ここは一際暗い、廊下のような所であり、人間とモンスターの歴史が記された数枚のパネルが、美術館の壁に展示された絵のように連なっている。
とても暗くて足元の安全を確認するのもままならないが、パネルの文字だけはぼんやりと青白く光っており、暗闇に目が馴れない私でも、少し文字がかすれているが何が書かれているか分かった。
――「ニンゲンとモンスターの戦争史」――
――ニンゲンはなぜ モンスターを襲ったのか? 彼らには脅威など存在しないかに思われた。
人間とモンスターとの戦争… 薄っすらと聞いた事がある。昔、その戦争で人間が勝利した、と。はっきりとした事は知らなかったが、このパネルを読んだ事で、少なくとも戦争が勃発した原因は分かった。
人間はモンスターに対して強大な力を持つにも関わらず、それを上回る力を持つ可能性があるモンスターを恐れたから、だ。
一番端のパネルには、その圧倒的な力を持つとされるモンスターの絵が描かれている。
「モンスター達がそんな事する訳ないのにね。」
顎に手をあてて、顔をしかめながらパネルを見るパピルスの方に目を向けて、思わずそうこぼす。
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チーズ。そう、あの食べられる乳製品のチーズ…のはず。しかしこのチーズは、私が知っているチーズと決定的に違う部分がある。今、私が通っている道の端にあるチーズは、クリスタルのような物に覆われ、光っているのだ。この洞窟内の壁や天井には、きらきらと星のように光る、小さな宝石のような物が散りばめられている。その宝石の光を受け、あるいは自発的か、光っているのだ。
それはもう、神秘的でとても綺麗だとは思うのだが、なんてったって……チーズだ。
「パピルス、さっきのチーズって…何?」
歩きながら、後ろの方に遠ざかっていく、あやしげに光るチーズを指差してパピルスに問う。
「なにって… チーズだぞ? 」
パピルスは、何当たり前の事を訊いているんだと言わんばかりに息をつく。
「いや、チーズなのは知ってるよ。どうしてあのチーズが光ってるのかなって。」
「それは、 ながいじかん おきっぱなしに したからだぞ? 」
パピルスはひそめていた眉をもっと曲げる。無知を嘲笑うような物ではなく、むしろ心配しているような顔だ。そっちの方が、なんだか申し訳なくなる。
「私が知ってるチーズは、ああはならないかな…」
きっとここら辺にある食べ物は、普通と少し違うのだろう。道中、いくつか食べたが、呑み込んだ瞬間に傷が癒えた。私が知っている食べ物は、体の中を巡り、栄養となって、そしてまた時間をかけなければ傷は治せない。ここの食べ物に、傷を一瞬で治せる力があるくらいなら、チーズが腐る代わりに結晶化するぐらい、おかしくはないのかもしれない。
「それで、 どういうチーズなんだ? 」
「私の知ってるチーズは腐るんだよ。」
「くさる…? 」
パピルスが首をかしげて言う。まるでその言葉を今初めて聞いたかのように。どうもここの食べ物は腐らないらしい。
「腐るっていうのは食べ物が食べられなくなる事だよ。」
「じゃあ、 おなじじゃないか。 いくら カルシウムをとって、 ジョウブな ハにはなっても、 クリスタルは たべられないからな。 」
「まあ、そうなんだけど… そうじゃなく―――」
パピルスがまた少しズレた事を言っているので、正しい事を教えてあげようと思って言葉を発した。が、その後の言葉は呑み込まれてしまった。目の前に広がる、その光景に。
さっきまでの狭く、薄暗かった洞窟とは打って変わって、空間は大きく開け、綺麗な青系の光が洞窟内に満ち溢れていた。
水なのだろうか。この空間一面と言っていい程に、あちらこちらにある池がこの綺麗な光の光源のようだ。池からの透き通るような水色の光が池の表面の動きに合わせて揺れ、その光を受けた周りの壁と天井にある宝石達がまた、今までと違った輝き方をして、この空間を色付けている。
ほっと思わずため息が出た。
ずっと昔、今みたいに、神秘的な景色に感動した事があった気がする。なんだか懐かしい。ちょうどこんな感じに青くて、落ち着くような、静かな場所だった気がする。
その時だった。
「ん…?」
どこかで何かが光った。
光った所は実際に見えてはいないのだが、見えた。いや、聞こえた?ではないか。じゃあ感じた?変な感覚だ。今まで感じた事のない… でも、あの光は知っている。私が何度も見た、あの眩しい光。
「ねえ、パピルス。今のひか―――」
私がパピルスに投げかけた問いは、その途中で途切れてしまった。それはパピルスが遮ったからでなければ、私が何かに心を奪われた訳でもなく、また私の意思とは関係ない。
声がないのだ。
どんなに大きい声を発しようとしても聞こえない。というより声が出ない。
―――それどころか何も聞こえない。何も見えない。何も感じない。
似たような事が前にもあったが、あれは感覚が薄れていただけで、今のように完全に消えてはいない。今は感覚が存在していないのだ。
―――いや、私には今、体がない。
声を出すにも、瞼を開けるにも、手を動かすにも。体がないから何もできない。
言うなれば、私のタマシイが浮いている状態だ。
ここはどこなのだろうか。どうしてこんな事になったのだろうか。これからどうなるのだろうか。
疑問は尽きないが、妙に自分が冷静でいられるのが不思議だ。まるでこの状況を知っているような…
そうしている内に時間が流れていく。
とても長い時間が。
時間が、
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて。
流れて…
―――どこかで何かが光った。
あの時と同じ、不思議な感覚。見えないはずなのに、光ったとわかる。
そして次の瞬間には――
私はウォーターフェルにいた。
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ケツイ。