このせかいを ふっかつ させたい   作:………

6 / 19
だいじなこ

 

 

 

 

暖かい。

 

柔らかい。

 

冷たく硬い床はない。

 

 

目を開ける。

 

赤い天井が見える。

 

暖色系で統一された家具や壁が見える。

 

 

私は…今ベッドの上にいるようだ。

暖かい毛布をかけられている。

 

体に異常はなさそうだ。

 

ゆっくり体を起こす、と―――

 

 

「あら? めが さめたのね。 からだはだいじょうぶかしら? 」

 

 

奥のドアからヤギのような大きなモンスターが入って来た。

 

 

「あなた、 キズは みあたらなかったけど、 きをうしなっていて… 」

 

ヤギのモンスターが言葉を途中で切り、私の方を心底心配そうに見る。

 

「ほんとうにだいじょうぶ? どこかいたむようなら いってちょうだい? 」

 

「ぇ…?」

 

 

頬を何か、生暖かい物がつたう。

そこでやっと気付いた。

 

私は泣いていたのだ。

だから彼女が私を心配した。

 

私は安心したのだ。

だから私は泣いた。

 

「い、いえ。大丈夫です。ただ、貴女が無事でいてくれた事が嬉しくて…安心しちゃって…それで…」

 

ヤギのモンスターは優しく笑う。

 

「そうだったのね。 よかったわ。 わたしはトリエル。 このいせきの かんりにんです。 よろしくね。 」

 

こちらも挨拶をすると、握手をした。

それが終わると、トリエルは顔を真剣な表情へと変える。

 

「あなたが… わたしのことを たすけてくれたのよね? 」

 

まさか貴女が塵でいるところを見つけたのです、だなんて言えない。

 

「はい…」

 

「そこで こどもにあわなかったかしら。 」

 

子供…というのはきっとナプスタが言っていた子供だろう。

 

つまりは、トリエルを塵にした張本人だ。

 

 

「…いいえ、私が着いた時にはもう誰もいませんでした。」

 

「そう… 」

 

トリエルは悲しいような、怒っているような、ホッとしたような、焦っているような、複雑な表情をした。私がただ、モンスターの表情の読み取り方を、分かってないだけかもしれないけど。

 

 

「いいの。 きにしないで。 それよりあなたはやすんだほうがいいわ。 」

 

…いや、でも私は。

 

「トリエルさん、気づかいはとても嬉しいんですけど、私はあの扉の奥に行きたいんです。」

 

 

トリエルの目の色が変わった。これは私にもはっきり分かった。

 

「ダメよ! いせきのそとは いまキケンなの! あなたにまた そんなところにいってほしくない… 」

 

 

「また行く…?」

 

あっと言い、トリエルは口を隠した。

 

 

「…ごめんなさいね。 あなたとよくにたコと しりあいでね、 そのコと かさねちゃったの。 もう… あのコはもういないのにね… 」

 

トリエルの声が暗く、悲しげに沈んでいく。

私がここを出て行ったら、トリエルはもっと悲しむだろうし、苦しむだろう。

 

 

でも私は、ここから出て、皆を助けに行かなきゃいけない。

 

でも、トリエルを悲しませるわけにはいかない。だから―――

 

 

 

「トリエルさん、私は全然強くないんです。相手が誰でも傷つけたくないし。」

 

トリエルが私の意図を掴めないというように首をかしげる。

 

「でも、私にはたった一つだけ力があるんです。」

 

トリエルの目を真っ直ぐに見る。

 

 

 

「皆を助ける力です。」

 

少しだけ沈黙が流れる。

 

 

「そのチカラで あなたはわたしをたすけた。そういうことかしら? そのチカラをつかって、 あなたはこのさきにいるみんなを たすけにいきたいのね… 」

 

「私にあるものと言ったら、この力しかないけど、これは私にしかないから。皆がいなくなるのが嫌だから。だから、先へ行かせてください。」

 

頼み込むようにトリエルに言う。

 

また沈黙が流れて―――

 

 

 

「わかったわ… ドアのむこうへいきなさい。 わたしがまちがっていたわ。 」

 

トリエルが悲しげな笑顔を私に向けながら言う。

 

「あなたは キケンをわかったうえで みんなをたすけようとしていたのよね。 そこで ははおやがとるべきたいどは ヒテイじゃないわ。」

 

トリエルが近づいて、体が、心が、温かくなる。

私は、トリエルに抱きしめられていた。

 

「あなただって こわかったし さびしかったはずよ。 」

 

…そうだ。自分でも気づけなかった。怖がっていちゃ、寂しがっていちゃいけないと、自分で自分を仕舞い込んでいたから。

 

「トリエルさん…」

 

私がそう言うと、トリエルは少し困った顔をした。

 

「わたしはあなたのことを ジブンのこどものように おもっているわ。 だから そんなにかしこまらなくていいのよ。 」

 

「あぁ… えっと、じゃあママ…とか?」

 

何だか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。トリエルはというと、最初は驚いていたようだったけど、今日一番の心からの笑顔を見せた。

 

「あなたがそうしたいなら… ぜんぜんかまわないわ。 すきなように よんでちょうだいね。 」

 

もの凄く恥ずかしいし、なんでそれなんだって我ながら思うけど、トリエルがこんなに嬉しそうな顔をしているし、どうしてだかしっくりくるような感じがした。

 

「うん…… ママ。」

 

トリエル、いや、ママがにっこりと笑う。

 

「それとよ。 あなた、 そのチカラしか もってないっていってたけれど ぜんぜん そんなことないじゃない。 」

 

私が首をかしげるとママは続けた。

 

「やさしさよ。 」

 

ママは続ける。

 

「ただ チカラがあるだけじゃ だれもたすけられないわ。 でもあなたはちがう。あなたは キケンをおかしてでも、 みんなをたすけたいとおもった。 」

 

「そのやさしさが あなたにはあるじゃない。 」

 

 

 

…どうしよう、また泣きそうだ。改めて、ママが本当に私の事を考えてくれているんだなと思った。

 

「ありがとう。でもやっぱりモンスターたちの優しさには敵わないかな。」

 

「フフフ。 そうかしら? でもケツイは あなたのほうがつよいとおもうわ。 」

 

そんなやり取りができるのが本当に嬉しい。ここでママと二人、暮らしていくのも悪くないかもと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとうにほんとうに きをつけてちょうだい。 キケンだとおもったら すぐに にげるのよ。 」

 

「うん。わかった。」

 

真剣な面持ちで話しているのはあの大きな扉の前。今は開け放たれ、冷たい風が足元を通り抜けている。

 

本当はママも一緒に来るはずだった。でもどういう訳か、使えていたはずの魔法が使えなくなっていたらしい。ママはそれでも一緒に行くと言ったが、色々理由を並べ立てて押しきってきた。だから遺跡の外へ出るのは私だけだ。

 

「わたしが いせきのそとへでたのは ずいぶんまえだから、 あまり たすけになるじょうほうがなくて ごめんなさいね。 」

 

「心配ないよ。今までもそうだったし、途中で皆に訊けば大丈夫だよ。」

 

極力ママを安心させられるように応える。

 

「そうだわ。 そとに サンズっていうスケルトンのモンスターがいるの。 かれはきっと たすけてくれるはずよ。 それと―― 」

 

ママが声のトーンを落とす。

 

「あのコは ほんとうにキケンよ。 モンスターいじょうに モンスターだった。 どうか ブジでいてちょうだい、 わが子よ。 」

 

「うん。必ずまたママに会いに行くから。」

 

ママが私を抱きしめる。私も力強く抱きしめる。

名残惜しく思いながらもママと離れる。

 

「それじゃあママ、行ってきます。」

 

「いってらっしゃい、 わが子よ。 」

 

扉をくぐる。後ろは振り向かない。振り向いたらあのママのとても悲しそうな顔が見えてしまうから。帰りたくなってしまうから。

 

 

あの優しいママとまたたくさん話したい。だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に無事に帰ると思うと、ケツイがみなぎった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。