ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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初めまして、ジャズです。
この物語は、ホロウ・リアリゼーションのジェネシスがSAOに来ていたら、というIFストーリーです。


アインクラッド編
一話 出会い


朝というのは、現代人にとって最も憂鬱な時だ。

会社員にしろ、学生にしろ、眠りという至極の時間から引き摺り下ろされ、楽しく快楽で溢れた夢の世界から、鬱屈で陰湿な現実世界へと戻らなければならない。

 

「ああ〜…………かったりい〜…」

 

そしてそれは、現在小学校四年生の少年ーーー《大槻久弥》も例外ではない。小学生は皆朝から元気で溢れているものだが、彼は違う。彼にとって朝は最も忌むべき時間だ。

土日ならば、心行くまでゆっくり眠れるのだが、学校のある平日はそうは行かない。

 

久弥は学校が嫌いだ。

 

だがそれは、別に勉強が嫌いとかそういう理由ではない。

寧ろ、久弥は勉強が得意な方だ。テストでもほぼ満点近い点数を取り、校内でもトップの成績を収め続けている。

人付き合いも悪くなく、見た目もカッコいい部類に入り、クラス内カーストでは間違いなく上位に入る人物。

まあ、友達などはいないが。

 

これほどの人間がなぜ学校を嫌がるのか。

 

 

 

 

 

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朝食を済ませ、ランドセルを背負い学校への通学路に入る。閑静な住宅街を抜け、朝から多くの車が行き来する大通りを歩き、その先に久弥の通う学校はある。歩きで約15分。程々に近い距離。

 

通りかかるごとにかけられる同級生の挨拶を適当に返しつつ、久弥は彼の教室に向かう。

 

教室に着き、目に飛び込んできた光景はーーー

 

「鬱陶しいんだよ《ババァ》!!」

 

複数の男女が一人の少女に群がり、罵声を浴びせていたのだ。

罵声を受ける少女はただ俯いて席に着いている。

 

これだ。久弥が学校を毛嫌いする理由は。

 

そう、即ち《いじめ》である。

 

近年問題視されている生徒間の《いじめ問題》。近頃では教師間でも行われるほど激化し、日本社会でもこの問題を防ごうと各地であらゆる活動が行われているが、未だにそれは減少しない。

 

そしてこの学校でもそれが行われている。

 

いじめられている女子生徒の名は《一条 雫》。

何でも日本有数の名家のお嬢様らしいが……いじめのターゲットとされている。

その理由は名家の子だからというのもあるだろうが……一番の理由は彼女の“髪”だ。

 

彼女の髪の色は銀髪なのだ。しかもこれは、染めているのではなく地毛。

これがいじめの原因。雫は別にハーフなどではないが、生まれつき髪の色素が薄いらしく、そのために銀髪なのだ。

 

誤解されがちだが、銀髪=白髪と言うわけではない。そもそも白髪と言うのは、人の髪の毛が老衰によって色素が抜けることによって起こるものであって、銀髪は白髪ではない。さらに言うと、生まれつき銀髪と言う人間は世界的にもごく稀で、子供時代にしか見られないケースが多いらしい。

 

「(……ったく。たかが髪の色違うくれぇでいじめとか。ガキかよあいつらは……ガキだったわ)」

 

スクールカーストの中でも上位に入っている久弥は、このいじめを少し離れたところから冷めた目で見ていた。

 

久弥にとってみれば、いじめの加害者も被害者も所詮はただのクラスメート。言ってしまえば、ゲームにおけるモブと変わらない。助ける義理もないし止める義務もない。

久弥はただ我関せず、と言うスタンスを取り続けていた。

 

いつも通り、暇つぶしに読んでいるジャンプを取り出して読み出す。

 

その内ホームルームが始まって、あいつらも自然と静まるだろう、と久弥は考えた。

 

しかし、今日は違った。

 

「返して!!」

 

少女の泣き叫ぶ声が響き、久弥の意識は再びあのいじめ現場へと戻る。

 

見ると、いじめグループの一人が何かを手にとって掲げており、それを雫が目に涙を浮かべながら必死に取り返そうと手を伸ばしている。

 

「それはお母さんからのプレゼントなの!お願いだから返して!!」

 

「おいおい、ババァの母ちゃんだってぇ?一体幾つなんだろうなぁ?何年生まれ?今何歳?」

 

プレゼントなるものを取り上げている少年は雫の悲痛な叫びに対し聞く耳を持たない。

 

「(母さんからのプレゼント、か……)」

 

久弥には両親がいない。彼がもっと幼い頃に事故死しており、今は祖父母によって育てられていたが、その祖父母も数年前に他界し、以来彼はずっと1人だった。

そのため、実の親からのプレゼントを奪われ泣き叫んでいる今の雫を、久弥は今まで通り見て見ぬ振りなど出来なかった。

 

「……おい。くだらねえ事やってんな」

 

久弥は徐に立ち上がると、少年の手からプレゼント(ペンダントだった)を取り上げた。

突然のことで驚いた少年は振り向くと目を見開いた。

 

「おまっ……久弥!」

 

クラス中の視線が、久弥に集められた。

これがもし、久弥が普通の生徒だったなら、恐らくいじめグループの生徒は「何だよ!!」などと逆上して掴みかかっていただろう。

だが、クラスの中でも上位に入っている久弥がこれをやったのとでは意味が全く異なる。言うなれば日韓のトラブルにアメリカが介入するようなもの。

 

「何すんだよ久弥!!」

 

「何すんだはこっちのセリフだバァカ。テメェらがギャーギャー騒ぐせいで落ち着いてジャンプも読めねぇだろうが。

それよかもうさっさと座れテメェら。チャイムなるぞ」

 

久弥の言葉でいじめグループはいそいそと席に戻っていく。

雫は両目から涙を流したまま久弥を見つめていた。

久弥はそんな彼女に向き直り、ネックレスを彼女の机に置く。

 

「……ほら。取り返してやったからもう泣くな。

それから、そんなに大事なやつなら学校に持ってくるな。取られたって文句は言えねぇぞ」

 

久弥はそう言い残し自分の席に戻って行った。

雫はただ黙ってその背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

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〜放課後〜

 

全ての授業が終わり、生徒たちは皆各々帰路につく。

久弥も「やっと終わった〜」などと呟きながら靴箱へと向かう。

 

すると……

 

「大槻くん!」

 

ふと、彼の名を呼ぶ声が響いた。

見ると、そこに居たのは雫だった。

 

「……何の用?」

 

久弥はぶっきらぼうに答える。

雫は少ししどろもどろになりながらも

 

「あ……えっと……その…ありがとう!助けて、くれて……」

 

久弥はそれに対して少しため息をつき答えた。

 

「別に助けた訳じゃない。ただあいつらのやってる事が気に食わなかっただけだ。だから礼を言う必要もねぇよ」

 

「それでも!それでも君は…私の大切なものを、取り戻してくれた……だから、ありがとう!」

 

雫は満面の笑みでそう言うと、銀髪を翻して走り出した。

そんな彼女を見て、久弥はふっと軽く笑い

 

「……んだよ。いい笑顔、出来んじゃねぇか……」

 

と呟いた。

 

 

〜数日後〜

 

しかし、久弥が雫を庇った事で、事態は悪化した。

 

「久弥に守ってもらったからって、いい気になってんじゃねえぞ!!」

 

「ババァは大人しく腰曲げてよちよち歩いてりゃいいんだよ!」

 

久弥は帰り道、偶然目撃してしまったのだ。

いつものいじめグループが、雫を暴行しているのを。

 

流石にこれを看過できるほど、久弥は冷めた人間ではなかった。

 

「テメェらいい加減にしやがれ!」

 

久弥はいじめグループに割って入り、雫に駆け寄った。

 

「おお…つき、くん……」

 

雫は恐怖と悲しみ、痛みでもう起き上がれなくなっていた。

雫の白い陶磁器のような肌には、痛々しい無数の痣が出来てしまっていた。

「テメェら……!」

 

久弥は怒気を含んだ目でいじめグループの男子を睨みつけた。

久弥に睨まれたじろいだ男子は叫んだ。

 

「何だよ久弥!!何でお前はこんな奴を庇うんだ!!」

 

だが久弥は強い口調で言い返した。

 

「テメェらこそ、何でこいつにここまで出来る?何の権限があってこいつをいじめられる!!

こいつが一回でもテメェらになんかしたか?こいつが一回でもテメェらに《死ね》とか言ったのかよ?!

 

別に何かされたわけでもねぇのに、それを一方的に痛めつけるなんざ…………

 

 

お前ら人間じゃねぇ!!!」

 

久弥の言葉に言葉を失ういじめグループ。

久弥はそんな彼らを見回した後、雫を抱きかかえてその場を後にした。

 

「大槻くん……」

 

「いい。何も言うな」

 

怪我をした雫を自宅まで送る道中、雫は久弥に礼を言おうと口を開くが、久弥はそれを遮った。

雫はそれでも何か言おうと口を開くが、久弥の表情を見て口を閉じた。

 

久弥の顔は、かつてない怒気に覆われていた。

不意に久弥は口を開いた。

 

「許さねぇ……あいつら絶対に許さねえ。

俺の嫌いなことは《弱い奴を一方的に甚振る事》だ。

 

たかが髪だけであんなことするとか……反吐が出る」

 

湧き上がる怒りを言葉に変えて呟く久弥を見て、雫は何も言えなかった。

 

やがて、久弥の自宅に辿り着いた。

 

「えっと……大槻くん、ここは……?」

 

「見ての通り俺の家だ。ここで軽く手当てしてやるよ」

 

そう言って久弥は家のドアを開ける。

そして、リビングに雫を座らせ、久弥は救急箱を取り出した。

まず、出血している部分を消毒液で濡らし、ガーゼを貼る。次に内出血しているところにコールドスプレーを吹き、上から氷を当てて冷やした。

 

「ねえ、何でこんな事……?」

 

「そんなズタボロの状態じゃ家に帰れねぇだろ?

一応軽く応急処置しただけだから、帰ったらちゃんと病院行って診てもらえ。

それと、親にもちゃんと相談しろよ、いじめの事」

 

「できない!」

 

雫はソファから立ち上がって叫んだ。

 

「だって……そんな事言ったら……お母さんが心配しちゃう…迷惑をかけちゃう……」

 

彼女の言い分に久弥はため息をついた。

 

「あのなぁ……そんな傷まで受けて、隠し通せると思ってんのか?転んだなんて言い訳が通じるとでも?無理に決まってんだろ。

それに、相談する事が申し訳ないって思うなら、それはテメェの力不足のせいだ」

 

久弥の言葉に雫は目を見開いた。

 

「もしテメェに何かあいつらにやり返せる力があれば、ここまで事態が悪化することはなかった。こうなったのも全部、テメェ学校に弱いせいだ。テメェがやられっぱなしだったからだ」

 

「……でも…やり返せばまた酷いことされる………もっと痛い事される……」

 

「だったら今のままでいいと?やり返してもっと痛い事されるより、今のままでいいと?」

 

久弥の問いに、雫は黙って頷いた。

 

「はぁ〜〜〜……しょうがねぇなあ。

 

わかった。だったら俺に考えがある」

 

 

久弥は意を決してこう言った。

 

「明日で、テメェのいじめを必ず終わらせてやる。いいか一条、よく覚えとけよ……本当に強ぇ奴は、敵にやり返させねえ。何もせずに勝つんだ」

 

「……どうする気なの?」

 

「へっ。簡単な事よ。髪色でいじめられんなら、髪色を変えちまえばいいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜次の日〜

 

 

 

学校は大騒ぎだった。生徒たちは皆我先にと久弥のクラスへと向かい、廊下はまるで動物園のようだった。

 

「大槻くん……?!」

 

学校に来るなり、雫は教室を見て目を見開いた。

いつもの席に、久弥はいる。

だがいつもの彼じゃない。

 

髪の毛だ。いつもは日本人らしい艶のある黒髪だったが、今の彼は…………赤色になっているのだから。

 

「ちょ、久弥?!どう言うつもりだよ?!」

 

いつものいじめグループに一人が久弥に詰め寄った。

 

「テメェらは一条の事、髪が白いからいじめてんだってな?だったら髪の色が違う事でいじめられんなら、当然俺もいじめを受けなきゃならないよなぁ?」

 

威圧感のある声でそう尋ねる久弥。

それに対していじめっ子グループの少年は口をパクパクとして何も言えない。

久弥をいじめるなど、例えるならロシアに喧嘩を売るようなもの。

 

「さあ!俺の髪色も違うぜ!!いじめんならいじめてみやがれ!!!」

 

 

その日を境に、雫に対するいじめは無くなった。

同時に、雫が久弥と一緒にいるところを目撃する人も増えたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
雫は、と言う名でピンと来た方もいるかもしれませんが、所謂中の人ネタ、と言う奴です。
SAO本編が始まるのはちょっとだけ先になりそうですが、何卒よろしくお願いします。

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