つまりこういう事だ。
『青は止まれ』
青色の魔法は、当たる時に動くとダメージを受ける。逆に言えば、避けられない魔法も動きさえしなければダメージを受けない。
分かってしまえば簡単な法則だけど、分かるまでにだいぶダメージを受けてしまった。結構、いやかなり痛い。
今は走り回る必要がなく、痛みが増さないのでとてもありがたい。というのも、私は今、目の前にいる犬のモンスターを撫でているからだ。
「ナデナデ」
「だいて? ないて? なでて? なでて? だいて? だいて? 」
なぜこんな事をしているかというと、こうする事でこの犬のモンスターが大人しくなるからだ。
どうやらこの犬のモンスターは嗅覚が良いらしく、私の事が人間だと判ったようだ。今まで私が人間なのを見抜いたのは、ママとフロギットだけだ。あのふたりはどうして判ったんだろう?
それはそうと、この犬のモンスターはママやフロギットと違い、人間である私の事を捕まえようとしている。そういう訳で、大人しくさせる必要がある。
「ここは危険ナデナデ。どこかに隠れた方が良いナデナデ。」
「な! なな! なでられたら きくしかないぞ!」
なんか色々大丈夫かな。心配になってきた。
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つるつると滑りながらも、氷に囲まれた場所にある看板の下に辿り着く。東にスノーフルという町があるようだ。あぁ、あと雪ね。まあそうだろう。
そのスノーフルの町に行く前に、雪としか書いてないけど北へ行ってみるか。
「ほんとうに雪しかない。…ん?」
一面真っ白な雪の中に橙色の物が辛うじて見える。
近くに寄って、しゃがんでみる。何かが雪に埋もれている。引っ張り出そ―――
「おねがいします… 」
「わ!」
手を伸ばした先から、いきなりくぐもった声が聞こえて驚く。
「ボクは ゆきだるまです。 ただしくは ゆきだるまだった、 ですね… 」
確かにちょっとここらへんの雪が不自然だ。調度雪だるまだった物が崩れたみたいに。
「ボクのからだのゆきを ほとんど もっていっちゃった モンスターがいるんです。 」
「大丈夫なのそれ…?」
「からだは だいじょうぶです。 でも、 もっていかれたからだも まだ ボクのからだなわけで… だから あのたびびとがやっていることが いやでも みえちゃうんです… 」
なんとなく、話の行く先が見えた気がした。
「あのたびびとは たくさんのモンスターたちをきずつけています。 ボクは もうこんなの みたくないんです… 」
あの子供だ。こんな事までやっていたとは…
「今どこにいるか分かる?」
「スノーフルのまちです。 」
「町!?町の皆は大丈夫なの?」
町はたくさんモンスターたちがいるはずだ。
「まちのみんなは もう にげていました。 」
良かった… 思わずほっと息をつく。
「それでなんですが、 たびびとさん もしよかったら ひとつおねがいしても いいですか…? 」
「うん、言ってみて。」
「ボクのあたらしいからだを ゆきでつくってほしいんです。 ニンジンで はなを、 いしで めと くちと ボタンを。 」
「そうしたら、 ボクのからだは そのあたらしいからだになるから、 あのたびびとがもっている ものからは きりはなされる… だからおねがいします… 」
雪だるまが懇願するように言う。
「勿論だよ。今すぐ作るね。」
「はい、これでよし。」
最後にニンジンを顔につける。
「ありがとうございます! ほんとうにありがとう! 」
「いえいえ。雪だるま作ったのは随分久しぶりだからあんまり自信ないけど大丈夫?」
「カンペキですよ! 」
「良かった。」
にこりと、可愛らしく笑うのは私がそう作ったからだが、心から笑っているのが感じ取れる。
そういう反応をされるとこっちまで嬉しくなる。
そう思うとケツイがみなぎった。
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「で… でも… きさまのことはしんじてるよッ! きさまはもっとりっぱなひとになれる! 」
信じる信じるって、そんなに信じて報われている奴なんて見たためしがない。
本当にくだらない。
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EXP。
「…ん?」
ポケットが湿っている。
―――おかしい。
ポケットをすぐに探る。
手に冷たい物が触れる。取り出す。
これは雪だるまの欠片。かなりの回復力があるから最後まで取って置こうとしていた物だ。
それが溶けている。手の熱で。
雪だるまの欠片はホットランドに行っても溶けない物のはず。
どういう事だ。これではただの雪の塊だ。
ここで何かが起きている。
小さい足跡を残して、スノーフルの町を去る子供が一人。
ケツイ。