「大丈夫?えっと…君ってしゃべれるよね?」
「なにいってるの? やさいは しゃべれないんだけど?」
「えっ?あー。うん、そうだね…」
ツッコミをいれたくなるようなことを言っているのは、今私の目の前にいるモンスター。にんじんのような形のくすんだ黄色い体に、吊り上がった目と大きな口がある。
さっき私が穴に落ちてしまったところで見つけ、『助けた』モンスターだ。
「キミって ちゃんとみどりのやさい たべてる?」
「私は好き嫌いしないけど…」
いきなり予想外な質問が来て驚く。
「たべてないよ ゼッタイ。キズ なおってないじゃん。」
「それはこの傷ができたあとに食べてないからで――」
「ほら やっぱりたべてない。」
「う、うん…」
そのただでさえ大きく持ち上げられた口の端が更に目に近づく。
傷というのは、この野菜のモンスターを見つけたときもそうだが、今までも何回か穴に落ちてしまったときにできたものだ。あと、ちょっといろいろあった。
フライパンを持ち歩いているのもあって、うまく受け身をとれなかった。フライパンでガードしても、逆に硬くて痛かった。なるべくもう穴には落ちたくないものだ。
「ほら たべて!」
そんなことを考えていたら、野菜のモンスターが緑色の小さいにんじんのようなものを飛ばしてきた。どうやっているのかはわからないが。
うまくキャッチして、観察してみるが、本当にただ緑色で小さいというだけのにんじんだ。
「たべて!」
生の、ましてや緑色のにんじんにそのままかじりつく、なんて経験はなかなかないなあと思いながらも、必死な彼のためだ。全部一気に口に入れて噛む。
なんと言うか、苦くて、固くて、土の味がする。
それでも、飲み込んだのだが、飲み込んだ感覚がしないのだ。代わりに、傷の痛みが和いでいく感覚がある。
「どう?」
「すごい…」
本心から私がそう言うと、もっと口の端を上げた。もう目の下に口の端がついている。
その後は、彼にはどこかに隠れるように話し、別れを告げた。
私はここまで何回か、モンスターたちを『助けて』きた。
今まで会ったモンスターたちとよく似たモンスターもいたが、昆虫のようだけど、なぜだかずっと踊っていたモンスター。縄張りだとかあるのかはわからないけれど、たくさんまとまっていたモンスターなどいろいろ見つけた。
途中で隠れ場所を知っているというモンスターがいたので、私も場所を教えてもらい、知らないモンスターに教えるようにしている。
さっきの野菜のモンスターにも教えてあげたのだが、もっと安全な場所を知っている、と言いながら土の中に入って行った。
穴をくぐり抜け、上の道へ戻る。
ここの部屋には隅に穴が六つあるようだ。今度は穴に落ちないように、と思ったけれど、穴の中にもモンスターたちがいる可能性がある。フライパンを一旦置いておけばましだろうし、ここは体を張ってでも行くべき―――
「ヤァ…」
「…こんにちは。」
いきなりすっと現れたてきたのはモンスター。それも真っ白で、浮いている体に顔がある。いわゆるゴーストだ。二つの目はうるうると揺れている。
急なことで反応が遅れた。その遅れを悪いように捉えてしまったのか、そのゴーストはただでさえ沈んでいた顔をさらに暗くする。
「ごめんネ… ボク… なんだか きまずいかんじに しちゃうんだよネ… ちょっとまえも そうだッタ…」
「誰かと会ったの?」
それを言い終わる前に、ゴーストの目から大量の涙が流れ出す。それが私のほうへ、決して速くはないが、それでも着実に近づいてくる。
「…っと、危ない。」
私はその大粒の涙をギリギリで避ける。というのも、これに当たると怪我をするからだ。これが傷があったもう一つの理由だ。
モンスターたちは何回かこの攻撃を私にしてきた。厳密に言えばこれは攻撃ではないのだろう。
だってモンスターたちからそんな意志は見えないし。皆優しいし。
とは言っても最初は驚いた。何かモンスターが飛ばしてきたと思ったら、それに当たると痛いのだ。
取り敢えず今は涙を避ける。
傷を緑色のにんじんで、せっかく治してもらったばかりなのだ。また怪我したら、また野菜を食べろと言われてしまう。
―――涙が一瞬止まる。
ここで何か行動しなくては。
「ねえ?大丈夫?」
モンスターのことはよくわからないとはいえ、相手は涙を流しているのだ。安心させられるような声で問いかける。
「ハハハ…」
―――また涙が流れ込む。
今度は細い涙だが流れが速い。動きも読めない。
「いっ…!」
避けきれず、背中に当たってしまった。何回か避けるのも経験して慣れてきたと思ったが、このゴーストの涙は今まで見てきた中で最も手強い。
―――涙がまた止まる。
「わっ私で良ければ話聞くよ?」
痛いのを我慢して声をかける。
「キミまで ゆううつに なっちゃうヨ…」
―――涙が流れ出す。
次は全部避けきる。
―――止まる。
「じゃあ、私に教えてくれない?ここらへんのこと全然知らなくて。」
「ボクには つとまらないヨ… すぐジブンのことばかり はなしちゃウ。」
―――流れ出す。
―――止まる。
「君のことでもいいんだよ。君のことも知りたいし。」
ゴーストの表情が少し明るくなる。
―――流れ出す。
―――止まる。
「そうだ、ゴーストって何か食べられるのかな?私料理得意だからさ。好きな食べ物とかある?」
次に来るだろう涙に身構える。だがその必要はなかった。
「えット… ボクは ゴーストサンドイッチが すきカナ… あっ… でも キミはつくれないだろうケド… すけちゃうカラ…」
「じゃあ作り方だけでも教えてくれると嬉しいな。」
「ボクのいえ… ウォーターフォールにあるんダ。 そこで おしえるヨ。 いきたくないナラ こなくてもいいケド…」
よっぽど自分に自信がないのだろうか。でも、さっきと比べて声がずっと明るい。
私はこの遺跡の中の状況をゴーストに話した。ゴーストの名前はナプスタ・ブルークというらしい。
私が穴の底に安全に行く方法はないかと訊くと、ナプスタが見てきてくれた。ゴーストは飛べるし、物を通り抜けられるらしい。
「どのあなにも おちば いがいは なかったヨ。」
「ありがとうナプスタ。すごく助かったよ。」
本当にありがたい。本当に。
その私の気持ちが伝わったのか、ナプスタはちょっとだけ、ほんの少しだけ、口の端を上げた。
「きょうは キミに あえてよかッタ。 ひさしぶりにたのしかったカラつい… たくさん はなしちゃったケド…」
「気にしないで。私は話聞けてすごい楽しかったよ。」
きっと、ナプスタは最近あまり誰とも話してなかったのだろう。そんな中、楽しく話せる相手ができたらついつい話したくなっちゃうのは普通だ。
私もいつか、そんなことがあった。
「それじゃあネ…」
「うん。今度はナプスタの家でね。」
ナプスタの影がだんだん薄くなり、ナプスタ自体も見えなくなる。
また、友達ができた。
今度は家に遊びに行く約束もした。
いろいろ大変なこともあるけれど、またそのためにも。
ナプスタとまた会いたいと思うと、ケツイがみなぎった。