ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも皆さん、ジャズです。
今回、幕間と言う事でかなり短いですがご了承下さい。


二十六話 《幕間》人斬りの男

その日、ティアやアスナ達はエギルの宿で休みを取っていた。珈琲や紅茶、ジュースなどを片手にガールズトーク(一名は男子)を繰り広げ、穏やかな時を過ごしていた。

だがそんな時間は、ジェネシスとキリトの位置情報が突如途絶えた事によって終わりを告げる。

彼女達は即座に店を飛び出し、手早く範囲や担当を決めキリトとジェネシスの捜索に当たった。

ユイとレイは店で待つように言い渡され、2人は彼女達と父親の帰りを大人しく待った。

 

だが、自身の親がもしかしたら危険な目に遭っている可能性もあるのに、大人しく待つことなどレイには出来なかった。

アスナやティア達が捜索に出て数時間が経過した時だった。

 

「ユイ、少しお外に出てきますね」

 

「え?でも、ママ達はここで待ってなさいと……」

 

「大丈夫。ちょっと街をぶらぶらするだけですから」

 

レイはユイの制止を聞かずに宿の扉を開けた。

危険なのは百も承知だ。しかし、それでもじっとしていられなかった。

早く父親───────ジェネシスを見つけ、その肩に飛び乗りたい。その一心で、レイは遂に圏外に出た。

もしティアにバレたらきっと怒られるだろう。それも覚悟の上だ。

 

───── 待っていてください、パパ。直ぐにレイが行きますから

 

だがレイは、自身のこの軽率な行動を、すぐに後悔することになる……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜数十分後〜

 

レイが1人やって来たのは、薄暗い森の中だった。

自分よりもかなり高い草木をかき分けながら、レイは単身森の中を進んで行く。

当然ながらその途中で何度もモンスターとエンカウントした。その度にレイは必死に逃げ、何とかここまでは無事逃げ切れたものの、その体力はもう限界が近かった。

呼吸が乱れ、足がふらつく。

だがレイを消耗させているのは、肉体的な疲れだけでは無い。

 

ここまで数時間、レイはたった1人でここまで歩いて来ていた。彼女はまだ幼い子供。当然ながら孤独がレイの心を蝕む。無論、誰かにメッセージを送ってここまで来て貰えばいい話なのだが、レイは母親であるティアの言いつけを破って来ていた。どのような顔をして助けを求められるだろうか。

たった1人という孤独と、言いつけを破った申し訳なさで板挟みになる中、レイはそれでも進む。ここまで来たら、何としてもジェネシスを見つけ出すために。

 

だがそんな中、レイの目にあるものが映った。

 

高い草葉のせいで隠れているが、少し離れた場所に風でたなびく銀の髪が見えた。

 

「(ママ──────!)」

 

レイが知る中で、銀髪の人物は1人しかいない。

もしかしたら、偶然自分は今自分が最も求める存在の近くに来ていたのかもしれない。

レイは一瞬、その場から駆け出すのを躊躇った。何故なら、レイはティアから言われた事を聞かずに外に出ているのだ。当然、キツいお説教が来るだろう。

だがレイはもう限界だった。肉体的にも精神的にも、今は兎に角誰かと一緒にいたかった。

 

「(……もう私は限界です。ママの所に行きましょう。そしてうんと怒られましょう。しっかり謝れば、ママもきっとわかってくれます!)」

 

レイはそう意を決して、疲れで震える足に鞭打ってその場から駆け出した。

 

「ママーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ぐわああぁぁぁっ?!!」

 

だがレイの視界に飛び込んだのは、彼女の母親などでは無かった。

目の前にいる、2人の男性。

1人は一本の刀を手にし、もう1人はその刀で串刺しにされている。

やがて刀で刺されていた人間は、ガラス片に変えて消滅した。

刀を持った男性の銀の髪が風でふわりとたなびく。

 

「───────え?」

 

レイは思わずそう発した。

その声に男が気づき、ゆっくりとレイの方に振り向く。

 

「っ?!」

 

その瞬間レイの両眼は見開かれ、身体は硬直した。

身につけているのは、ガンメタリックに光る黒いライダースーツ。右手には銀の光を反射する刀が握られている。

その顔は中性的な顔立ちで、ティアと同じ銀髪は逆立っており、左目は眼帯で覆われている。

その瞳は、禍々しい深紅の光を放っている。

男は冷ややかな目でレイを見下ろす。

 

「……見たな、小娘」

 

男は冷徹な口調でレイに言い放った。

 

────不味い!逃げなければ……!!

 

レイは頭の中で何度もそう繰り返すが、身体が動かない。

無理もない、目の前で人が殺され、しかもその犯人が自分を標的にしているのだ。幼いレイが恐怖するのは当然と言えた。いまのレイは正に蛇に睨まれた蛙だった。

男はそんなレイを見つめながらゆっくりと近づく。

 

「珍しい珍客だな。まさかこんな幼女が俺の目の前に現れるとは……」

 

男は口端を吊り上げながらそう言った。

そしてレイの直ぐ近くまでやって来ると、こう尋ねた。

 

「お前、こんなところで何をやっていた?」

 

「……ぁ……っ……」

 

だがレイは思うように声が出ず、ただ呻くような声しか出ない。

 

「ククッ、恐怖の余り声も出ぬか……まあいい」

 

男は不気味な笑みを浮かべながらそういうとゆっくりと右手の刀を持ち上げ……

 

それを振り下ろした。

 

「きゃっ?!!」

 

レイはそれによって後ろに吹き飛ばされ倒れ込む。

起き上がろうと腕に力を入れた瞬間、左腕に激痛が走った。

見ると、二の腕辺りに紅い傷口が出来ていた。

 

「……っ、ううっ…」

 

───痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

かつて感じたことのない激痛に、レイの両目からは涙が溢れた。

 

「ふん、痛いか?この刀は少々特殊でな……ペインアブソーバを無効化する特性があるんだ」

 

男はニヤリと笑いながら刀を掲げ、そう言った。

 

「さて、俺には幼女をいたぶるような趣味はない……ひと思いに逝かせてやろう」

 

そして男は、再び刀をレイの方に突き付けた。

激痛と恐怖の中、レイは何とか言葉を発する。

 

「……どう……して……?」

 

レイの言葉に、男は平然と答えた。

 

「知れた事。俺はただの人斬りよ。人を殺すのが楽しくて堪らない……それ以外に理由など無い。

剣は凶器、刀はあくまで人殺しの道具だ。人の生き血を浴びてこそ刀は生きる……それをあの世で悟るがいい」

 

そして男は刀を両手で上段に構えた。

その目は本気で自分を殺す気の目だ。

 

────いやだ……死にたくない、死にたくない!

────助けて、パパ!!ママ!!

 

レイは心の中で必死に叫んだ。

だが男は、無慈悲にレイに向けて刀を勢いよく振り下ろす。

 

「─────っ!!」

 

レイは咄嗟に顔を背けて目を閉じた。

だがその直後、『キィン!』と言う金属同士の衝突音が響く。

レイが恐る恐る目を開くと、目の前には今正に自分が助けを求めた存在がいた。

風に靡く白マントを羽織り、ジーパンに膝までの高さがあるブーツ、そして見慣れた銀髪。

彼女の母親、ティアが刀を逆手に持ち男の刃を受け止めていた。

 

「ま……ママ……!」

 

レイは思わずそう呟いた。

男はティアの姿を確認すると、その場から飛び退いて数メートル後方まで下がった。

それを確認したティアは、ゆっくりとレイの方を振り向くと、両手でレイの顔を包み込んだ。

 

「────大丈夫、レイ?怪我は無い?」

 

ティアは言う事を聞かずに外に飛び出した自分を叱るでもなく、ただ娘の無事を確かめた。

 

「ママっ…ママーーーっ!!」

 

レイは泣き叫びながらティアの胸元に飛び込んだ。

ティアは優しい微笑を浮かべながらゆっくりと彼女の頭を撫でる。

 

「ほう……貴様、その幼女の母親か」

 

するとその光景を見ていた男が感心したように呟く。

 

「レイ、少しだけ下がっててくれる?」

 

その声を聞いたティアは優しい口調でレイに言った。

レイは大人しく頷くと、少し離れた木の影に隠れた。

それを見届けたティアは、ゆっくり立ち上がって男の方に振り向く。

 

「む……女でその銀髪……白鞘の刀……そうか……ククククッ」

 

男はティアを見つめながらそう呟くと、不気味な笑い声を上げ出した。

 

「お前が四天王の一角……《白夜叉》か」

 

「貴様……私の娘に一体何をした?」

 

ティアは鋭い目つきで男を睨みつけながら低く怒気を孕んだ声でそう尋ねた。

 

「無論、貴様の娘がその場にノコノコとやってきていたのでな……殺すつもりだった」

 

男はあっけらかんと答える。

 

「俺の名は《ジャック・ザ・リッパー》……生粋の人斬りだ。ついさっき、その娘の目の前で1人殺したばかりだ」

 

ティアはそれを聞き、男……ジャックのカーソルを見ると、やはりそれは犯罪者を示すオレンジになっていた。

 

「何故だ。何の目的があって貴様は人を斬る?お前が何かされたと言うのか?」

 

ティアは刀の切っ先をジャックに突き付けて問いかけた。

 

「娘と同じ事を訊くのだな……それが楽しいからに決まっているだろう?人の死際に見せる絶望の表情や断末の声を聞くと、身体の奥底から湧き上がる快感……あれは他では味わえまい」

 

ジャックはニタニタと不気味な笑みを浮かべながらそう答えた。

 

「お前の娘も、死の間際になったらどんな顔で喚いてくれるか……非常に楽しみだ」

 

「……レイに手を出してみろ。その時は容赦はしないぞ」

 

ティアは凄まじい殺気と威圧感を伴ってそう言い放った。 

 

「ああ、記憶に留めておこう……だが」

 

するとジャックは、右手の刀を背中の鞘に収めた。

 

「今日の所は引くとしよう。お楽しみは後に取っておかなければならんからな、ククククッ……」

 

そう言ってジャックは背を向けて歩き出す。

だが数歩歩むと足を止めてティアの方を振り向く。

 

「一つだけ言っておこう、白夜叉……」

 

そう言ってジャックは一呼吸置き、

 

「……お前は、俺と同類だ

 

「……なに?」

 

ジャックの言葉にティアは疑問符を浮かべる。

 

「自分でも分かっているだろう?お前の本性は修羅だ。

お前がそれに目覚めた時……俺と同じ人斬りとなるだろう。いつかそれを思い知らせてやる」

 

ジャックはそう言い残すと、「ハハハハハッ!」と高笑いをあげながら今度こそ森の奥へと姿を消した。

 

ティアはそれを見届けた後、レイの方に振り向きゆっくりと近づく。

 

「レイ……」

 

レイは両目から大粒の涙を流し、

 

「ママっ……ごめんなさい……私、ママの言う事を聞かずに……」

 

レイは泣きじゃくりながらティアの言いつけを破って勝手にフィールドに出た事をひたすら謝った。

ティアはそれを見て優しく微笑みながらレイはを胸元に抱きしめた。

 

「いいんだよ、レイ。貴女が無事でいてくれて、本当に良かった……」

 

そう言いながら、レイの頭を優しく撫でる。

レイはそれで更に感極まって一層大きな声で泣いた。

 

だがティアの内心は穏やかでは無かった。

それはジェネシスの安否の心配も勿論だが、何より心に突き刺さったのは先程言われた言葉。

 

───お前の本性は修羅だ。

───いつかそれを思い知らせてやる。

 

ティアの中で、不穏な風が吹いていた。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
今回新たに登場した新キャラ、その名も人斬り《ジャック・ザ・リッパー》。元ネタはMGRの『雷電』です。実際彼も『ジャック・ザ・リッパー』って名前がありますからね。

では、また次回。

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