サツキ達の前に颯爽と現れた赤髪の剣士、ジェネシスはクダルを見据えながら立っていた。
クダルの方は
「誰?このイケメン。誰このイケメン?」
などと呟いている。
「君は……どうしてここに」
サツキはジェネシスにそう尋ねた。
ジェネシスはサツキに背を向けたまま
「てめぇが言ったんだろ?“困った時は助け合いだ”ってよ」
そう告げた。
「アナタは一体何者?!」
クダルは巨大なハンマーを軽々と片手で持ち上げ、ジェネシスの方に突きつけながら問うた。
「……俺はジェネシス」
ジェネシスは静かにそう答えた。
「えっ、ジェネシス?」
サツキはその名を聞き目を見開いた。
ジェネシスという名は、ミドルゾーンの、いやアインクラッドのプレイヤーならば皆知っている名前だ。
何せあの《アインクラッド四天王》の一人にして、犯罪者達や敵対するものならば容赦なく斬り伏せる《
「まさか、あの人が……」
となりのハヅキも目を見開きながら呟いた。
自分達が助けたプレイヤーが、まさかアインクラッドでもトップクラスの実力者などと思いもしていなかった。
「イケメンで強いのねっ!嫌いじゃないわ!!」
クダルは不気味な笑みを浮かびながら叫ぶと、ハンマーを掲げてジェネシスに突進して来た。
ジェネシスは即座に回避するが、そこへ勢いよく巨大ハンマーが振り下ろされ、大きな爆砕音と土煙を発生させる。
ジェネシスは背中の赤黒い大剣『アインツレーヴェ』を引き抜くと、再び彼に向けて迫り来るハンマーとぶつけてその攻撃をいなした。
「嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!!」
クダルは何度もそんな事を言いながらハンマーを振り続ける。
大剣とハンマーがぶつかり合うたび、眩い火花と耳をつんざくような金属音、そして大気を揺らす程の衝撃波を生み出す。
サツキ達がその光景に思わず見惚れていると、ふとクダルが思い出したようにサツキ達の方を見た後、
「アタシの僕達!あのガキ達にお仕置きしてやりなさい!!」
クダルがジェネシスと戦闘を続けながら配下のオレンジ達に指示を出す。
すると、周りの岩陰から次々とオレンジ達が出現し、サツキ達へと接近して行く。
「っ、不味い!」
サツキは双頭刃を構えるが、HPがまだ回復しきっていない。
無論、サツキもハヅキもポーションなどは既に飲んである。しかしポーションでは即座に回復することは出来ず、HPがグリーンまで回復するには数分かかる。
だが勿論、オレンジ達はサツキ達の回復を待ってくれるはずもない。せめて誰かが時間稼ぎをしてくれれば……
その時、オレンジ達を白の流星が走った。
土煙が巻き起こりその中から現れたのは、ジェネシスと同様先程サツキ達が助けた女性だった。
「……やあ。立場が逆転したな」
ティアはサツキ達の方を振り向くと、軽く笑ってそう言った。
「貴女はさっきの……」
「『ティア』だ。以後よろしくな」
ハヅキの問いにティアはそう返し、目の前のオレンジ達に向き直る。
「ティアって確か……あの四天王の一人、《白夜叉》?!」
ハヅキは目を見開きながらそう言った。
「おいおい、《白夜叉》さんよぉ。いくらあんたでも、この人数をソロで食うのは無理じゃねえ?」
オレンジの先頭に立つ男が余裕の笑みを浮かびながらそう言った。事実、ティアの前には総勢約50人近くのプレイヤーがいる。
「どうだろうな……やったことも無いから分からん」
それに対してティアも不敵な笑みで返す。
「ま、そりゃそうだわな。だが、俺たち《ブルワーズ》に楯突いたんだ……どうなるか分かってるか?」
リーダー格は威圧感のある声で言うが、
「さあな。どうなるんだ?教えてくれよ」
ティアは肩をすくめて答えた。
彼女のあまりに余裕で高圧的な態度に逆上したオレンジ達は「テメェ!」「このクソアマぁ!!」などと叫びながら武器を構える。
「面白ぇ。せっかくの上玉だから生かしてヤってやろうとか思ってたが……気が変わったぜ。ここで殺す」
そう言ってリーダー格は背中から片手剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。
「……なら、やる前に一つ言っておこう」
そんなティアの言葉にオレンジ達は疑問符を浮かべる。
「お前達、《活人剣》という言葉を知っているか?
本来は忌むべき武力も、それを悪人を斬るために振るうことで、多くの弱き者達を救うというものだ。……それなら」
そう言ってティアは腰の刀に手を掛け、一気に引き抜く。
鋼の刃が太陽光を反射し眩い銀色の光を放つ。
「……私も、それに倣うとしよう」
そう言って、鋭い刃の先端をオレンジ達に向けた。
「上等じゃねえか。行くぞぉ!!」
そして、オレンジ達は一斉にティアに斬りかかった。
ティアはその場から一瞬で飛び出し、オレンジの軍団へと飛び込んでいった。
四方八方から襲いかかる刃の嵐をティアはまるでそれらが見えているかのように次々とかわして行き、そして一気に刀を振るう。
その鋭い斬撃は3人のオレンジ達の武器や腕を容易く斬り裂いた。
「……流石はレイン、いい切れ味だ」
ティアは刀の切れ味の感触に満足しながら呟くと、再びオレンジ達に刀を振るった。
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「凄い……」
サツキは思わずそんな呟きが溢れた。
目の前で繰り広げられるジェネシスとティアの鮮やかな戦闘に思わず見惚れていた。
ジェネシスは大剣を見事に使いこなし、破壊力の高いハンマーの直撃を逸らしている。
ティアはたった一人であるにも関わらず、50人近くいるオレンジプレイヤーを相手に見事に善戦している。しかも、一切殺す事なく、武器破壊や部位欠損ダメージに留めて、だ。
「……僕らもいつか、彼らのようになれるのかな」
「お兄ちゃん……」
羨む視線でジェネシス達を見るサツキを、ハヅキは隣でじっと見つめた。
「なれるさ」
すると彼らの背後で、一人の少年の声が響いた。
振り向くと、そこには全身黒づくめの装備に身を包んだ少年が立っていた。
「この世界のレベルなんてただの数字さ。少しコツさえ掴めば簡単にひっくり返せる。
そのために一番必要なのは……人の思いさ」
少年は静かにそう告げた。
「あ、アンタは……?」
サツキは思わずそう尋ねた。
「俺か?そうだな……まあさしずめ、通りすがりの《黒の剣士》、ってとこだな」
そう言って少年は、背中から片手剣を引き抜き、ジェネシスとクダルの方へと駆け出していった。
「人の意思、か……」
サツキは自身の手に握られた双頭刃を見つめる。
サツキはこの世界に入る前は高校入試の勉強をしていたが、ゲーム好きな妹のハヅキに誘われて息抜き感覚でここにやってきた。
だがこの世界がデスゲームと化した時、ハヅキは泣きながらサツキに謝った。自分のせいでお兄ちゃんの人生を滅茶苦茶にしてしまったと。
だが確かにこの世界に誘ったのはハヅキかも知れない。それでもこの世界に来たのは、自分自身の意思だとハヅキに言い、同時に二人で生きて現実世界に帰ろうと誓った。
その後、この世界の知識が無いにも関わらず、彼らは地道な努力を重ねて最前線まであと一歩というところまで来た。
そんな中、サツキ達の元に出現したのが《双頭刃スキル》と《射撃スキル》だ。
現実世界の部活動で薙刀と弓道をやっていた彼らにとって、これらのスキルが現れたのはまさに渡りに船だった。
彼らは何とか武器を手に入れた後、瞬く間にそれらのスキルを使いこなし、今やミドルゾーンで《黒白の兄妹》と言われるまでに成長していた。
しかし目の前のジェネシス達を見て、軽く戦慄した。
なんだあの強さは。まるで次元が違う。
自分たちの目指してきた目標の高さを改めて感じ、少し絶望が湧いた。
しかし先ほどの少年はこう言った。
『この世界での本当の強さを決めるのは人の意思だ』と。
「……そうか…そうだよな」
サツキは双頭刃を握って立ち上がる。
「大事なのは《心》だよな。
心の火……《心火》だ。心火を燃やして……僕は戦う」
「なら、あたしも行くよお兄ちゃん」
するとハヅキがサツキの隣に立ち上がって言った。
「ああ、行こうハヅキ。僕たちなら行ける……どこまでも!」
「うん!」
そう言って、《黒白の兄妹》は駆け出した。
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ティアは決してオレンジ達を死なせない程度で斬りつけ、攻撃していた。
先日のラフコフ掃討戦と同じく、武器破壊と部位欠損ダメージによる戦闘不能状態にしたり、場合によってはHPをレッドゾーンまで持っていきオレンジを沈黙させていく。
人数は確かい多いが、この間のように自分の命を顧みずに斬りかかってくる集団ではないので、今回の方がティアにとってはやり易く感じた。
とはいえやはり50人を一人で相手にするのはきつい。
勿論自分もダメージを受け続けているし、回復する暇もない。
先程は大見得を切ってしまったが、この状態が続くと流石に不味い。
と、そう思っていた時だった。
不意に無数の流星が自分の前に落下した。
射撃広範囲スキル《プラネタリウム・エクスプロージョン》
「待たせたわね!」
ハヅキが笑顔でティアを呼びかける。
「ふっ……私に当てないでくれよ?」
ティアは不敵な笑みで返すと、再びオレンジ達に飛びかかった。
「任せて頂戴。あたしは……《純白の射手》よ!!」
そう言ってハヅキは矢を弓の弦にかけ、思い切り引く。
矢が赤よりのピンクの光を帯び、ハヅキは矢を放った。
矢はピンクの光の尾を引いた後、地面に直撃し半径7メートルくらいの大爆発を引き起こす。
射撃スキル《ミラクルマッチブレイク》
その衝撃で約5人のオレンジが吹き飛ばされ、HPがレッドゾーンまで達し戦意を喪失したのかうな垂れた。
ハヅキはそれを確認すると間髪入れずにもう一つの矢を取り出す。
次に狙いを定めたのは、ティアの背後から近づいていく8名のオレンジプレイヤー。
だがどうやらなにかを感じた8名の内の一人がハヅキに狙われているのに気づき、回避行動をとった。
「……残念ね。狙った獲物は逃がさないわよ」
そう言ってハヅキは矢を引き、それを放った。
今度は白の流星が飛んでいく。
だがそれを察知していたオレンジはその矢を見事に回避した。
「いいえ無駄よ。その矢は貴方を決して逃がさない」
すると真っ直ぐ飛んでいた筈の矢は突如
射撃スキル《マッハクエイクショット》
弾道を任意で軌道変更出来るというスキルだ。
「覚えておきなさい……この私に射抜けないものなど無いわ!!」
そう言って、ハヅキは再び背中のホルダーから矢を取り出す。
が、どうやらこれが最後の矢のようだ。
ハヅキは深呼吸し、今の集中力を更に極限まで引き上げる。
そして、ゆっくりと矢を弦にかけ、それを引く。
すると、矢の先端からシアンの光が現れ、それが徐々に前方に展開し、無数の光の輪を形成、前方のオレンジの集団をロックオンする。
そして矢自体もシアンの光を纏い始めたところで、ハヅキはそれを思い切り放った。
矢はシアンの光の輪を一つ潜り抜ける毎に巨大化し、そしてエネルギー波と化した。
そして最後の輪をくぐり抜けたところで、シアンのエネルギー波は狙い通り約20名のオレンジ集団に命中、大爆発を起こした。
射撃最上級スキル
《ディメンションシュート》
シアンのエネルギー光線を受けた20人のオレンジ達は完全に沈黙した。
そして同時に、ティアも全てのオレンジの掃討が完了したらしく、ハヅキの元へ歩いて来る。
「見事な射撃だったな」
「そちらこそ、凄い剣術だったわ」
ティアとハヅキは笑顔でそうやり取りした後、再び目の前で倒れこむオレンジ達を見下ろす。
「よく覚えておけ……《この世にまずい飯屋と、悪が栄えた試しはない》」
ティアは鋭い表情でオレンジ達を見据えながら言った。
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「うおらぁ!!」
ジェネシスは迫り来るハンマーをただひたすらに捌き続けた。
ソードスキルを使えば簡単に倒せるだろうが、恐らくそう易々とソードスキルを食らってくれるような相手では無いことをジェネシスは見抜いていた。
しかも相手が何もスキルを使ってきていない以上、もしこちらの攻撃が外れて向こうに攻撃の隙を与えてしまえば、それが致命傷になるのは間違いない。
「オラオラどうしたぁ?!そんなものかい?!」
クダルは巨大ハンマーを休む間も無く振り下ろし続ける。
幸い、両手剣の中でも屈指の大きさを誇る新たな大剣《アインツレーヴェ》ならばパワー負けする事は無いが、それでもこの男とやり合うには後一つ決め手が欲しいジェネシスだった。
その時。
黒い一閃がクダルを貫く。
「あぁはっ?!なに一体?!」
妙な奇声を上げた後、クダルが見たのは漆黒の少年。
「おうおう、何でテメェがこんなとこにいやがんだ?」
「ちょっと野暮用でな。俺だって、まさかお前らがいるとは思ってなかったさ」
ジェネシスが悪戯な笑みを浮かべて尋ね、少年は肩をすくめて答えた。
「アナタは一体何者?!」
「俺か?俺は……キリト。剣士キリトだ」
クダルの問いに対し少年ーーーキリトは凛とした声でそう答えた。
「アンタが《クダル・カデル》か。探してたぜ」
「えっ、なに?アタシを探してたって?まさかアタシのファンの方?!」
キリトの言葉に対してクダルはおどけた表情で言う。
「アンタの悪行は攻略組の耳にも入ってたからな。俺たちで何とかしようと言う話になったのさ」
「無視?ねえ、アタシの質問は無視?」
クダルのおどけた質問をキリトは意に介さず続けた。
「助けに来てくれたのはありがてぇが、こいつ一筋縄では行かないぜ?」
「そうみたいだな。まあ、切り札はあるさ。お披露目にはちょっと早いけど、まあジェネシス達なら見せても大丈夫だろ。どうせお前らも持ってるだろうしな」
「は?何のことだよ」
「すぐに分かるさ」
するとキリトはメニュー欄を操作しとあるボタンを押す。
すると、背中にもう一本の片手剣が出現し、元々装備されていた漆黒の剣《エリュシデータ》とクロスする形で装備される。
「お前、それ……!」
「大方、お前の考えてる通りだよ。俺もこいつが出た時は何かと思ったさ」
そしてキリトは背中から二本の剣を引き抜いた。
右手には見慣れた《エリュシデータ》、左手には見たことのない翡翠色の十字剣があった。
左右の手に剣を持つ……二刀流。どうやらこれが、キリトの手に入れたスキルのようだ。
「イケメンで強いのねっ!!嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!!嫌いじゃないわーーーっ!!!」
クダルは巨大ハンマーを今度はキリトに向けて振り下ろす。
「セイッ!!」
キリトは二本の剣を巧みに操りハンマーを受け止め、捌いていく。
その隙にジェネシスは背後からクダルに斬りかかる。
「甘いわぁっ!!」
だがクダルはその攻撃を読んでいたのか振り向きざまにハンマーをジェネシスに横薙ぎで振り回す。
「うおっ?!」
ジェネシスは咄嗟に大剣を自身の左側に持ってくることで何とか直撃は避けたが、衝撃は防げず数メートル吹き飛ぶ。
しかしその一瞬の隙を見て、キリトがクダルの右手を斬りつけ、クダルのハンマーを叩き落とした。
「アアン!!やったわね?!」
するとクダルはハンマーを拾い上げるのではなく、腰から一本の紐……否、鞭を取り出した。
「アナタ達はこれで締めてあげるわ!!月に代わって……お仕置きよ!!」
「……それ言っていいの美少女戦士だけだからな」
「ああ。アンタみたいなガチムチのおっさんが言っていいセリフじゃない」
ジェネシスとキリトが呆れた顔でそう言った。
「〜〜っ、な、なぁんですってぇ?!!レディに向かって!!」
その言葉に逆上したクダルは、鞭をキリトに向かって放った。
「痛って!」
胴を叩かれたキリトは思わず数は後退する。
「えいっ!!」
間髪入れずに放たれた鞭はキリトの身体に完全に巻きつき、キリトは身動きが取れなくなった。
「ぶっ飛びいぃぃーー!!」
「うわああぁっ?!!」
クダルはその状態でキリトごと鞭を思い切り引っ張る。
キリトは空中に放り出されると同時に、鞭が解ける過程で回転が起きそのまま地面に背中から落下した。
するとクダルは、今度はジェネシスを標的に鞭を振るった。
ジェネシスは大剣の刃を横にして盾のように構えてそれを防ぐ。
だが、クダルはガラ空きになった彼の右足首に鞭を巻きつけてそれを引っ張り、ジェネシスを転倒させた。
「っ、くそ!!」
背中から倒れこみ思わず毒づくジェネシス。
そこへクダルが不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと近づく。
その時だった。
「はあああっ!!」
濃紺のコートを着た少年が彼に斬りかかった。
鋭くギラつく双頭刃。
サツキだ。
「…待たせたね」
サツキはジェネシスの方を振り向くと、笑顔でそう告げた。
「へっ、別に待っちゃいねぇよ」
ジェネシスは軽く笑って返した。
「……どうやら、決心はついたみたいだな。
ならもう大丈夫だ。行ってこい」
「……ああ!」
キリトは不敵な笑みで頷きながらサツキを送り出した。
サツキは双頭刃を構えて飛び出した。
「アナタも来るのね?ならお仕置きしちゃうっ!!」
「セイッ!!」
不規則に迫る鞭を、双頭刃の特徴である左右の刃で巧みに弾いて行く。
「凄いな……双頭刃はかなり扱いが難しい筈なのに、まるで自分の手足のように使ってる……相当な手練れだな」
キリトはサツキの戦いぶりを見て冷静に分析し、思わず感心の声を上げた。
「はあっ!!」
そして遂に、サツキはクダルの体を斬りつけた。
「ギャッッ?!!」
その攻撃でクダルは地面に倒れこむ。
「今だ!!」
キリトとジェネシスがクダルが倒れ込んだ瞬間を狙い立ち上がる。
「イケメンで強い………嫌いじゃないわ!!」
「くっっ?!」
クダルは一瞬で起き上がると、鞭をキリトの胴に巻きつけ、左手で拾ったハンマーでジェネシスを殴り飛ばした。
「アタシが抱きしめてあげる❤︎」
「げっっ?!」
「キリトさん!!」
サツキは右手で双頭刃を放り投げた。
すると、双頭刃は黄色い光を発しながらブーメランのように回って飛来し、そのままクダルの右肩を切り落とした。
双頭刃ソードスキル《リモート・フローター》
「ああっ、斬れちゃった?!」
「よし!」
「ナイスだぜ、サツキ!!」
キリトが自由になった右手でサムズアップする。
「当然ですよ。
プレイヤー同士困ったら助け合い、でしょ?」
「おっしゃる通りだわああああぁぁぁぁーーーー!!!」
クダルはそう叫びながらサツキに向かってハンマーを掲げてダッシュする。
サツキは双頭刃のグリップを両手で握り、右腰の辺りに低く構える。
双頭刃の二つの刃がゴールドの光を宿し、ソードスキルが発動する。
「セイヤアアアーーーッ!!」
そしてサツキは、一瞬でクダルに接近し、双頭刃を上手く回転させながら高速の乱撃を与えた。
双頭刃最上級スキル
《ロイヤルストレート・フラッシュ》
「逝って来まああああーーーす!!!」
クダルはそう叫びながら数メートル先へ吹っ飛んでいった。
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五十九層での激闘から数日後、一行はレインの店にいた。
ジェネシス達はあの後、オレンジギルド《ブルワーズ》頭領『クダル・カデル』をはじめとする多数の犯罪者プレイヤー達を監獄に連行し、その後も五十九層の山に居座るオレンジプレイヤー達の掃討に当たり、現在ではグリーンのプレイヤーも安心してアイテム採掘に行けるまでに治安は回復した。
「本当にありがとう、3人とも!」
レインは笑顔で頭を下げた。
その相手は、ジェネシスとティア、そしてキリトだ。
「いいや、俺たちは正直何もしてないよ。あいつらを倒したのは、あの二人さ」
キリトは首を振ってそれを拒絶し、視線を店の奥に向けた。
そこにいたのは、サツキとハヅキ。
「えっ、僕たちですか?」
「たりめーだろ。最終的にあのオネェを倒したのはテメェなんだからよ」
「ああ、お前達がいなければ、あのオレンジ達共を一掃する事は難しかっただろう。だから礼を言われるべきは、お前達二人だ」
自分の名前が出てキョトンとしているサツキに、ジェネシスとティアの二人が頷きながら肯定した。
「そうか……なら、ありがたくありがたく貰っておこうかな」
「そうそう、それでいーんだよ」
「あの、一ついいですか?」
不意にハヅキがたずねる。
「ジェネシスさん達…もう最前線に行っちゃうんですか?」
「そうだな、もう三日くらい空けてしまった」
「流石にこれ以上攻略をサボっていられないからな」
ハヅキの問いにティアとキリトが答えた。
「そうですか……なら、ここでお別れですね」
サツキが残念そうに目を伏せる。
「バーカ、これっきりな訳ねぇだろ。テメェらの実力なら、直ぐに最前線に追いつけるさ。そうすりゃ、また会える」
「ああ、心配しなくてもサツキとハヅキは十分強い。いつか君達と同じ場所で一緒に戦える日が来るのを楽しみにしてるよ」
サツキに対し、ジェネシスとキリトがそう励ました。
「「……はい!」」
サツキとハヅキは揃ってそれに応えた。
「なら、武器のメンテは私に任せてね。いつでも待ってるわ!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
レインとティアはそう言葉を交わす。
そしていよいよ、ジェネシスとティア・キリトの3人は街の中央にある転移門へ歩いていく。
サツキ達はその背中をただ手を振って見送った。
「……なあ、ハヅキ」
不意にサツキは妹に言った。
「いつかあの人達みたいに……僕らも必ず、そこへ行こう」
「うん。あたし達なら、きっと行けるよ」
そう言葉を交わし、見つめ合いながら微笑む兄妹。
彼らが最前線に姿を現わす日も近いだろう。
現在最前線は七十四層。
ここから更なる激闘が、ジェネシス達を待ち受ける────
お読みいただきありがとうございます。
これにてオリジナル回は終了です。
とあるユーザーの方からサツキとハヅキというオリキャラ案を頂いた時、当初は一話限りのゲストにするつもりだったのですが、いざストーリーを書きながら彼らの姿を頭に思い浮かべていると、いつのまにか愛着が湧いてもっと彼らを活躍させたくなりこうなりました。
ストーリーを一から自分で考えてやってたので、どうしても駄文にならないか心配でしたが、何とかやり終える事が出来て良かったです。
そして次回からは本編に戻ります。
いつも通り評価、感想などお待ちしております。
では最後に、サツキとハヅキ、こんな素敵なオリキャラ案を下さったユーザー様、本当にありがとうございました。