飛ンデ日二入ル夏ノ蝶   作:TouA(とーあ)

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日柱・竈門炭治郎(18)
・天然ジゴロ
・落とした女は数知れず
・しかし恨みを買うことは一切ない。仏かな?

胡蝶しのぶ(14)
・思春期。超思春期
・カナエの生き写し前
・誰にも噛み付く狂犬


炭しの尊い(挨拶)





第壱話 再会ノ行方

『もういっちゃうの?』

 

『うん。指令が来たからね』

 

『もうちょっと、いても……』

 

『また来るよ、だから……泣かないで』

 

『ないて……ないもん』

 

 

 ────。

 

 

『えへへ、あたたかい……』

 

『しのぶは本当に撫でられるのが好きだなぁ』

 

『だってきもちいいんだもの……』

 

『ふふ、また撫でに来るよ。しのぶがいい子にしてたらね』

 

『うん……まってる。ここはたんじろうさんのいえでもあるんだからね』

 

『────ッ、ありがとう……行ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カァァ──! 危急! 危急! 花柱・胡蝶カナエヨリ通達! 日柱・竈門炭治郎重傷! 治療ノ準備サレタシ! 繰リ返ス! 日柱・竈門炭治郎重傷────』

 

 

 鼓膜をけたたましく叩いたのは、敬愛する姉の遣いからの通達だった。

 診察室を飛び出した少女は、屋敷にいる補佐の隊士に下知を下し、重傷者を迎い入れる準備を滞りなくすすめる。その所作に迷いはなく、手慣れていることが窺えた。

 

「姉さん!」

「しのぶ……! 炭治郎君をお願い!」

 

 (カクシ)に連れられ、帰宅した姉────胡蝶カナエの肩を借りるように、身体の半分を血に染めている青年────竈門炭治郎が運ばれて来た。

 見るからに重傷。止血はされているようだが傷が深い。恐らく骨も折れている。一本や二本どころでは無いだろう。

 

「───ッ、(カクシ)の皆さん此方へ!」

 

 他の重傷・軽傷者を治療室に案内し、自身は一番の重傷者の治療にあたる。

 大丈夫、大丈夫、この人は強い、強い……信じているからこその独白。空虚な希望論。

 

 この日ほど長く感じた夜はなかった。

 この日ほど歯を食い縛った日もなかった。

 この日ほど神に祈った日もなかった。

 

 少女────胡蝶しのぶは恩人を死なせない為に、死力を尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼殺隊。

 その数、(およ)そ数百名。

 政府には正式には認められていないが、(いにしえ)より存在していて、今宵も鬼を狩る。

 鬼を討つ、それこそが信条であり本分である。

 無論、人間であるから時には休息が必要である。

 隊士の休息には任務地付近の藤の花の家紋の家の世話になることも多いが、静養を要するとなると、ここ『蝶屋敷』が使われることが多い。

 

 それは、鬼殺隊の最高位に座する『柱』でも例外はない。

 “花柱”である胡蝶カナエが『蝶屋敷』の長ではあるが、薬学に精通しているカナエの妹の胡蝶しのぶが実質的に屋敷の長としている。

 

 先日運ばれた“日柱”である竈門炭治郎。

 彼と彼女ら姉妹は浅からぬ繋がりがある。

 ただ“柱”であるために多忙で、炭治郎としのぶは暫く顔を合わせていない。それは数年単位のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────蒸し暑い日だった。

 

 その青年の横顔を見たのは久方ぶりのこと。

 慈愛に満ちた面立ちに額にある大きな痣、厳然と佇むその身姿は美麗で凛としている。

 初めて出逢った頃より伸びている赫灼の長髪は一つに結われており、彼が伸ばす指先には蝶が留っていた。

 

 ────日柱・竈門炭治郎

 

 始まりの呼吸である“日の呼吸”の使い手。

 その強さと全てを包み込む笑顔、 万人に心優しく、明朗快活な性格はまるで日輪だ。

 彼を嫌う人物は鬼殺隊には居ないという。加えて、身姿の良さと圧倒的な強さから隊士の女性人気も非常に高い。

 ただ、文字通り“日”であるので色恋沙汰には発展しない。太陽同じく、好意に気付いた者は自然と身を引く。簡単な話、大自然に告白する者などいないのだ。

 

「日柱・竈門炭治郎様」

 

 あくまで怪我人と主治医として。

 鬼殺隊の“柱”とそれ以下の階級の隊員として。

 たとえ、恩人であり自身の憧憬であったとしても。

 しのぶはもう子供ではない。公私の区別はついている。

 “柱”には鬼殺隊隊員として最大の敬慕を。

 

「しのぶ……?」

 

 発した声に驚いたのか、蝶は彼の指先から離れてしまう。

 少しだけ残念そうに目を細めた彼は、太陽みたく柔らかく温かい笑みを浮かべながら、ゆっくりと……。

 

「しのぶだ! 久しぶり! 覚えてる!? 俺、竈門炭治郎ッ!!」

「うぇえ!!!???」

 

 近い近い近い近い────ッ!? 

 全然ゆっくりじゃない! 視界から消えたと思ったらいつの間にか目前にいるし、何なら手を握られて────!? 

 急転直下の出来事に目を回すしのぶ。

 花開く笑顔で再会を喜ぶ炭治郎は、目の前のしのぶが平静じゃないことに気付かない。

 

「覚えてるかな!? 前に会った時は随分と小さかった様に思うけど大っきくなったなぁ! カナエさんに似て美人になった!」

「覚えてます覚えてます覚えてますからっ! ちょっと手を離してくれませんか日柱様!?」

「あ……ごめんよ?」

「いやその……はいぃ」

 

 心臓がもたない! 贓物が口からまろびでる! 

 申し訳なさそうに手を離す炭治郎に、胸のあたりがギュッ……となるしのぶ。

 深呼吸すること数十秒。落ち着いたしのぶは咳払いし、主治医として炭治郎に話しかける。

 

「日柱様、体調の方は如何でしょうか? 姉と血みどろで帰って来て、七日ほど目覚めなかったので」

「うん、もう大丈夫だ! 骨は罅が入っていただけだからもう数日すれば治ると思う、有難う!」

「────っ、別にこれが仕事ですから。じ、自分の職務をこなしているだけですよ」

 

 思わず、しのぶは目を逸らしてしまった。

 ちょっと待って、その笑顔を向けないで、こっち見ないで……心の中で言葉が溢れ出す。口に出すことは決してないが。

 

「それでもだよ。君のお陰で俺はまた戦いに行ける。無辜の民草を護れる。有難う」

「……有り難いお言葉です。日々の研鑽の励みにします」

 

 彼の性格からして全ての言葉は本心だ。

 彼の優しさは誰一人として分け隔てなくあてられる。人によっては、というよりしのぶにとってはある種の毒だ、と勝手ながらに思っている。

 

「それでも、熱も下がってないのに勝手に起き上がらないでください。お体に障ります」

「んーそうだね。下がってないけど、いつも戦っている時はこの体温だから平気────」

「駄目です」

「いやでも────」

「駄目です」

「久々に日光浴した────」

「だーめーでーす! いくら日柱様のお願いであっても、聞けません!」

「はぁい……」

 

 トボトボと戻る炭治郎。

 まったくもう、と息を吐くとしのぶは物寂しくみてる大きな背中に声を投げかけた。

 

「日当たりの良い部屋に変えてあげますから、今日明日は安静にして下さい」

「わぁ、ありがとう! ……あっそうだ」

 

 ちょいちょいっと手招きする炭治郎。

 しのぶは頭に疑問符を浮かべながら肉薄し、多少は慣れた炭治郎の目先に立つ。

 

「────ッ!?!?!?」

「よしよし。しのぶは撫でられるの好きだったよなぁ……本当に大きくなったなぁ……」

 

 ごつごつした大きな手。

 計り知れないほど修練を重ねてきたであろう大きな手。

 伝わる体温と慈しむように優しく撫でる大きな手。

 

 

 

「う、ぅわぁぁあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

 

 

 

 その日の蝶屋敷では。

 夏にはまだ早い、綺麗な紅葉が見れたそうな。

 

 

 

 




作者には、バットエンドしか見えてません。

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