「うわあっ!」
歩いていると何かが爪先に突っ掛かり、そのまま前に転ぶ。しかもまた顔から雪に突っ込んだ。凄く冷たい。凄く痛い。もう…気をつけようと思ったのに…
何に突っ掛かったのかと見てみると、そこにあったのは雪に埋もれたボタン。そして、そのボタンに絡むようにして伸びた蔦。よく見ると、この蔦がボタンを押し込んでいるようだ。
「なんでこんなところに蔦が伸びるんだろう…」
こんな雪に埋もれた場所に、決して寒さに強い訳じゃなさそうな蔦が。ちょっと不自然だ。考えすぎかもしれないけど、ボタンを押し込んでいるのがどこか引っ掛かる。
―――もしかしたら、植物系のモンスターがいたりするのかもしれない。あり得ない話ではない。
この辺りはいろいろな仕掛けが多い。恐らくこのボタンもその一つ。今までに見てきた仕掛けも全部解かれていた訳だし、誰かが解いたんだろうとは思っていたけれど。
多分この仕掛けは植物系のモンスターが。他の仕掛けには蔦の欠片もなかったから、違うモンスターが解いたんだろう。
今まで、仕掛けを解いたのは例の子供だと思っていた。でもよく考えれば、この辺りに住んでいるモンスターだっている。その上で通る度に仕掛けなんて解いたりしないだろう。きっとこれらの仕掛けは随分前に解かれてそのままなんだと思う。
って考えると、あの子供は進んで行く上では何の障害もない?
そういう事ならちょっとマズい事になっているかもしれない。
ただでさえ皆を助けるのに時間がかかるというのに、説得したり、状況を教えてあげたりでかなり進むのに時間がかかっている。
あの子はそんな時間を必要としない。道で出会うモンスターたちをただ殴って進むだけ。これじゃあ いつまで経っても追いつかない。
追いついたとして、何かができるとは限らないけれど、皆がこれ以上傷つけられるのは止めなければ。
自分自身に急かされるようにして、辺りを見回しながら小走りになる。
―――引っ張られる。
―――引っ掛かる。
「…あった。」
あるのは塵の山。同じに見えても雪とは違う。もう見間違えたりしない。
「助けたい。」
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慣れたからだと思っていた。
引っ張られた方を、引っ掛かった方を見た、そこへ近づいた。
でも、気付かなかった。
引っ張られた事に。
引っ掛かった事に。
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目の前に現れたのは所々凍っている開けた空間。そしてその周りは、木々に囲まれていて見えにくいが崖になっている。つまり、氷で滑って思うように進めない。下手すると――
「ここは後回しにしよーっと…」
右側に緩い斜面の坂道がある。そっちに行く事にした。
滑らないように注意深く下るとスケルトンのような雪像が見えた。誰が作ったんだろうか。スケルトンなのに筋肉がついている。
「自分で自分を作ってたりして…あ。」
そんな事を想像していると、その像の横に雪の塊がある事に気がついた。本当にただの雪の塊だ。ただ、他の雪の塊と違って赤い塗料で字が書いてある。
―――サンズ―――
―――そとに サンズっていうスケルトンのモンスターがいるの。 かれはきっと 助けてくれるはずよ。
「サンズ…そうだサンズだ!」
ママが言っていたモンスター。もしかしたらそう遠くにはいないかもしれない。
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危険だと思われる崖に囲まれて所々凍った広場は、取り敢えず進むのではなく、よく進む道筋を考えてから進めば崖に落ちるなんて事はなかった。
迷路というか、パズルみたいでちょっと楽しんでしまった。
そこを抜けるとあったのは、いくつもの雪の塊と小さな犬小屋。その一番奥で『助けた』のが―――
「ワンワン!」
「また犬か…」
犬とは今のところあまりいい思い出がない。殺されそうになったり、ナデナデしたり。殺されそうになったり、ナデナデしたり。ナデナデしたり、よくわからない事になったり。
今までも散々な目に遭ったが、今回も悪い予感しかしない。いや今回は特に。
目はきらきらと輝き、舌を出しながら息を弾ませ、犬らしさが出ている頭とは別に、体は鎧を全身に纏い、大きな槍を構えている。
きっとこの犬は、槍を振り回したり、その鎧を着たまま突進したりするのは遊びだと思っているのだろう。もうそんなの雰囲気からして分かる。
もう傷を癒すような食べ物はないし、できれば穏便に済ませたいところ。
「ちょっとね、私急がなきゃいけないの。だからね、今ちょっと遊べないかなぁってぇえええ!ちょっと!ストップストップ!」
私の話なんて聞いてちゃいない。犬は問答無用で突進してこようとする。
「ちょっと待って!痛いから!そこまで私タフじゃないか――」
「ワンワン!」
加減を知らないこの犬に私の悲痛な叫びは届かず、全力で突っ込んでくる。
「うぐっ」
咄嗟にフライパンでガードをするが、威力を殺し切れない。カンと高い音を立て、腹部に沈む。
痛い。本当に痛い。死ぬんじゃないかと思った。これで死ななかった私はだいぶタフだ。意外と凄いじゃないか、私。
私が自分を褒め称えて、なんとか意識を保とうとしている中、犬はこっちに顔を向け、褒めて褒めてと言わんばかりに体を擦り寄せる。
体が柔らかく温かい毛なら少し癒されただろうが、生憎とその毛は隠れ、代わりに冷たく硬い鎧がガガガと擦り寄せられる始末。
「わ、わわわかったわかったか、ら… はいナデナデ。」
犬は満足げだ。
そんな意識が遠ざかりそうな中、犬に舐められながらケツイがみなぎった。