中にいる。いつでも何でも手を貸すぞ」
どんどん離れていく鬼。ちょっと待てよ!あれ?声が出ない。おい、待てって!
「おーきーろー!おーきーろー!おーきーろったらおーきーろー!」
「待てって!」
「いや、待たん!ダイビングプレス!」
腰の痛みで目が覚めた。ここはギルドの寮だ、間違いない。そしてこの声はフウマだ。
「いってえな。何だよ?」
「出かけるぞ、着替えろ!」
「は?」
「買い出しだ、ついてこい」
その日は、雪が降っていた。向こうは夏が終わるか終わらないかという時期なのにな。
通りは活気がありで賑わっていた。いくつかの買い物を済ませ、帰路につく。
「お前、よくそんな持てるな」
「コツがあんだよ、コツが」
「そういや、二人になったの初めてだな」
「お前・・・」
フウマがこちらを見る。
「告白か?」
「何でだよ」
すると、黒い影が通り過ぎた。
「何だ、今の?」
俺は腰に手を当てた。うん、ないね。
「スリだ。うまい具合にかかってくれた」
向こうの方でぎゃっと短い悲鳴が上がった。
そちらに行ってみると、網が絡まった状態で少年がピチピチはねていた。打ち上げられた魚みたい。
「さてと、少年よ、残念だったな。俺は財布を持ってないんだよ。遠くにあっても、取り出せるからな」
「・・・」
突然動きをピタリとやめ、こちらをものすごい形相でにらんでいる。
「顔に泥がついてるな、これじゃ誰かわからん」
そう言うとフウマは進み出て、ハンカチで顔を拭こうとした。
「おい、やめろ。汚らしい汚れた手で触るんじゃない」
「お前の顔の方がよっぽど汚らしくて汚れてるよ」
顔をかなり強めにゴシゴシとこする。うわあ、痛そう。
何か言おうとしていたが息ができなくて言えなかったという状況から解放されると、少年は再び悪態をついた。
「くそったれ。顔なんざどうでもいいんだよ、そんなことするぐらいならこの網をほどきやがれ」
「そいつは無理だね。盗人はタイホされるって、母ちゃんに習わなかったか?」
「あいにく、俺は捨て子でな。ろくな教養をされずに、性格が曲がったから、捨てられたんだ」
「へえ、それはそうと、歩けるかい?」
フウマはもはや聞いていなかった。
「歩けるわけがないだろう、こんな縛られた状況で」
「はいはい、そいつはよかったね」
フウマは樽のように担いでギルドまで運んでいった。
「おい!下ろせ!下ろせよ歩くから!」
「おや、歩けないんじゃないのか?」
「いちいち『盗人』の言うことを真に受けやがって。それでも『善人』か?」
何か思うことがあったのだろう、フウマはぐんとスピードを上げて走り出した。
「おや、客人かね珍しい」
マスターは新聞を読んでいた顔を上げた。
「しかも、文字どおり『訪ね』てるみたいじゃな」
マスターは少年の顔をまじまじと見た。
「権力者サマのお出ましか」
縄がぐいと伸びた。次の瞬間、網ははじけ飛び、少年の全貌が明らかになった。
右手を左目に当てると、左目が金色に輝きだし、右手は化け物のようになって、金髪の中にほんの少し緑の髪が混じった。
「お前さん、ヘンゼルか」
「悪いか」
耳を疑った。こいつが『牙の主』になるために必要だと言うことか?
「全・員!はじけ飛べ!」
ヘンゼルが刀を取り出して構えた。
クロノの方に向かっていく。
クロノはカードの塊を取り出し、素早くシャッフルして一番上のカードをピッと引いた。
くるりと絵柄をこちらに向ける。
「守り札(もりふだ)はダイヤのA」
バリヤが現れ、ヘンゼルを弾き飛ばした。
「切り札はスペードのA」
同じようにしてカードを引き、今度は投げた。回転カッターとなってヘンゼルに襲いかかる。
たちまちのうち、またヘンゼルは捕まった。
「ヘンゼル、捕まえた♪」
ヘンゼルははっとした。
(ヘンゼル、つ~かま~えたっ!)
「・・・」
「お前さん、魔物じゃが、元は人じゃろう。誰の仕業じゃ」
くいくいと手招きをした。
耳を向けると、突然かみついてきた。
「いってえ!」
「ハハハ!」
「誰の仕業じゃ」
問い詰められ、観念したのか渋々答えた。
「・・・大魔王オウノの部下、アベルとか名乗っていた」
「何じゃと」
どうかしたのか?
「そいつ、誰なんだ?」
「オウノは神と戦争を起こし、たった一人で天界を壊滅させ、世界樹の井戸を奪っていった最強の魔王じゃ。そしてアベルは、恐ろしいほど頭のよい謀略家じゃ」
ということは、もしかしたら、帰れるかもしれない。その思いが俺を突き動かした。
「おい、お前。さっきのは無しにしよう。お前の望みを一つ手伝ってやる、代わりにそれが終わるまで俺の仲間になれ」
「どうせ無理だけどね」
「言ってみろよ」
「グレーテルを見つけること。そして人に戻ること」
「何だ、人捜しと調べ物だけじゃないか」
このとき俺は知らなかった。あいつのことも、あの戦いも、そしてあの結末も。
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)なお、仮面ライダーmathも併せてお願いします。
次回予告
動き出す計画と、古の魔物。俺の願いは・・・
次回魔っちょ、「始動!ZADNA(ザドゥーナ)計画」お楽しみに!