ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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こんにちは、ジャズです。
今回はラフコフ討伐戦です。


十一話 ラフコフ討伐戦

その日、ジェネシスとティアの二人は攻略を終え、帰路に就いていた。

そこへ入った一通のメール。差出人は、血盟騎士団副団長のアスナからだ。

 

『今すぐに、血盟騎士団本部に来て。大事な話がある』

 

二人はその内容を見て訝しんだ表情になった。

 

「何だってんだ一体…?」

 

「重要なクエストでも見つかったのかな……?」

 

考えても仕方がないため、二人は呼び出された場所、五十五層のグランザムにある血盟騎士団本部へと向かう。

 

グランザムは《鉄の都》という名で知られ、文字通り物々しい尖塔や要塞のような建物がいくつも立ち並ぶ。

そしてこの層で最大の規模を誇る豪壮な建物。それこそが、SAO内最強ギルド、血盟騎士団の本部である。

 

大きな門でジェネシス達を出迎えたのは、いつも立っている門番ではなく、白と赤の騎士服を身につけた少女、そしてジェネシス達をこの場に呼び出した本人であるアスナだ。

 

「よお、副団長自らお出迎えたあ恐縮なこったな」

 

ジェネシスがいつものように軽く手を振りながら話しかける。

 

「私が呼んだからね。それに、この建物は結構複雑だから、案内してあげないと」

 

アスナは眉をハの字に曲げ、困ったような笑顔で答える。

そしてアスナの案内でやって来たのは、ひときわ大きい会議室。

そこには血盟騎士団は勿論ボス攻略でよく見る聖竜連合やその他のギルド、更に見知った顔もいくつかあった。

ギルド《風林火山》のリーダー、クライン。

商人の重戦士、エギル。

ソロで攻略に挑む《黒の剣士》キリト。

 

ジェネシスは一瞬、ボス攻略の会議でも始まるのかと考えたが、もしそうなら態々こんな所まで来なくとも、最前線の層でやれば良いだけの話。いや、いつもならそうしている。

だとしたらここに集められたのは十中八九ボス攻略の為ではない。一体何のためなのか……?

 

「…もうすぐ、全体に話があるわ。私はもう行かなくちゃだから、しっかり聞いててね」

 

アスナはそう言い残し、プレイヤー達の間を掻き分け前の方へと消えた。

やがて、部屋のホロパネルの前に一人のプレイヤーが姿を現した。

聖竜連合の幹部にして、以前の圏内事件の際にジェネシス達が関わった男性、シュミットだ。

 

「皆、急に呼び出してしまって済まない。だがどうしても、諸君らの力が必要な案件が発生したため、呼び出させてもらった」

 

そしてシュミットはそこで一旦話を区切り、

 

「……先日、あの殺人ギルド《ラフィン・コフィン》のアジトが判明した!」

 

その言葉に皆が耳を疑った。

《ラフィン・コフィン》は言わずと知れたSAO内史上最も凶悪なギルド。ありとあらゆる手でプレイヤー達を死に追いやり、長らく多くのプレイヤー達を恐怖に陥れて来た。

そのアジトは半年前から捜索されていたものの、場所は愚か手がかりすら掴めずにいた。

 

「数日前、ラフコフのメンバーを名乗る者から、ギルド本部にメッセージが届いた。そのメッセージに記載されていた場所に我々の偵察隊を送り込んだ所、ラフコフのアジトで間違い無いと判断された!」

 

そしてシュミットはホロパネルに詳しい座標と地図を表示する。

そこは攻略組でも見落としていた低層のダンジョンだった。

 

「よって今この場にいるメンバーで、ラフコフの討伐に当たりたい。だが、奴らはレッドプレイヤーだ。討伐戦には諸君らの命を懸けてもらうことになる。

もし辞退したい者がいるのなら構わない。その作戦に命をかけられるものだけ、残ってくれ」

 

恐らく皆が逃げ出したかっただろう。

ジェネシスとてそうだ。自分が死ぬという恐怖は勿論だが、それ以上にティアの身にもしもの事があったら……と思うと参加したく無いという思いが湧き上がる。

だがここで奴らを叩かねば今後も更なる被害が出るのも事実だし、奴らを野放しにしていてはティアにラフコフの魔の手が差し掛かる危険が残り続けるのも事実。

ならば今この場で何としてもティアの身を守りつつ、ラフコフを潰すのが最優先と言える。

 

故にジェネシスは残った。そして恐らく、ティアやキリト、その他のプレイヤー達も同じ思いなのだろう。誰一人として、部屋から出るものはいなかった。

シュミットは彼らを見渡すと心からの笑顔を浮かべ、

 

「…ありがとう。では、会議を続行する」

 

そして、ホロパネルを指しながら作戦会議が続けられた。

『ラフィン・コフィン討伐作戦』は翌日決行される事となった。

 

数刻後、血盟騎士団本部から解放され、いつも寝泊まりしている宿部屋に戻ったジェネシスとティアは同じベッドに腰掛けていた。

いつもならここで他愛ない会話が交わされるのだが、いまこの部屋には重い空気が流れていた。

 

「ねぇ……久弥は、どうするの?明日の討伐戦」

 

不意にティアが口を開き尋ねる。

 

「んー、そーだなぁ〜……」

 

ジェネシスはゆっくり息を吐きながら

 

「……俺は、参加するぜ」

 

ときっぱりと答える。

 

「どうして?ラフコフはレッドだよ?その他の……殺されちゃうかも、しれないんだよ?

 

ティアはジェネシスの方に寄りながらおずおずと尋ねる。

 

「それは別に普段のボス戦でも同じ事だろ?俺はもう奴らを野放しにしたくねぇ。ボス戦でも命張ってんのに、加えて奴らに命狙われるなんざもううんざりだ」

 

それを聞き、ティアは一度目を伏せ、その後もう一度顔を上げる。その瞳には決意が現れていた。

 

「…それなら、私も行くよ」

 

「おいおい、無理しなくたって良いんだぜ?おめぇはここに残って……」

 

待っていてくれ……というジェネシスの言葉をティアは遮る。

 

「そんな危ない所に、一人で行かせないよ」

 

いつになく険しい表情にジェネシスは何も言えなくなる。

ティアはジェネシスの両手を包み込むように握ると、即座にいつもの優しい笑顔を浮かべ、

 

「……私は、この大きな手に何度も守られた。何度も救われた。久弥がいてくれたから、今の私があるんだよ?

だから、今度は私が久弥を守る。どんな事があっても、久弥は死なせない」

 

そう言い切ったティアに対し、ジェネシスは苦笑し

 

「……へっ、もう十分守られてんよ。第一層のボス戦の時も、黒猫団の時もな。

俺も、テメェだけは絶対死なせねぇ。元よりそのつもりでやって来てるしな」

 

そう言って、ティアの手を握った。

 

「無理はすんじゃねえぞ?」

 

「久弥こそ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ラフコフのアジトがあったのは、十二層のサブダンジョンだった。

特に美味しいクエストがある訳でもなく、ミドルゾーンのプレイヤーでもここに来る事など全く無い。だからこそ、奴らはここをアジトに選んだのだろう。

 

原理不明な浮遊する石畳の上を進んでいき、ダンジョンを慎重に進んでいく。

ある程度進んだところで、シュミットが討伐隊の方を振り返る。

 

「もうじき報告のあった《ラフィン・コフィン》のアジトだが、作戦の前にもう一度確認しておく。

奴らはレッドプレイヤーだ!我々を殺すことに何の躊躇も無いだろう。だからこちらも躊躇うな!迷ったらこちらが殺られる!」

 

シュミットの言葉に皆は気を引き締めた。

彼の言ったことを要約すると、『殺られる前に殺れ』と言うことだ。

 

「…とは言え、レベルも実力もこちらの方が圧倒的に上だ。案外、戦闘にならずに降伏、と言うこともあり得るかもな」

 

シュミットが零したジョークに軽い笑いが起きる。

ジェネシスは特に笑うこともなくただ討伐隊の様子を静観していた。

 

が、ここでふとジェネシスの耳に何か妙な音が聞こえた。

それは『キン』と言う金属音。そして複数の足音。

ふと視線を向けると、そこには既に武器を構えた無数のラフコフメンバーが。

 

「……この野郎ッ!」

 

ジェネシスは咄嗟に背中の大剣を引き抜き、斬りかかって来たラフコフのメンバーと鍔迫り合いに持ち込む。

STR値はジェネシスの方が圧倒的に高いため、そのまま敵を押し込んだ後腹部を一閃した。

だがその後も、休む間も無く次々とラフコフメンバーは襲いかかってくる。

 

「バカな、情報が漏れていたのか?!」

 

シュミットは信じられない、という様子で叫ぶ。

恐らくそれ以外に無いだろう。何者かがこちらの作戦内容を漏らしていたのは間違いないが、今はそれどころでは無い。討伐隊のメンバーは襲いかかる凶刃を必死の思いで捌いていく。

 

とは言え、先ほどシュミットが言った通り実力、レベルは勿論人数もこちらが上だ。突如として襲いかかった強襲にも何とか持ちこたえた。このまま落ち着いて一人ずつ包囲し捕縛すれば何とかなる。

 

そして一人、既にHPがレッドゾーンに達し、複数の討伐メンバーで包囲された者がいた。

 

「ここまでだ、大人しく武器を捨てて投降しろ」

 

血盟騎士団の男が長剣を突きつけながら降伏を勧告する。

が、

 

「き、ひひっ……ひひひひっ」

 

この状況でラフコフの男は尚、不気味に肩を震わせながら笑い出した。

そして、右手に持った湾曲した片刃で血盟騎士団の男を斬りつけたのだ。

 

「おい、何のつもりだ?!」

 

斬られた男は叫ぶが、ラフコフの男は聞く耳を持たず、ただ狂気的な笑いを上げながら滅茶苦茶に剣を振り回す。

 

「ぐっ…うわあああーーっ!!」

 

そして遂に、血盟騎士団の男はガラス片となって消滅した。

 

ラフコフのメンバーは皆、人の命をなんとも思っていない。そしてそれは、自分自身の命ですらもだ。だからこそ、HPがレッドゾーンに入っていようが、ただ目の前の人間を殺す。

 

 

徐々に討伐隊が押されていく中、ティアは一人奮戦していた。

持ち前の速さと正確な斬撃を惜しみなく繰り出し、ラフコフのメンバーを次々と戦闘不能に持ち込んでいく。無論、それは殺害と言う方法ではなく、艶やかに足を斬り飛ばす事による部位欠損ダメージによるものだ。

HPをレッドゾーンに持って行っても攻撃をやめないなら、もう動けないようにすれば良い。腕や足を切り落とせば、もう攻撃することも動くことも出来まい。

 

ティアは一心不乱に、迫る猛攻をいなし、ただひたすらに目の前の敵を戦闘不能に追い込む事を考えた。

 

だが、これがモンスターだったならばどれ程楽だっただろう。部位欠損などと言う中途半端なダメージなどではなく、一思いにソードスキルを駆使して攻撃する方が余程手っ取り早い。だが相手はレッドとは言え少なくとも殆どがミドルゾーンのプレイヤー。攻略組の、それもアインクラッド四天王の一人に数えられるほどの実力を持つティアがソードスキルなど使おうものなら相手は一撃で消える。

 

こちらを殺す気で攻撃してくる雑魚キャラを、殺さない程度で沈黙させる。これは中々難しい。

しかもこのような混戦の中で、極限の集中力を長時間保つなど幾らティアでも不可能と言える。

 

「……まだ……終わらないのか……」

 

ティアは思わずそう呟いた。

いい加減両陣営も限界が来ている筈だ。これ以上はもう失うものしかない。

 

その時だった。

 

「ッヒャアアァァァーーー!!!」

 

狂気的な叫び声がし、ティアは慌てて刀を構える。

後ろからまたフードを被ったレッドが斬りかかって来た。

ティアはそれを危なげなく受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。ここでティアはこれまで通り部位欠損を与えるために両腕に力を込めた。

だが、今度は後ろからもう一人来ていたのだ。

ティアはそれに気づくと、鍔迫り合いに持ち込んでいた相手を押し切り、そのまま右足を軸に回し蹴りを叩き込む。

だが、ティアが後ろの敵に気を取られている隙に、先程鍔迫り合いをしていたレッドがティアの背中を斬りつけた。

 

「っ?!」

 

ティアはそれによって倒れ込んだ。その瞬間、ティアの体に力が入らなくなった。

HPは確かに減っている。しかし問題はそこでは無い。

ティアのHPバーが黄色く点滅している。麻痺毒だ。

 

殺人集団の目の前で麻痺毒にかかって動けない人間など、格好の餌と言っていい。

うつ伏せになって倒れるティアの周りに、次々とレッドプレイヤー達が集まり始めた。そのフードの奥に、狂気的な笑みを浮かべながら。

遂に訪れた、死と言う存在。

息が浅くなり、動悸が早まるのを感じる。

 

「…ぃ……嫌………っ!」

 

発せられたティアの声はもう、攻略組で《白夜叉》と呼ばれる戦士の物ではない。死の恐怖に怯え、なんの力もないただの少女、《一条 雫》の声だった。

 

そんな彼女に、無慈悲にも振り下ろされる凶刃。

確かにやってくる死と言う存在を前に、ティアは両目を堅く閉じた。

 

「(お願い……助けて………

久弥っっ!!)」

 

ティアは心の中で強くそう念じた。

 

その時だった。

 

赤い閃光がティアを囲んでいたレッド達を一閃した。

 

「……おい」

 

聞き慣れたその声に、ティアはゆっくりと目を開いた。

目の前にいたのは、今正に自分が助けを求めた存在。

 

「ひ……さ、や……?」

 

ジェネシスだった。

 

彼は鋭い眼光を放ち、レッド達を睨みつける。

 

「……俺の女に、テメェらのその薄汚ねぇ手で触れんじゃねえ」

 

ジェネシスは静かに、それでいて凄まじい怒気と威圧感を込めた声で、ティアを襲おうとしていたレッド達に向けてそう放った。

 

「ヒャアーーーッ!!」

 

最早人間のものとは思えない奇声を上げながら、一人のレッドが短剣を片手にジェネシスに飛びかかる。

だが……

 

「ジャマだ、失せろ」

 

ジェネシスは迷う事なく大剣を横薙ぎし、飛びかかったレッドを数メートル先へ吹き飛ばした。

吹き飛ばされたレッドは、その体をガラス片に変えて消滅した。

 

「女の前だからって、カッコつけてんじゃねぇぞオォォォーー!!」

 

「死ねやああぁーーーっ!!」

 

それを見て逆上した他のレッド達四人が、一斉にジェネシスに飛びかかった。

 

「────喧しいんだよ、ゴミ共が」

 

それに対しジェネシスは静かにそう吐き捨てると、ソードスキル《サイクロン》を発動し四人のレッドを纏めて消しとばした。

 

これでジェネシスは、五人の命を奪ったことになる。

 

ティアを囲んでいたレッド達はジェネシスによって消され、ジェネシスはゆっくりとティアの元にしゃがみ込んだ。

 

「ひさや…………っ!」

 

ティアは悲痛な顔でジェネシスを見上げる。

ジェネシスは眉をハの字に曲げて軽く笑い、

 

「……これ、飲んでて大人しくしてろ」

 

そう言って、ジェネシスは回復ポーションをティアの手に握らせ、再び立ち上がると踵を返して走り出した。

 

「ま────」

 

待って、と叫ぼうとしたが、既にジェネシスは遠くへ走っていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ティアを救助した後、ジェネシスはキリトを呼び出した。

 

「ジェネシス、どうしたんだ?!」

 

襲いかかるラフコフのプレイヤーを何とかいなしつつ、キリトはジェネシスに問いかけた。

 

「……ティアが麻痺毒にやられた。あいつを守ってやってくれ」

 

そう言って、ジェネシスは大剣を構える。

 

「守るって……お前はどうするんだ?」

 

「あいつら……叩き潰してやる」

 

そう言って、ジェネシスは駆け出した。

キリトはジェネシスのやろうとしていることを察し、

 

「っ!よせ、ジェネシス!やめろ!!」

 

と叫んで止めようとしたが、間に合わなかった。

 

そこからジェネシスは、ラフコフのプレイヤーを構わず本気で斬り続けた。当然、攻略組の中で随一の攻撃力を持つジェネシスの一撃となれば、所詮ミドルゾーンのプレイヤーでしかないレッド達はひとたまりもない。

 

ある程度レッド達を仕留めたところで、ジェネシスは攻撃を一旦止める。

 

ラフコフ共ぉ!!

 

その叫びで、混戦を極めていた双方のプレイヤー達は足を止め、ジェネシスの方へと視線を向ける。

 

「テメェらクズ共の相手は、今から俺が引き受けてやる。死にてえ奴からかかって来い!

俺が直々に、纏めて地獄に送ってやらぁ!!!」

 

その直後、残ったラフコフのメンバー達は一斉にジェネシスに飛びかかった。

 

「うおおおぉぉらああああああーーー!!!」

 

ジェネシスはもう手加減せず、ソードスキルを惜しみなく使用し、次々とレッド達を葬っていく。

ジェネシスの周囲では、無数のガラス片が舞っていた。

 

「もういい……もういいよ…久弥っ……!」

 

ティアは両目から涙を流しながら言うが、その悲痛な声はジェネシスには届かない。

ティアはただ、自身の不甲斐なさ、無力さにただ拳を握りしめるだけだった。

 

そして、ジェネシスがある程度ラフコフのメンバーを葬り去った時だった。

突如、ジェネシスの頬を一筋の光が掠め取る。

 

フードを被っているのは同じだが、髑髏を模したマスク、そしてエストックを使っているのは、ラフコフの中でも一人しかいない。

 

「《黒の、剣士》、少し、やりすぎだ、大人しく、しろ」

 

《赤目のザザ》は、ジェネシスに細剣の剣先を突きつけながらそう言った。

すると、ジェネシスの背後から何かが投げつけられた。

ジェネシスは振り向きざまに大剣を横薙ぎし、飛来物を撃ち落とす。

地面にカラン、と言う金属音を立てて落ちたのは、毒POTを刃に塗った特製の毒ナイフ。

 

「ヒャハハハハッ!!これでテメェも晴れて《人殺し》だなぁーー、《黒の剣士》イィーー!!!」

 

子供のように叫びながらジェネシスの背後に飛び降りてきたのは、ラフコフの毒ナイフ使い《ジョニー・ブラック》。

 

ラフコフの三幹部のうち二人がジェネシスの前に現れた。

流石にこの二人は、一筋縄では行かない。

 

しかし、

 

「へっ、上等だ………かかって来いテメェらああぁーーー!!」

 

ジェネシスは大剣を肩に担ぐとその場から飛び出した。

そしてザザとジョニーの前に到達すると同時に、ソードスキル《アバランシュ》で斬りつけた。

 

だがこの攻撃をただで食らう程、ラフコフの三幹部は甘くない。

二人は咄嗟にバックステップを取ってその攻撃を躱すと、そこからお返しとばかりにザザは細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》、ジョニーは短剣ソードスキル《ラビット・バイト》を発動し、ジェネシスに飛びかかった。

 

ジェネシスはソードスキルの硬直のため動けず、二人の攻撃を受けてしまう。

 

「ぐっ…くくっ、足りねぇなあ〜!そんなもんかぁ?!!」

 

しかしジェネシスはそう叫ぶと、再び大剣を振り回してザザとジョニーを吹き飛ばした。

その攻撃で、地面に倒れこむ二人。

 

ジェネシスは二人を見下ろし、大剣を上に掲げる。

 

「俺の前に…………

 

 

 

ひいぃれ伏せえええぇぇーーー!!!!

 

 

 

そう叫ぶと、ジェネシスの大剣の刃がオレンジ色に光る。

両手剣広範囲ソードスキル《メテオ・フォール》だ。

 

ジェネシスはそれを思い切りザザとジョニーに振り下ろす。

 

 

「やめてえぇぇぇーーっ!!」

 

 

だが、一人の少女の叫びでそれは中断された。

叫んだのは、ティアだった。

 

「もういいよ……もうやめてよ久弥っ……」

 

ティアの両目からはとめどなく涙が流れ、ジェネシスはそれを見て剣を下ろすしかなかった。

 

その後、討伐隊によって戦後の後処理が始まった。

主に大手ギルドメンバーが中心になり、捕縛したラフコフのメンバー達を引き連れ外に出ていく。

 

ジェネシスは未だ泣き続けているティアを宥めていた。

そこへ、シュミットが歩いて来た。

 

「ジェネシス、こいつがお前と話をしたいそうだ」

 

そう言って振り返ると、そこには二人の聖竜連合のメンバーに拘束された髑髏の仮面を被ったプレイヤー、《赤目のザザ》がいた。

 

「《黒の、剣士》、ジェネシス……俺の、名前は……」

 

そう話しかけるが、ジェネシスはザザから背を向けたままそれを遮った。

 

「言うな。てめぇの名前なんざ興味ねぇ。俺とてめぇが会うことなんざ二度とねぇよ」

 

冷たくそう突き放した。

ザザはそれを聞き唇を固く噛み締め、

 

「……貴様は、後で、ちゃんと、殺す……!」

 

そう告げると、ザザは連れていかれた。

 

大方ラフコフのメンバーが監獄へ送られた後、今度はジェネシスの方からシュミットに声をかけた。

 

「……どうした?」

 

シュミットがジェネシスの方を振り返ると、

 

「俺にも何か、罰をくれよ」

 

憔悴しきった顔で軽く笑いながらそう言った。

ティアはそれを聞き目を見開く。

 

「な、何を言ってるんだジェネシス!!」

 

キリトも驚愕した表情でジェネシスに掴みかかる。

だが、ジェネシスはそれを片手で制し、

 

「この戦いで、俺は何人も殺した。俺も奴らと同類なんだよ……相手がレッドだとか、グリーンだとか関係ねぇ。

この落とし前はきっちりつけねぇと、示しがつかねぇだろ?」

 

「久弥っ!」

 

ティアはまた悲痛な顔でジェネシスの方を見た。

シュミットはそれを聞き、しばし苦い表情で思案した後、

 

「……よく分かった。処罰に関しては血盟騎士団と協議の元決定する。決まったらまた連絡する」

 

そう言って、シュミットは背を向けて歩き出した。

が、その途中足を止め、背を向けたまま

 

「……お前のやったことは、決して正しいとは言えない。

だが、お前がそうすることで救われた命があったのも事実だ。そのことに関しては、礼を言わせてくれ」

 

そう言った後にジェネシスの方を振り返ると、苦笑しながら

 

「また、借りができたな」

 

そう言うと、再び背を向けて歩き出し、ダンジョンから出て行った。

今この場には、ジェネシスとティア、キリトの3人がいた。

 

しばしの沈黙の後、キリトは歩き出した。

 

「…じゃあ、俺はもう行くよ」

 

そう言って歩き出す。

 

「ジェネシス、あまり気負いすぎるなよ?」

 

そう言い残し、キリトもダンジョンから姿を消した。

 

とうとう残ったのはティアとジェネシスの二人となった。

 

「……俺たちも帰ろうぜ?」

 

ジェネシスがそう促すと、ティアは黙って頷き、立ち上がって歩き出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

いつも寝泊まりしている宿部屋に戻った二人だったが、そこにいつもの会話は無かった。

交わしたのは最低限のやり取りだけ。夕食、風呂を順番に済ませた後、いつもなら就寝準備に入る。

 

だが、二人は中々眠らなかった。

 

ティアは部屋の窓の近くに据え付けられた椅子に座り、窓の外の月明かりを眺め、ジェネシスはベッドに腰掛けていた。

 

昨日とは違う……いや、昨日よりも重苦しい空気が二人を包む。

 

だが、ここでティアが漸く口を開いた。

 

「……ごめんね?」

 

ジェネシスは首をティアの方に向ける。

ティアは窓の外を見つめたまま言葉を続ける。

 

「私……久弥を守るって言ったのに……私のせいで、久弥は……」

 

それに対してジェネシスは首を横に振り、

 

「おめぇのせいじゃねえ。あれは誰のせいでもありゃしねぇよ」

 

「違う……私のせいなの……私が、あそこで躊躇したからっ………ひさやに人を、殺させた……っ」

 

そしてティアは、再び泣き出した。

守ると誓った筈の、支えていくと決めたはずの相手に、自分の不甲斐なさのせいで重すぎる重荷を背負わせてしまった。

そのことが堪らなく悔しく、申し訳無くて止まなかったのだ。

 

「ごめっ……ひさやっ…ごめんなさっ……!」

 

大粒の涙をポロポロと零しながら詫びるティアを見て、ジェネシスは黙って立ち上がるとティアの方により、後ろから手を回した。

 

「ふぇ……ひさや……?」

 

ティアはジェネシスの顔を見上げながら問いかける。

 

「言ったろ?俺はてめぇを守るってよ。

俺が人殺しと呼ばれようが、俺はてめぇが生きてさえくれりゃそれで良いんだよ。

好きな奴に生きてて欲しいって思うのは、当然だろうがよ?」

 

そう優しく語りかけ、ティアに回した腕に力を込める。

ティアはその腕を両手で優しく掴み、

 

「私も……私も、久弥に生きてて欲しい……ずっと、ずっと傍にいたい……」

 

「ああ、俺もだティ……雫。俺の隣にいろ。俺の隣で、生き続けろ」

 

「…うん……!」

 

その後、ジェネシスは少し思案した後、意を決してメニュー欄を操作し、とある項目を決定する。

 

すると、ティアの目の前に一つのシステムメッセージが表示された。

 

「えっ……?」

 

それを見てティアは目を見開いた。

当然だ。そこに書かれていたのは……

 

 

 

『Genesis から《結婚》が申請されました』

 

というメッセージだったのだから。

 

「えっと……久弥……これは……?」

 

ティアは理解が追いつかず、ただ混乱している。

 

「見たまんまだバーロー」

 

そう言ってジェネシスは目を閉じて息を吸い込むと、

 

「雫ぅ!!俺と結婚しろーーーッ!!」

 

と叫んだ。

 

ティアは目を見開いて硬直していたが、直ぐに満面の笑みを浮かべ、立ち上がってジェネシスの方を振り返り、

 

「はいっ!喜んでーーーっ!!」

 

と叫び返した。

 

そして、システムメッセージのOKボタンをタップ。

 

 

『おめでとうございます。 Tia との結婚が成立しました』

『おめでとうございます。Genesis との結婚が成立しました』

 

二つのシステムメッセージが二人の前に表示され、ささやかなファンファーレが流れる中、二人は熱い口付けを交わした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ラフコフ討伐戦での犠牲者は、合計で30人にも登った。

そのうち、討伐隊は僅か3名なのに対し、ラフコフからは27名も犠牲者が出た。

そしてその27名のうちの約8割は、ジェネシスが葬った者たちだった。

ラフコフ討伐戦で行ったジェネシスの行為には、当然ながら賛否が分かれる事となった。

否定派からはジェネシスも監獄に投獄しろという意見も現れた。

一方で賛成派からは、ジェネシスが居なければ討伐隊に更なる多くの犠牲者が出たのも確かであり、またジェネシス一人に殺人の罪を背負わせる結果を生み出した討伐隊に対する批判意見も出た。

 

そうした様々な意見が出る中で、ジェネシスに下された処罰は『一週間の謹慎』であった。

 

ジェネシスはそれに対して不平不満は一切口にする事なく、甘んじてそれを受けたと言う。

 

しかしその後、ジェネシスに対する評価が二分された状態は依然として続く事となった。

 

そうした中で、ジェネシスの行いを受け、新たな二つ名が出現した。

畏怖と侮蔑の二つの意味を持つ名、それは……

 

 

 

暗黒の剣士(ダークナイト)

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
そして……祝え!ジェネシスとティア、SAO最強夫婦が誕生した瞬間である!!
いやー、漸くここまで漕ぎ着けましたよジェネティア。さてジェネシスさん、一週間の謹慎期間の間にナニをして過ごしたんでしょうねぇ〜^^

そして同時に、ジェネシスに新たな二つ名が付く事となりました。暗黒の剣士、《ダークナイト》。
この名前は《バットマン》からとりました。バットマンと今作のジェネシスって、大まかには似てるんですよね。やり方は間違ってるけど、それでも彼がやらなきゃもっとひどい犠牲が出ていたと言う点で。
ダークヒーローたるジェネシスにはうってつけの二つ名だと自負しています。

では、次回もよろしくお願いします。

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