ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願いします。
さて、新年の一話です。


二十五話 ホロウ・エリア

薄暗い森林の中で幾多もの金属音と火花が飛び散る。

一人は大剣を持った男性、もう一人は両手に苦無を逆手に持った女性だ。

左右の手から素早く繰り出される苦無の斬撃を、ジェネシスは大剣の刃を最小限に動かすことで防いでいく。

 

「……ほう?主、見てくれよりは中々やるようじゃの?」

 

金髪の女性は感心したようにニヤリと口端を釣り上げて言った。

 

「舐めんじゃねーよクソアマ。こちとら毎日最前線で命張って戦ってんだよコノヤロー」

 

「どうやらそうらしいの。じゃが……主にも見えているのじゃろう、わっちのカーソルが」

 

そう言って女性はほくそ笑んだ。

彼女のカーソルの色は……オレンジ。つまり犯罪者プレイヤーだ。

 

「この通り、わっちはオレンジ……主を攻撃する事に何の躊躇もありんせん。死にたくなければ大人しく引きなんし」

 

ジェネシスの大剣の刃を左右の苦無で抑え鍔迫り合いを起こす中、女性は紫の瞳から鋭い眼光を放ちながら威圧感のある声でジェネシスに言った。

 

「引くも何も、元よりこっちはテメェから振っ掛けられた身なんだがな……」

 

ジェネシスは女性の言葉に困惑した表情で返す。

 

「その表情……主、わっちらを追ってきたもの達では無いのか?」

 

「だから、何の話だってさっきから」

 

だが彼の言葉は最後まで続かなかった。

 

「む……フィリア?」

 

彼女は突如視線をジェネシスから晒し、遠くの方に視線を移しそう呟くと、苦無を収めその場から跳び上がった。

勢いよくジャンプし、木の枝に飛び乗るとそのまま立て続けに木々を飛び移って移動していく。

 

「なっ……おい待て待てどこいくんだよ?!」

 

ジェネシスは慌てて駆け出し、彼女を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

〜数分前〜

森林の中を、ひとりの少女が駆ける。

青いポンチョを纏い、フードを被っているため顔はよく見えないが、何かを確認するように時折顔を後方に向けている。

だが少女が後ろを見ている間に、数メートル先に青白い光と共に1人の少年が現れた。黒いロングコートを身につけたプレイヤー、キリトだ。

 

「────っ!!」

 

少女がキリトに気づくが少し遅かった。

少女は木の根に躓き体勢を崩し、そのままキリトと衝突した。

 

「うわっ?!」

 

キリトはその衝撃で後方に倒れこむ。

 

「くっ……はあああっ!!」

 

少女も倒れこむが、起き上がると同時に腰から短剣────ソードブレイカーを引き抜き、キリトに斬りかかった。

 

キリトは咄嗟に背中の黒剣を引き抜き、それに応戦する。

刃同士が激しくぶつかり合い、その度に火花が飛び散る。何度も剣を打ち合う中、キリトはある事に気付いた。

 

「(っ!オレンジプレイヤーか!)」

 

オレンジプレイヤーは犯罪行為を躊躇わないというのがこのゲーム内での通説だ。例え殺人であっても。

だとすると、下手に手加減していてはこちらがやられる可能性がある。

キリトは意を決して剣を勢いよく振り下ろす。

それに対して少女はソードブレイカーを逆手に持ち替え、凹凸になっている方の刃でその黒剣を受け止めた。

つばぜり合いが続く中、少女は目の前の相手をじっと見つめると、それまでの敵意むき出しの表情がやや軟化し

 

「…あんた、誰?」

 

と覇気のない声で訪ねた。

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

キリトはそう叫び返した。

2人の鍔迫り合いは続く。金属が擦れる音だけが辺りに木霊する。

その時だった。

 

「─────っ?!」

 

キリトに向けて複数の黒い物体が飛来し、それに気づくとキリトは慌ててその場から飛び退いた。

黒い物体はキリトの立っていた場所を通過し、そのまま木の幹に刺さった。

木に刺さったのは手裏剣。飛んでいた高さや角度から、もし命中していれば間違いなく致命傷になっていただろう。

 

「ほう……どうやらこんな所にも、招かれざる客がノコノコとやって来ていたようじゃの」

 

すると今度は、手裏剣が飛んできた方向から別の女性の声が響く。

見ると、大木の枝の上に1人の金髪の女性が立っていた。

その衣装や口に咥えたキセルから、和の雰囲気を醸し出している。

 

「つ……ツクヨさん!」

 

ソードブレイカーの少女は女性を見てそう叫んだ。どうやら彼女は『ツクヨ』という名らしい。

 

「遅くなったのう、フィリア。まさか主も、何処ぞの馬の骨とやり合ってるとは思うておらんかったが……」

 

そう言って、ツクヨという女性は一度キセルを話して口から煙を「フウ……」と吐き、キリトの方に視線を移す。

 

「さて、主には一つ聞いておきたいことがある……

何故フィリアを襲った?」

 

ツクヨは鋭い目つきでキリトを見下ろしながらそう訪ねた。

 

「襲ったって……違う!俺は気がついたらこんな所に転移させられてて、そしたら目の前にこの娘がいて、いきなり斬りかかって来たんだよ!」

 

キリトは慌てて弁明する。そんな彼を、ソードブレイカー使いの────『フィリア』という名の少女は疑わしい目で見つめていた。

しかしそれに対してツクヨは特に表情を変えることもなくキリトの言葉を聞いていた。そして全て聴き終えると、再び煙を口から吐いて

 

「……もし普段なら、主の言葉など信じられぬ所ではあるが、どうやら強ち嘘をついているようではないようじゃな。現にわっちはさっき、主と同じ事を言う輩と出会ったのでな」

 

ツクヨは少し微笑を浮かべながらそう言った。

 

「俺と同じ事を……?ま、まさかジェネシスが?!」

 

キリトは目を見開いてツクヨにそう聞き返した。

しかしその時だった。キリトとフィリアのすぐ横に何かが飛び降りて来た。

キリトは何がおきたのか訳がわからない様子だったが、フィリアはソードブレイカーを構えてかなり警戒している様子だ。

ツクヨも木から飛び降りてキリト達のすぐそばまで歩み寄った。

 

「やれやれ……何とか撒いたと思うておったが、人気者は辛いのう」

 

やがて煙が晴れ、その姿があらわになった時キリトは驚愕した。

骨だけで構成された身体。ムカデのような体型。胴体から伸びる4本の腕とそこから生える禍々しい大鎌。人間の頭蓋骨を模した怪物的な容貌。

忘れるはずもない。それはかつて、キリト達を大いに苦しめたモンスター……

 

「す、『スカル・リーパー』だと?!」

 

「む?主、この怪物を知っておるのか?」

 

キリトの声を聞き、ツクヨがキリトの方を見て尋ねる。

 

「ああ……こいつは七十五層のフロアボスだ。こいつを倒すのに、14人が犠牲になった」

 

「フロアボスが、どうしてこんな所に……?」

 

フィリアは小さくそう呟いた。

 

「なあ、ここではこんなモンスターが出るのか?」

 

「あんた達ならず者と話す事はないわ」

 

キリトはフィリアの方を見てそう尋ねるが、フィリアはキリトを信用していないのか取り合わない。

 

「“あんた達”?何か勘違いしてないか?」

 

だがその時だった。

スカル・リーパーの鎌がフィリアめがけて振り下ろされたのだ。

 

「危ない!」

 

キリトは咄嗟にフィリアの前に飛び出し、右手の黒剣でその鎌を受け止めた。

 

「ぐっ……(俺だけで受け止められるって事は、七十五層の時よりパラメータが低く設定されているな。けど、そう簡単に逃がしてくれる相手でもなさそうだ)」

 

「あ、あんた……どうして」

 

フィリアは何故キリトが自分を庇ったのか分からないようだ。

 

「なあ、君達!少しは戦えるんだろう?今は一時休戦にしないか?こいつの鎌は俺が食い止めるから、その隙にサイドから攻撃してくれ!」

 

キリトは鎌を押し返しながらツクヨとフィリアにそう提案した。

 

「な、何で私があんたなんかと……」

 

フィリアは拒絶の意を示すが、ツクヨが彼女の肩をポンと叩く。

 

「まあそう言うなフィリア。こいつを仕留めるチャンスは今しかない。今はあのお人好しのバカを利用させて頂こう」

 

ツクヨはそう言いながら腰から手裏剣を取り出し、右手に短刀を逆手に持った。

 

「……っ、ツクヨさんが、そう言うなら」

 

フィリアは渋々という様子で了承した。

そして2人はキリトの両隣まで駆け出した。

 

「おい主。名は何という?」

 

ツクヨはキリトの隣に立つと、そう尋ねた。

 

「俺は……『キリト』だ」

 

「キリト……?ほう、主があの《黒の剣士》か。ではキリトよ。作戦は変更じゃ。鎌は受け止める必要はない」

 

「え?」

 

ツクヨの言葉に、キリトは目を丸くした。

 

「わっちが奴のヘイトを集める。主とフィリアはその間に奴を攻撃しなんし」

 

「あんたがヘイトを……?

わかった、助かる。それじゃ行くぞ!」

 

キリトの掛け声と同時に、3人は飛び出した。

先ずは先制攻撃として、ツクヨは左手の手裏剣を投げた。

それは銃弾のような速さで真っ直ぐ飛んでいき、スカル・リーパーの右目に刺さった。

 

『キシャアアアアアァァァッ?!』

 

目を潰されたスカル・リーパーは、怒り狂った様子でツクヨに飛びかかった。

そして右手の鎌を素早く振り下ろすが、ツクヨはそれが自分に届く前にその場から跳び上がった。

ツクヨが立っていた場所に鎌が命中し、轟音を立てて大きな土煙を上げる。

スカル・リーパーはそのまま首をツクヨが跳んだ方に向ける。その視線の先には、余裕の笑みを浮かべながら木の枝の上に立つツクヨが居た。

スカル・リーパーはそれを見て更に激昂した様子でツクヨの立つ木に向かい、鎌でその太い幹を一閃した。

木は真っ二つに折れ、地面に倒れると共に消滅した。

 

しかし、その上空にはツクヨが左手に淡いピンクのライトエフェクトを纏った手裏剣を構えていた。

ツクヨはその手裏剣を一思いに投げる。

淡いピンクの光を放ちながら、手裏剣は高速回転のままスカル・リーパーへと飛んでいく。

 

「『手裏剣術《桜吹雪之舞》』」

 

ツクヨは静かな声で技名を発した。

その直後、一つだった手裏剣が無数に分裂した。

分裂した手裏剣は、まるで雨のようにスカル・リーパーに降り注ぐ。無数の淡いピンクの光が空中で幾多にも飛び回るその光景は、まるで春の季節に舞う桜吹雪のようだった。

スカル・リーパーは腕を交差させて防御体制を取るが、手裏剣はリーパーの身体に次々と突き刺さっていく。

桜吹雪が止んだ後、スカル・リーパーの身体には夥しい数の手裏剣が刺さっている。

その後、スカル・リーパーは地面に着地したツクヨにめがけて突進して行くが、ツクヨは軽々とその場からジャンプし、スカル・リーパーを飛び越えて反対側の木に着地する。

そしてそこから次々と木から木へ飛び移り、スカル・リーパーを翻弄して行く。スカル・リーパーは彼女の動きについて行けず、周りをキョロキョロと見回すというシュールな動きをしている。その間にも手裏剣や苦無が飛来し、HPはどんどん削られて行く。

 

「(凄いな……あんな身のこなしが出来る奴なんて、攻略組でも中々居ないぞ。しかも手裏剣や苦無のスキルが存在するなんて聞いたこともない。

まるで忍者だな)」

 

キリトはツクヨの見せる戦闘に思わず感心したように見惚れていた。

 

「ちょっと!何ボーッとしてるのよ!!」

 

すると、フィリアがキリトに向けて苛立った様子で叫んだ。

 

「え?あ、ああ済まない」

 

キリトは右手の黒剣を掲げ、骸骨がツクヨに気を取られている隙を突いて胴体を斬りつけた。フィリアも同じように反対側から短剣で攻撃する。

だがそれによって、スカル・リーパーのヘイト対象がキリトとフィリアに切り替わる。骸骨は2人の方を振り向くと、そのまま左右の鎌を振り上げ、キリト達を叩き斬らんと構える。

しかし、それをさせないようにするのがツクヨの役目。

 

「おい、余所見か?」

 

ツクヨの声と共に、無数の苦無が飛来し骸骨の身体に突き刺さる。

 

「苦無術『自来也蝦蟇毒苦無』」

 

次の瞬間、スカル・リーパーの全身に紫の電流が走り、身体を痙攣させてその場に蹲った。 

毒効果を伴った苦無を投擲するソードスキルだ。麻痺状態はものの数秒で解除されるが、それでも十分な時間稼ぎだ。

 

「今のうちじゃ!早くやりなんし!!」

 

ツクヨがそう叫んだ。

 

「……よし、行くぞ!」

 

キリトは背中にもう一つの翡翠の剣をオブジェクト化し、左手でそれを引き抜く。

左右の剣が青白い光を放ち、キリトは骸骨の狩手に斬りかかる。

二刀流十六連撃ソードスキル《スター・バースト・ストリーム》

 

「これで……終わりにする!」

 

フィリアも短剣を掲げて骸骨の狩手に飛びかかった。

短剣ソードスキル《ファッド・エッジ》

オレンジの光を放つ刃が骸骨の身体を切り裂いて行く。

 

『キシャアアアアアァァァッ!!』

 

2人の攻撃を受け致命的なダメージを負ったスカル・リーパーは、仕返しとばかりにフィリアに向け右手の大鎌を振り下ろした。

 

「不味い、フィリア!!」

 

ツクヨが慌てて駆け出すが、とても間に合わない。

フィリアは覚悟を決めて目を閉じた。

 

「うおおぉらあああああ!!」

 

その時、赤黒い刃が骸骨の鎌を弾いた。

フィリアが目を開くと、そこには赤い髪に赤黒い衣服を纏った男性が立っていた。

 

「ジェネシス!!」

 

キリトが彼を見てその名を叫んだ。

 

「主…何故こんなところに」

 

「いやいや、てめぇどんだけ逃げ足速ぇんだよ。てめぇ追っかけてたら途中で見失っちまったじゃねえか。んで、あちこち歩いてたらなんか見覚えのある骸骨が見えたんでな」

 

ジェネシスはそう言ってスカル・リーパーの方に視線を移す。

 

「しかし、どうやらステータスはだいぶ低めに設定されてるらしいな?なら、こんな雑魚倒すのは朝飯前ってもんだ」

 

そして不敵な笑みを浮かべながら大剣を肩に担ぐ。

 

「ああ、お前がいるなら百人力だ。一気に行くぞ!」

 

キリトもそう言いながら左右の剣を構えた。

 

「全く……随分と勝手な奴じゃな」

 

ツクヨは呆れたようにため息を吐きながら苦無と短刀を左右の手に取った。

 

「はあ……もうなんでも良いや」

 

フィリアもやれやれと嘆息し、ソードブレイカーを構えた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

ジェネシスが加勢したあと、戦闘はよりスムーズに運んだ。

まあ、スカル・リーパーの方は既にHPが半分以下になっていたため、およそ戦闘らしい戦闘にはならなかったのだが。

 

「ふう……何とか倒し切れたな」

 

キリトが安堵のため息を吐きながら、左右の剣を背中に収めた。

 

「スカル・リーパー……こんなモンスター初めて見た」

 

「七十五層のボスに随分似てやがったな」

 

フィリアの呟きに対し、ジェネシスが続けて言った。

 

「キリトも同じ事を言っていたのう。何故にフロアボスがこんな所におるんじゃ」

 

「さあな……でも、ステータスは大分弱くなってて助かった。同じステータスなら、俺たちは間違いなく全滅させられてた」

 

ツクヨの疑問に対し、キリトが応えた。ジェネシスもうんうんと頷いている。

そしてキリトはふとフィリアの方を向き、

 

「えっと……出来れば俺はしたくないんだけど、やっぱり君達とは戦わないといけないのか?」

 

キリトはツクヨとフィリアの方を向き、苦い顔で尋ねた。

 

「まさか。この流れで改めて戦おうなどと言うつもりはありんせん」

 

ツクヨがそれに対して苦笑いを浮かべながら首を横に振った。

 

「でも、あんた達…本当にあいつらの仲間じゃないの?」

 

フィリアがキリトとジェネシスに対し尋ねる。

 

「お前らさっきからそればっかだな。“あいつら”って誰だよマジで」

 

「いや、気にせずとも良い。ここを彷徨っていれば、いずれ分かる事じゃ」

 

ジェネシスが呆れた顔で答え、ツクヨがそれを遮る。

 

「しかし、主らも変わった奴らじゃのう……わっちらのカーソルが見えておらぬのか?」

 

「すっごい今更な感じがするんだけど……まあそれどころじゃ無かったしな。聞いたら答えてくれるのか?」

 

キリトがそう尋ねると、ツクヨとフィリアか少し顔を見合わせ、

 

「………いいわ、教えてあげる。

私たち、人を殺したの」

 

静かな声でフィリアはそう答えた。

 

「ふーん。そっか」

 

だがそれに対し、ジェネシスは興味なさげに鼻を穿りながら言った。

 

「ちょっと……何よその反応?貴方の目の前にあるのは人殺しよ?何とも思わないの?」

 

「いやだって、俺も人殺しだし」

 

「「なっっ?!」」

 

「おい、ジェネシス!それは……」

 

ジェネシスが告げた言葉にフィリアとツクヨは目を見開き、キリトがそれを遮ろうとする。

 

「ぬ、主……それはどう言う事じゃ?」

 

「どうもこうもそのまんまだよ。俺も人を殺したんだよ、それも20人近くな」

 

その瞬間、フィリアが腰から勢いよく短剣を引き抜き、構えた。

 

「寄せ、フィリア!」

 

「ツクヨさん!こいつ、やっぱりあいつらの仲間だよ!人殺しを何とも思わない、殺人鬼に決まってる!」

 

今にも斬りかからんとする勢いのフィリアの腕をツクヨが制止し、フィリアはそんな彼女に対し険しい顔で捲し立てる。

 

「待ってくれフィリア!確かに、ジェネシスの言ってることは事実だ。でも、それには事情が」

 

「いいんだ、キリト。言う必要はねえ」

 

事情を話そうとするキリトをジェネシスが止めた。

 

「事情があんなら人殺しをしてもいいなんて道理はねえよ。俺がやった事は間違いなく悪だ。そしてそれはてめぇらもな。

けど、それを間違いだと思えてるてめぇらは、まだマシな方なんじゃねえの?SAOには人殺しを楽しむような奴らだっでいるわけだしな」

 

「……それはあんた自身のことを言ってるの?」

 

「バーカ。俺をあんなクソったれ共と一緒にすんなよ。

少なくとも俺は、人殺しを楽しいなんざ思った事は一度もねえ。

だが俺はあの時、どうしても殺さざるを得なかった、とだけ言っとくぜ」

 

ジェネシスがそう言うと、フィリアは剣を下ろした。

 

「……そう。あんたは沢山の人を殺してるけど、あいつらとは違うのね。ならいいわ」

 

そう言って短剣を腰の鞘に収めた。

 

「さて、とりあえず…………ここは何処なんだ?」

 

「さあな、わっちらにもそれは分からん。一ヶ月前にここに飛ばされたのじゃが、生き残るのに精一杯でそれどころでは無くてな」

 

ジェネシスの問いにツクヨが答えた。

 

「一ヶ月前?!まさか、結晶無効化エリア……って、普通に使えるじゃないか」

 

「ここの階層は分からなくなってるけど、アイテムやメッセージは普通に使える」

 

キリトがメニューを開いて確認するが、フィリアがそう説明した。

 

「転移結晶が無いのなら、俺のをあげようか?幾つか持ってきてるから」

 

「いや、いい。それは主らの物じゃろう?ならば自分で持っておきなんし。そこまで世話になるつもりはありんせん」

 

キリトがポーチから結晶アイテムを取り出そうとするが、ツクヨがそれを止めた。

 

「そうかよ。しっかし、これからどーするか……」

 

ジェネシスがそう呟いた時だった。

 

『ホロウ・エリアデータのアクセス権限が解除されました』

 

突如流れたシステムアナウンス。

 

「あ、あんた達、それ……!」

 

するとフィリアが、ジェネシスとキリトの手の方に視線を向けながら言った。

ジェネシスとキリトはその視線につられて右手を確認すると、そこには鍵のような光の紋章が浮かんでいた。

 

「おいおい……こりゃ一体なんだ?」

 

「さっきまでこんなものは無かったぞ……?」

 

2人は右手の紋様をまじまじと見つめる。

 

「ねえ、その紋様よく見せてくれない?」

 

フィリアが2人の右手をとって間近でそれを見つめる。

 

「やっぱり同じ……」

 

「同じって何がだよ?」

 

フィリアの呟きにジェネシスが疑問符を浮かべる。

 

「主らのその手に浮かんだ紋様と同じものを、わっちらは既に見たことがあってな。その場所も知っておる」

 

「本当か?!そこに行けば、何か分かるかもしれないな……その、君達さえ良ければだけど、そこへ連れていってくれないか?」

 

ツクヨとフィリアは少し思案した後、

 

「別に構わない。でも、そんな簡単にオレンジ……いいえ、レッドを信用していいの?」

 

「なーに言ってんだ。もう今更だろうが」

 

「そうそう。それに、SAOの中で命がけの戦いを一緒にしてくれたんだ。それだけでも信用に値するよ」

 

ジェネシスとキリトの言葉を聞き、フィリアとツクヨは軽く笑みを浮かべた。

 

「な、何だよ?」

 

「いいや。主らは宇宙一バカなお人好しじゃなとって思ってな」

 

「い、一応人を見る目はあるんだけどな……」

 

「そうか。それは光栄と言っておこう……。

そう言えば、主の名をまだ聞いておらんかったの」

 

ツクヨが思い出したようにジェネシスの方を向き尋ねる。

 

「ん?あーそういやそうだったな。俺は『ジェネシス』だ」

 

「ほう?よもや《アインクラッド四天王》の2人とここで会うことになろうとは……僥倖というものじゃな。

わっちは『ツクヨ』じゃ。以後知り置け」

 

「私は『フィリア』。よろしく」

 

「ああ。それじゃあ、行こうか」

 

キリトがそう言うと、フィリアとツクヨが先導する形で4人は歩き出した───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュウ。コイツは驚いた……最高のP.A.R.T.Yが始められそうだなぁ〜」

 

───────背後の木の陰からの視線に気づかずに。

謎の人物はそれを見届けると、足元に一枚のカードを置いて姿を消した。

 

そのカードに書かれているのは……

トランプの『ジョーカー』。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
ツクヨ、と言う名前からもうお気づきになられた方もいらっしゃるでしょう。モチーフは銀魂の月詠さんです。とあるユーザー様から頂いた忍者キャラ案を元にこのキャラを作りました。自分、月詠さん好きなので。
そして終盤に現れた謎の人物。トランプのジョーカーを持っていますが、果たして……
実はこれも、他作品のとあるキャラをモチーフにしてます。ヒントはジェネシスの二つ名である《ダークナイト》です。


では最後に、宣伝をさせて頂きます。
以前もご紹介した、イセスマ二次創作作家の咲野皐月さんと言う方の小説『異世界はスマートフォンとともに。if』がただいま絶賛連載中で、次回投稿は1月10日だそうです。
ここで少しオリキャラ情報を軽く。

主人公『サツキ』
モチーフはSAOのキリト。黒のファーコートを身につけた少年。イメージCVは松岡禎丞さんだそうです。完全にキリトくんですねこれ。

そしてもう1人。こちらはまだ未登場のキャラでございます。

キャラ名 アヤナ・カーディナリア
ネーミングモチーフは、このキャラのイメージCVである竹達彩奈さんと、SAOのカーディナルシステムからだそうです。天真爛漫な性格なんだとか。何処と無くリーファちゃんを連想させますね〜。
ネタバレヲ防ぐため、紹介はこの辺で。
イセスマが大好き、或いは主人公最強物の小説が大好きと言う方は、是非この小説をご覧になることをお勧めします。

では、長くなりましたが今回はこれにて。












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