俺は歩くが、未来は進む 作:馬の骨
俺は17年前この世界にいわゆる転生をした。
この世界がどこの世界だとかそんなことはどうでも良かった。
母に聞いた、知らないと言った仕方がない彼はメジャーではない。
小学生になってからインターネットを使えるようになった俺は彼のことを調べた。
だがインターネット上に一切彼はなかった、おかしい、それどころか彼のメンバーの面影すらなかった。
だけどまだもしかしたら、インターネット上には存在していない可能性もある。
中学生になってからは行動範囲が増え、探し回った。
音楽雑誌、CDショップ、楽器屋、インターネット色々なところを探し回った。
だが返ってくる答えは知らない、見つからない、誰も知らない。
彼は俺の尊敬し師匠と勝手に呼ぶ彼はこの世界には存在しなかったのだ。
俺は彼を目指そう彼には成れないが彼の作った音楽をこの世界に広めようと決意した。
まがい物でしか無いけれど彼の歌は曲は全てこの世界すら魅了するだろう。
そうして俺は音楽を始めた。
閑話休題
CiRCLEここは様々なバンドが練習をするスタジオだ。
そんなここの受付に真っ白な髪に真っ白な詰め襟をし、大きな専用ギターケースを片手にもった高校生くらいの男の子が現れた。
「あ、いらっしゃい歩くん今日も練習?」
「ええ、そうです」
手早く予約リストを確認すると皆川歩という予約者の名前を見つけた。
時間は二時間、歩くんはいつも二時間だけの時間を予約しているのよね、と私は心の中で呟いた。
「えっと、2番だよね」
じゃあこれと手に二番の鍵を渡すと彼は足早に二番スタジオに向かっていった。
「はあ、もうかれこれ二年くらい歩くんに接客してると思うんだけどな~」
二年前の冬から彼はCiRCLEにほとんど毎日のように通っていた。
そんな中で私とは毎回顔を合わせているというのに会話はほとんどなかった。
一度彼に色々話してみようとしたが彼のいつもの無表情のまま、軽くいなされてしまった。
それに最近だとギャラクシーでの歩くんのライブの時も私がスタッフとして会ってるっていうのに。
「――さん」
私は確かにただの店員だけどなんであそこまで人と話さないんだろう。
どれだけ気難しい人でも話せる自信はあるんだけどなぁ。
「まりなさん!!」
「ん?」
いつの間にか思考の渦に飲み込まれていたらしい。
まったく気づいていなかった。
目を向けると私の前に立っていたのは短めな黒髪に前髪の赤メッシュをした彼と同じCiRCLEの常連の美竹蘭を始めにAfterglowのメンバーがいた。
「ご、ごめんなさい、ちょっとボーとしてたわ」
「まりなさん大丈夫ですか?」
「おつかれかな~まりなさんは~」
「休んだほうがいんじゃないですか?まりなさん?」
「まりなさんは働きすぎなんだって」
「そうだよ、まりなさん頑張りすぎはだめだよ!」
いやつぐみは言えないでしょと美竹蘭が突っ込んだことで私もみんなも笑ってしまった。
「ごめんね、ちょっと気になったことがあっただけだからね平気だよ」
そうやって笑いかけたあと手元のPCで予約を確認すると三番のスタジオがAfterglowの名前で予約されていた。
予約時間は5時間、長いけど今日は土曜日だし、Afterglowのライブが近いってことも考えると普通かな。
「三番ね、はい鍵」
「ありがとうございます、まりなさん」
「頑張ってね」
「がんばります!」
頭を軽くさげて蘭ちゃんは鍵を受け取ってみんな楽しげに話しながら三番スタジオに向かっていった。
「...やっぱり師匠はすごい」
そう独りごちるとアルミ製ギターから手を話した。
ギター専用の台座に置いてある自身のギターから離れてミネラルウォーターを口に含んだ。
水を飲み一息ついて、時計を見ると二時間ほどの時間がたっていた。
もう時間だ、夢中になると時間を忘れてしまう、この癖を直したいなと独りごちるとギターをギターケースの中に戻し、モップで軽くスタジオ内を掃除し、忘れ物の確認とスタジオ内の備品の位置を確認すると帰るために二番スタジオの扉を開けた。
「っ!」
びっくりした、扉を開くと黒髪に赤色のメッシュを入れた少女が扉の前に立っていたのだから。
訝しげな目線に彼女は気づくと申し訳無さそうな目をこちらに向けてきた。
「一体何なんだ、扉の前で」
少し強めの口調になってしまった、後悔してしまったが言ってしまったのだから仕方ない。
中学の時から音楽に打ち込んでいなかったから女性への免疫がかなり低くなってしまっている。
「扉が少し開いてて、歌が聞こえたから...」
「...」
え、まじでどういうことなの、俺扉完全にしまってないのにあんなにガッツリ歌ってたの?
普通にヤバいやつじゃん、嘘ぉ...
背中に冷たい汗が流れていることを感じながらなんとか次の言葉を取り繕いながら紡ぎ出した。
「どう聞こえたんだ、君には」
「どうって...」
「俺の演奏も歌もまだまだだから、君には聞き苦しいモノを聞かせてしまった、申し訳ない」
彼女の言葉を聞く前に早口でまくし立ててしまった。
深々と頭を下げそのまま立ち去るために足早にその場を離れた。
ふう、と息をついてCiRCLEからの帰路についていた。
明日はギャラクシーでのライブ、もう何度目になるか分からないが師匠を目指すためにはもっとたくさんの場数を踏んで努力をしないといけない、だからこそ今日も明日も頑張らないと。
「機材のチェックとギターの調整しないとな、家についたら」
そろそろ、自分一人でのライブでは師匠の楽曲を再現することは難しいかもしれない。
打ち込み音源だけでもなんとかなるとはいえ、あと二人はほしいそのほうが再現性も高まる。
師匠のライブはあまり見たことが無いから演出は自身のオリジナルになってしまうのは本当に残念だ。
Afterglowの練習の合間でトイレに行って帰ってきた時たまたま隣の二番スタジオの扉が完全に締まりきっていなくて音が漏れ聞こえていた。
聞こえてきた音楽は普通のバンドとも少し違う曲だった。
独特というか特徴的というかともかく引き込まれる音楽だった。
「すごい...」
素直な感想が口から漏れ出てしまっていた。
卓越したギター技術に、綺麗な高音、そして世界観、全てがしっかりと調和している。
ガチャという音と共に二番スタジオの扉が開いた。
少し呆けていたせいで歌声の主が出てくることがわからなかった。
「っ!?」
扉を開けた先にあたしが立っていたせいでびっくりしたのか目を少し見開いていた。
その後すぐに表情が無表情になり、訝しむような目線で見られてしまったため申し訳なくなった。
勝手に聞いていたのはあたしだし、立ち去らずにここで呆けていたのもあたしだ。
「一体何なんだ、扉の前で」
彼は少し強い口調であたしに問いただしてきた。
初対面でしかも扉の前に突然いたんだ仕方がないだろう。
「扉が少し開いてて、歌が聞こえたから...」
あたしが少し小さな声でそう言った。
あたしよりも高いところからの怪しむような視線にすこし緊張してしまっていた。
言葉を聞いたあと少ししてから彼は口を開いた。
「どう聞こえたんだ、君には」
歌の感想を聞かれて少し面食らってしまったあたしは返答に吃ってしまった。
「どうって...」
「俺の演奏も歌もまだまだだから、君には聞き苦しいモノを聞かせてしまった、申し訳ない」
あたしの感想も聞かずに申し訳ないと謝り、足早にCiRCLEから出ていってしまった。
もっと聞いてみたかった、ライブでもなんでも。
三番スタジオに入るとAfterglowの面々が少し心配そうにこちらを見てきた。
はじめに声を上げたのはモカだった。
「蘭遅かったけど、体調でも悪いの~?大丈夫~?」
「モカ、あたしは平気だよ、ちょっと隣のスタジオに居た人の歌がすごくて聞いちゃってたんだ」
もう帰ったけどね、と付け足すとみんな少し驚いた表情をしていた。
「へ~蘭が認める歌か、気になるなぁ」
巴の声を皮切りにみんながあたしを質問攻めのように迫ってきた。
「なんていうんだろう、すごくギターが上手いんだ、それでいてえーっと、世界観っていうのかなそれがしっかりしていたって感じ?」
あたし自身も少し聞いただけだから、と付け加えるとひまりがまりなさんに聞いてみようって言い出したからみんなで聞きに行くことにした。
「まりなさん、あの二番スタジオの人って知ってます?」
受付にいたまりなさんに単刀直入にあたしは聞いてみた。
「あー歩くんのことかな?どうしたの?」
「さっきちょっと歌聞こえちゃって気になって」
「へー、蘭ちゃんにも春が来たのかな?」
まりなさんが少しニヤニヤしながらそんなことを言ってきたからきっぱりと違いますと答えてしまった。
あまりにもすぐに否定したものだからか逆に真実味が出てしまった気がするけど。
「歩くん、皆川歩くんって名前でねほとんど毎日練習しに来てるの、中学生くらいからかな?」
「毎日ですか」
「うん、来なかった時はだいたいライブ当日だけだからまさに音楽漬けって感じかな」
すごい、あたしだって毎日練習してるけど体調不良とか気分が乗らないとか、色々なことで少しは休んでるのに。
「へ~すごいですね~、ちょっとモカちゃんも聞いてみたいかも~」
「アタシも気になるな」
モカと巴が声を上げてひまりもつぐみもそれに続いて聞いてみたいと声を上げていた。
あたしももっと聞いてみたかった、Bパートを少しだけ聞こえただけだったから気になる。
「明日歩くんギャラクシーでライブするから行ってみたら?」
まりなさんはそういうと明日のライブチケットをポケットから出すとあたし達に差し出してきた。
「当日券はもう無いからね、お姉さんからのプレゼントってことであげるよ」
「え、良いんですか!?」
「うんいいよ、歩くんはすごいから良い刺激になると思うからね」
「ありがとうございます」
気にしないでとまりなさんが言いながらあたしの手にチケットを渡してくれた。
ちょっとまって、当日券がもう無い?
「すみませんまりなさん、当日券もう無いんですか?」
プロでも来るんだろうか、当日券が無いなんてなかなか無いと思うんだけど。
「うん、歩くんって結構人気だからね歩くんがライブするってだけですぐ売り切れちゃうから」
当日券分も全部ねとまりなさんは苦笑気味に言ってきた。
そんなにすごいんだ、皆川さんますます気になる。
「そんなに人気なんですか?」
驚いた顔をしながらひまりがまりなさんに問いかけていた。
あたし達みたいにアマチュアのバンドで当日券の売り切れを起こすっていうことは中々無いと思う。
湊さん達のRoseliaとかだったらまだわかるけど、それに今はあたし達みたいなガールズバンドが注目されているからバンド系とか女の子だけのグループだけなら流行りでもあるとは思うけど。
「歩くんの音楽聞けば人気になる理由はわかると思うわ」
ここ最近は毎回売り切れてるらしいからね、とまりなさんが言うとつぐみがすごいですねっと声を出していた。
まりなさんもそこまで言うなんてすごいし気になる。
「それに私、歩くんのファン一号だからね」
言いながら財布からファンクラブの会員証を取り出してきた。
会員番号は一番だった、会員証にはなにかの骨が描かれていたがなんの骨かまではわからなかった。
「月島さん、ちょっといい?」
「あ、今行きます! ...じゃあ明日のライブ楽しんできてね」
にっこりと笑ったまりなさんはそのままスタッフルームの方へと向かっていった。
「いやー蘭が気になるって奴だからどんな奴かと思ったら想像以上にすごそうな人だな」
巴がそう言うとモカもつぐみもひまりもそしてあたしも同意した。
「明日みんなライブ見に行ける?」
「モカちゃんはバイトもないし~全然いけるよ~」
「アタシも気になるし行ける」
「私も行けるよ!気になるもん!」
「わたしも平気だから行けるよ!」
みんな気になってるみたいだし、明日はみんなでライブを見に行くことにした。
あたしもあの曲をもう一度見たいし。
翌日
俺はいつもどおり白い詰め襟に身を包んだ。
この白い髪と白い詰め襟の格好は師匠の服装の中でもっとも好きな服装だ、元々の髪の色が白色だったから黒髪の師匠を再現するには染めるかウィッグを着けなきゃならないのが少し残念なところだけど。
着替えを済ませたあと、ギターケースからアルミ製のギターを取り出して音のチェックをした、勿論ライブハウスについてからもチェックはするけど一応きちんと鳴るかをチェックした。
「調子は良いみたいだし、今日も頑張ろう」
ギターケースを右手に持ち、ライブ用の機材を入れた大きめなバッグと大きめなスーツケース、背中には大きなリュックを持つを家を出た。
ライブは俺が一番最後のトリをやることになっているからライブ開始の直前あたりに着けばいいからゆっくり歩いていっても間に合うだろう。
「ねー!君!」
「......」
今なんかすれ違った人に声をかけられた気がしたけど気の所為だろう。
「君だよ君!髪も格好も真っ白な君!」
「......」
髪も格好も真っ白な人なんて俺以外に居るわけがない、百歩譲って真っ白な格好の人は居るだろうけどこの髪は中々居ないだろう。
明らかに女性の声だし、あんまり耐性が無い事が昨日の赤メッシュの娘との会話で感じていたし、かなり気をつけないとまた強い口調になってしまうから気をつけないといけない。
取り合えずどういう用件なのか聞かないといけないし、と俺は振り返った。
「あー、すごい!目も赤いんだ!アルビノって奴だね君!」
向日葵のような笑顔をこちらに向けてきている山葵色の髪の色をした少女がいた。
どこかで見たことがあるような気がするけど、思い出せない。
「なにかようか?」
少し不機嫌な声が出てしまったが、やっぱり女性との会話は難しい。
変に緊張してしまう。
「君にるんっ!て来ちゃったんだよね!なんでだろ?」
るんときたってなんだ、この娘ちょっとヤバそうな気配を感じる。
なんだろう厄介事に巻き込まれる予感というかそういうヤバそうな雰囲気を感じる。
だったら逃げるが勝ちだ、もう少しゆっくりライブハウスに向かうつもりだったけど、早く行くべきだな。
「そうか、るんと来たっていう意味は分からないけど、俺はこのあと予定があるからまたどこかで」
そう言って足早にその場を離れた。
最近足早にどこかに行くことが増えたなぁ、あんまり良いことじゃないかもしれない。
「ねーねー、どこいくの?」
「ギャラクシーだ」
反射的に答えてしまったけど、誰だ俺に質問しているの。
右側を見るとさっきの少女がついてきていて、俺に質問してきていた。
「ギャラクシーってライブハウスだよね、君ライブするの?」
でもこんなに大荷物かなぁ?と彼女は疑問を口にした。
いやそれよりも、なんでついてきているんだ。
「なんでついてきているんだよ、君」
「君じゃないよあたしは氷川日菜!よろしくね真っ白なお兄さん!」
「......皆川歩だ」
「歩くんね!よろしく!」
「ああ...」
名前を名乗られたらきちんと返さないといけないと思って返してしまったが彼女――氷川は明らかにヤバい奴だと俺の感性が訴えかけている。
この綺麗な眼から感じる見透かされているような感覚これは気の所為なら別に良いが、少し怖いと感じてしまう。
「で、歩くんギャラクシーでライブするの?」
「ああ、今からする」
「そんなに大荷物必要?ギターと手荷物くらいじゃないの?」
キラキラとした好奇心の瞳をこちらに向けながら氷川は俺に質問を投げかけてきた。
確かにギターとバッグひとつくらいだろう、複数人のバンドなら俺はあいにくと一人だ。
本当はあと二人欲しいと考えてはいる、打ち込みの音だけでは伝わらないモノもあると思うのだ。
「俺は一人で演奏して歌うからな」
「え、すごい!やっぱりるんってきたのは正しいかったね!」
「るんってなんなんだ」
「るんはるんだよわかんないかな~?」
「分かるわけがない」
そっかーと言いにこにことしながら俺の横について歩いていた。
俺は初対面の時点では気づいていなかったが氷川もギターケースを後ろに背負っていたからギャラクシーがライブハウスということも知っていたわけか、だから見覚えがあったわけか。
どこかですれ違っていたのかもしれないな。
「氷川は楽器弾いているのか?」
「うん!おねーちゃんと同じギター弾いてるよ!」
突然姉の話が出てきてなぜと少し思ってしまったがギターを弾いているのか。
機会があれば聞いてみたいものだ。
「ギターか、俺も専門はギターだからな奇遇だ」
「へーギターなんだ!」
またるんときたと氷川は言いながらこちらをにこにこと言ってきた。
そんなこんなで他愛もない言葉を氷川と交わしながら歩いていたお陰か体感時間がすごく短く感じつつもギャラクシーの前についていた。
「氷川、今から俺のライブもあるしなにかの縁だ暇があったら見てくれ」
俺はそう言いながら氷川に一枚だけ持っているチケットを手渡した。
俺もチケットノルマが最初の頃はあったが、あまりにも俺がチケットを捌けないとわかってしまったのかいつからか一枚しか渡されなくなってしまった。そもそももらった一枚すら俺は捌けないが。
「えー!いいの!ありがと!」
やったーと無邪気に喜ぶ氷川を尻目にじゃあまたいつかと声をかけてそのままライブハウスの中へ俺は入っていった。
あたしはパスパレの練習のあと家に向かう道をあるっていた。
特に興味があることもなかったしスマホでおねーちゃんに送るラインを少し悩んでいた。
そんな時あたしよりちょっと先の角から全身真っ白な男の子が曲がってきた。
そうしてすれ違った瞬間にあたしの心はるんっと来ていた。
「るんってきた!」
小さく呟くとクルッと振り返ってその当人に声をかけた。
一回目の声がけはスルーされてしまった、聞こえてなかったのかな?
そう思って二回目の声がけをすると男の子はこっちを振り返った。
顔はとても整っていた、白い髪に赤い目そして細い体、おおよそ日本人離れした容姿をしていたから少しびっくりしてしまった。
でもそんな彼の中で最も特徴的なのは顔が無表情っていうことだった。
なんであたしはこの人にるんって来たんだろう、自問自答するもののあたしはよくわからなかった。
アルビノなんだねと声をかけると少し不機嫌そうな声でなにかようか?と聞かれてしまった。
なにか気分を害してしまったんだろうか、やっぱりあたしには心の機微は分からない。
「そうか、るんと来たっていう意味は分からないけど、俺はこのあと予定があるからまたどこかで」
そう言って足早に立ち去ろうとする彼のあとを追いかけた。
その後自己紹介をして歩くんっていう名前をしった。
でもあたしの名前でピンと来ないなんて歩くんてばテレビとか見ないのかな?
これでも結構有名にはなってきたと思うんだけどなぁ。
大きなケースにスーツケース、背中にも大きなリュックを背負った歩くんになんでそんな大荷物か聞いたら、一人で演奏して歌うって聞いてあたしはまたるんっと来ちゃった。
ほんと面白いな~歩くん。
その後ギャラクシーまでの道のりであたしと歩くんは結構話をした。
とはいっても全体的にあたしが話て歩くんは聞き役に徹してたけど、でも歩くん聞くの上手だから話してるあたしも全然疲れなかったし楽しかった。
「氷川、今から俺のライブもあるしなにかの縁だ暇があったら見てくれ」
そう言ってあたしの手にチケットをくれるとお礼を聞いてすぐにギャラクシーの中に入っていった。
チケットを見るとまだライブまでの時間は一時間くらいあったからギャラクシーの近くのカフェに入って時間を潰すことにしようと思って店に向かった。
飲み物を受け取って、開いている席を探すために店内をうろついている時に声をかけられた。
「日菜さん?」
特徴的な赤色にメッシュの女の子、蘭ちゃんがあたしに話しかけてきた。
席を見るといつものメンバーが座っていて、一席だけあいていた。
「あ~蘭ちゃんにAfterglowのみんなじゃん!」
そう言いながら近寄って開いている一席に座った。
「蘭ちゃん達はどうしてここに?ギャラクシーで蘭ちゃんたちライブあったっけ?」
「ちょっと蘭が気になる人がいて、それでまりなさんからチケットも貰いましたしみんなので見ようって事になってですね」
「ひまり!それじゃなんか変な言い方じゃん!」
「でもさ~間違ってないよね~」
うんうんと巴ちゃんとつぐみちゃんも同調した。
蘭ちゃんたちもライブみるんだ、もしかしなくてもあたしと同じライブかな?
「あたしもチケット貰ったからライブみるんだ!」
そう言いながら財布からチケットを取り出してAfterglowのメンバーに見せた。
「あ、あたし達と一緒のライブ見に行くんですね日菜さん」
「やっぱり?だと思ったんだよね、ここのカフェに居るの珍しいし」
そういえば蘭ちゃんが気になる人が居るって言ってたな。
気になる人か~誰なんだろ、聞いてみたほうが早いや。
「蘭ちゃんが気になる人って誰なの?」
「あー、その皆川歩って人でして、昨日たまたまCiRCLEで歌声聞いたんですよ、そしたらすごくてもっと聞いてみたいって思いまして、まりなさんに聞いてみたらチケット貰ったんでみんなで来たんです」
へー蘭ちゃんが気になる人か~、皆川歩......って歩くん!?
「え!?歩くんじゃん!奇遇だね!あたしも歩くんからチケット貰ったんだ!」
「「え!?」」
Afterglowのメンバー全員が驚いた表情をして声を上げていた。
「いつ出会ってたんです!日菜さん!」
ガバっと勢いよくあたしの肩を掴んだ蘭ちゃんが問いただすようにして声を荒げた。
あまりの勢いにちょっとびっくりしちゃった。
「えっとさっきだよ蘭ちゃん、あとちょっと近いよ~!」
「あ、ごめんなさい日菜さん...ていうかさっき!?」
「うん、さっきちょうどギャラクシーに向かってる歩くんを見かけたらるんって来ちゃって色々話してたらチケットもらえたんだ!」
「そう、なんですね」
「なんていうか日菜さんはすごいよね~」
「うんうん、行動力の塊って感じ!」
「そうだな日菜さんみたいな行動はアタシには真似出来ないわ」
「日菜さんのそういうところ見習わないと!」
「あはは~、それほどでもないよ!」
「あー!もう20分前だ!みんないこーよ!」
時計を確認するともうすぐ時間だからちょっと急ぎ気味にあたし達はお皿を片付けて店をあとにするとギャラクシーの前までやってきた。
「うわ、すごい人」
蘭ちゃんが言った通りすっごい人がギャラクシーの入り口からずらーっと並んでいた。
ギャラクシーにこんなに入るのってぐらいの人がいてびっくりしちゃった。
「うーんすっごいね!ほらみんな並ぼ!」
あたしがそう声を上げるとAfterglowのメンバーを先頭にして最後尾に向かっていった。
最後尾にはチケットの確認をしているまりなさんいた。
「あ、みんなこんばんわ、ライブ来たんだね」
「そりゃ、気になりますからね皆川さん」
まりなさんが蘭ちゃん達のチケットを確認するとあたしのところにきた。
「あれ日菜ちゃんも歩くんのこと知ってたんだ」
差し出された手にあたしの持ってるチケットを手渡してからその言葉に返答しようとするとまりなさんが突然大きな声をだした。
「え!?嘘!?日菜ちゃん歩くんからチケット貰ったの!?」
まりなさんがこんなに驚いているのは見たことがなかった。
あたしがちょっと気圧されながらさっき知り合って貰ったことを手短に説明すると、落ち着くために深呼吸をしていた。
「い、いや~びっくりしちゃったあの歩くんが日菜ちゃんと付き合ってるんじゃないかって思って」
「付き合ってないよ~まりなさん!ただるんってきただけなんだ!」
「そ、そう」
まりなさんはあんまり理解してなさそうな顔をしていた。
「えっと、まりなさんなんで日菜さんのチケットが皆川さんから貰ったモノってわかったんです?」
蘭ちゃんが当然の疑問を口にするとまりなさんはふぅっと息を吐いて説明してくれた。
「歩くんに渡してるチケットは裏に歩くんのサインがしてあるの、だからわかったのよ」
「あーなるほど~、でもなんでまりなさんはそんなに驚いたの~?」
「ああ、それになんで日菜先輩と付き合ってるって勘違いをしたんだ?」
モカちゃんと巴ちゃんがまりなさんにそれぞれ質問をぶつけた。
「えっとね、歩くんチケットノルマとかは無いけど友達用にって渡そうとしたんだけど要らないって言われちゃって、でも流石になぁって思って一枚だけ毎回渡してたんだ、それで今回始めて日菜ちゃんが使ってたから付き合ったんじゃないかなって思っちゃって」
あはは、とまりなさんは笑うとじゃあ楽しんでねと声をあたし達にかけてそのままチケット確認に列の後ろへと歩いていった。
「ていうか、皆川さんチケットノルマないんだ...」
「あたしも無いよ!蘭ちゃん!」
えっへんと胸を張ると蘭ちゃんはでもたまに彩さんはチケット渡してますよって言ってたからびっくりしちゃった。
彩ちゃんあたしに渡してくれたらおねーちゃんには渡せたのに、でもおねーちゃん来てくれなさそうだからなぁ...
「ま、まあ良いんじゃないですかね日菜さん」
取り繕ったような笑顔だったけどまあ、いっかあたしもあんまり友達居ないからチケット捌けないだろうし!
歩くんも話した感じじゃ友達いなそうだったし!
そうこうしているうちに列が動きだした。
もう開場したのだろう、歩くんの歌とか演奏が楽しみでるんってしてきちゃった。
この話は導入部分となりますのでよろしくお願いいたします。