首にある血のような赤を携える紅玉と深い深淵の闇のような黒い首輪をイラだしげに軽くひっかいた。そんなことをしても外れないのはもとより知ってはいるが、それでも思わずやらずにはいられないほど今の精神状態は不安定だ。
端的に言えば、世界が滅び、死ぬはずだった私は運営に回収されたといったところだろう。
米軍基地でウェーブと私が呼んでいた女性が私を運営が作ったロボットに組み込もうとしたが間に合わず殺され、私の脳と脳幹は運営のロボットに回収された。
そこで新たな肉体を与えられた。
運営のオーバーテクノロジーでゲームの世界を基準とした肉体を与えられた。魔法も使えれば武技も使える脳と脳幹は元々の私の物を使っているがそれにも特殊な加工が施され年を取るという事が無くなったらしい。
自分と運営の意思で外見年齢は5歳の幼子から80歳の老人まで変わる事が出来るそうだ。
運営からすれば特定監視対象を現実の方の世界を切り離したとはいえ捨てるのももったいなく、電子データから生きた人間を再生し再現する技術の実験体としても使えるという事で首輪をつけられ飼われている。
大人しく飼われるような性格ではないが、肉体を新たに与えられた事に感謝していないはずもなくそしてゲーム基準ならば拮抗する相手もいないだろうという事で与えられた部屋で大人しくしているわけである。
「……暇だ」
しかしゲームの世界で戦闘三昧な生活を続けていたからか戦闘欲求が満たされずイライラし始めている。
『キース、君の役割が決まったよ』
電子的な存在となった久住のホログラムが展開され私の目の前に現れる。
「久住か」
『ま、アナザーリンクオンラインでも君の担当だったからね僕に回されたよ』
「それはどうでもいい、私に何をさせるつもりだ」
『君には、選定前の世界の視察の役割を与える事になった』
「視察?」
『正確には、並行世界だけれど普通ではない力を持った世界への視察さ』
その言葉に首をかしげる。今まで接続された世界の資料をもらい読み進めたが、戦争が勃発しすぎて世界滅亡寸前とかなどはあったが共通して高度な文明と技術を持ちVRシステムがあっても不思議ではない世界という共通点がある。
しかし普通ではない力を持った世界というのはどういう事だろう。
『並行世界にはいろんな世界があってね、よく似た歴史と発展をしているのに魔法があったり、錬金術があったり色々あるのさ。
そういう世界は剪定しようにも原住民の能力にこちらのロボット技術が負ける場合もありうる。しかし視察を送ろうにも君の様に魔法などの補助が無くても大丈夫な人材は今までいなかった』
「爺様と親父はどうなんだ?実力的には私より上のはずだぞ?」
『あ~、それも考えられたんだけどねぇちょっと性質的にそういう視察とか興味なさそうだし」
「私も興味はないが?」
『だけど、傭兵をやっていたっていうだけあって報酬さえ払えばやってくれるでしょ?大体の世界はあの狂った爺さんだし、君や君のお父さんが生き残っている世界の方が少ないんだよ』
「なるほど、それで視察として派遣されるとして私は何をすればいいんだ?」
殆どの確率で爺さんしか残っていないのなら視察には不適格だ。基本的に剣のことしか考えない鬼だからである。
そして父の場合は、大抵の場合妻と息子を爺さんに殺されて半ば廃人状態であることの方が多いのでまた不適格だろう。
となれば、ある程度の人としての感性を残し傭兵稼業も行っておりそれなりに使えそうなキースが的確だと判断されたのかもしれない。
『原住民の能力の敵情視察だ。特に世界にとって重要とされるような存在と接触できる立場で君を送り込むからいつも通り流されるがままにあればいい。まぁ、法律とかもあるから殺人は極力しないようにね』
「それ位の分別はまだ残っている」
『基本的には君の自由に過ごしてもらって構わない。時折運営からの指令があるからそれをこなしてくれればいい』
「なるほど、わかった」
様は相手の能力を偵察しながら観光しろという事だ。戦闘行為は現実世界のため基本は禁止の敵情視察。
面倒なことこの上ないが新たな肉体を与えてくれた恩に報いるためには必要なことだろう。
「次元間の移動はどうやって行っているんだ?」
『それを行うための装置があるらしいよ?じゃないとこの世界にオーバーテクノロジーを持ち込んだ技術者が来られないし。
君には僕たちと連絡を取るための端末が支給される。防具はさすがにゲームの世界の防具を再現するのは無理だからカーボン繊維のライダースーツを用意してある。
端末を通して生活資金も渡す事も出来るし必要なら武器もある程度渡せるよ』
シュンッ、と何かが入った紙袋が目の前に現れる。開けて中を見てみれば、ごく一般的なTシャツとズボンが入っていた。
今着ているのは、体の検査などがあったので病院の入院着だったので着替えだろうと思う。