私には一つ、目を向けるべき問題がある。
知らない遺跡にいて、塵となったモンスターたちがいて、私はモンスターたちを助けなければいけなくて、周りに殺人鬼がいるかもしれない。
これだけでもだいぶ非常で大変な問題ばかりなのだが、それとは別にある。
立ちあがり、少し歩を進める。
何故、フロギットが生き返ったのか。
フロギットは確かに塵だった。「塵」というのはどうもモンスターが死んでしまったあとにできる死骸のようなものらしい。
つまりフロギットは死んでいたのだ。それで何かがトリガーとなって生き返った。そう考えるのが妥当だろう。
あのとき、私は塵のそばに寄って何をしたか――――
思えばあのときの私のことはよくわからない。その時はまだ、ただの塵とした認識しかなかったというのに、悲しかったのだ。怖かったのだ。慈しんだのだ。
そしていろいろな感情が渦巻き―――――
「助けたい」と思った。
そう。これだ。助けたいと思ったら何かが動いたのだ。そして次の瞬間には塵がフロギットに変わっていた。
また別の塵の前にしゃがむ。
もう一度、できるだろうか。いや、やらなければわからない。今ここで。
「―――助けたい。」
――――――何かが動く。自分のものである何かが、自分のものでない何かが。
それらが温もりを持ち、感情が溢れる。
自分に慣れ親しんだものがある。
知らないものがある。
悪を許せない気持ちがある。
何かが光って、
その場所に一斉に命があるものの気配が広がる。
そこにいたのはフロギットとよく似たカエルのモンスター。何が起きたのかわからないようで首をかしげている。
そこにいたのは羽と触角のついた虫のようなモンスター。皆今にも泣き出しそうな顔をして、弱々しく羽を羽ばたかせている。
そこにいたのは大きな目を一つ持ち、内側に曲がった角を持つモンスター。その目をギョロつかせ、周りの様子を伺っている。
そこにいたのはゼリーのような体で前後左右にふるふると揺れているモンスター。何をしているのかはわからない。
「これは成功した…のかな…?」
現にここにはたくさんのモンスターたちがいる。
そう、たくさんの。
「どうしてこんなに…いや。」
知らないモンスターたちへの驚きや、新たな疑問について思考を巡らせている暇はない。
「あ、あの…」
一斉にこの空間にある目が、意識が私に向けられる。
一対の目は疑問、一対は恐怖、一つの目は怪訝、目はないが、一つの意識は好奇心。
「信じてもらえないかもしれないけど、ここは危ないの。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (キケン!? それはたいへんケロ!)」
「は、はやく ににににげないと…」
「からかってくるやつが いるの?」
「こぽこぽ…」
……モンスターたちは意外に皆とても素直なのかもしれない。
「そう。だからなるべく早く、どこかに隠れるべきだと思うの。」
そう私が言うと、反応はまちまちだが、皆同意したような姿勢を見せた。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (ボク、 かくれるのにいいばしょ しってるケロ。 あんないするケロ。)」
カエルのモンスターがそう言う。皆もついていくようだ。
そんな中、そのカエルのモンスターがこちらへ目を向ける。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (そういえば、 このなかでだれか フロギットっていう ぼくによくにた モンスターを しらないケロ?)」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (ぼくのトモダチなんだケロ、 なかなか あいにこないから むかえにいったんだケロ。 そしたら―――)」
ぷつりと糸が切れたかのように、言葉が急に途切れる。
私はほとんどモンスターの体について知らない。けれど、そのフロギットの友達の顔色が、どこか悪くなっていっている気がした。そしてその理由もなんとなくわかった。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (そしたら…… しらないモンスターに あったケロ…)」
そこまで話を聞いて、他のモンスターたちも何か心当たりがあったのだろう。皆怯え出した。虫のようなモンスターに関しては、もう怯えるの域を越えている。
「…とりあえず、ここにいたら危ない。隠れに行こう。」
私がそう言うと、フロギットの友達が私の方を見た。
「ケロケロ。 ケロケロ。 (なにをいっているケロ! フロギットをまずさがすケロ! フロギットがあぶないケロ!)」
誰が見たって、怖がっているのがわかるような状態なのに、震える声を張り上げて友達を心配した。
「大丈夫。私、さっきフロギットに会ったの。フロギットはもう隠れに行ったよ。」
「ケロケロ。 ケロケロ。 (ほ、ほんとうケロ? よかったケロ…)」
彼は私の言葉に心底安心したようで、どこかで聞いたような力の抜けきった声で反応する。
他の皆も少しホッとしたような表情や仕草だ。
「じゃあ そろそろあんないしてくれない? これじゃあぼくたちがあぶないめに あうかもしれないよ。」
ルークスと名乗った大きな一つ目のモンスターがそう急かすように言う。
だが、ルークスだってフロギットが危険かもしれないと知った時、確かに焦っていたし、今だってその大きな目の奥に、安堵の色が隠しきれていない。
皆もそれをわかっていたのだろう。誰もルークスをとがめなかった。
フロギットの友達――彼の名前もフロギットらしい。――もそれに頷いて、皆を先導するようにぴょんぴょんと跳ねながら進んで行く。
皆が部屋を出ていく中、立ち止まっている私を虫のようなモンスターが見る。
「キミは…いかないの…?」
きっと私がついて行かないのか心配なのだろう。
「私は大丈夫だよ。ちょっと、隠れていないモンスターたちがいないかどうか確認するだけ。」
少しの間、私の前から動かなかったが、大丈夫だと念を押すとうじうじとしながらも部屋を出て行った。
ふう、と一息つく。それでも、一息ぐらいしかつけない。
さっきからの情報量の多さに驚く。
部屋を出て、歩きながら考える。
まず、どうしてこんな状況なのか。
殺人鬼がいる。いきなり出てきたのか、そいつの気まぐれなのか。
次に、どうして私はモンスターたちを生き返らせられるのか。どうやって、はわかったが。
この二つに関しては本当にわからない。この先に情報があることに期待しよう。
それと、だ。モンスターという種族は、あんなも見た目が違って、あんなにも話し方が違って、あんなにも性格が違って。
それでいて、誰もがあんなにも素直で優しいのだ。
それだけは、この中でわかった数少ない事実だ。
皆を思い出すと、なんだか胸の奥が暖かい気がする。
いつぶりだろうか、こんなのは。
「あ、そういえばあの子に、心配してくれてありがとうっていうの忘れてたな…」
いつかまた会ったときに、感謝を伝えようと思うとケツイがみなぎった。
遅くなってすみません。
データが消えたり、忙しかったりと色々あったので遅くなりました。