今回が年内最後の投稿になります。
アークソフィアの街中にある大きな広場。
ここで、ミツザネ・キリト、ジェネシスが向かい合って立っている。
「さて、まずはどっちから俺とやるんだ?」
ミツザネがキリト、ジェネシスに問いかける。
「んじゃ、先ずは俺から行くよ」
キリトが背中から二本の剣を引き抜き、ミツザネの前へと歩き出した。
それを見てミツザネは「ほう?」と口端を釣り上げ、
「二刀流か……それがお前さんの十八番ってわけかい」
「まあな。使いこなせるようになるまでは結構苦労したよ」
そしてキリトはメニュー欄からデュエル画面を選択。
《初撃決着モード》でミツザネにデュエル申請をする。
「……む?全損決着にはしねぇのか?」
ミツザネは首を傾げて尋ねる。
「いやいやいや……ミツザネさん、ここはどこだ?」
「……ああなるほど、そういうことか。
済まねえ、向こうにいた時の癖でな」
ミツザネはどうやらSAOの外での癖が抜けていないらしく、苦笑しながらデュエル申請を受諾した。
キリトとミツザネの間にデュエルカウントが表示され、60秒から1秒1秒と減っていく。それと共に、キリトとミツザネを中心とするフィールドの緊張感も高まっていく。
キリトは左右の剣を、ミツザネは左手の円形シールドと右手の拳を構えた。
その半径5メートルの周りには、彼の仲間達が控えて静かに見守る。
「キリトくん……」
アスナが心配そうな目で見つめる。
「ママ、大丈夫ですよ。パパが負けるはずがありません!」
「そうよアスナ。あんたの愛しの旦那が負けるはずないでしょ」
そんなアスナに対し、ユイとリズベットが彼女を励ますように言う。
「ユイちゃん、リズ……
ふふっそうね。キリトくんが負けるわけない」
アスナも笑顔でうなずき返し、再びキリト達の方を見る。
「おおぉーーい!キリの字ぃーー!そんなオッさんに負けんじゃねぇぞぉーー!!」
クラインが大声でキリトの方に叫ぶ。
この場にいるものの多くは『キリトが勝つ』と予想していた。
しかし一部の人間は『ミツザネが勝つだろう』と予想する者がいた。
「お前はどう思う?リーファ」
「あたしは……ミツザネさんに軍配があがるんじゃないかと思います」
リーファはALOにて、同じくALOをプレイしていたミツザネの実力を知っている。
ミツザネは様々な種族が争い合うALOにて最強プレイヤーと言われる程の実力があり、リーファ自身も実際彼の強さを目の当たりにした事がある。
あの時の光景をリーファは忘れた事がない。
ALOで傭兵として過ごすミツザネは、一度リーファ達《風妖精族》に協力してくれた事があり、その際リーファもその場に立ち会っていた。
その際に見せた蹂躙劇。拳一つで文字通り一騎当千の実力を発揮したミツザネを見たリーファは、『次元が違う』と感じた。
その雄姿は、正しく《
だからこそ、実の兄と言えどキリトがあのミツザネに勝てるビジョンがどうしても見えないのだ。加えてリーファはこの世界でのキリトの実力を知らない。
ーーーーーーーーーーーーーー
「……随分と信頼されてるみてえだな。お前さんの強さは余程のもんと見える」
ミツザネはアスナ達の方を一瞥した後、不敵な笑みでキリトの方に行った。
「まあな……正直俺の強さはどうか分からないけど、それでもみんなから期待されてるなら、俺はそれに答えるだけさ」
「その意気やよし。ならお前さんの全部、俺にぶつけてみろ!」
次の瞬間、カウントがついにゼロに到達した。
同時に二人がその場から飛び出す。
キリトの剣がミツザネの盾を直撃し、甲高い金属音と火花が飛び散る。
そこからはキリトの猛攻が始まった。
左右の剣から操り繰り出される高速の斬撃を、ミツザネは左手の盾で巧みに防御する。
「(くそっ……こいつ、ヒースクリフと同じくらい守りが固い!)」
キリトは思わず舌打ちした。
ミツザネの見事な盾捌きは、このゲームのラスボスであるヒースクリフの神聖剣に匹敵する程だった。
「ぬん!」
その時、ミツザネの右ストレートの拳がキリトに迫った。
キリトは持ち前の反応速度で咄嗟に右手の剣を突き出し、ミツザネの拳と衝突させる。
その瞬間、凄まじい衝撃波と共にキリトが大きく後方に吹き飛ばされる。
「ぐっ…!」
キリトは剣を突き立てる事で何とか減速する。
そのまま数メートルスライドしたところで何とか立ち上がる。
そんな彼をミツザネは見つめながら
「成る程……中々いいスピードがあんじゃねえか」
と感心したような笑みで言った。
「……アンタこそ、防御も固いし凄え馬鹿力だな。まるでヒースクリフみたいだ」
「ヒースクリフ?……ああ、このゲームのラスボスってやつか。
しかし、お前さんの反応速度はいいが……
……まだまだ半人前だな」
「……え?」
ミツザネがそれまでの柔和な雰囲気から一変し威圧感丸出しの声に変わり、キリトが戸惑いの表情を浮かべた瞬間。
キリトの目の前に、拳が迫っていた。
キリトとミツザネの間には数メートル間があったはずだが、ミツザネはその距離をキリトですら認識が遅れるほどのスピードで詰めたのだ。
その直後、キリトが立っていた場所から大爆発が起きた。
「キリトくん!!」
アスナが思わず悲痛な叫びを上げる。
煙が晴れ、キリトとミツザネの姿が露わになる。
キリトはミツザネの右拳を、左右の剣を交差させる事で防いでいた。
「よく防いだな。だが……!」
すると間髪入れずに、キリトの腹に向けてミツザネは膝蹴りを食らわせた。
「ぐはっ?!」
その衝撃で上に飛ばされたキリトの左足首をミツザネは右手で掴み、そのまま反対側に振り回して地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられた衝撃で起き上がれないキリトをミツザネは容赦なく蹴飛ばし、数メートル吹き飛ばす。
僅か数秒間で受けてしまった凄まじい攻撃によって、中々起き上がれないキリト。ミツザネはこれまでスキルの類を使用していないため、キリトのHP自体はそこまで減ってはいない。
しかし逆に言うと、ミツザネはキリト程の人間をスキル無しでここまで一方的に戦ったのだ。キリトはその事実に気づき、改めてミツザネの方を見やる。
そんな彼が目にしたのは、今まさに自分に向けて飛び蹴りを放つミツザネの姿だった。
キリトはダメージの残る体を無理やり動かしそこから飛び退く。
キリトのいた場所にミツザネの右足が直撃し、大きな爆音と共に土煙をまきおこす。
その煙の中から何かが飛来してきた。それは鈍い銀色の光を放つ物体。
ミツザネの円形シールドだ。キリトはそれを左手の剣で横に弾き飛ばす───────
───────その背後からミツザネが拳を構えているのにも気付かずに。
「な……に……?!」
キリトはそれに気づくと慌てて防御体制をとるが……
「もう遅ぇよ」
ミツザネの拳がゴールドの光を放ち、その拳がキリトの右頬を直撃した。
これは、ミツザネがコンバートした際に現れたユニークスキル《闘拳》、その内の上級技《虎伏絶倒》。
その衝撃でキリトは大きく吹き飛ばされた。
凄まじい勢いでキリトは転がっていき、そのまま広場に隣接する建物に激突した。
そのダメージでキリトのHPはイエローゾーンに達し、クリティカルヒットが決まった為《Winner Mitsuzane》と言う表示がフィールドに出た。
皆はあまりの衝撃に言葉が出ない。
「こ、これが……ALOの生ける伝説、《星海坊主》さんの実力……!」
一連の戦闘を見ていたサツキが衝撃を隠しきれない様子で呟く。
キリトの実力はサツキを含めこの場にいる者全員が知っている。
そんな彼が、文字通り手も足も出ずに完敗を喫したその衝撃は凄まじいものだった。
「うそ……あのキリトが……」
リズベットもその結果を受け入れられない様子だ。
場はそれっきり静まり返る。
キリトは放心状態で座り込んでいる。
そんな彼に、ミツザネは歩み寄って行く。
「お前さんの実力はよく分かった。速さ、連撃数、防御力……恐らく、数あるユニークスキルの中でも、お前さんが使う二刀流はその中心にあるバランス型。
まあ、バランス型と言えば聞こえはいいが……今のお前さんの二刀流は、はっきり言えば“中途半端”だ」
キリトはその言葉に目を見開いた。
「中途…半端……?」
「ああ。特別速いわけでもなければ、防御が固いわけでもない。
唯一反応は良いみたいだが、そんだけだ。どれを取っても特別優れてる物は無え。
良いか?バランス型と言うのはな…全てを極めて初めて武器となり得る。今のお前さんでは、防御に優れたヒースクリフの神聖剣にはどうあっても勝てなかったんじゃねえか?」
ミツザネの言葉にキリトは何も言えない。
そう言って思い出すのは、数ヶ月前のヒースクリフとのデュエル。確かにあの時、キリトは彼の防御を破ることが出来なかった。
そしてつい先日。七十五層でのボス戦の後、ジェネシスが自分の代わりにヒースクリフと戦った。
だがもし自分が行っていたら……果たして自分は勝てただろうか?ヒースクリフのあの防御を破ることが出来ただろうか?
いや、恐らく不可能だっただろう。ただでさえ向こうにはソードスキルが使えないというハンデがある中でがむしゃらに剣を振ったところで全て弾かれて終わりだ。
「まあ落ち込む必要はねえよ。まだまだ先は長え……
精進しろよ若造」
そう言ってミツザネは背を翻して歩き出した。
ーーーーーーーーーーーー
続いて二戦目。
ジェネシスがミツザネと面と向かって立っている。
既にデュエル申請は済ませ、ジェネシスとミツザネの間にはカウントが始まっている。
だがミツザネの雰囲気はキリトの時と違い何故か険しいものだった。
「…あの、お義父さん?まだ雫の事で怒ってんすか?」
ジェネシスが引きつった表情でミツザネに尋ねる」
「当然、まだ許しちゃいねえよ……だがお前さんに一つ確認したいことがある」
そこで一呼吸置き……
「お前さん、雫ちゃんとはヤることはヤったのか?」
「ぶふっ?!」
ミツザネの問いにジェネシスを含めたその場の者たちが皆吹き出した。
「おい!それ今聞かなきゃいけねえ奴か?!」
ジェネシスが思わずそう叫ぶが、
「な、何故否定しないんだ?!もしやお前……!!」
「ち、違っ……あ、いや…なんつうか、ええと……」
ジェネシスは慌てて否定しようとしたがそれが出来ず、思わずティアの方を見た。
「………///」
ティアは頬を真っ赤にして顔を背けた。
「(オイイイィィィィーー!!)」
ジェネシスはティアの反応に心の中でそう叫んだ。
「ヤったんだな?そうか、よーく分かった……
もうゆ゛る゛さ゛ん゛ぞおぉぉぉ!!!」
その瞬間、デュエルカウントがゼロになり、ミツザネは目を血走らせながら飛び出した。
「ウワアアァァ───────!!!」
直後、広場にはジェネシスの悲鳴とともにいくつもの爆音が響いた。
ーーーーーーーーーーーー
キリト、ジェネシスとミツザネのデュエルから一ヶ月が過ぎた。
キリトはミツザネから受けたアドバイスを意識し、ダンジョンでは速さだけでなく防御、攻撃力を鍛えることも意識して攻略に臨んでいた。
そしてある日、ジェネシスとキリトがとあるダンジョンにてレベリングをしていた時だった。
「……ん?」
突如、二人の身体が青い光に包まれ、そのダンジョンから姿を消した。
次にジェネシスの視界に飛び込んできたのは、薄暗い森林だった。
先程までいた洞窟型ダンジョンでは無い。
一体ここは何なのか……ジェネシスはメニュー欄からマップを表示しようと右手を上げる。
「おい」
その時、ジェネシスの背後から凛とした女性の声が響く。
ジェネシスが振り向いたその瞬間、彼に向かって無数の黒い塊が飛来した。
咄嗟にその場から飛びのくと、彼の立っていた場所にそれらが無数に刺さった。
よく見るとそれは、この世界では全く見ない珍しい武器。
手のひらサイズの非常に小型な刃物で、クローバーのように四方向に刃が付いている。
「手裏剣……?」
ジェネシスが再び声のした方を向くと、そこには大木にもたれかかった女性がいた。
女性の髪は金髪。髪を後ろに団子状に束ねており、簪を差している。衣服は片袖のないスリットの入った着物を纏っており、スリットから見える足には網目状のニーソに黒いブーツを履いている。
そして口元には今も煙を吐くキセルを加えている。
西洋風のSAOの世界では珍しい、『和』の雰囲気を纏った女性。さながらそれは、《忍》のようだ。
「こんな所まで追ってくるとは……主らも随分と暇のようじゃのう」
女性はジェネシスの方は向かずにそう言った。
「オイオイ、全く身に覚えが無いんだがな」
ジェネシスが肩を竦めながら言うが、
「しらばっくれるな。ここまで来たからには、もう容赦はせぬ……覚悟するがいい」
そして女性は両手に苦無を取り出し、鋭い表情でジェネシスに斬りかかった────
お読みいただきありがとうございます。
突如現れた女性プレイヤー……みなさんはモチーフが誰かお分りいただけたでしょうか?
では、最後にお知らせです。
以前、本作のR-18版を作ることを申し上げましたが……
先週、漸く完成し投稿してあります。まだご覧になっていない方は是非。
では、今年もありがとうございました。
皆さん、良いお年をお迎えください。