SAO-Innocence Assassin 作:siron
俺達は
この世界に囚われてから既に二年。俺はナナセを、大切な幼なじみを危険に晒したくない。故に最近はなるべく人と関わらず、出来る限り家の中に引きこもっていたりする。誰かと関わるのは、止した方が良いんだ。俺も彼女も、どういう訳かユニークスキルと言うものを獲得している。俺は暗殺剣、ナナセは居合いだ。一時期はナナセ本人の希望もあって攻略組に参加していたけれど、ひとつ階層を進もうとする度に誰かが犠牲になることが俺には耐えられなかった。
ーーーー いつか、ナナセまでそうなってしまうのではないか。
そう考えたら、怖くなった。とても戦えないぐらいに。だから、逃げ出した。
このゲームを攻略することから、目を背けた。事情を汲み取ってくれたヒースクリフは幾つかの条件と引き換えに俺達を
「……んぅ……」
俺の膝を枕にしているナナセがぐずった。どうやら手が止まっていたみたいだ。
今、俺は屋敷の縁側で彼女と共に日向ぼっこの真っ最中。竹林の中に射し込む太陽は優しく、そして暖かい。まるで春の陽射しで、どこからか流れてくるそよ風は笹を揺らして小気味良い音を奏でる。すぐ側に置いた湯飲みを右手で取りつつ、左手で幼なじみの頭を撫でることを忘れない。撫でてやらないと、後で文句が飛んできたり機嫌を損ねてしまう。
…………それにしても、それにしてもだ。俺の彼女は、とても可愛い。
腰まで伸びた長い髪に、平均よりは小さい細身の体。体の凹凸はそんなになく、要するに幼児体型なのだが俺はそれが良い。童顔で大人の女性には程遠いナナセだけれど、いつかきっと綺麗な女性に成長するだろう。しかし家の中だから、そしてこの辺りに人が来ないからって男物のワイシャツ一枚で居るのはどうかと思う。普通の人程起きていられない彼女は、家の中ではパジャマで居る事が多い。俺以外に見られることはないだろうし、俺もこんな姿のナナセを誰かに見せる気は無いが、やはり色々と気になる。胸元のボタンは幾つも外れてるし、裾から延びる足が白くて綺麗で、……ドキドキする。
今日も昨日も一昨日も、先週も先々週も、一月前も、こうして縁側でナナセの枕になるのが俺の仕事だ。いつ現実に帰れるかは分からないけれど、出来ることなら毎日がこんな風に静かだと嬉しい。もう戦いはごめんだ。懲り懲りだ。だけど……。
「世の中、そう上手くは行かないんだよな……」
俺の視覚が、竹林の中の異変を感じ取った。緑ばかりの竹林の中に、青い光が浮かび上がったのだ。直後ハッキリと聞こえてくる、誰かの喋り声。
俺の
『アスナ、こっちであってる……んだよな?』
『うん、多分そうだよ。団長から貰った地図にはこっちって書いてあるし』
アスナ。その名前には聞き覚えがある。血盟騎士団に居るものなら、或いは知る者なら誰でも彼女の事を知っているだろう。
血盟騎士団、副団長【閃光】のアスナ。
レイピア一本で攻略組として最前線に立つ、言うならば化け物だ。その剣技の冴えから、閃光なんて二つ名が付くぐらいなのだから。一応、面識はある。向こうが俺やナナセを憶えているかは知らない。しかしなんだって、血盟騎士団の人間がここにやって来るんだ。嫌な予感しかしない。
竹林の奥から、いや入り口から、青い光がどんどん近付いてくる。やがて二人は、ここに辿り着くだろう。だからその前に。
「これでよし」
俺は所持アイテムから赤い毛布を取り出して、ナナセにかけた。裸ワイシャツは、人様に見せるような格好ではないからだ。まして二人の来訪者の内一人は男だ。こんな格好の彼女を見せるつもりはない。
「おっ、見えてきた。本当にこんな竹林に人が住んでるんだな」
「わーーっ、凄いねキリト君! アインクラッドにも、こんな和屋敷が有ったんだね」
「だな。誰か居るみたいだけど、あの二人がそうか? アスナ、面識は有るんだろ?」
「……うん、そうだね。おおーい、ナナセー、アシタくーん!」
距離が近付くことで俺達を認識したアスナが、大きく手を振りながら大きな声を上げた。満面の笑顔もセットだ。会いに来てくれたのは良いとして、あまり大きな声を出さないで欲しい。膝の上のナナセが起きてしまう。
「……ん〜〜〜……、んっ……」
ほら、起きたじゃないか。気持ち良さそうに寝ていたのに。
「……アスナんが、いる……」
「だな。何か会いに来たみたいだ」
「……どして?」
「さあな。相手は俺がするから、寝てても良いぞ」
「んーん。おきる。アスナんとおしゃべりしたい」
「そうか。でも辛かったら」
「だいじょぶ。いっぱいねたから」
結局、ナナセは目を覚ましてしまった。いっぱい寝たと言ってはいるけど、眠りに落ちてから一時間も経っていない。普段の彼女の様子からすると、次の瞬間には眠ってしまってもおかしくはないのだが。現に瞼が上がりきっていない。黒い瞳は、焦点があっていないように見える。
「毛布、ちゃんと羽織っとけよ。パジャマで人前に出るのは」
「アスナんはおんなのこだから、へいき」
「男も居るんだよ、その後ろに」
「………………、じゃあ、きがえる」
ちょっと悩んだ末に、毛布を羽織ったナナセは縁側から家の中に入っていく。障子がカタンと閉じられた。取り合えずこれで、あられもない姿で男の前に出てくることはないだろう。
さて、それじゃ俺は来客二人の相手をしよう。
「元気そうだな副団長」
「アシタ君もね。ナナセは?」
「着替え中。そっちの男は、キリトって言ってたな?」
「うん、紹介するね。こちら血盟騎士団、黒の剣士、二刀流のキリト君」
アスナの隣に立っているのは、全身真っ黒の剣士だ。背中に二本の片手剣が交差している。つまりそれが、彼の得物。二刀流と言っていたし本当に二本の剣を扱うのだろう。
「よろしく」
キリトと言う男が、右手を小さくあげた。俺もそれに倣って右手をあげる。挨拶は、こんなもので良いだろう。深く関わるつもりはないし、深く関わることも多分無い。攻略組の人間と仲良くする気は、少しも無いからだ。
「で、こちら元・血盟騎士団で団長の懐刀。アシタ君」
「その呼び名は止めてくれ。ヒースクリフと仲良しになったつもりはないんだ」
「でもギルドにいた頃は、よく団長と話してたし秘密裏な仕事を頼まれてたよね? 内容までは、私も知らないけど」
それはそうだろう。そうでなければ秘密裏な仕事でも何でもなくなってしまう。それに彼女の性分からして、俺がヒースクリフに頼まれていた仕事については知らない方がいい。俺も、誰にも話すつもりはない。その秘密裏な仕事は、今だって時折頼まれるのだ。高額な報酬を、条件にして。
「……。アシタだ。本当はTomorrowなんだけどアシタで良い。よろしくキリト」
「ああ、よろしく」
「それで、わざわざ隠居してる俺達に現役の攻略組が何の用だ?」
話しつつ、アイテムウィンドウを開き竹の水筒を二つ取り出す。中身はただの冷たい緑茶だ。ここいらの笹を使って作れるお茶は、どういう訳か高級玉露並みに美味しい。自分で飲むにしろ人に振る舞うにしろ、些か贅沢な代物だ。
そんなお茶の入った水筒を、俺は目の前の二人に向かって放り投げる。
「これはどうも、ご丁寧に」
「客であるなら、お茶ぐらいは出す。それで、何の用か教えてくれるか?」
「ええっと、アシタ君。気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど」
ひとつ前振りをしてから、アスナが口を開く。気を悪くしないで何て言っている時点で、ろくでもない用件であるのは確かだ。わざわざ血盟騎士団の副団長と、その付き人らしい剣士がここまで来た。ただお茶をしに来たぐらいなら、神妙な顔付きになったり、話しにくそうにしたりはしない。
だからつまり、これはそういう事だ。嫌な予感を感じ取ってる。絶対に手伝いたくない。聞きたくない。頼むからどうでも良い用件であってくれ。
「七十五層の攻略に、二人の力を貸して欲しいの」
…………、勘弁してくれ。
俺はもう、ナナセを戦わせたくないんだよ。
ちなみにアシタのイメージ曲はFLOWのINNOSENSEです。
それと最近オーディナルスケールを見ましたのでオーディナルスケールまではやると思います。