繋いだ手はずっと繋がったままで。
お久しぶりの方はお久しぶりです。アーニャです。
今回も戦姫絶唱シンフォギアシリーズで書かせていただきました。
今回はちょっと仕込みもあるので、最後まで見ていただけると幸いです。
2047年6月、とある教会に多くの人々が集まっていた。服装は男性はタキシード、女性はドレスを着ており、皆笑顔で談笑を行っていた。
今日この教会で、結婚式が行われるのであった。
「ついにこの日が来たのだな」
青いドレスに身を包んだスレンダーな女性、風鳴翼は感慨深げに呟いた。長椅子に座りながら発せられたその言葉に答えるのは、隣にいた人物だった。
「そうっすね、なんというかようやくここまで来たか、って感じですよ」
赤く露出が多めのドレスを着た女性、雪音クリスは周囲を見回して言う。この日のために準備されてきた教会内部は、実に豪勢であった。
「みんなのスケジュールが合って、本当に良かったデスよ」
「うん、翼さんやマリアも来られて良かった」
後ろの長椅子に座る緑色のでドレスを着た女性、暁切歌が笑顔で言うと、桃色のでドレスを着た女性、月読調がそれに同調する。
さらにその後ろから、銀色のドレスを着た女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴが語る。
「当然よ、私も翼も、今日という日を逃すわけにはいかないわ」
「同感だな」
マリアの言葉に、翼も頷く。周りの面々も同様だった。
今日この場で行われる結婚式は、彼女達にとってそれだけ重要なことであったのだ。
「何と言っても今日はーー」
「響さんと未来さんの結婚式デース!」
★
教会内の控室。ウェディングドレスを着た女性が、化粧台の前に座っていた。目を閉じて心を落ち着けるように呼吸を繰り返す女性は、触れたら消えてしまいそうな儚げな雰囲気を纏っていた。
そんな女性の耳に、突然何かが倒れる音が聞こえてくる。
「うわあああッ!?」
「大丈夫ですか、立花さん!?」
音がしたのは隣の部屋で、そこからさらに何かを叫ぶ声が聞こえてくる。
女性は何が起きたのかを察し、ため息を吐きながら立ち上がる。ドレスの裾を踏まないように持ち上げ、ドアを開ける。
そこでは、同じくウェディングドレスを着た黄色髪の女性が、倒れた姿見を前に目を見開いていた。姿見の近くには、結婚式を運営する女性スタッフが破片を集めている。
「もう、どうしたの響?」
「未来~!」
響と呼ばれた黄色髪の女性は、半泣きで部屋に入ってきた女性、小日向未来に抱きつく。
「ううっ……うっかり鏡を倒しちゃって……」
「もう、気を付けないと駄目でしょ? せっかくの結婚式にケガしたらどうするの?」
「ごめん……私、呪われてるかも……」
意気消沈した様子の響。そんな彼女の頭を未来は優しく撫でる。
「ケガをしてないなら問題ないよ。ほら、早く準備を終わらせなきゃ」
「……うん、分かった。ちょっと待ってて!」
響は未来から離れると、待機していた式場スタッフに連れられ、隣の部屋に向かっていった。
その背中を見送ると、未来は窓から外を眺める。
式場の周辺には、緑豊かな森が広がり、小鳥が騒がしくさえずっている。空からは太陽が優しく照り付けており、絶好の結婚式日和であると言えた。
「ついにこの日が来たんだーーなんだか実感薄いなぁ」
外の風景を眺めながら、未来は独りごちる。
響のことを想っていたのは、ずっと前からだ。誰よりも心配し、誰よりも気遣い、誰よりも愛していた。それは間違いない。だから響からプロポーズを受けた時は、涙が出るほど嬉しかった。
ただ、実際にそれが目前にまで迫ると、本当に現実なのかと疑いたくなってしまう。実は全て都合の良い夢なのではないかーー。
そんな風に考える未来の頬に、突如暖かい物が触れる。
「ひゃあ!?」
悲鳴をあげて振り返ると、マグカップを持った響が立っていた。響は楽しそうに笑っていた。
「はい、あったかいものどうぞ」
「あったかいものどうも。って、いきなりは危ないじゃない」
「ごめんごめん、ボーっとしてる未来があんまりにも可愛かったから、つい」
「可愛いって……もう」
マグカップを受け取り、一口だけ飲む。中身は暖かい緑茶だった。
胸の中に暖かさが広がると、先程まで抱えていた不安が少しだけ和らぐ。表情が柔らかくなった未来を見て、響も笑顔になる。
「良かった、式場に来てからずっと表情が暗かったから、心配だったんだ」
「えっ、私そんなに暗い顔してた?」
思わず頬に手を当てて聞き返す未来。それに響は頷き。
「うん、なんというか心ここにあらずって感じだった。何か気になることがあったの?」
「いや、その、なんというか……」
躊躇いながらも未来は口を開く。
「こんなに幸せで良いのかなって……」
「えっ?」
「こんな風に響と一緒になれて、凄く嬉しい。だけど、なんだか現実感が無くて、もしかしたら都合の良い夢なんじゃないかって。だから……」
「ーー不安だった?」
「うん、少しだけ。なんでだろうね、こんなに幸せなのに、それを受け止めきれないみたい……」
未来の顔が陰る。これまでの戦いの中で、響と未来は拳を交えたこともあった。それ以前に、未来には響に対する負い目もあった。その時の後悔や痛みが、今になって再び彼女の心を苛んでいた。
「未来ーー」
そんな未来を見て、響は真剣なまなざしを向ける。
やがて意を決したように一呼吸すると、未来の体を優しく抱きしめる。強過ぎず、それでいて弱過ぎない、絶妙な加減で抱きしめる。
「ひ、響……?」
「ーーへいきへっちゃら、だよ」
未来の耳元で、優しく囁く。その声は確かな暖かさと柔らかな愛が含まれていた。
「未来がどんなことをしようと、私は未来を否定したりしない。他の誰かが何を言おうと、私が絶対に守る。そしていつもみたいに笑っていられるようにする。だってーー小日向未来は私にとっての陽だまりだから」
言い聞かせるように、誓うように響は言う。いつもと同じセリフ、しかしいつも以上にしっかりと、噛みしめるように言うのだった。
未来もまた、ようやく笑顔を浮かべて、抱きしめ返す。
「うん、そうだったね。私がどこに居ても、響は必ず見つけて手を伸ばしてくれる。私にとってのおひさまだもんね。いつも言ってることなのに、忘れるなんてね」
「それだけ緊張してるってことだよ。私だってそうだもん。でも二人なら、きっと乗り越えられるよ。今日この日も、これから先の未来もね」
「ーーうん」
抱擁を解き、見つめ合う二人。やがて揃って笑いだす。もう二人の間に不安も恐怖も無かった。どんな未来であっても、二人なら乗り越えられると確信して言う事ができるだろう。
「ところで響、私はもう小日向じゃないよ?」
「あっ、そうだった。うっかりしてた。でも本当に良かったの? わざわざ姓を変えることも無かったのに」
「うん、良いの!」
★
一方その頃、式場にはさらに多くの参列者が集まっていた。大半が響と未来の同級生や友人達であったが、その中でも一際目立つ者達がいた。
「響君と未来君の結婚式、なんとかオフに出来て何よりだ」
馬鹿でかい肉体をスーツで包んだ風鳴弦十郎が呟く。この日のためにS.O.N.G.の任務をなんとか調整し、一切の邪魔が入らないようにしたのは、彼の力によるところが大きかった。
「全くですよ、世界が平和になったおかげですね」
「あの決戦以降、目立った事件も起きてませんからね」
弦十郎の隣に座っていた藤尭と友里も同意する。さらにその隣から。
「翼さん達の仕事の調整も上手くできて良かったですね」
「僕もこの日までにと思って、研究に一区切り付けてきました!」
緒川やエルフナインも会話に参加する。装者達を支えてきた者達の尽力あってこその今日この日に、彼らもまた高揚を覚えていた。
「しかし、やはり司令は目立つな」
「そりゃ仕方ないんじゃないんすかね、あれだけデカけりゃ」
彼らよりも前の席に座っていた翼達から見ても目立つ弦十郎の姿は、周りの参列者の中でも異彩を放っていた。
そんなことを話している内に、結婚式が始まる時間になった。
「それでは、新婦と新婦の入場です」
司会者がそう言うと、会場の扉が開き、響と未来が腕を組んで入場する。
会場の全員が見守る中、二人はゆっくりと歩き、牧師の待つ場所へと向かう。やがて牧師の前まで辿り着くと、誓いの言葉が述べられる。
「立花響さん、小日向未来さん。あなた方は互いを信じ、互いを愛し、病める時も健やかなる時も、共に生きていくことを誓いますか?」
「「はい、誓います」」
牧師の問いかけに、二人は揃って答える。
「では、ここに二人を夫婦と認めます。指輪の交換の後、祝福のキスを」
牧師の言葉に従い、響が未来の左薬指に、未来が響の左薬指に、それぞれ指輪をはめる。
そして、互いに顔を見合わせ、
「いくよ、未来」
「うん、良いよ、響」
響がゆっくりと顔を近付ける。未来は目を閉じ、静かに待つ。
やがて、二人の唇が重なる。互いに相手を慈しむような、触れ合う程度のキス。しかしそれを見た参列者達は、ほぼ全員が立ち上がるほどの興奮に包まれた。
「二人ともおめでとう!」
「ったく、本当にここまでやっちまうなんてな」
「お祝いデス! 今夜は赤飯なのデス!」
「うん、たくさん用意しなくちゃ」
「本当におめでとう、二人とも」
皆それぞれに祝福の言葉を投げかけていく。その間もずっと唇を重ねていた二人だったが、ようやく顔を離し、周りの面々に笑みを返す。
「ありがとうみんな! みんなに祝ってもらえて、凄く嬉しい!」
「皆さんありがとうございます。必ず幸せになります」
二人の言葉に会場全体のボルテージがさらに高まる。全員が心からの祝福を送り、このまま明るく和やかな雰囲気で式は続いていくーー。
と、思われていた。
突如、会場全体に響く轟音が鳴り渡る。誰かが扉を勢いよく開いたためだ。
全員の視線が扉に集まる。そこには両手を大きく開いた人影が立っていた。
「ママ! お母さん! 会いたかった!」
人影はそう叫び、一直線に走り出す。ママとお母さんとは誰なのか。全員が周囲を見回す。
そんな状況を一切無視して、人影はひたすら真っ直ぐ走っていく。--響と未来の元へ。
「響ママ! 未来お母さん! やっとこの時代の二人に会えたッ!」
「……えっ?」
「わ、私達のこと……?」
人影は二人の手を取り、喜びを表すかのようにその場で飛び跳ねる。困惑する面々だったが、ここでようやく人影の詳細な姿を確認し驚愕する。
何故なら人影は、未来によく似た黒髪を持ち、響によく似た顔立ちをして、リディアンの制服を着た少女であったからだ。
「き、君は一体……」
あまりに自分と似ている少女を前に、驚きを隠せないまま問いかける響。すると少女は手を離し、自らを指さす。
「私、立花
「え、えええええええッ!?」
「わ、私達の……!?」
少女ーー律香の発言に二人は衝撃を受ける。そしてそれは周囲の面々も同様であった。
「た、立花と、小日向の娘……!?」
「およ? その声は翼師匠?」
翼の呟きを聞いた律香がそちらを向く。
「ああ~! やっぱり翼師匠だ~! クリス師匠、切歌師匠、調師匠、マリア師匠もいる~! みんな若~い!」
翼達のことをみとめると、またも興奮した様子で叫ぶ。さらに後ろへと視線を向けると、また大声をあげる。
「そしてそっちにいるのは、弦十郎大師匠!? 昔から全然変わらないんですねぇ!」
「う、うむ……?」
指を差されながら叫ばれ、さしもの弦十郎も困惑するしかなかった。登場からわずかな時間で、完全に場は謎の少女に支配されていた。
「あっ、そうだった、こんなことしてる場合じゃないんだッ! 二人の力を貸して、未来が大変なんだッ!」
「えっ、ええええええええッ!?」
「ちょ、ちょっと待って……!」
そう言うと、律香は二人の手を引っ張り、外へと駆け出す。翼達も急いでその後を追う。
外に出た響が見たのは、空いっぱいに広がったどす黒いオーロラのようなものであった。青空を覆い尽くさんとする勢いで、どんどん広がろうとしている。
「り、律香……ちゃん、あれ何ッ!?」
「私達の時代の敵、ネオ・アヌンナキだよ、ママ。私を追ってここまで来たんだッ!」
そう言うと、律香はポケットから何かを取り出す。それは響達が持つものと同じ、ギアペンダントであった。
それを見た全員が、律香の言う事ーー少なくともネオ・アヌンナキの存在が事実であることを悟る。響は真剣な表情で後ろからやって来た弦十郎に向かって振り返る。
「ーー師匠ッ!」
「分かった、俺達が全力でサポートする。シンフォギア装者は全員で対処に当たってくれッ!」
「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」
響、翼、クリス、切歌、調、マリア、未来、そして律香が並び立つ。その後ろで藤尭や友里、エルフナイン達が準備を始める。
「念のために持ってきてたパソコンを使う羽目になるなんて……!」
「ぼやかないのッ!」
「皆さん、いつでも行けますッ!」
エルフナインの叫びを受けて、装者達はそれぞれの聖詠を口ずさむ。
「
「
「
「
「
「
「
「
ペンダントから解放されたフォニックゲインが、装者達の体を包み込み、それぞれのシンフォギアを構成していく。
響は黄色を主体としたガングニール、翼は青を基調とした天羽々斬、クリスは赤く染まったイチイバル、切歌は緑で彩られたイガリマ、調はピンクをメインとしたシュルシャガナ、マリアは銀色に輝くアガートラームのシンフォギアを纏い、未来は紫と白をあしらった神獣鏡のファウストローブを纏う。
そして律香は、響の物よりも鈍い輝きを放つガングニールを纏った。その背中には、律香の身長の半分ほどのコンパクトな槍が装備されている。
「みんな、いくよッ!」
「「「「「「「「ハアッ!!」」」」」」」」
響の言葉を合図に、全員が空高く飛び上がる。
シンフォギア装者の新たな物語が、今始まる。
ぶっちゃけ最後の展開がやりたかっただけ。
TVシリーズ最終回から書き始めたのに、こんなに時間がかかってしまったのは内緒。