生まれ変わったので全集中の呼吸極めます。   作:役立たずの狛犬

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ギリギリ一週間です、あぶねぇ。




馴染む転校生とちょっと馴染めない俺

   

 

 

転校生、竹原箒がうちの学校にやってきてから一ヶ月、同時に剣道部でひと悶着あった日からも一ヶ月経った。

 

結局あのあと竹原は部長や他の部員、あと俺にも謝った。俺は何故部長や竹原がキレてたのかはよく分からないし、竹原が謝った理由もよく分からないのでどうでもよかった。

 

 

「なー光照、放課後どっか遊びに行こうぜ!」

「悪い、今日は部活だ」

「今日はって…お前毎日部活じゃんか!たまには息抜きしてもいいんじゃないって思わないわけ?」

「特には。小さい頃からこんなんだし、習慣みたいなもんだよ」

 

今は美術室の掃除中。今日の授業で友人と色々とやらかしてしまい、その罰として掃除をすることになった。しかしその掃除を、さも当然の様にサボりながら話しかけてくるのは、教室で隣の席の友人。金髪に染めた毛髪が異様に目立つ。

 

「はー…漫画ではお前みたいなの見るけど、現実にも居るんだな。そういう奴」

「それは褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだ」

「どっちでもない、ただ感想を言っただけだよ」

「なんだ、それ」

「お前が変人ってことだろ」

 

…確かに、自分が変人かどうか聞かれると自信をもってNOとは言えないかもしれない。前世の自分の事を言われているのなら胸を張ってNOを言えるものの、今の自分は改めて考えてみると変人な部分は多い気もする。

 

「そういや光照、竹原さん結局剣道部入ったんだって?いいよなぁ美人がやる剣道!この間チラッと見に行ったけどくっそ絵になっててさぁ!いいね美人!!」

「そんな誉める割には声かけたりとかしないよな」

「いやぁ…竹原さんはなんと言うか、近寄りがたい雰囲気出してるからなぁ。貧弱なハートの俺には無理だわ」

 

実際、俺は竹原が部活の時以外で人と話している所を見たことがなかった。竹原はいつも不機嫌そうな顔をしているせいか全く人が近寄らない。

 

時たまクラスの女子が絡みに行っても、当たり障りない感じで流される。無視するとかでなくちゃんと受け答えはするのだが、その受け答えの仕方が淡白過ぎて余計近寄りがたい。竹原はそれを問題とは思ってないようだし。

 

「でも、意外と竹原って話しやすいぞ」

「ほんとかぁ?」

「本当だよ、部員たちとも案外普通に話してるし。あとあの不機嫌そうな顔は元からだって」

「元から?あの仏頂面が!?」

「意外だろ?本人から聞いたときはびっくりしたよ」

「今聞いた俺もびっくりだわ…」

 

あの竹原さんが普通の話しているところなんて想像がつかない、そんな顔をして驚く友人。気持ちは大いに解る。

 

「部活といえばさ、竹原さんって実際剣道強いわけ?」

「滅茶苦茶強いぞ、部長よりも強い」

「マジか…?剣道部の部長ってあれだよな、この前朝礼で大会優勝で表彰されてたあの人だろ?」

「ああ、その人だよ」

「…女子なのにそこまで強いってことは、想像つかないくらい相当鍛えたんだろうなぁ。俺には絶対無理だわ」 

 

竹原への感想を持つのは勝手だが、いい加減掃除を手伝ってはくれないだろうか。このままでは俺だけでこの教室の掃除を終わらせることになるのだが。

 

「光照。ここに居たのか」

 

タイミングがいいのか悪いのか、掃除中の教室に竹原がやってきた。どうやら俺に何か用があるらしい、ほんの少し予想がつくが。

 

「お、竹原さんじゃん!?噂をしたらって奴?」

「噂?」

「いやいや此方の話だから気にしないで!そんな事より光照になんの用?」

「ああ、今日も部活の練習に付き合ってもらう予定だったのだが、思っていたよりも遅いから迎えに来た」

 

やはり予想通りだった。俺はあの日から一ヶ月、部活がある日は毎回竹原の練習に付き合わされている。練習は試合形式の時もあり、しかもその際は呼吸法を使うことを強いられる。使わないと手を抜いていると怒られてしまうのだ。正直理不尽だと思うのは俺だけだろうか。

対人で呼吸法を使って戦うことが普段無いから加減もしにくいし。…使わない、何て言ってた時のプライドは何処に行ったのか。

 

「すまない、今は見ての通り掃除中だからそれが終わったら…」

「───は?」

 

突然、ぎろりと友人が俺を鬼の形相で睨んでくる。いや待ってくれ、何で俺を睨む?今の会話の流れにお前がそんな顔になるような部分は無かっただろ。

 

友人はさっきまで振り回していた箒を机の上に置いて、どかどかと音を立てながら俺の側まで近づいてくる。そして小声で俺に文句を言ってきた。

 

「お前!!いつの間に竹原さんと仲良くなっちゃってる訳!!!?」

 

一体何事かと思ったが、聞いてみれば特に何でもなかった。そういえばこいつ、一ヶ月前も竹原を部活に案内することになった俺を羨ましがっていたな。…いまいちよく分からないが、そういうものなのだろうか?

 

「ったく!俺がここの掃除終わらせとくからお前はもう部活行けよ!」

「なんだ、いきなり」

「女子を待たせるなって事だよ!女子放っておいて掃除とかするか?俺だったらしないね!」  

 

また突然の友人の優しい気遣いに一瞬思考が停止してしまう。友人は俺の手から箒を奪い取り親指で竹原の方を指差す。行け、ということなのだろう。

 

「その代わり、今度部活サボって俺に付き合って貰うからな」

「ああ、その時は何でも付き合うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、場面は移り、前回と同じでまた剣道場。今日も今日とて竹刀のぶつかる音で賑わっている。

 

まるで焼き直しかの様な剣道場への移動だが、俺が学校で自分から行くところなんて剣道場しかないから仕方がないのだ。

 

「それにしても意外だった」

「?何がだ、竹原」

「光照が堂々と部活をサボるような発言したことがだ。そういうタイプには見えなかったからな」

「俺は面倒だったらサボるぞ、今は面倒じゃないからサボってないだけだ」

「そうなのか?てっきり私は光照は剣の特訓以外に興味がないのだと」

 

そんなことあるか。そう否定しようかと思ったのだが、これまた否定する材料が見当たらない。特に竹原が転校してきてからここまでの一ヶ月は、竹原からの練習の誘いを断れず部活で馬鹿みたいに竹刀を振っていたし。いや、竹原が来る前までは友人と遊んだりもしていたのだ、本当に時たまだが。

 

「うーん…ああうん、ノーコメントで頼む」

「ノーコメント?」

「いや、否定したいんだがちょっと否定しきれないのがな…」

「そ、そうか…そういうものなのか?」

「そういうものなんだ」

 

沈黙。俺はどうしても異性が苦手なので会話をする気が起きない、ぶっちゃけこうやって真正面に立ててるだけでもすごい方だ。竹原は竹原で軽くコミュ障だ。…お互いに自分から話していけるようなタイプではないので、こういった状況になるとどうしてもこうなる。いつもは部員が割って入ってくれたりしてなんとかなるのだが、今はその頼りになる部員は一人もいない訳で。気まずかったので俺と竹原は同時に柔軟を始めた。

 

「よ、よし!柔軟も終わったことだし早速試合稽古しないか!?」

 

この気まずくなってしまった雰囲気をどうにかしたいらしい竹原は、テンパりながらも試合稽古を俺へ申し込んだ。この申し込みは正直とてもありがたかった、試合をすれば沈黙なんて当たり前だしな。

 

正直最近試合ばかりなので一人で素振りとかしたいのだが、そう思いながらも俺は柔軟のために脇に置いておいた竹刀袋から、愛用の竹刀を取り出してゆったりと構える。

 

「構えた、ということは了承したということでいいんだな?」

「勿論だとも」

 

相対する竹原も竹刀を構える、あとついでに流石に審判が居ないと試合は難しいので、審判を近くにいた休憩中の後輩に声をかけて頼んだ。

 

「ちゃんと本気でやるのだぞ?」

「…使わなきゃ駄目か?」

「ええい!やはり言わなきゃ使わないつもりだったな!!?」

「じゃあいつも通りジュース一本だ」

「むう。分かっている!」

 

仕方なし。呼吸の仕方を部活の時だけしている普通の呼吸から“全集中の呼吸”へと切り替える。因みに呼吸法を使ってでの試合では竹原に負けたことは一度もない。

 

「今日こそは勝つからな!」

「水の呼吸に反応でき始めてるのは誉めてやるが、勝ちは譲れないな」

 

竹原は飲み込みがいい、試合を通して本当に恐ろしい早さで強くなっている。既に一ヶ月前よりも圧倒的に強いだろう。しかしそれだけで負ける理由にはならない。一ヶ月前と比べて強いだけで、竹原は未だに俺の一撃を止めることすら叶わないし。

 

「じゃあ準備はいいですか、先輩──」

「ごめん!竹原さん、ちょっといいかな?」

 

後輩が掛け声を掛けようとしたところで部長が此方に来て割り込んでくる。なんというタイミングで入ってくる部長だろうか、竹原は呼ばれた事に驚きながらも後輩と俺に断りを入れて部長の方へ寄る。

 

「どうしたんですか、部長」

「竹原さん、いきなりなんだけど次の夏季大会に出てみない?個人戦で!」

「大会…?大会ですか!?」

「うん、竹原さんも入部して一ヶ月だし。どうかな?」

「私でいいなら是非お願いしますっ!!」

 

大喜びの竹原、こんなに大きな声を出せたのかと少し驚いてしまう。夏の大会…ということはあれだろうか、全国大会。そういえばこの間そんな話を帰りに聞かされた気がする。確か八月頃だから今から出る選手を決めるのは妥当だろう。

 

「良かった!個人戦の女子がなかなか決まらなくてね、助かったよ」

「良かったな、部長。結構悩んでた…よな?確か」

「よく覚えてるなぁ、でもこれでひと安心だ」

「あの、部長。大会の詳細を聞かせてもらっていいですか?」

「勿論だよ」

 

竹原は出ることになった大会にウキウキのようだ、まぁ大会に出れるって言うので十分嬉しいのにそれが全国だものな。この感じだと試合稽古は出来そうにないし、久々に一人で型稽古でもしようか。そう思った時だった。

 

「あれ?光照先輩は大会に出ないんですか?」

 

後輩が余計なことを口走りやがった。その手には大会に出る選手の名が書かれた紙、恐らく部長が落としたりしたのだろうか。

 

「な、今の言葉は本当か!?」

 

苦笑いで誤魔化そうとする部長と、案の定というか、予想通りの反応をした竹原。

 

「本当だ、俺は大会に出ないぞ」

「光照!?どういうことだ、お前ほどの強さがあればまず出ても可笑しくないだろう!またあれか、試合で本気を出したくないからか!?」

「はは…僕個人としては出て欲しかったんだけどねぇ」

 

食って掛かる竹原を手であしらいながらどう言い訳したものか悩む。今回は別に俺の下らないこだわりとか関係なく出れないのだ。しかしなんというか、その理由を話すのも面倒くさいと言うか。

 

…さて、どうしたものか。

 






今回はほのぼの。次回は多分真面目な回だトカじゃないトカ。

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