「このニオイ… ゆるさないッス! (ゆるさないサ! ) 」
「えええっ!?」
鎧を着た犬のモンスター二匹が、助けてからいきなり魔法の斧を振り下ろしてくる。一度は避けきったものの、続く斬撃に対応できず痛みが広がる。
「いったぁ…」
「イヌッサ ぶじだったッスか? 」
「(イヌッス ぶじだったのサ?) 」
「ほんとうによかったッス… (ほんとうによかったサ… ) でも ニンゲンはゆるさないッス! (ゆるさないサ! ) 」
苦痛に声をあげる私の事はいざ知らず、私を許さないという意向で一致したようだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!多分人違いだよそれ!」
「いまさら おじけづいたッス? 」
「(じひは ないサ! おまえがそうだったように。 ) 」
怒りと憎しみの籠った声で犬のモンスターたちは応える。誤解を解くのは難航しそうだ。
イヌッスというらしい犬のモンスターから、ハート型の魔法が飛んでくる。向かう先は私を通してイヌッサだろう。
避ける、避ける、大きいけどこれは青だから動かない。
かなり大きい魔法が続くが、見極めながら確実に避ける。
もしかしたら、このハート型の魔法の大きさは再び会えた喜びが表れているのかもしれない。そうだとしたら、私は傍でその感動的な再開を祝福したいところだが、どうもそれは許されないらしい。
「ここをモンスターの子供が通らなかった?多分その子が…その…色々とやってて…」
「ここを とおったのは おまえだけッス。 (ここを とおったのは ニンゲンだけサ。 ) 」
…あれ?覚えていない? それかあの子供がモンスターではなく人間? それだとどうしても矛盾が生じる。
遺跡、そして雪道に塵を敷いていったのはモンスターの子供のはずだ。どのモンスターたちも言っていた。皆口を揃えて知らないモンスターが、と…
知らないモンスター…?
今まで私が人間だと見抜いたのは、フロギットとママと雪道にいた犬のモンスターたちのみ。極々、限られている。
じゃあそれ以外のモンスターたちは私をなんだと思ったのか。
―――知らないモンスターだ。
「痛っ。」
「よそみしてるからッス。 (してるからサ。 ) 」
イヌッスとイヌッサが丁寧にダメージを負った理由を教えてくれる。それは優しさなのか、私の失敗を笑うものなのか。
「わ。」
避けようとした勢いで雪に突っ込み、思いの外足が雪に深く埋まる。そのまま抜けず、その勢いで前の雪に突っ伏してしまう。冷たい。
しかし魔法は続く。頬を変な汗が垂れる。
「いやちょっとさすがに今は――」
こんな絶好な機会を、この犬のモンスターたちが逃がす訳なく、容赦なく斧が降ってくる。
でも私だってそのままでいられる訳じゃない。足は相変わらず抜けないが、体をひねり、冷たい雪の上を這いつくばりながら避ける。目と鼻の先に斧が下りた。
手を雪の上にずっとつきながら動くため、冷たくって仕方がない。手が上手く動かせなくなってきたし、感覚が痛み以外感じられないようだ。はまっている足に斧が当たる。
体もせっかく暖まってきたのが、雪の上を転がるせいで寒さに体力を削られているのでは、と思うほどに冷たくなる。背中におもいっきり斧がぶつかる。
魔法が止む。しかし、もう体を動かしたくないほどの激痛は止まない。
「あ、あの、多分と、いうか…ぜった、いなんだけど、それ私じゃあない、よ…」
痛みを堪えて声を絞り出す。
「いいや、 おまえのニオイは キケンレベルみどりのニンゲンッス。 」
「(こんなにもニンゲンのニオイが… ) 」
説得は無理かと思った時、イヌッサの言葉が途切れる。不思議に思い、痛む体を無理やり起こす。
「(ニンゲンのニオイじゃないサ… ) 」
そんな馬鹿なとイヌッスが私の方に顔を向け、ぴくぴくと鼻の先を動かす。
「これは… こいぬのニオイッス! (こいぬちゃんのニオイサ! ) 」
「へ?」
予想外過ぎて思わず変な声が出る。
「ヘンなイヌ! 」
「(でもわるいことしちゃったのサ。 ) 」
よくわからないがイヌッスとイヌッサの顔がしゅん、となる。まるで叱りつけられた子犬のように。
これじゃあ私が悪い事をしたみたいじゃないか…
行き場がなく、宙を漂っていた手をイヌッスとイヌッサの頭の上に恐る恐るのせる。
「ナデナデ」
「イヌがイヌに なでられた! (その はっそうは なかったサ! ) 」
さっきまでの様子はどこへやら、今のイヌッスとイヌッサには警戒心の欠片もない。
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「あー寒い寒い」
最初に増して体を震わせているのは、雪の上を転がったから。でもそのお陰で、今私は生きていられているのかもしれない。
寒いのはそれだけが理由ではない。なんてったって今私はアイスバーを食べている。別に好き好んでこんなに寒い中食べてる訳じゃない。もうできれば動きたくないほどに傷が痛むから、それを治すためにだ。
このアイスバーはヒョー坊というモンスターから貰った物だ。食べる用ではなかったらしいが。まあ、こんな寒い中好き好んで冷たい物を食べるなんて事はしないか。じゃあ何用だったのかという疑問もなくはない。
それにしても、においを消す。
なんで思い付かなかったんだ?犬のモンスターたちが私を人間だって見抜いたのは、鼻が良いからだって知っていたのに。それに今思うと「ダーリン」「ハニー」と書かれていた小屋はあの犬のペアの物だったんだろう。
「やっぱパニックになっちゃうと駄目だなぁ。もっと冷静でいないと。」
そう口に出したところで調度アイスバーを食べ終えた。味はまあまあ。残った棒には、「きょうも きまってるゥ!」と書かれている。なんだこれ。
体は更に冷える事になったところだが、胸の奥はどこか暖かくなったような気がした。そう思うとケツイがみなぎった。