春風と共に   作:ミソカツマン

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一回書くと止まらない、Earnestです。

認知しておいて欲しいのは、コレは小説家もどきが書いた創作だということです。
実際のユキヤグはこんな事しない言わない等思う所はあるかもですが、忘れないでコレは1人の人の妄想です。生暖かい目で読んだいただければ幸いです。

それでは、どうぞ


第1章 ー告げる冬の歌ー

優しいメロディが部屋に流れている。

ゆっくりと重い両眼を開けると、見慣れた天井がある。

 

音楽を奏で続けているスマホを手に取り、アラームを止める。

目を細めて液晶に映る時間を確認し、鉛の様な布団をどかしてムクリと起き上がる。

 

こみ上げてきたあくびを我慢せず漏らし、1つ伸びをして一言。

 

「…月曜か」

 

言外に仕事の日であると認識して、骸見 矢具(むくろみ やぐ)は深くため息を吐くのだった。

 

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「オハヨーゴザイマスー」

 

未だに眠気の残る頭で気の抜けた挨拶をする。

もうすでに「帰りたい」「ゲームしたい」「何も考えたくない」と訴える脳が足に直談判しているのか、一歩一歩が絶望的に重い。

 

やっとの思いで自分のデスクに着き、ドサリと腰を下ろす。

隣のデスクに座っていた男がこちらを見て、憎たらしいまでに元気な笑顔を向ける。

 

「よう矢具、おはよう」

 

「おはよー…」

 

片手をヒラヒラと振って挨拶をする彼に、まるで覇気のない声で返事をする。

あまりに元気がなさすぎに見えたのか、彼は怪訝そうに俺の顔を覗き込む。

 

「どうした、えらい眠そうだな。寝不足か?」

 

心配してくれる彼を他所に、ぼんやりとした頭で昨日の事を話す。

 

「んぁ…朝から4時くらいまでずっとゲームしてた…」

 

「あぁ、なるほど…」

 

個人的にマイブームであるFPSゲームを深夜までやっていたのだと理解した彼は、呆れの混じった視線を矢具に投げかける。

 

彼の名前は赤根 勝(あかね まさる)

矢具の同僚で、同じゲーム好きの友人だ。

 

「ほら、眠気覚ましにガムやるからシャキッとしな」

 

無造作にポイッと放られたガム1つを受け取り、口に運ぶ。

少しずつスッとしてくる呼吸を感じながら、稼働し始めた頭を懸命に回す。

 

ゴキゴキと首を鳴らし、「うし」と言って矢具は仕事に取り掛かった。

 

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「そういえばさー聞いてくれよー」

 

「あん?」

 

対面の席で少し細長いトンカツをかじる赤根がこちらを見る。

仕事を終えた2人は夕食の席を共にしていた。

 

カツを噛みちぎってゴクリと飲み込み、矢具に向き直る。

 

「んで、何さ?」

 

話をするように矢具を促す。

 

「今日の朝にさ、オレ夢を見たんだよ」

 

「はぁ、夢ですか」

 

「そう。で、その夢ってのが…」

 

今朝の事を懸命に思い出しながら夢の内容を話す矢具を、赤根はウンハァナルホドとうなずきながら聞いている。

 

「…って夢だったんだよ」

 

「へーぇ?そりゃ不思議な夢だねぇ」

 

やがて矢具が話し終えると、赤根は味噌汁をすすりながらおどけた調子で肩をすくめる。

 

「個人的にはその歌ってた自称神様の詳しい事を知りたい所だけど…」

 

そう言うと、矢具は眉を下げて困った表情をする。

 

「さぁ…それは分からんけど、なんというか、懐かしい感じがしたんだよなぁ」

 

「懐かしい感じねぇ」

 

矢具が話を続ける。

 

「しかもだよ?」

 

「何さ?」

 

「この夢、初めてじゃなくて、オレ小さい頃に一回見てるんだよ」

 

興味深そうに赤根が口の端を少し上げる。

彼はこういったちょっと非日常的な話が好きだ。

 

「なるほど?同じもんを?」

 

「同じもんを」

 

へーえ?と面白そうに笑う。

 

「たまに聞くよな、そういうの」

 

「不思議じゃね?」

 

みじん切りのキャベツの山を苦そうに見て、まとめて口の中に放り込んだ赤根が口を開く。

 

「不思議だねぇ」

 

矢具がデザートの杏仁豆腐を食べ終わると、赤根も「ごちそうさまでした」と言ってコップに残った水を飲み干す。

 

「まぁそういうのは、なんか面白いことの前触れだったりするのさ。多分」

 

「多分って…」

 

トンッとコップをテーブルに置いて、赤根は愉快そうに笑った。

 

「そうさ面白い事だ。たとえば、なんかのお告げだったりしてな」

 

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コツ、コツと足音が静かに響く。

車も通らない夜中の暗い路地を、矢具は1人歩いて帰っていた。

 

「お告げ、ねぇ」

 

赤根が笑いながら言った『面白い事の前触れ』

お告げという単語が、あの夢から感じた印象と妙にしっくりくる。

だがそれと同時に、何か違和感も感じていた。

 

「…なんだかなぁ」

 

後ろ手でポリポリと頭をかく。

 

合っているのに何かが違う。

そんな謎の感覚に陥った矢具の頭は混乱し始め、やがて考えることをやめた。

 

壊れかけの電灯に照らされたアパートの錆びた階段を踏みしめながら上がっていく。

あぁ帰ってきた、これを上り切れば家だと、そう思いながら。

 

すると。

 

「…ん?」

 

点滅を繰り返す灯の下、ポツリと1つの人影が映し出されている。

矢具の家の、扉の前に。

 

「…んん?」

 

奇妙に思いながらも、近寄らねば家に入れない。

できるなら無視できますようにと、足音を殺しながらゆっくりと近づく。

扉に手が届く、ついでに言えば影にも手が届く距離まで来て、ついに影の肩がピクリと動いた。

 

俯いていた顔を上げて、ゆるりとした動きで両目をこちらに向けてくる。

 

ジジ、と古びた電灯が目の前の影の姿をその薄明かりで映し出す。

 

 

まず、こちらに向けているその両目はおそらく左右で色が違う。片方は水色で、片方は黄緑だろうか。なんにせよ珍しい眼の色をしている。

 

次に顔つきは幼い。高めに見積もっても20歳(はたち)と少しが良いとこだろう。

 

パッと見は青年少年に見えるが、首の後ろで1つに結ばれた長く青い水色の髪とパチリと開いたその両目、そして幼い顔つきは女性のようにも見える。

 

極めつけは彼?の纏うその和装だ。

その身を包む黒色を主とした和服はこの夜闇に溶け込み、やはり影のようなイメージを覚える。

身体のラインもわかりづらく、より中性的な印象を際立たせている。

そもそもなぜ和装なのか。京都でもあるまいし。

 

「あの〜…」

 

様々な思考を駆け巡らせていると、彼の少年のように高い、しかし男性らしい声が耳を震わせてハッとする。

 

いけない、初対面の子供?をジロジロと見るなんて、一歩間違えなくても事案になりかねない。

 

「わ、悪いジロジロ見ちゃって。ちょっと珍しい格好だなって思って」

 

彼についていろいろと疑問の残る所はあったが、すでに混乱し始めている矢具にそれを考える余裕はなかった。

 

様子を見ていた彼は慌てふためく彼の姿を見て、困ったように笑った。

 

「すいません、事情は話しますので、できれば中に上げていただけませんか…?」

 

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「親戚の子だって?」

 

「ザックリ言えばそうですね」

 

狭いアパートの一室で初対面の大人と子供が言葉を交わす。

字面だけ見るとなにやら不穏なイメージを覚えるがその実、身内間で行われるただの説明会であった。

 

矢具の親戚で男子高校生と名乗る彼は事情説明を続ける。

 

「僕は矢具さんの母親の妹の子供なんです」

 

「母さんに妹なんていたんだ…」

 

「両親はあまり関わりの多い人ではなかったようなので、知らないのも無理はないでしょう」

 

呆れのこもった声色で彼は言う。

 

「それで?」

 

「え?」

 

「俺との関係性と君の身分は今聞いた。それで、君はどうしてここに?」

 

彼が口をつぐむ。

言いづらい事なのだろうか、しかし聞かなければ受け入れる事はできない。

青少年拉致監禁なんて誤解された日にはたまったものではない。

 

自分と彼が真っ赤な他人でない事は理解した。

だが、それがここにくる理由として完璧かと言えばそうではない。

目的を、事情を聞かねば判断する事はできない。

いたって普通の、正しい大人の思考であった。

 

 

彼はやがて口を開き、極めて誠実に話し始めた。

 

いわく、両親が事故で他界してしまった。

いわく、母の姉である矢具ママに引き取られるも、矢具の両親もしばらく家を空けねばいけない。

いわく、「学校からの距離もそんな変わらないから、矢具のとこで世話になっておくれ」と言われたと。

 

そんなところであった。

 

ふーむと多少の困惑をにじませながらも納得する。

 

何かと便利な地元を好み、近くのアパートを借りている矢具。

子を思い極力環境を変化させないようにした母の行動は、なるほど確かに正しい。

一声かけてくれ、しっかり相談してくれ等、多少の小言は言いたい所だが…。

 

矢具は自分を納得させるように深く頷いた。

 

「うんわかった。いいだろう!」

 

パッと彼が顔を上げる。

 

「それじゃあ…!」

 

「ウェルカム矢具ハウスってな!多分短い間だろうけど、この狭っくるしい部屋と共に君を歓迎しよう」

 

両手を広げて芝居かかった歓迎の台詞を口にする矢具。

 

それを見て彼はようやく肩の力を抜いたようだった。

 

「よかった…」

 

初めて見る、彼の子供らしい一面。

実にわかりやすい安堵の表情だ。

 

大人になりかけの高校生とはいえまだ成人もしていない子だ。

そんな子が突然両親と永別し、ほぼ赤の他人の親戚にたらい回しにされたのだ。

目まぐるしい状況の変化は、きっと彼にとってかなりの不安の元だったのだろう。

 

そんな彼を少しでも助けられたのかもしれない。

そう思うと、自己満足ながらも笑みが浮かんだ。

 

「そういえば名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

 

彼は質問に再び凛とした表情を貼り付け-頬の緩みが隠しきれていないが-名前を告げた。

 

「僕はコユキ。暇川 小雪(ひまがわ こゆき)です。これからよろしくお願いします、矢具さん」

 

 

これが彼らの出会い。

ただの社会人とただの高校生の第一接触(ファーストコンタクト)

 

彼らはまだ、自分達の胸の内に芽生えようとしている暖かなものに気づいていない。

彼らを繋ぐそれに気づいていない。

 

 

微笑み合う彼らの家の外で、夜風が吹いている。

一粒の雪が舞い落ちる冬の夜風が、天からの歌を奏でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
不定期更新ですので、次回は気長にお待ち下さい。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
次の話も頑張ります!

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