召喚士とゼロ
それは、強敵を求めて未だ見ぬ風景を見るために獲物を狩りながら空中を移動している時だった。
「なんだ、あれは」
眼下には、ついこの間までなかったはずの小さな浮島。本当に小さな浮島だが何度もここを訪れているはずなのに見た事はなかった。
本来この海域に島などなかったはずなのだ。
「……降りてみるか」
何か運営の思惑があるかもしれないと思い、その島に降りる事にした。蒼月に指示をだし浮島に降り立つ。
浮島の中央には、人影が一つ。
『やぁ、君がこの世界で最も強い存在かい?』
特に特徴と言える特徴はない、優しげな好青年…若干気弱そうでヘタレ臭が漂うが。
「私が最も強いとは言えないな。師匠たちの方が強いだろうし」
『でも稀人の中で君が一番強いよね?』
「稀…人?」
『まぁ、いいか。此処にいるって事は最低限の実力はあるんだろうし』
その人は、1人納得したように頷きこちらに杖を向けた。反射的に戦闘態勢を取る。
『まずは、戦力を集めないとね』
そして光がはじけた。
『ポータルガードが強制解除されました』
『アイテムボックス2が強制転移させられます』
『召喚モンスターが強制解除されます』
(なに!?)
次々と表示されるメッセージに隣を見ると蒼月たちが消えていた。いつの間にか足元には、召魔の森に置いてあったアイテムボックスがあった。
すぐさまアイテムボックスを拾い、背負い直す。そしてグレイプニルに手をかけていつでも梱包出来る様に呪文も準備する。
『そろそろ時間だ』
そう怪しい人物が告げると同時に
ブゥン!
背中に緑色の鏡のような不思議なものが現れた。その存在を認めて、身体を離そうとしたが
ドンッ
『僕の故郷をお願いね』
何かに押され得体のしれない物の中に身体が入ってしまう。入ってしまったとたん取り込むように抗えない力で飲み込まれ始める。
「何が起こって…」
イベントにしてはおかしい。そして本能が何かヤバい事に巻き込まれていると告げている。だが、心沸き立つ危機感ではない。もっと厄介で楽しめないそんな何かを感じた。
所変わって、月が二つある異世界『ハルケギニア』。そこにある国トリステインにあるトリステイン魔法学院で今年2年生に進級する予定の生徒たちが使い魔召喚の儀式をしていた。
召喚した使い魔を見れば特異な魔法属性もメイジとしての力量も確認できる重要な儀式だ。
そんな中、召喚の儀式を何度も失敗している桃色の髪の少女がいた。
彼女の名は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの公爵家ヴァリエール家の3女である。
彼女が、最後のチャンスとばかりに使い魔召喚の儀式「サモン・サーヴァント」の呪文を改変し爆発と共に現れたのは一人の人間。中肉中背であまりトリステインでは見ない黒髪黒目の普通の男に見えた。
「あんた誰?」
男は、召喚されて戸惑っているのか辺りを見回していた。
「ここは何処だ?」
「はぁ?トリステイン魔法学院の事を知らないの?一体どんな田舎に住んでいる平民よ?」
男の言葉にルイズが不機嫌そうに返した。
(トリステイン?聞いたことが無い…それに平民?どういう事だ)
男は、本来あまり働かせない頭をフル活動しながら情報を集める。
周りには制服だろう服を着た幼い少年少女たち。その傍らには自らの召喚モンスターの様に魔物が人を襲わず付き従っている。
目の前の少女の隣には禿げ頭の大人。しかし、
(この人、実戦経験があるな)
薄れた戦いの香りがその教師であろう男から香る。戦って負けるとは思わないが、それでも警戒しておくべきだと判断した。
「ちょっと、平民の癖に貴族を無視するんじゃないわよ!?」
(貴族…つまりここは貴族社会なのか?)
少女の態度からして貴族というのは、特権階級だとあたりを付けた。平民が貴族に従うのは当たり前、そう態度が告げていた。
(なら)
男は、断片的な情報からこの場で自分が平民だと思われると後々面倒だと判断する。確かに平民だが嘗められるというのはどうにも気に喰わない。
出来るだけ、丁寧に礼を取り少女に向き合った。
「初めまして、異国の貴族様。我が名はキース、しがない王家の剣術指南者です」
「王家ですって!?」
「ミス・ヴァリエールが王家の関係者を召喚したですっと!?」
「ベルジック家が王家サビーネ女王陛下より任命されております」
たとえ平民であっても王家の物に剣術を教えているとなると下手な貴族より地位は高い。
何でも言う事を聞く平民だと思われずに済むだろう。
「ミスタ・コルベール!ど、どうしたら!?」
「…契約は保留にして学院長の判断を仰ぎましょう。彼の国と国際問題になるかもしれません」
早速効果があったようでキースは、内心で満足していた。それを表に出すようなヘマはしなかったが。
(しかし、変だな)
先程から鑑定を繰り返しているが、名前以外の職業やレベルが全く見えない…いや、存在していない。
何時もの様に「???」と表示されない。
(ここは、本当にどこなんだ)
今は警戒されるからしょうがないが一段落したら召喚モンスターを召喚する必要があるだろうと思いつつ話している二人を見つめた。
「ついて来てください、学院長に相談します」
「了解した」
ハゲの男、コルベールと少女に呼ばれていた男に呼ばれた。
「ミス・ルイズもついて来てください。彼は、貴方が召喚したものですからね」
(召喚…か)
分からないことだらけだ。メニューは使えるし、ログアウトの文字もある。だが、知らぬ言葉、知らぬ土地…
(一体どこなんだ此処は)
そう1人呟いた。
2人に連れてこられた場所は、例えるならば校長室だろうか?秘書である美人の女性とひげを蓄えた老人。
「さて君がミス・ルイズが召喚した使い魔かね?」
「さぁ?」
キースは、老人の言葉に肩をすくめる。
「ちょ、オスマン校長になんて口を「使い魔やらと言われても何も説明されていないもので、何の事だか」聞いて」
ルイズがキースを戒めようとするが、それにかぶせてキースが言葉を紡ぐ。
「そちらには“サモン・サーヴァント”の呪文が無いのかね?」
「我らの国には、使い魔…いいえ召魔を従える“サモナー”という職業があるので魔法使いが使い魔を持つことはあまりありませんね」
「なんと、それならば“サモン・サーヴァント”の説明からせねばらるまいな」
それから説明されたことは、“アナザー・リンク・オンライン”の設定から大きく外れた話だった。
“サモン・サーヴァント”…それは魔法使い、いやメイジと分類されている貴族が生涯の友にして従者である存在を召喚する儀式であるらしい。
メイジは、コモン・火・水・風・土・虚無の内コモンは基本的に誰でも使える魔法であり火・水・風・土の内どの属性が最も適性のあるのか“サモン・サーヴァント”とで知る事が出来るらしい。それを指標に事業の内容を決める為、2年生への進級試験は“サモン・サーヴァント”の魔法を使った使い魔召喚を題材にしているそうだ。
その中で最も異質なのか虚無であり、始祖であり全てのメイジの始まりと呼ばれるメイジ以外には発現していない伝説の系統。どんな呪文があるのかさえ分からないと言う謎の系統。
その基礎のコモンを除いた5つの属性のみで、複数の属性を組み合わせたり掛け合わせることで氷や雷などの属性を扱う。
随分と自分達が動いていたゲームの設定から外れた話だ。
(ますます怪しくなってきたな)
「して、君は王家の剣術指南役だと聞いたが?」
「はい、我が師には“宮廷魔導師”に推薦していただいていたのですが当時姫君であるサビーネ王女に剣の指南をした折に肩書を貰い受けました」
「ほう、“宮廷魔導師”とな?」
「我が国では、貴族が必ず魔法を使えるとは限らないのです。大陸が違えば魔法の成り立ちも変わります、私はいざとなれば前衛にて戦える接近戦闘能力と後方にて支援できる魔法戦闘能力が高いと評価されていまして王族の護衛として任を受けた時にその実力を買われたのです」
「それが“剣術指南役”という立場かの?」
「はい、サビーネ王女は王女でありながら騎士でもあるお方で魔法よりも剣の方が得意で未熟な所をつい指摘して稽古をつけてしまいまして」
「成程のう」
オスマンと呼ばれている老人は、キースの言葉にその立派な髭を撫でた。
「王族の方々には、どれ位の頻度で会うのかね?」
「あ~、今は死んでしまった王族の方々に変わり国を治めるのに忙しく稽古をつけている時間が無いのであまり会いませんね。つい数年前まで内乱がありまして」
「なんと、それは大変じゃったのう」
「まぁ、師匠方々や私の知り合いの者達も味方しましたのでそれほど大きな被害はなかったのですが、反撃するまでの間の民の犠牲が多く…」
「それは…」
実際、国の奪還間に魔人に魅入られた人々は救えないと師匠は言っていた。一部をスケルトンにされたり、魅了で意識を無くして肉壁にしていたりと民への被害は大きかった。
それを治めたりしていて、サビーネ王女たちは大忙しらしい。それこそ年単位で。
「その間は、基本的に王家が進出したがっている大陸に常駐し未知の魔物の排除や拠点の作成を知人たちと共に行っております」
「大陸…」
「随分前に文明が滅びたそうで残っている人口なんて雀の涙ほどしかない大陸ですが資源も豊富で見逃す手はないと内乱の前から手を出していましたから、もうすでに王家の手助けが無くてもある程度は動ける体制があったんです」
「成程」
「ですから、数年ならば行方をくらませても「ああ、強敵を求めてどこかに行ったな」位しか思われないんでしょうが…」
「何ぞ、問題があるのかね?」
「まだ嘗ての内乱の敵の首領を全て捕縛していないんです、いざとなれば戦場へ参上しその首領を殺すまたは捕獲するのが私の役目なんですよね」
「つまり、戦が始まる前に戻らないと問題があると」
「私以外には師匠たちが戦えるでしょうが、師匠たちは王族の護衛として後方にいてもらっていますので必然的に私にお鉢が回ってくるわけです」
キースの言葉にオスマンが顎に手を当てて考え込んだ。
(信じるならば、この人物は仕える国の最高戦力に当たる存在ということかの?先ほどの言葉、接近戦闘能力と魔法戦闘能力ということは武器も使えて魔法も使えるという事そんな人材そうそういないはずじゃ)
そう考えているオスマンだが、キースのいたゲームの世界ではそういうプレイをしていた人物は少数ながら存在はしている。キースの様にありえない位凄いリアルスキルを持って最強の一角だと数えられている存在が稀なだけである。
「君の国は何処にあるかわかるかね?」
「さぁ?使い魔として無理やり召喚されたみたいで詳しい現在地なんて分かるわけありませんし、もしかしたらすごく遠くかもしれませんね」
「むぅ」
「帰る手段も今のところ分かりませんし、どうすればいいですかね?」
「そうじゃのう…」(しかし本当にどうするか、いくら遠くの国であってもその国の最高戦力を事故とはいえ勝手に誘拐したようなものじゃし)
使い魔との契約は、一生もの。勝手に他国に属する者に契約を強制などしたら外交問題になりかねない。
「せっかくミス・ヴァリエールが成功した魔法なのじゃがなぁ、使い魔の契約は一生もの。使い魔が死ぬまで契約は切れん代物じゃ。もう一度召喚させたとしてキース殿の前に召喚の門がまた開かれてしまう可能性がある…どうしたものか」
「………」(さて、どうするべきか)
そんな2人の会話を聞いていて涙目を浮かべていた少女がいた。言わずもがなキースを召喚したルイズである。
(なんで、なんで…召喚した使い魔がただの平民だと思っていたのに)
ルイズは貴族としてのプライドが高い、そして自分が招いた外交問題になるかもしれないという事態に泣きそうになっていた。
凄い使い魔を召喚して今まで馬鹿にしていた奴らを見返す。「メイジの実力を見るなら使い魔を見よ」魔法が全く使えないルイズの評価を改めさせるには万人が凄いと認める使い魔を召喚することが一番簡単で確実にできる事なのだ。
だがいくら使い魔を召喚出来たとはいえ“コンタクト・サーヴァント”が出来なければ完了した事にならず進級も出来ない。それがさらにルイズの心に闇を落としていた。
(王家の剣術指南役?宮廷魔導師?何よそれ)
使い魔とは、メイジの生涯の友であり仲間であり下僕だ。その下僕が貴族の自分よりもかの国でははるか上の地位にいるという事も宮廷魔導師という職に選ばれるほどに魔法が使えると言うのも何もかもが下僕よりも自分が劣っていることを感じさせていた。
(何で、何でなのよぉ)
何時も魔法が失敗して、馬鹿にされてきた。魔法成功確率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』と呼ばれていた。
使い魔として召喚した男は、魔法が使えるのに自分は全く使えない。唯一成功したのが男を召喚した“サモン・サーヴァント”のみだ。
やっと魔法が成功して、周りの奴らを見返せると思ったら召喚したのは他国の王族の関係者。外交問題に発展するかもしれない人物だ。
それらの事実がルイズを追い詰めていく。
「…済みませんが、試したいことがるので契約?という奴をしてもらってもよろしいですか?」
「試したいこと?」
「ええ、これが成功すればまぁ当面の問題は解決できるでしょう」
「うむ、内容は教えてもらっても?」
「あなた方の魔法にはないようですが、我々の国の魔法には魔法の効果を打ち消す魔法があります。その魔法が効果があれば国への帰還までならば彼女の使い魔として働いても私は構いません」
「!?……そんな魔法が」
「まぁ、成功するかどうかは半々でしょうけど」
「う~む、ならば儂の使い魔で試しましょう。もし解除されてももう一度契約を結び直せばいいだけじゃし。
モートソグニル!」
オスマンの呼びかけに答え、モートソグニルと名付けられているネズミがオスマンの机の上に上がった。
「こやつが儂の使い魔の、モートソグニルじゃ」
「では、試してみても?」
「構わん、実験は大切じゃからの」
「お言葉に甘えて」
キースは、無音詠唱と詠唱破棄のスキルを控えに回して「ディスペル・マジック」の呪文詠唱を行う。
「ディスペル・マジック!」
キースの魔法が発動するとモートソグニルが白い光に包まれ
キィン
何かが割れた澄んだ音が響いた。
「…………」
「が、学院長?」
オスマンは、目を見開きキースに逃げないように捕獲されているモートソグニルを凝視していた。その姿に秘書である女が声をかけた事でオスマンの目に驚愕の色が現れる。
「つ、使い魔の契約が切れておる」
「「なんですって!?」」
その事実にコルベールと秘書の女が声を上げた。本来なら解除できない契約を解除したのだその驚愕は当たり前だろう。
「す、すごい!そんなすごい魔法がこの世にはあるのか!」
「しかし、これで当面の問題は解決じゃな。キース殿の祖国が見つかるまではミス・ヴァリエールの使い魔を引き受けてもらえますかな?」
「構いませんよ、どうせする事もないでしょうから」
キースは、なにか違和感を感じていた先ほどからフレンド登録しているプレイヤーと連絡を取ろうとしたが取れないし、「テレポート」の呪文を使おうと思っても今まで行っていたはずのエリアポータルの一覧が出ない。
まずは、現状を確認するためにこの魔法学院という情報が沢山ありそうな場所に一時的に厄介になりたいと思っていたのだ。
いつでも解除できるなら使い魔になる事も苦ではない為了承する事にした。
「では、ミス・ヴァリエール」
「…は、はい!?」
「キース殿と“コンタクト・サーヴァント”を行いなさい。ただし、キース殿はくれぐれも不当な扱いをせず動物などと同じように躾けようとしないように」
「あ、当たり前です!」
「ならば、よし。では、“コンタクト・サーヴァント”を」
ルイズとキースが向かい合う。
「それで“コンタクト・サーヴァント”ってのはどうやるんだ?」
「こうやるのよ。
我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
杖を持ち呪文を唱えると
グイッ、チュ
「!?」
ルイズに無理やり頭を下げられキスされてしまったキースは、目を見開いた。
「こ、これが“コンタクト・サーヴァント”よ!」
「え、ななな!?」(垢BANになるはずなのにその警告類がない!?)
キースは、突然の事態に大慌てになるが
「グッ!」
突然灼熱の鏝を当てられたような痛みが左手を中心に体を襲った。こんな事で悲鳴を上げるような無様を起すような事もなく歯を食いしばり痛みに耐えるキース。
「これは、なんだ?」
「使い魔の証たる、ルーンを刻んでおるのじゃ。痛みはすぐに消えるじゃろう」
オスマンの言うとおり痛みはすぐに消え、左手に見た事もない模様が刻まれていた。
「ほほう、これはまた珍しい形のルーンですね。スケッチさせてもらっても?」
「構わない」
コルベールにルーンが刻まれた左手を差し出す。サラサラとコルベールは手早くルーンをスケッチしていく。
「では、キース殿。儂は、お主の祖国について調べるので帰還方法がわかるまではミス・ヴァリエールの事をよろしく頼みます」
「了解しました」
「ミス・ヴァリエールは、今日の授業を休みキース殿にトリステインなどこの国での一般的な常識を教えて差し上げなさい。幸い君は座学では優秀な生徒じゃからな」
「わ、分かりました。オスマン学院長!」
そしてキースとルイズは、学院長室を退室した。