よく変わる表情と、とても大きいたまねぎのような頭、長い手。彼はオニオンさんという名前らしい。何か起きていると感じた彼は、ずっと水の中に隠れていたようだ。
「じゃ まったね〜! また あそびにきてほしいお! 」
「うん、元気でね。」
大きな手を振って見送ってくれるオニオンさんに手を振り返し、大きな池を抜ける。
因みにオニオンさんに会ったのはこれが初めてではない。ループした時に何度も会ってこうして話をした。パピルスといた時も、私一人だった時も、私が体調が悪くて青い顔をしていても、毎回同じように独特な口調で声をかけてきた。きっと自由人なんだろう。
何度目かのオニオンさんとの別れ。私は今、その中で一番決意を固めていると思う。
「辛抱強く…気持ちで負けないようにしなきゃ。」
あのモンスターに教わった事を自分に繰り返す。彼は全て教えてくれなかったようで、実は全部答えを教えてくれたのだと思う。”辛抱強くなる”事が、ループから抜け出す鍵となる。彼との会話を思い出しながら、多分そういう事を言っていたのではないかと考えた。
「……。」
前に見えてきたのは塵の塊。これも目にするのも初めてじゃない。またここにたどり着いた時は、自分のした事が無駄になった気がして、気が滅入っていったが、今はそうじゃない。
――――――何かが動く。自分のものである何かと、自分のものでない何かが。
それらが温もりを持ち、感情が溢れる。
自分に慣れ親しんだものがある。
知らないものがある。
悪を許せない気持ちがある。
意志を貫き通す精神がある。
辛抱強く耐える心がある。
何かが光って―――
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光が消えた後、ここにはあるモンスターが現れる。シャイレーン。それが彼女の名前だ。ヒレの着いた頭に、ウロコのある足。そして今回も今までと同じように、どこか悲しげな表情だ。
「こんにちは!」
取り敢えず明るく挨拶をしてみる。
「シ レ シ レ シ ミ シ ミ」
不安になるような音でシャイレーンが歌い始める。
「らららら ら〜ら~ら」
シャイレーンが合わせやすいように、適当に思いついた歌を歌ってみる。
私は知っている。彼女の歌声で不安をおぼえるのは、彼女自身が自分の歌に不安を感じているからだ。だから、私がふと歌ってみた時、それに合わせるようにちょっと楽しそうに歌ってくれた時があったのだ。
決して、私の歌上手くはない…というか、結構音痴よりだ。でも、いくつ前のループだったか、一緒に歌えた時がとっても嬉しかった。だから、ついまた歌ってしまった。…下手だけど。
「シ ミ レ ミ シ ミ」
「ららら ら~ら~ら」
シャイレーンはとても心地良さそうに歌っていてやって良かったと思う一方、ある事に気づいた。
――私ってこんなに上手く歌えたっけ…?
人間とは成長するものだ。モンスターも同じだとは思うが、前回より、前々回より、と何に関しても上手くなる。だが、それにしては前回より上手くなりすぎだし、自分からみても「上手くなった」というより、「別人になった」と言った方がいいような変化だ。
「シ ファ シ ファ ソ ファ ソ ミ レ レ」
「らららら ら~ら~ら」
それに加えてもう一つ、この曲をどこかで聞いた事がある気がするのだ。それはもちろん、私が歌っている曲なのだから、私が知っていて当然なのだが… 聞いた事がある程度で、歌える程知らない、でも実際は今歌っている状況で、もの凄く変な感覚だ。
――なんだっけ、この曲。
その時―――
―――光った。何度も経験したものだから、すぐにあの光だと分かった。光は間もなく見えなくなり、もう何もない事が分かる。音も温度も私の体さえも。
この光がループの引き金となっている。それだけは分かっていた。でもどうしようもなかったのだ。何をやっても無駄だった。
でも、このまま無駄だからって、ここで倒れる訳にはいかない。ここからが勝負どころだ。私の決意と、忍耐が試される。
いつもの感覚。時間の感覚がない、いや、ここには時間が流れていないのかもしれないが、それでもずっと待ち続ける。
ずっと、ずっとずっと。
時間が流れて。
一秒なのか、一時間なのか、数日なのかはわからないが、時間が経って、また眩しい光が目に入る。
大丈夫。また戻ったとしても、辛抱強く、またやり直そう。
光が見えなくなって――――
「え……ここって…」
まず最初に目に入ったのは見慣れた顔、シャイレーンだ。私の表情が変だったのか、コテンと首をかしげて、不思議そうにこちらを見ている。
周りを見渡すと、光が見える前にいた場所、つまりオニオンさんと別れた後、シャイレーンと会った場所だ。
言い換えれば、確かにいつも通り光ったものがあったが、本当にただ光っただけ。時間は戻らないし、場所だって戻っていない。
「あ…私、戻ってない…!時間も!!」
ふと上を見ると、岩に見え隠れした宝石たちがきらきらといろいろな光を見せている。この綺麗な光景はウォーターフェルでは珍しくない。事実、私はあのループに入っていた事もあり、飽きる程見てきた。
でも、その景色が今、初めて見た時、いやそれ以上に美しく見えた。
「私、乗り越えたんだ…」
何がトリガーでループを抜け出せたのかはわからない。もしかしたら勝手に終わったのかもしれないし、またループがいつ始まるかもわからない。でもただ一つ、
「あのモンスターにはまた会いに行かなきゃ。」
モノクロのちょっと不気味なモンスターに、心の中で感謝した。
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「わーお。 あんなことって あるんすね。 」
真っ黒な顔をした青年が言う。
「まあ、 ビックリはしたけどさ。 」
大きな口が、大きい声でそう応える。
「でも、 ボクもわかるよ、 ■■■■。 だって、 こんなセカイ だもん。 」
腕の無い子供が頷く。
「その キミがいう "こんなセカイ" というのは ボクたちの ソンザイについて? それとも いまのジョウキョウ? 」
背の低い男が目を見開きながら訊く。
「どっちも。 あたりまえでしょう。 ね、 そうでしょう? ■■■■■■? 」
また一人が殻を動かしながら子供に話しかける。
その奥で、ただ一人、黙ってそれを眺める男がいる。
「はかせ? どうかしたの? 」
子供が博士と呼んだその男の方を向く。
「素晴らしい。」
そう一言呟いた男の表情は、不気味だというのが一番相応しいだろう。
三日月のような口がこれまで以上に大きく弧を描く。
「私達と近しい存在があそこまで辿り着くとは。対象Aを越えたと言っても過言ではないだろう。」
その声に隠しきれない程の感情が乗っているのを、その場の誰もが感じた。
「たしかに、 Aは チカラをつかったのに そのエイキョウをうけてない。 Bだけじゃなく、 そのまわりまで。 どういうこと? 」
一部の者は予想がつかず首をかしげ、また一部の者は言っている意味が分からないようだったが、再び博士が口を開く。
「一般的に考えると、この状況は時間軸が同一の世界に於いて二つ存在し、且つ時系列がずれている事になる。そのような世界は存在し得ない。崩壊するだろう。しかしそのような崩壊が起こる様子はない。」
他の者達は黙って耳を傾けている。そして博士は続ける。
「この世界には、未だに知り得ぬ謎が数多く残されている。対象A、対象B、――そして外部の存在。」