時は過ぎて、夏休みに入った。ハリーは毎日のようにやって来るダドリーの悪友達、ピアーズ、デニス、マルコム、ゴードン、そしてダドリーの通称「ダドリー軍団」にハリー狩りと称した虐めを家に居ては受けやすいので外に出て人目のないところで兄の世界に行き日々を過ごす。
そんな日々を過ごしているとフィッグばあさんのところにハリーは預けられた。なんでもダドリーは「名門」私立スメルティングズ男子学校に入学することとなっており、その学校の制服を買いに出掛けたのだ。
ハリーを度々預かるフィッグは、無類の猫好きだ。一度飼い猫に蹴つまづいて足を折って以来、以前ほど猫好きではなくなったが、ハリーはひたすら猫の写真を見せられることを除けば、彼女のことは結構好きだ。何しろ、怒鳴りつけられることがない。始終家事をこなす必要もないし、それどころかテレビも見せてもらえる。ハリーは感謝の念もこめて、フィッグから材料を分けてもらってドライフルーツケーキを作った。
「………」
(制服を着たブタだな)
そんな風に穏やかに過ごした夜、ダドリーはピカピカの制服を着て居間を行進してみせた。おじさんは人生で最も誇らしい瞬間だと声をつまらせ、ペチュニアおばさんは、こんなにハンサムな子が、私のちっちゃなダドリー坊やだなんて、信じられないとうれし泣きした。
ハリーは、その形容しがたい姿にコメントする言葉もなく兄であるキースはあれならオークの方がまだ見られるなと思いながらそうコメントを残す。
翌朝、ダドリーは制服を脱いでいたものの、スメルティングズの杖を持ってご機嫌だった。そんなダドリーを冷めた目で見ながらバーノンの前に朝食を運ぶと郵便受けが開き、郵便が玄関マットの上に落ちる音がした。
「ハリー。郵便を取ってこい」
バーノンに言われ、ハリーは郵便を取りに玄関へ向かった。マットの上に3通落ちている。マージからの絵葉書や請求書、そして切手が貼られていない、見慣れない羊皮紙の封筒。最後の封筒を拾い上げたハリーは、エメラルドのインクで書かれた宛名を見て驚いた。
「サレー州 リトルウィンジング
プリベット通り4番地 階段下の物置内
ハリー・ポッター様」
やたらピンポイントな住所だ。
(随分細かい住所を書くんだな)
(だね)
封筒を裏返すと、紫色の封蝋があった。真ん中に大きく“H”と書かれ、それを囲むように獅子、鷲、穴熊、蛇が描かれている。その印に見覚えがあったハリーとキースは笑みを浮かべる。
「ハリー、早くしな!」
キッチンで朝食を準備しているペチュニアに急かされ、ハリーはビングに戻った。バーノンに絵葉書と請求書を渡すと、自分に来た手紙を開こうとした。だがダドリーが叫んだため、それができなくなってしまった。
「パパ! ハリーが手紙を持ってるよ」
手紙に気付いたバーノンが、すぐにハリーの手からそれをひったくった。
「それは僕宛の手紙だよ!」
「お前に手紙なんぞ書く奴がいるものか」
バーノンはハリーを馬鹿にしながら手紙を開いた。だが文面に目を走らせた途端、バーノンの顔色が悪くなった。青を通り越して白っぽい。バーノンはどもりながら妻を呼んだ。ダドリーが手紙を奪って読もうとしたが、バーノンは太った手を避けてペチュニアに渡した。ペチュニアは訝しげに手紙に目を落としたが、一行目を読んだ途端、恐怖の顔つきをした。
「バーノン、どうしましょう……!」
バーノンはペチュニアと顔を見合わせると、今度は真っ赤な顔でハリーの方に振り向いた。
「あっちへ行け! ダドリー、お前もだ!」
リビングを追い出されたダドリーは、ドアの鍵穴に耳をつけて盗み聞きをしようとしていた。ハリーは気にせず物置に戻る。
「ホグワーツから来たね」
(ああ、だがいつになったら手紙を手に出来るやら)
きっとバーノンたちは、ハリーが手紙を手に入れるのを邪魔し続けるだろう。だが心配はしていない。
ハリーは、ハリー・ポッター。魔法界の英雄、闇の帝王ヴォルデモートを倒すための切り札。そんな存在を魔法界は野放しにしない。そう確信していた。
「大丈夫だよ、それに僕は魔法界を知らない事になっているからねしばらくすれば案内人が来ると思うよ」
(まぁ、そうだがな)
その夜、仕事から帰ってきたバーノンは、ハリーがいる物置までやってきた。不思議そうにしているハリーに、バーノンは引き攣った笑顔を浮かべた。バーノンが無理矢理にでも自分に笑顔を向けることは数少ないので、ハリーは眉を寄せた。
「ハリー。この物置はだな……お前にはそろそろ狭くなってきたかと思ってだね……おばさんとも話したんだが、ダドリーの2つ目の部屋に移ったらどうだね?」
「どうして?」
「質問は許さん! いいから荷物をまとめてさっさと二階へ移るんだ!」
ハリーが質問すると、バーノンはすぐに怒鳴りつけた。
ダドリーの2つ目の部屋とは、ダドリーが自室に入りきらないおもちゃやその他色々なものが押し込まれている部屋だ。ハリーは言いつけ通り少ない私物を持って2階へ上がると、その部屋に入った。ハリーには価値が分からないガラクタばかりが散乱している。キースが久重達を呼び出し掃除させる、物を捨てれば何かしら言われるので収納スペースにそれらを片付け、埃っぽいベットを運びだし昼夜逆転しているあの世界で天日干しをする。
ちょうどその時、階下からダドリーがわめく声が聞こえた。
「あいつらを部屋に入れるなんて嫌だ……あの部屋は僕が使うんだ……あいつらを追い出してよ……」
ペチュニアがダドリーを宥める声が聞こえる。ハリーはドアに鍵をかけると本来の自分の部屋に移動してベットに横になった。
「こんなの意味あるのかな」
「ないんじゃないか?住所が書き変わってまた来るさ」
ベットに横になったハリーの頭を撫でながらベットに腰かけるキース。
「まっ、しばらくの我慢だ」
「うん」
ハリーは兄のぬくもりを感じながら目を閉じた。
次の朝、ダーズリー一家の食卓は静かだった。ダドリーはひどくショックを受けていた。どんなに泣いたりわめいたり暴れたりしても、2つ目の部屋を取り戻すことができなかったからだ。
そして朝の郵便が届いた。バーノンは何故かハリーの機嫌を取ろうとしているらしく、昨夜のような不恰好な笑顔を浮かべて、ダドリーに郵便を取りに行かせた。ハリーはどきどきしながら郵便を待っていた。ヴォルの言葉を信じるのなら、今日またホグワーツからの手紙が来ているかもしれないのだ。ダドリーはスメルティングズの杖であちこちを叩きながら郵便を取りに行ったが、すぐに大声を上げながら戻ってきた。
「また来たよ! プリベット通り4番地、一番小さい寝室ハリー」
ダドリーが宛先を読み終えるより早く、バーノンはとんでもない叫び声をあげながらダドリーを組み伏せて手紙を奪い取った。だがダドリーも手紙が気になるらしく、機嫌の悪さも手伝って父親を杖で殴っていた
自分の手紙なのに、とあっけにとられて当のハリーは呆然としていた。やがて、息も絶え絶えに立ち上がったのは、バーノンだった。手紙を鷲づかみにしている。
「物置に・・・じゃない、自分の部屋へ行け」
おじさんはゼイゼイしながら命令した。
「ダドリー、おまえも行け・・・とにかく行け・・・」
移って来たばかりの部屋に戻ると、クスクスと笑うあまりにも必死なバーノンの姿が滑稽だったからだ。
「これからは根競べかな?」
(負ける事が決定している根競べだけどな)
次の日の早朝、ハリーが階段を下りると、玄関に大きな何かが横たわっていた。しかも微妙にもぞもぞと動いている。ハリーが内心びくびくしながら電気を点けると、それが寝袋に包まったバーノンおじさんだということが分かった。どうやらハリーが郵便を受け取れないように、わざわざ玄関で手紙を待ち伏せていたらしい。ハリーは大きな脱力感に襲われた。とりあえず、変質者でなくて良かったと安堵する。バーノン自体がすでにそれに近いような執念を見せている気がしないでもないが。
バーノンの命令で紅茶を淹れたハリーがキッチンから戻ってくると、ちょうどバーノンの膝の上に郵便が投げ込まれるのが見えた。羊皮紙の封筒は四通あった。バーノンはそれをすぐに引き裂いた。
バーノンはその日会社を休み、家の郵便受けを板で塞ぎ、釘を打った。バーノンは困惑するペチュニアに説明した。
「こうして配達させなければ、奴らも諦めるだろう」
「でもあなた、そんなことで上手くいくかしら」
ペチュニアは不安げに首を傾げたが、バーノンは結局郵便受けを釘だらけにした。
翌日の金曜日には、八通もの手紙が届いた。どうやら届け先は郵便受けに限らないようで、扉の隙間やらトイレの小窓やらあちこちにねじ込まれていた。かなりフリーダムな郵送をする学校である。バーノンは再び会社を休み、手紙を全て焼き捨てた。また釘と金槌を持ち出すと玄関も裏口も板を打ちつけ、誰も外出できないようにした。ヴォルはその様子を意地悪く笑いながら見ていた。
曜日になると、さらに手紙の配達方法は過激になっていた。手紙は全部で12通も届いた。牛乳配達が不思議そうな顔で、居間の窓からペチュニアに卵を1ダース渡したが、その卵一つ一つに丸められた手紙が入っていたのだ。バーノンは、誰かに文句を言わなければ気がすまず、郵便局と牛乳店に怒りの電話をかけた。ペチュニアはミキサーで手紙を粉々にした。
「おまえなんかにこんなにメチャメチャに話したがっているのはいったい誰なんだ?」
ダドリーも驚いてハリーに聞いた。ハリーとキースはその言葉に苦笑を漏らすしかなかった。
・・・中略
「えっと」
ハリーは、召魔の森の城館の自分の部屋で本を読んでいた。それは魔法学校の教科書で隣では別の教科書をキースが読んでいた。
「随分と色んな薬の種類があるんだな」
「うん、楽しみだなぁ。それにもしも生徒が自習できるなら傷薬を作っておいてストックしておきたいなぁ。いくら受け身で軽減していてもいたいものは痛いし」
「薬の調合って言うのはなかなか難しいからな、ポーションだって材料は少ないがすり潰す加減とかを間違うと品質が一気に下がるからな」
「うん、知ってる。きっといれる順番を間違ったら大惨事になるんだろうね」
「基本的な魔法もいくつか覚えておいた方が良いな。
たしか」
習得しておいた方がお得な呪文、と書かれた本を見る。
「最低でも武装解除と守護霊、取り寄せ、防御4つは覚えていた方が賢明だろうな」
「武装解除と取り寄せと防御は分かるけど、守護霊?」
「吸魂鬼に唯一対抗できる高等呪文だ。覚えるのは難しいだろうが、ハリーの立場だといつか関わり合いになる可能性も高い。なら今のうちに覚えていた方が良いだろうからな」
“生き残った男の子”それがハリーの魔法界での肩書。有名であればあるほど騒動には巻き込まれやすい。今のうちに身を守るための最低限の魔法は覚えていた方が賢明だ。
「その4つを覚えたら他の呪文も試そう、教科書もしっかりと読み込んで予習復習だ」
「はい」
召魔の森ならば心置きなく教科書を読み、魔法の練習をする事が出来るバーノンたちはハリーが部屋から出なくても気にしない。
だから、少しでも勉強をしたいとそう思った。
・・・中略
ハリー・ポッターは、大変優秀な生徒だ。
あらゆる学科でハーマイオニーに次ぐ優秀な成績を叩きだし、暇があれば図書館や先生たちの元に行き勉強をしている。
それもこれも金に糸目を付けずにハリーの学習環境を整えているキースのせいである。全生徒の持ち物を調査し、7年間分の教科書(これは担当する教授によって変わるので大まかな指標としてだが)、魔法薬学で必要な材料全般、ホグワーツにある書籍の写本を秘密裏に作り、それを収めたハリーの為の勉強部屋を作っているからだ。
召魔の森の中なら魔法を使っても感知されないので思う存分訓練をする事が出来、数々の魔法薬を作れるため予習復習に事欠かない。
夜になれば、ベットのカーテンを閉めて召魔の森へといき予習復習をして自分専用の部屋のベットで寝る。そして朝になって皆が起きる前にベットに戻る。
まぁ、宝石類や貴金属類がモンスターを倒せばドロップ品として手に入るし、それを加工しようにも贔屓にしている宝飾職人もいないし、召喚モンスターに加工させてもそれほどの数が必要なわけでもないので余ったものを売りに出しているだけだから気にせず使いまくっているのだが。
これほど恵まれた環境にいるハリーに勝てるハーマイオニーがどれほど優秀なのかよく分かる話だろう。
「お兄ちゃん!」
「どうした、ハリー」
「このブーツありがとう!」
ハリーは、新品のブーツを履いて闘技場で と手合せをしていた兄の元へと向かう。
「おお!出来たか!」
「すっごく動きやすくて、ブーツとは思えない位!」
「元々、俺が履いていたブーツを元にしているからな。動きにくかったら意味なんてない」
それはユニバーサルドラゴンの革を使って作られたブーツだった。
ハリーは、結構危険な事に巻き込まれる。それを危惧してキースは、問題にならない程度に防具を与える事にしたのだ。
宝石をはめ込んだネックレス、金毛羊で織った布で作った服、そして今回のブーツ。
「サイズが変わったら言うんだぞ、すぐに作るからな」
「当分は大丈夫だよ」
「まだまだ、お前は成長期だからな合わなくなったら遠慮せずに言う様に」
「はーい」
元気よく挨拶をするハリーに笑みを浮かべ、頭を撫でる。
「さて、今日は何をする?」
「今日はね、勉強の復習をしたいんだ。あと動物もどきになる為の方法を調べたいんだ」
「動物もどき?」
「うん、僕のお父さんはそれだっていうし僕もなってみたいんだ」
「許可を取らないといけないんだぞ?」
「だけど、なってみたいんだ」
「そうか、ならこれ以上は言わないさ。まぁ、とりあえずは全部の予習復習が終わって時間が余ったら動物もどきに関する文献を探そう」
ハリーの覚悟を聞いて、キースは頷く。
「さて、まずは武術の復習だ。今から召喚する方と戦うぞ」
「はい!」
そして今日もまたハリー・ポッターは、魔法界でも希少な物理攻撃が出来る魔法使い(物理)として成長していくのだった。