ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも皆さん、ジャズです。
テスト期間のため少し更新ペースが遅くなりますが、どうかご了承下さい……。


二十七話 探索

ジェネシス達4人は、フィリアが見たという紋章の場所に向けて未知のフィールドを進んでいく。

 

「フィリア、ここは一体何処なんだ?」

 

「ここは『ホロウ・エリア』と呼ばれてるらしいわ」

 

キリトの問いに対し、フィリアはそう答えた。

 

「主らはどうやってここに来たのか、覚えておるのか?」

 

「あー、キリトとダンジョン攻略してたら変な光が出てきて……」

 

「回廊結晶のコリドーに似てた気がする」

 

ツクヨがそう問いかけると、ジェネシスとキリトが当時の事を思い出しながら答えた。

 

「突然転移させられた、というわけか……ならばわっちらと同じようじゃな」

 

「そのようね。ただ違うのは……」

 

「俺たちの手にある紋様か……」

 

そう言いながらジェネシスは自身の右手の掌を見た。

そこにはゴールドに光る鍵のような紋様が浮かんでいた。

手を握ったり開いたり、手を乱暴に振ってもそれは消えない。

 

「そんな紋様を持ってるプレイヤーは見たことがないわ」

 

「え?フィリア以外にも、ここにはプレイヤーがいるのか?」

 

フィリアから出た『プレイヤー』という単語にキリトが反応した。

 

「いるにはいるのじゃが、アレをプレイヤーと言えるかのう……」

 

「どういう意味だ?」

 

「普通の人間にしては、挙動がおかしいとしか言いようが無い。兎も角、百聞一見というやつじゃ」

 

フィリアに変わってツクヨがそう答えた。

 

「そっか、分かった。

それで、俺たちは今何処に向かってるんだ?」

 

「あそこ」

 

キリトの問いに対し、フィリアが遠くを指差す。

その先には、広大な森林の上に浮かぶ巨大な球体が浮かんでいた。

 

「おーおー、でっかいキ◯タマだな」

 

ジェネシスがそう呟いた直後、彼の後頭部に苦無が突き刺さった。

 

「あべしっ?!」

 

ジェネシスはそう叫びながら倒れ込んだ。

そんな彼をツクヨは冷ややかな目で見下ろす。

 

「へえ、あそこか。フィリア達は中に入ったことはあるのか?」

 

「いいえ、入ったことは無いわ。そもそも私達じゃ入れないの。あんた達がいれば、入れる気がする。

その紋様と同じものがあったから」

 

そう言ってフィリアはキリトの右手を指差す。

 

「これか…スカル・リーパーを倒したことがきっかけのようだけど……」

 

「一緒に戦った私達には出なかったからね。あんた達がとってるスキルに関係があるんじゃ無い?」

 

「こんな事が起きるスキルなんて聞いたことが無いけどな……」

 

キリトが首を傾げながらそう言った直後。

 

規定の時間に達しました。これより《適正テスト》を開始します

 

という無機質な声のシステムアナウンスが流れた。

 

「い、いきなり何?!」

 

「何だ、今のシステムアナウンスは……《規定の時間》、《適正テスト》?おいフィリア、これは一体なんだ?」

 

「私に聞かれても困る!」

 

キリトが尋ねるがフィリアをそう突っぱねた。

 

「《適正テスト》、とか言ってたな……」

 

「ああ、わっちにもそう聞こえた」

 

いつの間にか復活したジェネシスと、ツクヨもそう呟いた。

 

「……何にしても、面白いじゃ無いか。ここをクリアして、テストとやらに合格すればいいんだろ?」

 

するとキリトは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

ジェネシスは「出たよ…」と頭を抱えている。

 

「あ、あんた……こんな状況でよくそんな前向きなこと言ってられるわね」

 

フィリアが呆れたような顔で言った。

 

「この状況で、テストとやらを回避できると思うか?

それに……未知のフィールドに出ると、やっぱりわくわくしちゃうんだよな!」

 

キリトは楽しそうな雰囲気でそう言った。

 

「全く……主はただのゲームバカのようじゃな」

 

「気にしたら負けだ。こうなったキリトくんはもう止められねえ。完全にイキリトモードになってんよ」

 

困惑するツクヨをジェネシスがそう諭す。

 

「とは言え、俺たちはここのエリアに関しては何の情報も持っていないからな……。

フィリア、ツクヨ。これまでに君たちが戦った周辺のモンスターの情報を全部くれないか?あとはここの状態異常やトラップの傾向、アイテムのドロップ率それから……」

 

「分かったから!一度にいろいろ言わないで、わかんなくなる!」

 

早口で捲し立てるキリトをフィリアがそう遮った。

 

「バーカ。んなもん行き当たりばったりでどーにかなんだろ」

 

「それはそれで問題がありんす」

 

呑気な口調で言うジェネシスにツクヨが冷静に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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途中、様々なモンスターとエンカウントし、時には何とか無視して振り切って進み続けた。

戦闘の際はツクヨがヘイトを集めその間にキリト・ジェネシス・フィリアが攻撃するというスタイルをとっていた。

そうやってフィールドを進むこと数時間。

 

クリアを確認しました。承認フェイズを終了します

 

突如再び流れたシステムアナウンス。

 

「またか、このアナウンス……」

 

ツクヨが辺りを見渡しながら呟いた。

 

「『承認フェイズが終了』…て事は、テストとやらは終わったみたいだな」

 

「そうみたいね、結局何のテストなのかはわからないけど……」

 

キリトの呟きにフィリアが頷きながら言った。

 

「んじゃ、とっととこのマークがあるとこに行こうぜ」

 

ジェネシスがそう促し、4人は再び歩きだす。

 

「そう言えば気になってたんだけど、ツクヨが使ってるスキルってどんなやつなんだ?」

 

歩いている最中にキリトがそう問いかける。

 

「わっちのスキルか?ああ、《忍術》と言ってな。

潜伏、隠蔽、索敵、投剣、体術スキルを上げていたら出現していたのじゃ」

 

「成る程……情報屋のスキルリストには載ってないから、恐らくはツクヨ専用のスキルなのかもな」

 

キリトがメニュー欄から現在公開されているスキルの一覧を見ながら言った。

 

「けどよ、手裏剣とか苦無はどうしてんだ?あんだけ投げてりゃ直ぐに無くなんだろ?」

 

「苦無や手裏剣はわっちが自作しておる」

 

「自作?!じゃあ、ツクヨは鍛治スキルも持ってるのか?」

 

「鍛治だけではないぞ。軽業なら裁縫や料理を持っておる。この衣装もわっちの自作じゃ」

 

そう言ってツクヨは自身の着物をちらつかせた。

 

「全部自分でやり繰りしてたのか……」

 

キリトはツクヨを感心したような目で見つめる。

 

「いいや、わっち一人でやってる訳では無いぞ。剣を作るにしても、素材がなくては何も作れぬ。

その点、わっちはフィリアに大いに助けられておるのじゃ」

 

ツクヨはそう言ってフィリアの方を見遣った。

 

「そ、そんな、私なんて……」

 

「謙遜するな、トレジャーハンター」

 

「と、トレジャーハンター?」

 

ツクヨの言葉にキリトが疑問符を浮かべる。

 

「まあ、自称だけどね。ダンジョンに潜ってモンスターと戦うより、レアアイテムを狙って宝箱を探したりする方が私には向いてると思って」

 

「それが生き残るのに結構重要なやつである事も多いしな」

 

フィリアの説明にジェネシスも頷きながら同意する。

 

「さて、積もる話はこれくらいにして、早く行こうか」

 

ツクヨがそういうと、四人は更に歩みを進めた。

数分後、フィリアが何かに気づき指をさした。

 

「ほら、あそこ!」

 

フィリアが指差した方向には、青い逆さになった立体物が。その側面には、フィリアの言った通りジェネシスとキリトの掌に浮かぶものと同じマークがある。

 

「成る程、たしかに同じだな」

 

「二人とも、試してくれる?」

 

フィリアにそう言われ、ジェネシスとキリトは右手の掌を青い装置にかざす。

すると、青白い光と共に、回廊結晶と同じコリドーが出現する。

 

「ビンゴだな」

 

「ああ、これであの球体の中に行けるんだな」

 

ジェネシスとキリトは満足そうに言った。

 

「多分この先には、《ホロウ・エリア》の秘密が隠されてると思う」

 

「同感じゃな。見ただけでも何かあるのは明白じゃからのう」

 

「…よし、んじゃ行くか」

 

そしてジェネシスが最初にコリドーの中を潜り、キリト 、フィリア、ツクヨもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

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ジェネシス達が転移した先は、これまで彼らが歩んできたフィールドに比べると全く雰囲気の違う場所だった。

中はプラネタリウムのような天井に覆われ、周囲には様々なモニターが付いている。そしてその中央には、黒い長方形の物体にキーボードが付いている。

 

「こりゃまた……随分と変わった場所だなオイ」

 

ジェネシスが辺りを見回しながら呟いた。

 

「む?どうやらここは《圏内》のようじゃな」

 

ツクヨがメニューを見つめながらそう言った。

 

「ああ、本当だ。でも、ガーディアンは……」

 

「……来てない、みたいね」

 

もし、オレンジプレイヤーが安全圏内に入ろうとすると、それを阻止するためにガーディアンと呼ばれるモンスターが彼らを排除しようと動き出すのだが、このエリアではそれが無い。それは、ここが通常のルールから外れた場所であることを示していた。

 

「何にしても、これで安心して調べられるというものじゃな」

 

その後、彼らは手分けをしてこの未知のエリアの探索に入った。

 

キリトは中央にあるキーボードとその画面を見ていた。

 

「(何だこれ……実装…エレメント……?

へえ、ここは『管理区』と呼ばれてるのか)」

 

キーボードを操作しながらキリトはどんどん情報を引き出していく。

 

「ねえ、ちょっとこっちに来て!」

 

すると、フィリアの声が管理区内に響く。

3人がフィリアの元に向かうと、そこにあったのは……

 

「転移門、だよな?」

 

「間違い無いな……やったなフィリア、ツクヨ!!これで出られるぞ!」

 

キリトは歓喜の表情でフィリアとツクヨに言うが、フィリアは何処か思い詰めた表情をしていた。

 

「出られるか……よかったね」

 

「どうしたんだ?あまり嬉しそうじゃ無いな」

 

するとツクヨが、フィリアの様子に気が付き

 

「済まぬな、わっちらはもうしばらくこの《ホロウ・エリア》を探索する。主らは気にせず戻りなんし」

 

「……そうかよ。なら、来るときはまた連絡させてもらうぜ」

 

「ああ、そのときはここで待っておるぞ」

 

ジェネシスがそう言うと、ツクヨは頷きながら答えた。  

 

「それじゃ、またな!」

 

キリトの言葉を最後に、ジェネシスとキリトは青白い光に包まれて姿を消した。

 

「またな、か……」

 

フィリアは思い詰めた表情を浮かべたまま、ジェネシス達がいた転移門を見つめる。

そして徐に転移門に入り、

 

「転移……」

 

と口にする。

瞬間、フィリアは青白い光に包まれる……が、光が止むと彼女は未だにそこに居た。

 

『システムエラーです。ホロウ・エリアからは転移出来ません』

 

と言うシステムアナウンスが鳴る。

 

「……ねえ、ツクヨさん。私たちって、一体なんなんだろうね……?」

 

「フィリア………」

 

どこか悲しげな表情を浮かべるフィリアを、ツクヨはただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────Why so serious ?(そのしかめっ面は何だ?)

 

 

直後、管理区内にそのような声が響き、ツクヨとフィリアは咄嗟に武器を構える。

しかし辺りには彼女たち以外誰も居なかった。

 

「ツクヨさん、今のって……?」

 

「わっちにも分からん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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〜七十六層・アークソフィア〜

 

街の中央に設置された転移門が青白く光り、中から2名の男性プレイヤーが出現する。

 

「アークソフィア……戻ってこられたのか……」

 

キリトが辺りを見渡し、安堵のため息をついた。

 

「あー…何だろ、こう言うの。『実家に戻ったような安心感』ってやつ?」

 

「それ、すっごいよくわかるよ……」

 

ジェネシスの呟きにキリトは頷きながら同調する。

 

「転移門の設定は……よし、あそこにも行けるみたいだな」

 

「あそこは《ホロウ・エリア》と言うんだな……フィリアとツクヨはそう言っていた。とてもPKをする様な子たちには見えなかったけど。彼女たちって一体何者なんだろうな……?」

 

ジェネシスが転移門の設定を終え、キリトはそこで出会った2人の女性の事を思い出していた。

すると遠くから足音が近づいてくる。

 

「き、キリト君!」

 

「ジェネシスさん!!」

 

やって来たのはリーファとシリカ。

 

「よ、よかった〜……私てっきり……」

 

一緒に来ていたサチも安堵の表情を浮かべる。

 

「リーファにシリカ、それにサチも……一体どうしたんだ?」

 

キリトが彼女達にそう尋ねる。

 

「“どうしたんだ”はこっちのセリフだよ!びっくりしちゃった……」

 

「お二人の位置情報が完全にロストしちゃって……」

 

「今は生命の碑も確認できないから、もしかしたらなんて思って……」

 

リーファ達は口々にそう言う。

 

「そうか……そりゃ悪かったな」

 

ジェネシスはバツの悪そうな顔で言った。

するとまた新たな足音が近づいて来た。

 

「き、キリトくん!」

 

やって来たのはアスナ。

 

「や、やあアスナ……」

 

キリトは引きつった笑顔で手を振った。

 

「だ、ただ大丈夫だったの?!」

 

「お、落ち着けアスナ……」

 

キリトは何とかアスナを宥めようとしている。

それを微妙な表情で見つめていたジェネシスだったが、ふと背中に突き刺さるような視線を感じ,ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「………………」

 

そこにはジェネシスを鋭い視線でじっと見つめるティアがいた。

 

「あ、えっと……ただいま〜」

 

ジェネシスは引きつった表情でティアに言った。

しかしティアは何も言わずに黙ってジェネシスの方に歩いて来る。

 

「あっ、ちょ、ちょっと待て落ち着け!今日のは不可抗力だ!!こっちにも色々あったんだよ!

 

だがティアは尚も歩みを止めない。

これは鉄拳が来そうだとジェネシスは覚悟した。

しかしティアは、何も言わずにジェネシスに抱きついた。

 

「お、おいティア……?」

 

「……ばか」

 

戸惑うジェネシスの耳元で、ティアはそう言った。

 

「パパーーーーっ!!」

 

すると今度は、彼の愛娘であるレイまでが抱きついて来た。

 

「パパ…すごく、すごく心配しました……!」

 

レイは両目に涙を溜めて、声を震わせながら言った。

ジェネシスはそんな彼女達の頭を優しく撫で、

 

「……心配かけて済まねえな。事情はちゃんと話す。とりあえず宿に戻ろうぜ?」

 

出来る限り優しげな口調で言うと、2人は黙って頷き,歩き出した。

 

 

 

 

 

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宿屋の一階にある酒場には、ジェネシス達のよく知る人物達が待っていた。

 

「あーっ!帰って来た!!」

 

鍛治屋の少女、リズベットが彼らを指差し叫んだ。

 

「だから言ったでしょ?どうせその辺をフラフラ歩いてるだけでその内帰って来るって」

 

椅子に腕を組んで座るシノンが落ち着き払った態度で言った。

 

「お二人とも、無事で何よりです!」

 

「とても心配したんですよ!」

 

黒白の兄妹、サツキとハヅキも安堵の表情を浮かべて言った。

 

「ん?何だ、生きてたのかてめぇら」

 

部屋の一角で腕を組みながらミツザネはため息をつきつつ言った。

 

「なんか冷たくないすかお義父さん……」

 

「嫁を放ったらかしてこんだけ帰りが遅えんだ。浮気でもしてたのか?」

 

ミツザネは揶揄うように言った。

 

「そ、そんなわけ無いじゃないですかミツザネさん!あれは不可抗力だったんですよ!」

 

キリトはそう叫んで否定する。

 

「不可抗力?それってどう言う事?」

 

サチが首を傾げて尋ねる。

 

「ああ。あの日、俺たち2人でダンジョン攻略に出てたろ?そん時に突然転移させられてよ」

 

ジェネシスは頷いてそう説明した。

 

「《強制転移》、と言うやつかしらね……私やリーファと同じ」

 

「ええっ?!それじゃ2人は、別の世界に飛ばされたと言う事ですか?」

 

同じような出来事を体験してこの世界にやって来たシノンとリーファがそう言うと、キリトは首を横に振って否定した。

 

「いいや、俺たちが飛ばされた先は、間違いなくアインクラッドの中だった。ただ、《隠しエリア》みたいな感じなんだよ」

 

「《隠しエリア》……ゲームではお馴染みのワードですけど、まさかそんなものがこのアインクラッドにもあるんですか?」

 

サツキは《隠しエリア》と言う単語に興味を示したのか、そう尋ねる。

 

「ああ。《ホロウ・エリア》っつうらしいが……通常のアインクラッドの各層とは違う感じなんだよな。出てくるモンスターも強えのばっかだし、高難度エリアってとこか」

 

ジェネシスは首を縦に振って総説明する。

 

「高難度エリア……」

 

未だレベルに不安が残るシリカが少し不安そうな表情を浮かべ、同じく七十六層で戦うにはまだまだレベル不足気味なサチやリーファも同じような表情を浮かべる。

 

「でも、そこにいる強いモンスターを倒せば、それだけ強力な装備やアイテムが出る可能性もある。

だから俺たちは、《ホロウ・エリア》を探索する事にしたんだ」

 

キリトがそう言った。

 

「でも、そんなエリアが丸々未発見なんて事、あるのかしら……」

 

「レイ、何かわかる事はある?」

 

アスナがそう口にし、ティアがレイの方を向いて尋ねる。

 

「たしかに、アインクラッドには現在様々な事情で非公開になっているエリアがあります。ですが、それはゲーム開始時に全て封鎖され、一般のプレイヤーではアクセスできないようになっています」

 

「普通のプレイヤーが入る手段はねえって事か」

 

「その通りです。ですが、皆さんもご存知の通り現在カーディナルシステムは不安定な状態です。それを考えると……無いとは言い切れません」

 

レイの説明にジェネシスがそう尋ね、かわりにユイがそれに答えた。

 

「そうなんだ……」

 

「ありがとうレイ、ユイ」

 

ティアは笑顔で彼女達の頭を優しく撫でる。

 

「いいえ。ただ、現在のカーディナルシステムの稼働状態などがわかればいいのですが……」

 

「いやいや。今の説明で十分だレイ」

 

「パパのお役に立てたなら嬉しいです!」

 

申し訳なさそうに言うレイに対し、ジェネシスは優しく言った。

 

「ねえユイちゃん、レイちゃん。さっきキリトが言ってた通り、そこって強力なアイテムがあったりするのかな?」

 

「可能性としては十分にあると思います!」

 

するとリズベットがそう尋ね、ユイは頷いて答えた。

 

「そっかぁ……新しい素材、未知のアイテム……うふ、うふふふ……」

 

リズベットはそれを聞くと、一人で楽しげな笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、あたしやピナの強化も……!」

 

『きゅるるるっ!』

 

シリカがピナを見つめながら呟くと、ピナも楽しそうに羽ばたく。

 

「私も、そこに行ったらみんなに追いつけるかな……」

 

「なら、僕とハヅキの強化も……」

 

「そうだね、お兄ちゃん!」

 

サチとサツキ、そしてハヅキもそう呟く。

 

「私の武器強化も出来るかもしれない……」

 

「私も、今よりもっと……!」

 

シノン、リーファも続けて言った。

 

「ちょっと!みんな行くつもりなの?!」

 

「まあいいじゃ無いかアスナ。こいつらだって無事に帰ってこれたんだし」

 

アスナが皆の様子には目を丸くして言うが、ティアがそれを宥めた。

 

「それに、向こうで強力なアイテムやスキルが手に入れば、攻略組の戦力強化にも繋がる。そうなれば、結果的に百層攻略も早まるしな」

 

キリトもアスナにそう説明する。

 

「……まあ、それもそうね。

なら、私も行くわ。キリトくんだけそんな危ないところに行かせられないもの」

 

「当然私も行く。私自身、その《ホロウ・エリア》とやらを実際見てみたいしな」

 

アスナとティアもそう決意して言った。

 

「おう。よろしく頼むわ」

 

ジェネシスも満足げな顔で言った。

 

「全く、近頃の若え衆ってのは血気盛んな奴らばっかりだ………ま、嫌いじゃねえけどな」

 

ミツザネは彼らを見つめると、ため息を吐きつつも口元に笑みを浮かべながら呟いた。

 

「それに、向こうで知り合った人もいるしな」

 

「あっ、バカ!」

 

──ピシッ!!

 

ジェネシスが止めるが時すでに遅く、キリトがそう呟いた瞬間に場の空気は確かにそう音を立てて凍りついた。

 

「……もしかして……!!」

 

アスナが険しい表情で呟き、周りの少女達もジト目ジェネシス達を睨む。同じ男性プレイヤーのサツキはと言うと苦笑いを浮かべていた。

 

「パパ、その人って……」

 

「もしかしなくても女の人、ですよね?」

 

彼らの愛娘であるユイとレイも険しい表情で尋ねた。

 

「よくわかったな。フィリアとツクヨって人と向こうで知り合ったんだ」

 

キリトはあっけらかんとそう答える。

 

「ほらねえぇーー!!」

 

「私たちが心配して探し回ってる間、お前達はまた新しく女性を口説いていたと言うわけか」

 

アスナがキリト達を指差しながら叫び、ティアもやれやれと首を振りながら呟いた。

 

「異議あり!!」

 

「そうだよ!口説くとかそんなんじゃなくて、たまたま転移したら目の前に女の子がいて、そこにスカルリーパーが出てきたから一緒に戦っただけだよ!!」

 

ジェネシスが勢いよく立ち上がりながら叫び、キリトも必死になってそう言った。

 

「どうだか。どうせ………『力になってやりたいんだ』……

とか言ってきたんだろう?」

 

ティアはキリトやジェネシスの口調を真似ながら言うと、キリトは「うっ……」と何も言えなくなった。

 

「ほう?妻子を持つ身でありながらこんだけ女侍らせて、その上まだ飽き足りねえとは。これは、てめぇらの精神を一度叩き直さなきゃ行けねえようだな」

 

するとジェネシス達の背後からミツザネが拳を『ゴキゴキ』と鳴らしながら近づいてくる。

 

「ウエェ?!チョ、チョットマッテクラサイヨオトウサン!!」

 

ジェネシスはそれを見て思わず滑舌が悪くなるほど早口になって制止する。

 

「何、圏内で死ぬことはねぇんだろ?なら大丈夫だ……死ぬような痛みが起こるだけだ」

 

そう言ってミツザネは拳を振り下ろす。

その瞬間、凄まじい轟音と悲鳴が宿屋に木霊した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その後、ミツザネの鉄拳を受けたキリトとジェネシスは女子達からの質問攻めにあった。フィリアとツクヨとは一体どんな女性なのか、ホロウ・エリアとはどんな場所だったのかを具体的に聞かれ、二人は見たことをそのまま全て話した。

 

やがて時間は深夜になり、皆は各々自分の部屋に入って就寝準備に入った。

 

「お、おいティア?」

 

するとティアはジェネシスの手を掴んでやや強引に自分の部屋に引っ張っていく。

そして自分の部屋のドアを開けて中に入り、ドアを勢いよく閉めた瞬間……

 

「───っ!」

 

ティアはジェネシスの首の後ろに手を回し、その唇を自身のそれで思い切り塞いだ。

先ずは唇同士が触れ合うだけのキスを交わし、そして自分の舌を彼の口内に強引に押し込んで貪るように舐め回す。

 

「っ、おい、何しやがんだ……」

 

ジェネシスは無理やりティアを引き離す。

ティアはと言うと、顔をリンゴのように紅潮させ潤んだ瞳でジェネシスを見つめていた。

だがティアはそれだけで何も言わず、彼をベッドに押し倒した。

そして馬乗りになり、両手で挟み込み、

 

「バカっ……何も言わずに居なくなって………私、どれだけ心配したと……っ」

 

ティアは両目から涙を流しながら言った。

 

「それは……悪かったって。でもあれは」

 

「聞きたくない。言い訳なんていい」

 

ジェネシスの弁明の言葉すらもティアは遮る。

 

「何も言わずに勝手に居なくなるような悪い子には、お仕置きしないとね……」

 

ティアはメニュー欄から《倫理コード》設定を引き出し、それを解除する。

 

「……ああ、わかったよ。なら、こんな悪い子にふさわしい罰をくれ、お嬢さん」

 

ジェネシスはティアのやりたい事を察し、自身も同じようにメニューを操作する。

それを確認したティアは、勢いよく彼に覆いかぶさった─────

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

〜同時刻〜

 

その頃、アークソフィアの街の一角に青白い光とともに、一人のプレイヤーが現れた。

 

「……ん……あ、れ……?」

 

どうやらその人物は女性のようだ。やや高めの身長に身の丈ほどの純白のドレスを見に纏い、上着として桜色のパーカーを着ている。紫の長髪に同じく紫の瞳が暗闇の中で妖しく光る。

 

「えっ…と……ここは……私、なんで………?」

 

少女は不思議そうな顔で辺りを見渡す。

すると「あっ」と何かを思い出したように声を上げ、ゆっくりと歩き出す。

 

街には桜の木が咲いており、真夜中の街頭が灯る街で桜の花びらが美しく舞い散る中、少女は進んでいく───────

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
そして再びジェネティアのイチャイチャが始まりました。この続きは、また今度R-18の方にてやりますので、どうかお楽しみに。
そして終盤に登場した謎の少女。先に言っておきますがストレアではありません(ストレアはちゃんと出ますのでご安心を)。はい、またまた出ました本作オリキャラでございます。モチーフの人物のヒントは『桜』です。

では、お読みいただきありがとうございました。
評価、感想など引き続きお待ちしております。

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