「いつも通り」
そんな言葉ではぐらかす。自分の好意を受け取ってはくれない。あたしは蘭しか見てないのに、蘭はあたしを見てくれない。蘭が求めてくれないと、あたしは生きられないのに。
「あたしの身体はあんただけのじゃない」
あたしの身体は、蘭のものなのに。
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PM16:40
ある日の夕暮れ、恋人の背を見つけ駆け寄る。
「ら〜ん〜」
「……なに?バイトなんじゃないの?」
好きな人が自分の生活を、それも細かく知ってくれることに嬉しさを感じる。
「リサさんに代わってもらったんだ〜。ほら、今日は記念日だし」
記念日。あたしと蘭が付き合い始めて半年の。
蘭は「よく覚えてるね」と面食らっていた。忘れるはずもない、嫌われることを覚悟して告白したあの日。
「あたしが蘭ちゃんとの事なら忘れませ〜ん」
「︎モカらしいけど、忘れるべきことは忘れてよ」
「約束はできませぬなぁ〜」
小馬鹿にするように蘭が笑う。
「蘭ちゃんが一人で帰ることになると寂しいだろうし、このモカちゃんが一緒に帰ってしんぜよぉ〜」
今日はみんなが協力してくれて、二人で帰れるように取り計らってくれた。これで帰り道は……。
「ごめん、これから友達と遊びに行く約束してたんだ」
……えっ?
蘭のことだし、忘れることは想定内だった。でも、だからって、あたしに何も言わずに約束を立ててた事に衝撃を受ける。
「そ、そっか……一人で帰ってるね」
「ごめん、ホントにごめん……」
「いや、う〜ん……そぉですか〜、蘭ちゃんてば、こんな美少女と付き合ってるのに他の子を優先するんだ……よよよ……」
嫌だ、嫌だ、蘭に拒否された。蘭の一番を取られた。
「そんなんじゃないって……!でも、帰りは遅くなるから……」
「蘭ってば、断れなかったんでしょ〜。モカちゃんはおうちに帰ってま〜す」
……頭が痛い。指先や膝が震えて、嫌な汗をかく。それでもあたしは、蘭の恋人として笑顔で送り出す。
また明日、そんな言葉で別方向へと歩を進める。
PM17:30
カチャン、バタン。
「ただいま〜」
いつものように発した言葉は虚しく響き、消えていく。
「今日は一段と疲れましたなぁ」
誰に向けて言うでもなく、いつも通りただ一日を振り返る。
「それにしても、蘭ちゃんも夜遊びするようになってしまって……あたしは嬉しくもあれば悲しくもありけり〜……」
いつも通り、帰りに買ってきたクロワッサンをはみながら、恋人を想う。
「……ありゃ、一つで限界とは。モカちゃんも心配性ですな〜」
いつもの食欲が嘘のように消えている。
「……おふろ」
いつもは済ませる入浴も、シャワーで済ませる。
髪を乾かし、歯みがき、電気を消す。
その夜はいつにも増して静かで、寂しさが膨れ上がる。
「ま、蘭ちゃんも遊びたがる時期ですからな〜。デキるモカちゃんは焦らないのであった」
寂しさを紛らわすため、寂しいという気持ちを押し殺して眠りにつく。
明日こそは、と恋人への想いを心に秘めて。
ご拝読ありがとうございました。
みさはぐに行き詰まったら続編的なのを書こうと思います。