「…ケロ?」
そこにいるのはカエル…ではない。カエルのモンスターだ。全身が真っ白で、胴体に黒い模様がある。そして脚の隙間からは、何かうごめくものが見える。
首をかしげ、状況がつかめないようだったが、いきなり私のことをおびえた目で見始め、全身をガタガタと震わせた。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (きっきずつけない、でほし、いケロ…)」
こんなに周りが静かでなかったら聞こえないような弱々しい声でカエルのモンスターは言った。今にも泣いてしまいそうだ。
「大丈夫。安心して。私はあなたを傷つけたりなんてしないから。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (よ、よかったケロ… ぼくは しらないモンスターに いきなりぼうりょくを ふるわれたんだケロ。)」
私がつとめて優しい声でこたえると、疑うことを知らないのか自分の事情を話し始めた。もう少し警戒心があったほうがいいと思う。暴力をふるわれたらしいし、大丈夫なのだろうか。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (キミが へいわしゅぎのニンゲンで よかったケロ。 )」
「うん。でもやっぱり知らない人間やモンスターには気をつけたほうがいいよ。」
私の気づかいに感謝を伝え、そのモンスターはフロギットと名乗った。元気そうなフロギットの姿に安堵を覚える。
しかし、その安堵もつかの間、フロギットは急に震えだす。
「ケロケロ。 ケロケロ…?(ど、どうして こんなに たくさん ちり が おちているケロ…?)」
フロギットは続ける。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (ここで おそうしきごっこでも してたっていうケロ? いくらなんでも そんなふきんしんなこと するのは このいせきには いないはずケロ!)」
「フロギット、落ち着いて。」
息が荒くなるフロギットにそうは言ったものの、私も全く落ち着いてなんかいない。
―――塵にお葬式。そして暴力をふるわれたフロギットがついさっきまで塵であったこと。どんなに察しが悪くてもわかる。それになぜかなんとなくそんな気がしていた。目を背けていただけ。
そう。このたくさんの塵は本当に――――――
「……フロギット、どこかに隠れたほうがいいと思う。なるべく急いで。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (わ、わかった、そうするケロ。 …でも キミは どうするケロ?)」
「私は他に隠れられていないモンスターがいないか探そうと思う。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (いくらなんでも あぶないケロ! キミも いっしょにかくれるケロ!)」
こんなに大変な状況で心の余裕だってないはずなのに、フロギットは私のことを心配してくれた。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (そ、そうケロ? でも できるだけはやく かくれるケロ…)」
「大丈夫」だなんて保証どこにもないっていうのに私は悪いやつだ。フロギットが疑いを知らないのをいいことに。
フロギットがこちらをちらちら見ながら去って行く姿を見届け、張りつめた気持ちのまま周りを見渡す。
ただの塵のように無機質にたたずむのは全てかつては生きていたものだった。それらの命を全て奪ったものがいる。
それを知って怖くないわけがない。いわゆる殺人鬼がいるというのだ。いつ自分が襲われてもおかしくない。
でも、体は全く震えていない。足もすくまない。
ある感情があるからだ。もちろん、助けたいという思いもそのうちの一つ。だが、何よりも―――
―――怒り。この行いに対して、その実行犯に対して、そしてその理不尽さに対して。
少なくともフロギットは疑いを知らず、怖がりなくせして他人を心配する心優しいモンスターだ。
その命が理不尽に奪われて行ったのだと知ると、怒りを覚えずにはいられない。
悪は許されないと思うとケツイがみなぎった。