「つまり、 きさまはニンゲンであるが あのニンゲンではないと… うーん、 なんだかコンランしてきたぞ。 」
私をあの子供と思っていたらしいこのスケルトン―――パピルスは、やっと事を理解してくれたようだが、頭を抱えながら言う。
「そうそう。フライパンとか持ってなかったでしょう?エプロンもしてなかっただろうし。」
そんなに似ているんだろうか、あの子と。そうなると色々と面倒な事になる。勘違いで私が捕まえられたり、下手したら殺されそうになったり… いやもうどちらも経験済なのだが。
「そういえば、 アイツはグローブとバンダナをつけていたな。 じゃあちがうなッ! でも すごくにているぞ きさまら! 」
「ど、どういうところが?」
あまり、というか全然好きではない、むしろ大嫌いだと言える人と凄く似ていると言われ、思わずどもってしまう。
「ふたりとも はだがあるし、 かみもある。 やかましくもないし、 ふかふかもしていない! 」
パピルスが胸を張って、誇らしげに言う。まるで、自分ではなかったら気づかない物かのように。パピルスはスケルトンか犬ではなかったら、全部同じに見えるのだろうか。
「しかし ニンゲンにはちがいないのだな。 だったら はなしは はやいぞッ! オレさまは きさまを みやこまでつれていく! 」
パピルスが元気よくそう言うが、そうなってしまうと困る。その都にもいづれは行くだろうが、まずはあのニンゲンの子供が通ったであろう道を辿って皆を『助ける』のが先だ。真っ直ぐ都へは行けない。
「パピルスも色々とあるんだろうけど、私にもやらなくちゃいけない事があるの。都にもその用事で行くから、後で行くっていうのは駄目?」
パピルスならなんとか交渉できるはず。そう思って頼んでみる。
「ホントに みやこには いくんだな? 」
「うん。行くよ、絶対に。約束してもいい。」
パピルスの疑わしいと言いたげな顔を真っ直ぐ見て言う。縁起が悪いが死んでしまう、という事がない限りは絶対だ。
「わかった。 かならず みやこにはオレさまがつれていく。 そして、 かならず オレさまはロイヤルガードに はいるからなッ! 」
「う、うん。」
何故か昇進する宣言をされたが、パピルスが嬉しそうだからいいか。
こういった面を見ると、スケルトンであるのに筋肉をつけた、あの雪像はやっぱりパピルスだったんだなと思えてくる。そう言えば、あの雪像の隣に…
「…あ。」
「どうかしたのか、 ニンゲン。 」
私よりも身長の高いパピルスが、声を漏らした私を覗き込むようにして見る。
「パピルス、サンズって知ってる?」
パピルスがスケルトンである時点で気付くべきだった。あの雪像がパピルスであり、隣にあった雪の塊に書かれたサンズという文字―――
「ああ、 しっているぞ。 オレさまのきょうだいのスケルトンだ。 」
「兄弟… その、サンズって今何処にいるか知ってる?」
「いやしらないな。 だが あのなまけもののことだ。 グリルビーズにでもいって サボっているだろう。 」
グリルビーズには誰も居なかった、と答えると、パピルスは首を傾げ、おかしいなと言った。
私はそれよりも心配だった。サンズの安否が。もうとっくに逃げただろうか。ママの友達であり、パピルスの兄弟。何よりこのスケルトンが悲しむ所を見たくないのだった。
どうしてだろうか。
パピルスは良い奴だ。ついさっき会ったばかりだが、それはわかる。だからかな?
「グリルビーズは いつもあいてるし、 いつもだれかしらは いるはずなんだがな。 」
UFOでも見たかのような驚いた顔をしているパピルスに、ここまで何度も言ってきた言葉を投げかける。
「パピルス、なるべく早くどこか隠れられる場所に行った方がいいよ。このままここに居るのは危険だよ。」
「きさまとは べつのニンゲンがか? 」
私は黙ってそれに頷く。
「きさまは どうする気だ? 」
「私は…やらなきゃいけない事があるから…」
「いくのか? 」
パピルスが強く、厳しい調子の声で私に問う。
「危険なのはわかってる。けど行くよ。」
私を心から心配するママを、無理矢理振り切ってここまで来たんだ。今更どうやったってここは譲れない。
「わかっているぞ。 」
パピルスが静かに応える。すぐに理解はして貰えないだろうと思っていたものだったから、少し意外だった。
しかし、話がはやい分には良い、と感心しているのも一瞬だった。次のパピルスの言葉で。
「わかっている。 そういって、 オレさまから にげようとしているんだろうッ! 」
予想外の応えに驚いて、何も言えないでいると、パピルスは勝ち誇ったような顔でこちらを見た。
「そのカオはズボシだな? オレさまわかっちゃうもんねッ! 」
どうやら彼は完全に勘違いしているようだ。私がそれに異議を唱えようと口を開く前にパピルスが言う。
「ようじには、 オレさまがついてつこう。そうすれば にげられないからな! 」
「いやでも…」
名案だとばかりにどや顔で提案してきた事だが、パピルスにはあの子に会って欲しくないし、危険にさらしたくない。
何かその案を上手く却下する良い方法はないかと考えていると、ある事に気付いた。
「ねえ、パピルス。魔法が使えなくなってたりしない?」
パピルスは一瞬不思議そうな顔をしたが、大きく振りかぶって腕を上に素早く突き出した。その瞬間―――
「わぁっ!」
ばきばきっという音と共に、私の周りを囲むようにして、背丈の揃わない十本弱の骨が木製の床を突き破ってきた。
パピルスはというと、今日一番のどや顔で腕を組んでいる。
「どうだ? オレさまのすばらしいまほうは! もんだいなく つかえているぞ。 」
「そ、そっか… 良かった。魔法も凄いと思うよ。」
魔法は本当に凄いと思った。実際、魔法が出てくる速さは今まで見てきた中で一番速いし、木製とは言え、床を突き破るほどの威力だ。
床を見ると、そこにあったはずの骨はいつの間にか消え、穴が開いた床とその周りの木片だけになっていた。
パピルスは褒められたのが余程嬉しかったのか、ホント?と目を輝かせている。どう考えても今後取っ捕まえる相手にとる態度ではない。
ともあれ困った。魔法が使えないなら危ないよ。隠れてて、というママに対して使った口実が使えない。何か良い口実は、と考えているうちにパピルスが一際大きな声で言う。
「さあ、 ニンゲン! さっさと そのようじとやらをおわらせ、 みやこへといくんだ! このいだいなるパピルスさまが まもってやるぞッ! 」
「守る…?」
「ああ、 そうだ。 オレさまはしっているぞッ! ニンゲンはまほうがつかえないだけでなく、 ダメダメなパズルのときかたすら しらないとな! つまり、 ニンゲンはジブンじしんのことを まもれない! だから オレさまが まもるんだ。 」
私は何も言えず、ぽかんと口を開けていた。そんな事を、言われるとは思わなかった。
「さあいくぞッ! 」
パピルスはドアに手をかけ、もう外に出ようとしていた。どうやらパピルスを止めるのは、私には難しかったらしい。
「わかったよ。…本当に危険な時は逃げるんだからね?」
「そうだな! 」
いつもの大きな声で応えが返ってくる。
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小屋の外に出ると、私がいたのは大きな一軒家の横の倉庫のような場所だった事がわかった。
パピルスが私が小屋の中の格子を通り抜けられた事に驚いているのを他所に、私は考え事をしていた。
私はパピルスの一言で納得させられてしまったわけだが、意地でも彼を止めるべきだっただろうか。パピルスは一度……
でも、パピルスの言葉で気がついた。私は人間。パピルスたちモンスターのように魔法は使えない。自分自身を守る力は限られている。
そんな私はすぐに死んでしまう確率が高いだろう。私が死んでしまったらどうする?今も倒れていくモンスターたちは?私を心配してくれるママや今までできた友達との約束は?
薄々、そんなことは思っていたが、結果、パピルスに頼ってしまった。
優しく手を差しのべたママを振り切り、今まで一人でやってきた。でも、ここまで前に引っ張られて、断れなくなってしまった。
一度は取らなかった手を取る。なんて身勝手なんだろう。
そう思ったらケツイがみなぎった。