ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも皆さん、ジャズです。
圏内事件編、後編です。


十話 幻の復讐者

目の前でヨルコが消滅しても動じず冷静だった四人。

ヨルコが落ちた窓から外を見ると、遠くに黒いローブを着たプレイヤーが目に止まった。

 

「行ってくる!!」

 

瞬間、キリトは窓から飛び出し、AGIを全開にして屋根を駆ける。

全速力で追うが、中々距離が縮まらない。

その時、キリトの隣を銀の疾風が駆けた。

銀髪と白マントをたなびかせた女性、ティアだ。

バランス型なキリトに対し、速さを追求したティアのAGI値は今やアインクラッド内でもトップを誇る。

ティアはその速さを存分に活かし、キリトを即座に追い抜くと一気にローブの人物との距離を縮めて行く。

 

が、後もう少しの所でローブの人物が何かを取り出した。

転移結晶だ。

 

「っ、くそ!」

 

ティアは毒づくと腰のピックを引き抜き投げつける。

それらは真っ直ぐローブの人物に向かって飛んでいくが、命中する直前に紫の障壁に阻まれた。

行き先だけでも、とティアは耳を傾けたが、直後に鐘の音が街に鳴り響き、聞くことは叶わなかった。

ローブの人物は青白い光に包まれて行く。

ティアはならばと、せめてもの賭けに出た。

 

「ーーカインズ!!」

 

「?!!」

 

ティアがその名を告げた瞬間、ローブの人物はビクッと肩を震わせティアの方を見る。そして、その人物は青白い光に包まれ、その場から消えた。

 

ティアとキリトは、ヨルコに刺さっていたナイフを拾い上げ、宿部屋に戻る。

 

「よお、どうだった?」

 

ジェネシスが壁にもたれかかりながらたずねる。

 

「ダメだ、転移結晶で逃げられた」

 

キリトが首を横に振りながら答えた。

 

「だが、収穫はあったさ」

 

ティアが右手に持った短剣をチラつかせながらジェネシスの方を見て不敵な笑みを浮かべながら言った。

すると、

 

「あ、あのローブはグリセルダの物だ……あれはグリセルダの幽霊だ……グリセルダが、俺たち全員に復讐しに来たんだ……」

 

鎧をガタガタと震わせながらシュミットは口を開いた。

その顔は恐怖で染まっている。

 

「は、ははは……ゆ、幽霊なんだから、圏内でPKするくらい楽勝だよな?あ、あはははは……」

 

両手で頭を抱えながら狂ったように笑うシュミット。

そんな彼を見てジェネシスは嘆息し、彼の頭に拳骨を食らわせた。

 

「あぐっ?!」

 

シュミットはうめき声をあげ、ジェネシスの方を見た。

 

「シャキッとしろい。ゲームで幽霊なんかあってたまるか。てめーは殺させねぇよ」

 

ジェネシスの叱咤でようやく我を取り戻したシュミットは、恐怖を完全に払拭出来てはいないものの、なんとかいつもの彼に戻った。

その後、シュミットを聖竜連合まで送り届けた彼らはNPCレストランへと足を運んだ。

 

「結局、指輪事件の犯人はシュミットなのかしら…?」

 

アスナがテーブルに頬杖をつきながら呟いた。

 

「……いや、恐らくあいつはねぇな。何かしら関与はしただろうが、あいつが直接的な原因とは思えねぇ」

 

アスナの呟きに対しジェネシスが首を横に振って答えた。

 

「けど、じゃあ一体誰が……?」

 

キリトが顎に手を当てながら熟考する。

 

「……グリムロック、という事は無いだろうか?」

 

不意にティアがそう切り出した。

 

「いやいや、それは一番無いんじゃ無い?だってその人、グリセルダさんの旦那さんだったんでしょう?」

 

「ヨルコさんもお似合いの夫婦って言ってたしな」

 

だがティアの意見に対しキリトとアスナの二人は首を横に振って否定した。

 

「…そういや気になってたんだがよ、この世界で結婚すっとどうなるんだ?」

 

不意にジェネシスがそう問うた。

 

「確か、二人のアイテムストレージが共有されるのよ。

でも、なんだかロマンチックで、凄く実際的(プラグマチック)よね」

 

ジェネシスの問いにアスナが少し頬を緩めながら答えた。

 

「確かに、ストレージ共有化というのは身も蓋もない話だな。それまで隠し通せたものが、結婚した途端に何も隠せなくなるのだから……」

 

ティアも頷きながら、チラリと視線をジェネシスの方に向けながら言った。

 

「いやいや、俺たちの間で隠し事なんざしようにも出来ねぇだろうがよ」

 

視線に気づいたジェネシスが苦笑しながら言った。

ティアも「そうだな」と満足げに頷きながら返す。

すると、

 

「なあ、もし結婚している二人の、一方が死んだらどうなるんだ?アイテムストレージは共有化されてるんだろ?」

 

不意にキリトが尋ねた。

 

「グリムロックとグリセルダさんの事?そうね、一人が死んだら……」

 

真剣な表情で考え込むアスナに対し、キリトは

 

「……全て生き残った方の物になるんじゃないか?」

 

と言う言葉に3人は目を見開く。

 

「なら、グリセルダさんが死んだ時、あのレア指輪は…」

 

「グリムロックの足元にドロップした筈なんだ」

 

声を震わせながら言うアスナにキリトが続いた。

 

「つまり、指輪は奪われていなかった……と言うことか?」

 

「いいや違う。奪われた、と言うべきだ。グリムロックは、自分のストレージにある指輪を奪ったんだ!」

 

ティアの言葉にキリトは首を横に振って答えた。

 

「……アスナ、今ヨルコ氏達はどこにいんだ?」

 

ジェネシスがいつになく深刻な表情で尋ねると、アスナは即座にメニュー欄からヨルコ達の居場所を確認する。

 

「……十九層の、森の外れにいるわ」

 

「……不味い、今すぐ行かねえと!!!」

 

アスナがそう答えるや否や、ジェネシスは血相を変えて椅子から飛び出し走り出した。

 

「あ、おい!」

 

「待ってよジェネシス!!」

 

3人も慌てて飛び出した。

 

「ジェネシス、不味いってどう言うことだ?!」

 

なんとか追いついたキリトがジェネシスに走りながら尋ねる。

 

「あのショートスピアだ!あれは確かグリムロックが作ったんだろ?なら、奴は今回のヨルコ氏達の計画を全部知ってる筈だ!!

そして、指輪事件の黒幕であるグリムロックが、あの事件の真相を追ってるヨルコ氏達が集まってるこのチャンスを、見逃すはずがねぇ!!」

 

「つまり……纏めて消せばいい、と言うことか!!」

 

ジェネシスの言いたいことを察したティアがそう叫んだ。

3人は大急ぎで転移門へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

十九層 十字の丘

 

霧が立ち込める薄暗い森の中を、シュミットは一人で歩いた。

そして一つの大木の前で立ち止まる。そこには一つの墓標があった。

 

「グリセルダ…俺が助かるには、もうお前に許してもらうしかない」

 

そう言いながら、シュミットは地面に手をついた。

 

「済まない、許してくれ、グリセルダ!まさか、あんな事になるとは思ってなかったんだ!」

 

地面に額をついてひたすら謝罪した。

その時だった。

 

──────本当に?

 

「っ?!」

 

突如として響いた女性の声に、シュミットは辺りを見渡す。だが周りには何もいない。

ふと、後ろから何かが近づく気配を感じ、慌てて後ろを向く。だがそこにいたのはウサギ型のモンスター。

シュミットは安堵してもう一度視線を戻す。

 

そこには一人のローブを着た女性が。

 

「ひっっ!!」

 

シュミットは両手で口を押さえて飛び退いた。

 

「何をしたの……貴方は私に、一体何をしたの?」

 

言いながらローブの女性は、例のショートスピアをシュミットに突きつけた。

 

「お、俺はただ、指輪の売却が決まった日に、いつの間にかベルトのポーチにメモと結晶が入っててそこに指示が!」

 

後ずさりながらそう言った時だった。

 

「誰のだ、シュミット?誰からの指示だ?」

 

今度は男性の声が響き、大木の陰からゆらりと姿を現した。

 

「グリムロック…?あんたも、死んでたのか……?」

 

信じられない、と言う表情でつぶやくシュミット。

 

「誰だ?お前を動かしたのは、一体誰なんだ?」

 

そんなシュミットに構う事なく、ローブの男は問いかける。

 

「わ、分からない!本当だ!メモには、グリセルダの部屋に忍び込めるように、結晶の位置だけを設定して、ギルドの共通ストレージに入れろとだけ指示が!」

 

「それで?」

 

「お、俺がやったのはそれだけなんだ!!俺は本当は殺しの手伝いなんかする気は無かったんだ!頼む、本当だ!信じてくれ!!」

 

必死の懇願。

その表情、仕草に嘘はどこにも見受けられなかった。

一瞬の静寂の後、再び声がした。

 

「……全部録音したわ、シュミット」

 

恐る恐る顔を上げると、シュミットは目を見開いた。

そこにいたのは、殺されたと思っていたヨルコとカインズが居たのだから。

一体どう言うことか、そう思って二人を見回すと、ヨルコの手のひらに輝く録音結晶が見えた。

それを見て、シュミットは全てを悟った。

 

「……そう、言うことだったのか……」

 

安堵した顔で地面に座り込む。

 

「お前達、そこまでグリセルダの事を……」

 

そう呟いたシュミットに対し、

 

「あんただって、グリセルダの事を憎んでた訳じゃないんだろ?」

 

カインズが険しい表情で問い詰める。

 

「も、もちろんだ!信じてくれ!」

 

シュミットは慌てて両手を振った。

 

「……まあ、受け取った金で買ったレア武器のおかげで、ギルドの入団基準をクリアできたのは確かだが……」

 

言いながら目をそらした。

その時だった。

 

 

 

 

トスリという音が響き、シュミットの身体に力が入らなくなる。そのままシュミットは地面に倒れこんだ。

視線を移すと、右肩の鎧の隙間を縫うように投げナイフが刺さっている。

HPバーを見ると麻痺状態を示すアイコンが表示されている。

 

「ワァーン・ダァーウン」

 

気の抜けた高い声が響き、シュミットの目の前にフードを被った男がしゃがみ込んだ。

視線をヨルコ達の方に移すと、そちらの方には同じくフードを被った男が二人に向けてエストックを突きつけていた。

 

「…確かにこいつはでかい獲物だ。聖竜連合の幹部様じゃねえか」

 

再び声が響く。

同じくフードを被った男がシュミットの方へと近づく。

右手には肉切り包丁を思わせる大型短剣が握られている。

 

「お、お前らは……!」

 

シュミットはその右に描かれた刺繍を見て目を見開いた。

棺桶の中から、不気味な笑顔を浮かべた骸骨が手招きしているマーク。

 

「…殺人ギルド……《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》!!」

 

ラフコフの3人は獲物を見定めるように彼らの前に並んで立った。

 

「さて、どう調理したもんかねぇ〜」

 

そう言いながら思案するリーダーの『PoH』

 

「あれ!あれやろうよヘッド!みんなで殺し合わせて、生き残ったやつだけ助けてやるぜゲーム!」

 

子供のようにはしゃぐのは、毒ナイフ使いの『ジョニー・ブラック』

 

「んな事言って、おめぇ生き残ったやつも全員殺しただろうがよ」

 

「あー!それ言っちゃ終わりだよヘッドォ!!」

 

嘆息しながら言うPoHに対し、心底残念そうに叫ぶジョニー。

狂気を孕んだやり取りを他所に、シュミットはヨルコ達にエストックを突きつけている男、『赤目のザザ』を見る。

 

「……くくっ」

 

フードで隠れているためよく見えないが、その乾いた笑いからひしひしとその狂気は伝わってくる。

 

「……さて、取り掛かるとするか」

 

そう言ってPoHは大型短剣《メイトチョッパー》を振り上げた。

いよいよ死を覚悟し、シュミットは両目をふさぐ。

そして、包丁が自身に振り下ろされる直前、キン!という甲高い金属音が響いた。

目を開けると、目の前に一本のピックが落ちており、PoHは包丁を振り下ろすのを途中で止めていた。

 

「悪りぃな、ちょっと待ってくれねぇか?」

 

遠くから響く、聞き慣れた男の声。

唯一動く頭を動かすと、こちらに向けて大剣を背負った赤髪の剣士が歩いて来る。

 

「そいつらにはまだ、話してぇことがたくさんあるんでな」

 

不敵な笑みを浮かべながらラフコフ達に向けてそう言ったのは、ジェネシスだ。

 

「……何もんだ、てめぇ?」

 

PoHが包丁をジェネシスの方に構えて尋ねた。

すると、ザザがPoHの方を向き、

 

「ヘッド、奴だ。もう、一人の、《黒の、剣士》、名前は、ジェネシス」

 

それを聞き、PoHはヒュウ、と口笛を鳴らすと、

 

「へえ、お前さんがもう一人の『黒の剣士』か……だが、こんなとこにノコノコ一人でやって来て良いのかよ?」

 

それに対してジェネシスは軽く笑って、

 

「だぁ〜れが俺一人でてめぇら3人を相手にするって言ったよ?」

 

「その通りだ」

 

するとジェネシスの奥からもう一人の黒い少年、キリトが現れた。

 

「てめぇもいるのか……」

 

PoHが忌々しげに言った。

 

「俺たちだけじゃない。こんな事もあろうかと、既に援軍を呼んである。お前達3人で、攻略組30人を相手にしてみるか?」

 

そう言いながら片手剣を引き抜き構えた。

一触触発の緊張感が漂ったが、不意にPoHが指を鳴らすと、後ろの二人は構えを解いて武器を収めた。

 

「……行くぞ」

 

そう言ってPoHは歩きだし、二人もそれに続く。

が、不意にジェネシスの横で立ち止まると、

 

「『黒の剣士 ジェネシス』、と言ったな?」

 

ジェネシスは目線だけをとなりのPoHに移す。

 

「……貴様はこの世界で必ず殺す。貴様に『黒の剣士』の名は似合わん。『黒の剣士』の名は、一人で十分だ」

 

威圧感のある声でそう言った。

 

「……あのなぁ、俺だって自分でこの名前を語ってるわけじゃねえ。気に食わねえんなら、てめぇでとっておきの二つ名でも考えてくれ」

 

ジェネシスは軽くため息をつきそう言った。

PoHは「……ふん」と軽くこぼすと、そのまま歩きだし、霧の中へと消えて行った。

 

それを見届けると、キリトは背中に片手剣を収める。

 

「ふぅ……さて、また会えて嬉しいよ、ヨルコさん。そして…そっちは初めましてかな、カインズさん」

 

ヨルコはそう言われて申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「全てが終わったら、お詫びに伺うつもりでした……信じてもらえないでしょうけれど……」

 

ヨルコの言葉にキリトは気まずそうに笑う。

 

「あー、その事なんだがヨルコさん……」

 

そしてジェネシスが代わりに前に出て、

 

「実はもう全部知ってました〜、的な?」

 

ジェネシスの言葉にヨルコとカインズは目を見開いた。

すると、

 

「ジェネシス、キリト!助けてくれた礼は言うが、何で分かったんだ?あの3人が襲ってくると……」

 

漸く麻痺が解けたシュミットが片膝をついて尋ねた。

 

「いや、分かった訳じゃねぇさ。あくまであり得ると推測したまでだ。杞憂であって欲しかったんだがな……」

 

「なあ、カインズさん、ヨルコさん。あんた達は、あの二つの武器をグリムロックに作ってもらったんだよな?」

 

ヨルコとカインズは少し目を合わせると、ジェネシス達の方に向き直り、

 

「最初は、気がすすまないようでした。もう、グリセルダさんを安らかに眠らせてあげたいって……」

 

「でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっと武器を作ってくれたんです」

 

ヨルコ達の言葉を聞き、キリトは首を横に振りながら言う。

 

「残念だけど、あんた達の計画に反対したのは、グリセルダさんの為じゃない」

 

「あんたらが圏内PKなんて派手な演出をしたら、大勢の人が見たら誰かが気づいちまうとグリムロックは考えたんだ。

ま、俺たちが気づいたのもほんの30分前だがな……」

 

そしてジェネシス達は指輪事件の真相を全てを語った。

 

「…じゃあ、グリムロックが事件の犯人なのか?あいつが、グリセルダを?」

 

「いんや、流石に直接手は汚さなかっただろうぜ。殺害は汚れ仕事専門の奴に依頼したんだろ。その相手は、さっきまでいた《ラフィン・コフィン》どもだな」

 

ジェネシスがシュミットの言葉を否定した。

 

「そんな……じゃあ、何でグリムロックさんは、私達の計画に協力してくれたんですか?!」

 

「あんた達は、グリムロックに計画の全てを話したんだろ?なら、それを利用して事件の真相を永久に闇に葬ることが可能だ。あんた達3人が集まったところを、纏めて消せばいいと……」

 

キリトの言葉にシュミットは納得したように頷く。

 

「そうか、だからここに《ラフィン・コフィン》の3人がいたのか……」

 

「多分、グリセルダの殺害を依頼した時からパイプがあったんだろうぜ」

 

肯定するようにジェネシスが首を縦に振り、ヨルコは力無くうなだれた。

 

「二人とも、いたわよ」

 

不意にアスナの声が響く。

 

「んじゃあ、詳しいことは直接本人から聞こうじゃねえか……なあ、グリムロック(事件の黒幕)さんよぉ?」

 

ジェネシスはそう言いながら振り返る。

そこには、ティアとアスナに挟まれた男性がいた。

長身で革製のロングコートに身を包み、サングラスをかけている。

 

「やあ、久しぶりだね。みんな」

 

男ーーグリムロックは皆を見回した後、穏やかな口調で口を開いた。

 

「グリムロック、さん……貴方は…本当に……?」

 

ヨルコは力無い言葉で問いかける。

だがグリムロックは不気味な微笑を浮かべるだけで何も答えない。

 

「何でなのグリムロック!?何でグリセルダさんを…奥さんを殺してまで、指輪を盗んでお金にする必要があったの?!!」

 

中々答えないグリムロックに業を煮やし、ヨルコは両目に涙を溜めながら叫んだ。

 

「金……?金だって?く、くくく……っ」

 

不気味に肩を震わせ笑い出す。

 

「金のためじゃない、私は彼女を何としても殺さなければならなかった……彼女がまだ私の妻である間に」

 

そこで一旦言葉を区切り、目を伏せて告げる。

 

「……彼女は現実でも、私の妻だった」

 

その言葉で皆は目を見開いた。

つまりこの男は、自らの手で最も大切である筈の存在を殺したことになる。

グリムロックは続けた。

 

「彼女は私にとって、可愛らしく従順で、唯の一度も夫婦喧嘩をした事もなかった。

だが共にこの世界に囚われた瞬間、彼女は変わってしまった……強要されたデスゲームに怯え、竦んだのは私だけだった。彼女は現実にいた時よりも、遥かに生き生きとして充実した様子だった。

その時に私は知ってしまった……私の愛した『ユウコ』は消えてしまったのだと!!」

 

両肩をわなわなと震わせながら言葉を続ける。

 

「ならば…ならばいっそ!この合法的殺人が認められるこの世界で『ユウコ』を……永遠に私の思い出の中に封じてしまいたいと思った私を、誰が責められるだろう?!」

 

狂気的な笑みを浮かべながらそう叫ぶグリムロック。

 

「そんな……そんな理由であんたは、奥さんを殺したのか……?」

 

キリトが信じられないものを見るような表情で問う。

 

「十分すぎる理由だよ探偵くん。君にもいつかわかるよ……愛情を手に入れ、それが失われた時にね」

 

グリムロックはキリトに対し嘲るような笑みを浮かべながらそう告げる。

だが、ジェネシスがグリムロックの方に歩み寄る。

 

「誰が責められるか……だって?」

 

次の瞬間、ジェネシスの鉄拳がグリムロックの左頬に炸裂した。

『バキッ!』という鈍い音を立てたのち、グリムロックは地面に倒れこむ。

 

「俺たちが…社会が……世界中がてめえの行いを責めるに決まってんだろクソ野郎」

 

グリムロックは左頬を抑えながらジェネシスを見上げる。

ジェネシスはそんな彼を鋭い目つきで見下ろしながら

 

「人殺しが認められる場所なんざある訳ねぇだろ。

てめぇが嫁さんを殺しても何も感じてねぇ時点で、嫁さんに抱いてたのが愛情なんかじゃねえのは明らかだ」

 

そう言ってジェネシスはしゃがみ込み、グリムロックの胸ぐらを掴む。

 

「てめぇはただ、モノとしてしか嫁さんを見てなかったんだろう?

そんなもん愛なんかじゃねえよ……単なる支配欲と所有欲だろうが!!」

 

その瞬間、グリムロックは目を見開き、そのままうな垂れた。

ジェネシスはそんな彼を突き放すように下ろす。

するとグリムロックにカインズとシュミットが歩み寄り、両肩で支えるように持ち上げる。

 

「この男の処遇は、私たちに任せてもらえませんか?」

 

「心配せずとも、私刑にだけはかけないと約束する」

 

二人の言葉に、

 

「ああ……分かったよ」

 

ジェネシスは頷き答えた。

カインズたちはジェネシス達から背を向けて歩き出す。

ヨルコは彼らに続くが、一度ジェネシス達の方を振り返り、

 

「皆さん、ありがとうございました。お陰で真相が分かりました。これできっと、グリセルダさんも浮かばれます」

 

そう言って深々とお辞儀し、カインズ達の方へ駆けて行った。

 

夜が更け、薄暗かったあたりが白み始める。

 

「んじゃ、俺たちもこれで失礼するわ」

 

ジェネシスはキリト達から背を向け歩き始め、ティアもそれに続く。

 

「ああ、お陰で助かったよ」

 

「また最前線で会いましょう」

 

後ろからキリト達の声が聞こえ、ジェネシスは背を向けたまま手を振った。

 

「ねぇ、久弥……」

 

不意にティアが歩きながら尋ねる。

 

「もし、結婚した相手の隠れた一面とかが分かったら、久弥はどうする?」

 

ジェネシスは少し思案した後、

 

「……どうもしねぇよ。『へーそうなんだー』くらいにはなると思うがな。それで関係性が変わるくれぇなら長続きしねぇよ。その例がさっきのグリムロックだろ」

 

そしてジェネシスはティアの方を向き、

 

「つか、てめぇの隠れた一面とかまだあったりすんの?割と一緒にいること多いから結構お前のこと知ってると思うんだけどな」

 

ティアはその問いに対し、苦笑しながら

 

「あはは……どうだろうね」

 

と答え、歩みを進めるがふと何かが引っかかり足を止める。

 

「(ちょっと待って……わたし結婚する相手が自分だったら、なんて言ったっけ?言ってないよね?なのに久弥は今、私のことで話した……それってつまり……そういう事なの?!何よ!嬉しいけどちょっと気が早いんじゃないの久弥ああぁぁ!!)」

 

ティアが一人面食らっているのを見て

 

「……おい、何してんだおめぇ?」

 

ティアはその声でハッと我に返り、

 

「う、ううん!何でもないの!!さ、早く戻ろっか!!」

 

そう言ってジェネシスの手を引き歩き出す。

 

何故かティアの表情は、照らし出す光の影響もあってかとても輝いていた。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
ジェネティア……さっさと結ばれろお前ら。

評価、感想などお待ちしております。
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