痛い。痛い。痛い。
片足を引きずり、寒さに震え、痛みに耐え、重い頭をなんとか持ち上げながら雪道を歩く。
目がちかちかして、真っ白な雪が点滅してるようだ。
こんな満身創痍としか言い様がないような状態でいるのは、モンスターたちの魔法によって傷をたくさん負ったからだ。主に犬。
そして、かなり歳を取っているであろう鹿のようなモンスターに会い、何故か「近頃の若者は!」と叱られた。そしてよくわからないが怒りの籠った魔法を喰らい、更にはそのモンスターの角に何故か飾られてた有刺鉄線を取ってあげた時に、指をかなり怪我した。それがとても痛い。
もう飴はないし、アイスバーもない。あの野菜のモンスターもいない。つまり傷を癒す物がない。
だからこの状態のままでもこの先に何か食べ物があると信じて進むしかないのだ。
白くない道が見えてきた。雪が積もっていない?全身の痛みと寒さでそれを確認するのも億劫だ。
吊り橋?
もし私がこんな状態じゃなかったら、落ちないかとか、風が強そうだとか考えただろう。でもそんな余裕はない。
道は他にはないのだから、何も考えずに橋に足を踏み入れる。
遮蔽物が何もないからか、風が橋の上は特に強く、容赦なくとびきり冷たい風が顔に、足に、体に吹きつける。
それに橋が意外に長い。自分の歩くスピードが遅いのもあるが、ずっと続くように思えた。
そんな橋も凍えながらも渡りきり、見えてきたのは―――
「町…」
―――ようこそ スノーフルのまちへ!―――
雪の積もった町に似合った可愛らしい看板が歓迎してくれるが、町は誰もいないようで何も聞こえてこない。
町に入り、一番手前にある建物の前まで歩く。
―――SHOP―――
店のようだ。ここなら誰もいなくても何か置いているかもしれない。
その読みは当たり、いくつか食べ物が置いてあった。
ウサギの形をしたパンを手に取り、行儀が悪いけれど店の中ですぐに齧りつく。――シナモン味だ。そして体の傷が癒えていく。
やっとひと息つける。そこで店内を見回す。勿論誰もいない。でも誰かがいたんだろうと思うぐらいには、温かさがほんの少しだけ残っていた。やっぱり、皆が逃げてからもあまり時間が経っていないのかもしれない。
他に目につくのは―――
「この紋章。」
店の奥の壁に貼ってある紙。そこに描かれた紋章が目に留まった。天使のような羽が生えた円とその下には三つの三角形。
「どこかで見たような…」
思い出せそうで、思い出せない。
「取り敢えず…お金は置いておかないとね。」
レジの横に置いてある紙を確認する。多分…シナモンキーという商品名のやつだろう。なら25Gだ。お金をレジの中に入れようとする、が その手が止まる。
「ん…?」
レジは無造作に開き、中には少しもお金が残っていない。逃げる時に急いでかき集めたのかもしれない。そう思った時に気がついた。机の上の紙に。
―――かぞくに らんぼうしないで―――
今までは、実際に手に掛けられたモンスターばかりを見てきた。あの子供から逃げる、モンスターたちの死を知ったモンスターたちは見ていない。
もしかしたら、彼らの方が恐怖を感じているのかもしれない。昨日まで普通に駄弁っていた友達が、急にもう会えなくなる。得体の知れない、殺人鬼によって。
=======
トントン、と扉を叩く。
「あのー!誰かいませんかー!」
出来るだけ大きな声で呼び掛ける。
「――――――」
「ここもいないか…」
返ってきたのは静寂のみ。それも何回目だか。今まで町の店や家々を回っては声を掛ける事を続けてきた訳だが、一度だって声が返ってきた事はなかった。
でもそれはいい事かもしれない。皆上手く逃げたって事だし。塵も…一度もこの町では見かけていない。
「次はこの建物だけど…としょ、んか?」
「としょかん」と書きたかったのだろうか。「としょんか」と大きく書かれた看板の付いた建物の前まで来る。
ドアノブに手を掛ける。――冷たい。それを我慢して思い切って回す。すっと軽くドアが開く。
「図書館も開いてるんだ。本とか大丈夫なのかな?」
中に入るとすぐに、本特有の深く、落ち着く匂いが鼻をつく。本は全く読まないが、この匂いは結構好きだ。
部屋の中は外と比べてとても暖かい。周りを見渡す。部屋はここだけのようで、ドアも私が入ってきたドア以外ないようだ。本の数はそれほど多くはないが、このぐらいの数の本を見たのは随分と久しぶりだ。部屋の真ん中には丸いテーブルが置いてある。いつもは誰かがこのテーブルを使っていたのだろうか。
一番近くの本棚に寄り、題名をさらっと見る。図書館なんて行かないので、本の探し方はわからないし、役立つような本があるかもわからない。でも、取り敢えずは探してみる。
「えっと…ここらへんは娯楽だからここには無さそうかな。」
――――――。
―――ん?
娯楽…娯楽というのは本のジャンルの一つなのか。
「ちょっと…なんで私は自分の言った事に納得してるの?」
まあ納得してる事に関しては普通か。誰でも新しい知識を得られればそうなるだろう。でも――
「新しい知識なら、どうしてそれを知っている筈がない自分が言ったのか。」
そうそれだ。おかしい。どういう事だ?
「…頭が痛い。…ん?」
ふと目に留まったのは「レポート」と雑な字で書かれた一つのファイル。どう考えてもこの位置に置いてあるのはおかしい。興味本位で手に取り、開いてみる。
―――モンスターは としをとって ポックリいくと ちりになる。―――
そんな文章が目にはいる。
「やっぱりそうだったんだ。モンスターは死んじゃうと塵になる。」
わかっていた事だったけれど、こう、確定した事実として突き付けられるのは結構こころがやられる。
本当にこんな事をして何がしたいのだろうか。しかしながら他人と大きく逸れた事する人は、それがなんであっても、他人には理解できない事が多い。考えても答えは出ないだろう。
そう思う事にして、一旦あの子供に関しては考えない事にする。それと共に、図書館の外へ向かう。あまりゆっくりはできないから。
再び冷たい空気に曝されながら、ケツイがみなぎった。