ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも。先週FGOを始めてガシャを引いたらいきなり星四セイバーオルタが出てきてすごく興奮して小説の執筆が遅れたジャズでございます。
これから時間もあるので、出来るだけ早く執筆していきたいと思っております。

では、本編スタートです。


二十九話 神速

ジェネシスと新たに仲間に加わった謎多き少女・サクラの二人が遂に七十六層ボス部屋を見つけた翌日。

予定通り、血盟騎士団副団長のアスナが七十六層に滞在する攻略組に招集をかけ、アークソフィア転移門広場で会議が行われた。

……とは言え、今回のボスに関しては事前情報が無いため会議で話されたのは参加するメンバーとチーム分けの確認であった。特に今回が初のボス戦というメンバーがいるため、編成は慎重に行われた。

今回新たに加わったメンバーは、攻略組に近い実力を保持していたサチ・サツキ・ハヅキの3名と、キャラクターデータのコンバートで既に攻略組中トップクラスの力を持っている《星海坊主》ことミツザネ、そして先日飛び入りで加わった自称タンクが得意なストレアと、今回のボス戦で活躍が大いに期待されているヒーラーのサクラ。

総数20名弱という、あまりにも少ない人数であるが、それでも彼らは勇敢にボス戦に挑む覚悟を決め、いよいよ迷宮区に向けて足を進めた。

 

その道中。

 

実力は問題ないと判断されたとは言え、初めてのボス戦で緊張のあまり顔がかなり強張っているサチ。以前のような臆病な性格は改善されたとは言え、慣れない状態でその上命の危険性が飛躍的に高まるボス戦を前に平静でいろと言うのが無理な話だろう。そしてそれは、サツキとハヅキも同じようで、二人ともいつもの明るくも落ち着いた雰囲気は無く、少々表情が暗い。

 

「おい、なーにシケた面してんだてめーら」

 

そんな彼らに対し、ジェネシスが後ろから3人の頭をコツンと叩く。

3人は同時に後ろを振り向く。

 

「そんな気負わなくたっていいぜ。厄介なクォーターポイントはこの前の七十五層で最後だ。こっからは普通にやってりゃ理不尽に死ぬことはまずねえ。

だからてめぇらは……俺たちを信じていつも通りやりゃいいんだ」

 

「ジェネシス……うん、そうだね」

 

彼からの叱咤激励を受け、いつも通りの雰囲気に戻った3人。足取りも心なしか軽くなり、悠々と歩みを進めていく。

 

「一声かけただけであんな風に変わるとは……中々大した信頼じゃねえか」

 

その様子を後ろから眺めていたミツザネが感心したように口角を上げながら言った。

 

「……そう言うあんたは全然怖くなさそうだな」

 

「何言ってんだ。デスゲームとは言え、たかがフロアボスくれぇで一々ビビるか。潜ってきた修羅場が違ぇんだよこっちは」

 

「そうかよ。流石は天下の《星海坊主》さんだな」

 

ジト目で話しかけたエギルに対し、ミツザネは尚も不敵な笑みを浮かべたまま返したのでエギルは苦笑いを浮かべた。

まあ、新参者でありながらここまで落ち着いているのは、やはり彼の言う通り生きた年齢とそれだけの苦難を乗り越えてきたからこそであろう。

 

「と言うか、そもそもお前さんらこそ、年長者ならもっと率先して皆を引っ張っていくべきなんじゃねえのか?そうしなきゃ……ああいうガキに余計な重荷を背負わせることになるんだぜ?」

 

そう言うミツザネの視線の先にいるのは、今攻略組のメンバー達の先頭に立って進む栗色の長髪の少女、アスナ。

 

「高校生くらいの年齢とは思えねえほどの大した力量だ。そこは素直に称賛に値するが……されどそれを背負うには、まだまだ背中が小さすぎる。このままじゃあいつ、その重みに耐えきれずに……いつか崩れ落ちることになるぜ」

 

ミツザネの言葉に、エギルは何も言えなくなった。

一方当のアスナはと言うと、以前ミツザネから言われたことを思い返していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

それは、アスナが七十六層のフィールドにてたった一人でレベリングをしていた時。

 

「精が出るな、嬢ちゃん」

 

ふと、自分の背後から野太い男性の声が響く。

振り向くと、そこにはグレーの民族服のような衣装に茶色のマントを身につけた壮年の男。自分の親友であるティアの実の父にして最強のプレイヤー、ミツザネ。

 

「ミツザネさん……」

 

「まあ、レベル上げを全力でやんのはいいことだが……近頃のお前さん、少々煮詰め過ぎじゃねぇか?」

 

ミツザネの言う通り、アスナはここ数日殆ど休む事なくフィールドやダンジョンに潜ってレベリングをしていたのだ。

アスナも自覚があるのか、彼の言葉を聞いて少し苦笑し、

 

「そうですね…少し根を詰め過ぎている感じはあるかも知れないです」

 

と返した。それに対してミツザネは

 

「分かってんなら少しは休んだらどうだい?」

 

「ありがとうございます。でも、そういう訳にはいかないんです……」

 

アスナの胸の内にあるのは、攻略組の主戦力たる血盟騎士団副団長としての責任。団長であるヒースクリフがいない今、実質的に攻略組のリーダーとなっているアスナには、彼らを導き何としてもこのゲームをクリアしなければならないという半ば呪縛にも似た信念があった。何より彼らのリーダーという事は必然的に彼らの命を背負うことでもある。ただでさえ人数の少ない現状、誰一人として欠けることも許されない。

それらの重圧を背負って尚、彼女が戦い続ける理由。それは……

 

「約束、したんです。キリトくんと必ず、現実世界に帰るって」

 

愛する彼、キリトとの約束。自分の命以外の何を賭けても守らなければならないもの。

 

「なるほど。お前さんがそこまでして戦う理由は、約束を守るため、って訳か。

なら、これ以上は言うだけ野暮ってやつだな」

 

ミツザネはそう言って背を翻し歩き出す。

 

「死なねえ程度に頑張るんだな。お前さんが死んじまえば、それこそ元も子もねぇぜ」

 

そう言い残しその場を後にするミツザネに対し、

 

「あの、ミツザネさん!」

 

そんな彼の背中に向け、アスナは彼の名を呼びその足を止めた。

 

「ミツザネさんは、どうしてそこまで強いのですか……?」

 

アスナの問いに対し、ミツザネは振り向いた後、後ろ頭をさすりながら思案する。

 

「何故、か……さて、何でだろうな。向こうじゃ何気なく自分を鍛えてたら、いつしか『最強』なんて呼ばれるようになった。そんで俺がここに来たのは、知っての通り他のゲームからコンバートしたもんだ。

ユニークスキルの《闘拳》にしたって、俺のスキルデータを見たカーディナルシステムが勝手に与えたもんだろう」

 

「でも、ミツザネさんは凄いですよ。この世界でトップクラスの実力を持つキリトくんとジェネシスの二人をあんな風に簡単に倒しちゃって……ここのモンスターだって、全然臆することなく倒しているし………

私にもユニークスキルがあれば、キリトくんやみんなを守れるのかな……?」

 

アスナは《アインクラッド四天王》の中で、未だ一人ユニークスキルを持っていない。それで劣等感を抱くとかそのような事は無かったのだが、それだけの強さを得る事が出来れば、もっと速く自分の目標を達成する事が出来るのではないかと思うと、少しだけ悔しく感じていた。

 

やや俯き加減で呟くアスナに対し、ミツザネはため息をついて彼女の肩に手をポンと置いて

 

「焦る必要はねえよ。お前さんは今のままでいい。あいつらだって、ユニークスキルが欲しくて鍛えていたんじゃねえだろう?俺だってそうだ。いつの間にか手に入れていたのが、ユニークスキルってもんだ」

 

彼の言葉に対し、アスナはハッと顔を上げた。

 

「それに……強さってのはそれだけが全てじゃねえだろう?お前さんには、あいつらにはねえもんを沢山持ってる。

今のあいつらに必要なのは、全員を引っ張れる統率力のある奴だ。それはお前さん以外にできる奴はいねえ。

だから、今のままで十分だ。約束を果たしたいんなら、お前さんは自分にしか出来ない事、そしてお前さんの信念のままにやり続けろ」

 

「────っ、はい!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

─ナ、────スナ─────アスナ?」

 

不意に自分を呼ぶ声が聞こえ、アスナはハッと顔をあげる。横を見ると、心配そうな表情で自身の顔を覗き込むキリトがいた。

 

「あ、ああキリトくん?!ごめん、何か話しかけてた?」

 

アスナは慌ててやや早口口調でキリトに答える。

 

「いや、凄く険しい顔してたから……やっぱり、緊張するのか?今回のボス戦」

 

「もちろん。寧ろ緊張しなかった時なんて無いくらい」

 

「あはは、そりゃそうだな」

 

アスナの答えに、キリトは軽く笑いながら言った。

その後、数秒間の沈黙を挟み、不意にキリトが切り出した。

 

「────必ず勝とうな、アスナ」

 

「────ええ、勿論よ」

 

二人は笑顔で頷き合いながらそう交わした。

 

─────どんな事があっても、キミだけは守って見せるから

 

そしてアスナは、キリトの顔を見つめながら心の中でそう念じた。

 

そんな彼らを後ろから生暖かい目で見つめる二人。

 

「相変わらずお熱いこったな〜あいつら」

 

ジェネシスが呆れた表情で言った。

 

「そうだね。でも……」

 

するとティアはジェネシスの左腕に組みつき、

 

「私達だって、負けてないよ?」

 

少し頬を赤らめて照れたような表情で、そして優しげな笑みを浮かべながら言った。

 

「……ったく」

 

ジェネシスはそんな彼女から視線を逸らし、彼もまたやや頬を赤らめて言った。

 

「ねーねー、すごく仲良いよねあの二人〜」

 

ジェネシスとティアの様子を後ろから眺めていたストレアは彼らを指差しながら隣を歩くサクラに向けて言った。

 

「仲睦まじい光景ですね」

 

サクラも頷きながら微笑を浮かべて返す。

 

「友達……とは違うよねあの二人って。キリトとアスナもそうだけど、あれってどう言う関係なのかな〜?」

 

「あれが愛情、というものなのでしょうね。人と言うのは、奥ゆかしい生き物です」

 

首を傾げながら言うストレアに対し、サクラは淡々とそう告げた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

一行はいよいよ七十六層のボス部屋の前へ到着した。

ボス戦に挑むメンバーは皆最後のアイテムチェックを行ったり、何もせずに集中力を高めたりしていた。

 

やがて数分後、アスナが皆の前に立つ。

 

「皆さん、ここまで来たら私から言うことは一つです」

 

そこで一呼吸置き、

 

「……勝ちましょう。そして必ず、生きて帰りましょう!」

 

アスナの力強い言葉を受け、攻略組の面々は「おおぉぉぉーー!!!」と雄叫びを上げた。

 

アスナはそれらを見つめた後、振り返って巨大な扉の方を向く。

するとキリトがアスナの隣に立つ。

 

「アスナ。大丈夫だ、俺もついてる。君は必ず、俺が守るよ」

 

優しげな笑みと優しげな口調でキリトはそう言った。

 

「キリトくん……ありがとう。

私も、必ずキリトくんを守ってみせるよ」

 

二人は微笑みながら見つめあった後、真剣な表情に切り替えてボス部屋の扉に手を添えた。

すると重々しい音と共に、巨大な鋼鉄の扉が開いていく。

扉が開いていくと共に、その場の緊張感のボルテージも上がっていく。

ボス戦に挑むもの達は一斉に武器を構え、突撃準備を整える。

 

そしてついに、扉が完全に開かれた。

 

「総員─────突撃!!」

 

アスナがレイピアを掲げて号令をかける。

プレイヤー達は雄叫びを上げながら一斉にボス部屋へ飛び込んでいく。

 

そして部屋の中に──────ソレはいた。

 

球体状の体に巨大な瞳を持つそれは、さながら西洋の妖怪であるバックベアードを連想させる。

そしてその身体からは無数の触手が伸びており、その先端には凶悪な牙が剥き出しになった口がある。

 

The Ghastlyaze(ザ ガストレイズ)

 

ボスはプレイヤー達を視認した瞬間、体から生えた触手の頭から強烈な叫びを放つ。

 

「戦闘開始!!」

 

アスナの合図で、皆はボスへ飛びかかっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ボス戦が始まってから一時間程度が経過した。

戦闘は犠牲も出さず何の問題もなく順調に進んでいた。

 

その理由として挙げられるのは大きく二つ。

一つ目はアスナの的確な指揮能力。

アスナはボスの攻撃パターンを瞬時に見極め、瞬時にメンバーの立ち位置などの状況を見て指示を飛ばし、安全に且つ確実にボスのHPを削り取っていく。

 

そしてもう一つは、強力な新戦力の加入。

先ずは下層から上がってきたサチ・サツキ・ハヅキの3人。

その中でも特筆すべきは、ハヅキの弓スキルだ。これまでには無かった遠距離武器。それによってボスに対して近付かずに確実にダメージを与えられる為、接近戦によってダメージを受けるリスクを減らす事ができる。

そして外の世界よりやってきた男、《星海坊主》ことミツザネ。歴戦の戦士たるミツザネはボスに対して全く臆することなく、その拳一つで絶大なダメージを与えており、攻略神の皆を支えていた。

そして今回より加わったストレアとサクラ。

ストレアは持ち前の両手剣のパワーによってボス戦のタンクを引き受けていた。

そしてサクラ。彼女の持つ回復スキル《ヒーリング・グレイル》はこのボス戦で確実に機能していた。

ボス戦は通常の戦闘と違い致命的なダメージを受けることが多い。回復は結晶を使うか、ポーションを飲む以外にない。

そこでサクラのスキルだ。リスク無しでHPを即座に満タンまで回復してくれる彼女の力は正に皆の希望だった。

 

これらの要素が合わさり、ボス戦は今までにない程順調に進んでいたのだ。

そしていよいよ、ボスのHPバーは最後の一本に到達した。

 

「パターン変わります!注意してください!!」

 

アスナの呼びかけにより、皆は更に緊張感を高めた。

その時、ガストレイズが再び雄叫びを上げ、触手の先端から幾つもの光を撒き散らした。それらはガストレイズを取り巻くように地面に着地すると、徐々に何かの形となっていく。

現れたのは、おおよそ人型と呼べる形状のモンスター。紫色の体色に腕の部分から4本の腕が生えており、その腕は鎌状になっていた。

その頭部には目や鼻などは無く、縦に開かれた口があるようだ。

名称は……《Lahmu(ラフム)

 

「な、なんだよこいつら……?!」

 

そのあまりにも不気味な見た目にクラインは思わずギョッとした顔で呟く。他のメンバー達もそのモンスターの凶悪な外見に圧倒された様子だった。

 

sz:@g(突撃)sz:@g(突撃)!』『pys4tedw@r(戦闘開始です)!』

 

突如無数のラフム達は人にはおよそ理解できない言語を発しながら一斉にプレイヤー達に襲いかかった。

 

一体のラフムが一人のプレイヤーを標的に定めて襲いかかる。

 

「ひっ……く、来るなあぁぁーー!!!」

 

男は怯えた表情でその場から思わず逃げ出してしまった。

しかしそんなかれに対し、ラフムは容赦なく飛びつく。

男に対して馬乗りになる形で飛びついたラフムはその鎌状の腕を勢いよく振り下ろす。

 

「うわあああぁぁぁーー!!!」

 

g@7fffffffffffffffffffff!!(ギャハハハハハハハハ)

 

悲鳴を上げる男。しかし尚もラフムは狂気的な笑い声のような鳴き声を上げながら鎌を振り、男を切り刻んでいく。

 

「おらああぁ!!」

 

その時、ジェネシスが大剣で男を襲っていたラフムを吹き飛ばした。

 

「大丈夫か?」

 

「す、済まない」

 

ジェネシスは右手を差し出し、男の手を掴んで引っ張り上げた。

そしてジェネシスは辺りを見渡しながら忌々しげに舌打ちする。

辺りは既に地獄絵図だった。突如ガストレイズによって召喚されたラフムの軍団によって戦況はとうに覆されてしまった。無論、たかがボスの取り巻き程度で簡単にやられるメンバーではない。

しかし何より腹正しいのは、そのラフムが奇怪な言葉や笑い声のような鳴き声を発しており、それはさながら殺戮を楽しんでいるように見えた事だ。

 

「クソったれが……!」

 

ジェネシスはそう毒づいた後、大剣を振りかざしてラフムの軍団へ飛び込んで行った。

現状ボスと戦うには、先ずはこのラフムの軍団をどうにかしなければまともに戦う事ができない。

しかしラフムの殺戮は続く。

所々でポリゴン片が舞い散るのが見える。そのポリゴン片の正体が何なのか、言うまでもないだろう。

ラフムの鎌によって切り裂かれ、引き裂かれていくプレイヤーは、無念の叫びを上げながら消えていく。この様な混戦状態では、サクラの回復スキルも意味をなさない。

 

「皆さん、伏せてください!!」

 

その時、ハヅキの声がフロア内に響く。

直後、一筋の矢がフロア上空に飛び、そして爆散し流星群の如く降り注ぐ。

弓スキル広範囲攻撃技《プラネタリウム・エクスプロージョン》

無数の光の玉がフロアのあちこちで落下し、所々でラフムを巻き添えに大爆発を起こす。

しかしこの技は、言ってしまえば無差別爆撃技だ。ラフムだけを狙って攻撃することはできない為、おそらく何名かのプレイヤーも巻き込まれる可能性もある。撃った本人のハヅキも苦渋の決断だっただろう。

とは言え、今の攻撃のお陰で半数以上のラフムを掃討する事が出来た。

 

uiuiejk(なになに今の?)?』

6md\〜e(おもしろ〜い)!』

 

すると今の攻撃を凌いだラフム達が一斉にハヅキを標的に定め彼女目掛けて走り出した。

 

「なっ…?!!」

 

予想外の彼らの行動にハヅキは思わず目を見開いた。

 

「ハヅキ!!」

 

それを見たサツキが彼女を庇うように前に立ち、双頭刃を思い切り投げた。

すると彼の双頭刃がオレンジの光を放って回転し始め、ブーメランのように飛びながら周囲のラフムを切り裂いていく。

 

「お兄ちゃん!」

 

「平気?」

 

嬉々とした表情のハヅキに対し、サツキは優しげな表情で振り向く。

だがその時だった。

 

「てめぇら伏せろおぉぉーー!!」

 

ジェネシスの叫び声が彼らの耳に届く。

直後サツキとハヅキ目掛けて一筋の巨大な光が飛来し、そして大爆発を起こす。

ガストレイズによる攻撃だ。

攻撃を受けたサツキとハヅキは大きく吹き飛ばされ、HPバーは共にレッドゾーンに達している。

 

「ぐっ……くそっ……!」

 

更に悪いことに、どうやら今の攻撃には状態異常効果も含まれていたらしく、サツキ達は麻痺状態に陥り起き上がる事が出来ない。

そんな彼らに対し、ラフム達はジワジワと距離を詰めていく。

 

「やらせないよ!!」

 

「そうは行きません!」

 

その時、二人の紫の少女達が数体のラフムを吹き飛ばす。

サツキ達の前に立ったのは、大剣を肩に担ぐストレアと紫の長髪をたなびかせるサクラだ。

サクラはサツキ達の方を振り向くと、右手を彼らの方に伸ばす。

 

「《フロウレスエナジー》」

 

サクラが静かにそう呟くと、ピンク色の粒子状の光がサクラの右掌から放たれ、サツキとハヅキを優しく包み込む。すると彼らのHPは一気に全快した。

 

「麻痺が解けるまで、お二人は必ずお守りします」

 

「安心してアタシ達に任せてね!」

 

彼女達はそう言うとラフム達に飛びかかっていった。

 

「おりゃあああああ!!!」

 

ストレアが豪快に大剣を振り回してラフムを吹き飛ばしていく傍らで、サクラはエクストリーム・マーシャルアーツによる身軽な動きで的確にラフムを撃破して行く。

 

左右から繰り出されるラフムの鎌を、首をやや傾ける事で避け、先ずは腰を低く落としてしゃがみ込み、そのまま右足を回してラフムの足を蹴り飛ばして体勢を崩す。そこへすかさず左足で蹴りを叩き込み、そのまま吹き飛ばされたラフムをストレアが勢いよく斬り飛ばす。

サクラとストレアは出会ってまだ日が浅いにもかかわらず、まるで長い間共に戦った仲間のように見事なコンビネーションで次々に撃破して行く。

そこへミツザネが援助に入る。得意の破壊力抜群の拳でラフム達はなす術もなくその身をガラス片に変えて行く。

ミツザネの驚異的な破壊力にラフム達は標的をミツザネに変え、直ちに周囲を取り囲む形で接近する。

それに対してミツザネは、右手の拳を頭上に掲げ、左手をそれに添える。すると彼の両手が黄色い電気のようなエネルギーを帯び始めた。

 

「ぬんっ!!」

 

そしてミツザネはその拳を勢いよく地面に叩きつけた。

するとミツザネを中心に電流が波状に広がっていき、そのエネルギー波でラフムは一気に爆散していった。

闘拳広範囲攻撃技《雷轟鉄槌》

ミツザネの攻撃によって漸く全てのラフムは掃討された。

 

「気を抜かないで!再び陣形を……」

 

アスナは落ち着いて皆に指示を飛ばす。

しかしその時だった。再びガストレイズから無数の光が放たれた。

そしてその光の中から再び、あの殺戮の悪魔が顕現した。

 

「おいおい……こいつは何の冗談だ……?」

 

エギルは目の前の光景に思わず唖然とした表情で呟く。

 

jq@jq@eh9(まだまた行くよ)!』

 

彼らの目の前には、再び無数のラフムの軍団。ラフムはその不気味な口から再び理解不能の言語を発し、その鎌状の4本足で走り出した。

 

「落ち着いて!先程と同じ手順で対応してください!

ハヅキちゃん、もう一度アレをお願い!!」

 

アスナの指示を受け、ハヅキは再び弓を構える。

しかし……

 

『g@7ffffffffffff!!』

 

ラフムの一体が奇怪な笑い声を上げた次の瞬間─────

 

「え?」

 

ハヅキの目の前にはラフムが迫っていた。

気がついたらハヅキはラフムに押し倒されていた。

 

「きゃあっ?!」

 

悲鳴を上げて倒れ込むハヅキ。抵抗できない彼女の胴体に、ラフムの鎌は無慈悲に振り下ろされる。

串刺しにされ、斬りつけられ、ハヅキの身体には痛々しい傷が増えて行く。

 

「ハヅキイィィィーーッ!!」

 

サツキが叫びながら双頭刃の刃でハヅキを襲っていたラフムを吹き飛ばす。満タンになっていたハヅキのHPはイエローゾーンまで減ってしまっている。

 

「お、お兄ちゃん……!!」

 

思わずハヅキはサツキに抱きついた。

 

「ハヅキ、無事でよかった……!」

 

サツキはハヅキを優しく撫でると、再び立ち上がってラフムの軍団を見据える。

 

「おい、こいつら……さっきまでと動きが違わねえか?」

 

ジェネシスがそう呟く。

 

「ああ……動きが速くなってる」

 

ティアがそれに対して頷きながら答える。

ジェネシスの言う通り、ラフムは先程召喚されたものに比べてかなり素早い動きをしていた。そのせいでプレイヤー達は対応が遅れ、再び形成が不利な状況となってしまった。

 

「兎に角距離を取って!出来るだけ一体に対して複数人で対応してください!!」

 

アスナが指示を飛ばし、自身もレイピアでラフムを攻撃する。 

細剣スキルでラフムの胴体を突き刺し、HPを削る。

 

『f7ef7e!』『6md\ーe!』

 

「アスナ!!」

 

するとアスナの背後から別のラフムが急接近し、キリトがそれを左右の剣で切り裂いた。

 

「キリトくん!」

 

「また来る!!」

 

再び別方向から二体のラフムが迫り、キリトは二刀流スキル《エンドリボルバー》でそれらを撃破した。

するとその直後。

 

3kh\ekz9e<(あの黒いの強いね)?』『p@yeyw@eb4(全員で行こう)

b4:@gted(攻撃開始)!』

 

「何?」

 

突如ラフムの軍団は先程のハヅキの時と同じくキリトを標的に定め、一斉にキリトに向かって飛びかかった。

 

「うわっ?!」

 

「キリトくん!!」

 

ラフムの軍団の群れに、キリトは一気に呑まれた。

左右の剣で応戦するものの、数が多すぎて数を減らすどころかこちらのHPが一気に減って行く。

 

「ヤロウ!!」

 

「キリトオォォーーーッ!!」

 

それを見たエギルとクライン、更にアスナも救援に走るが、その行く手をガストレイズが遠距離砲撃を放つ事で阻んだ。

 

「キリトくんっ!!!」

 

アスナは思わず悲痛な顔で彼の名を叫ぶ。

キリトは既に仰向けに倒されており、無数のラフムの鎌によって串刺しにされ、腕を引き裂かれ、足をもがれる。

 

「キリトくーーーんっ!!」

 

アスナはキリトを助けるため無我夢中で走った。

 

────させない

 

 

 

────キリトくんは絶対に死なせない!!

 

アスナはこのボス戦に来る前に交わした約束を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────キリトくんは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Standing by───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────私が守る!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

───Complete────

 

その時、アスナの元に一通のシステムメッセージが表示されるが、それを無視してアスナは走った。

 

 

EXスキル《神速》発動

 

 

そのメッセージが消えるとともに、アスナのチェストアーマーや腕のガントレットが弾けとんだ。

そして、右上に10秒のカウントダウンが表示される。

 

《Start up》

 

その瞬間、アスナは消えた。

 

《Exceed Charge》

 

直後、キリトを襲っていたラフムの軍団の頭上に、無数の赤い円錐状のポインターが出現する。そのポインターには何か動きを拘束する効果があるのか、ポインターが出現した途端にラフムは動きを止めた。

 

「てやっ!」「はあっ!」「せいっ!」「やあっ!」「ふっ!!」

 

その直後、アスナの叫びと共にとてつもないスピードで次から次へとポインターがラフムを貫通して行く。その一撃を受けたラフムは瞬く間に消滅して行く。

同時に、フィールドに残った全てのラフムが次々に爆散して行く。そして最後の一体がガラス片となった時だった。

 

『3……2……1……』

 

アスナの視界の右上に現れていた10秒カウントがついにゼロとなった。

 

《Time out》

 

アスナはキリトの目の前で停止する。相当激しい動きをしたのか、アスナは両肩を大きく上下させながら呼吸している。

 

《Reformation》

 

その電子音声のような音が鳴ると、弾けとんだアスナの防具が再び出現した。

 

「ア……ス、ナ……?」

 

キリトは突然の事で訳がわからないと言う様子で、残った右腕で何とか起き上がって目の前のアスナを見遣る。

唖然としているのは皆も同じようで、場の空気は今停滞していた。

アスナはゆっくりとキリトの方を振り返ると、優しい笑みを浮かべ

 

「もう大丈夫。あとは私に任せて?」

 

そう告げると、再び振り返って歩き出す。

 

「あ、アスナ……今のは?」

 

ティアが戸惑った様子でアスナに問いかける。

それに対してアスナは何も言わずに、ボスを見据えて立ち止まる。

 

「サクラさん、ストレアさん。二人はキリトくんの介抱を。残りの全員は次のラフム達の対応をお願いします」

 

アスナは周りを見渡しながら落ち着き払った声で指示を飛ばした。

 

「えっ……そりゃいいが、ボスはどうするんだよ?」

 

クラインが疑問符を浮かべて尋ねる。

確かに、ラフム達の対応に追われているのではいつまで経ってもボスは倒せない。現にガストレイズのHPは未だ最後の一本から減っていない。

 

「問題ありません。ボスは……私がやります」

 

アスナの言葉に皆は目を見開いた。

 

「そ、そんな無茶です!幾らアスナさんでも、ボスを一人でやるなんて……」

 

「大丈夫。10秒で終わらせてきます」

 

ハヅキの言葉に対してアスナは不敵な笑みで返す。

そして細剣を構え、ゆっくりと腰を低く落とす。

 

「《トライアルタイム》」

 

すると再びアスナの視界の右上に10秒カウントが表示される。

そしてアスナはその場から勢いよく飛び出した。

先程と同じく常人では視認不可能な速さでアスナはフィールドを縦横無尽に駆け回る。

ガストレイズは触手の先端から無数の光線を放つが、極限まで加速されたアスナを捕らえることは出来ない。

 

その間、ガストレイズの触手が一本、また一本と切り落とされて行く。

そしてアスナはボスの全身にあらゆる方向から刺突攻撃を繰り出して行く。その剣撃は、神速のスキルによって極限まで加速されているため、さながらガトリングガンのようだった。

ガストレイズのHPは凄まじい勢いで減少していき、グリーンからイエローへ、イエローからレッドゾーンへと減っていき、遂にゼロとなった。

 

アスナはそれを確認すると攻撃をやめ、ゆっくりとボスに背を向ける。すると、アスナの10秒のカウントが停止する。

 

「9.8秒……それが貴方の絶望までのタイムよ」

 

アスナが静かにそう告げた後、彼女の背後でボスは勢いよく爆散した。

その直後、フィールド上に《Congratulations!》という文字が出現し、ここにようやくボス戦が終結したことを告げる。

 

プレイヤー達は皆一瞬固まっていたが、すぐさま歓声を上げて勝利を喜び合った。

アスナはそれらの声援の中、ゆっくりとキリトの方に歩み寄る。

 

「アスナ……」

 

キリトはゆっくり立ち上がってアスナをじっと見つめた。

ラフムによって切り刻まれた傷や腕などは既に元通りになっている。

 

「ありがとうアスナ。守ってくれて」

 

「ううん、大丈夫。約束したでしょ?キリトくんは私が守るって」

 

「はは、そうだったな……」

 

二人は微笑みながら見つめ合った後、ゆっくりと抱き合った。

 

「今回は完全にいいとこ持ってかれたな」

 

そんな二人を遠くから見つめていたジェネシスは、やれやれとため息をつきながら言った。

 

「ほんとですよ〜。せっかく私のスキルを存分に活用できると思ったのに」

 

「ぶーぶー!アタシの出番殆ど無かったじゃん!」

 

サクラとストレアも頷きながら、不満そうに頬を膨らませながら言った。

 

「まあまあ三人とも。

しかし《神速》か……これはまた、随分ととんでもないスキルが出てきたものだな」

 

ティアが3人を宥め、アスナの方に視線を戻して呟いた。

 

「んま、結果的に戦力のアップに繋がったんだからいいじゃねえか。今は細けぇことは置いといて、勝利の美酒に酔いしれようじゃねえか」

 

するとミツザネが満足げな笑みを浮かべながら言い、皆はそれに黙って同意した。

 

その後、七十六層アークソフィアで、アスナの新スキルについて色々騒ぎがあったのはまた別の話────

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

さて、FGOアニメを見ていた勢はあのトラウマが呼び起こされたのではないでしょうか?自分もラフムの描写はしんどかったですw
そしてアスナの新スキル。元ネタは仮面ライダーファイズアクセルと、仮面ライダーアクセルトライアルです。詳しくはTwitterにて。

お知らせ1。
とある読者の方のリクエストを受けて、次回はジェネシス・キリト・サツキくんの男子メンバーによる男子会となる予定です。大まかなストーリーとしては、まあ単純に男子同士で色んなこと(意味深)をぶっちゃけ合うお話になる予定です。

お知らせ2
この度、イセスマifの作者である咲野皐月様とコラボすることが決定致しました。ストーリーに関しては現在咲野氏と協議中です。恐らく男子会の次、つまり次々回になる予定となっています。どうぞお楽しみに。

では長くなりましたが今回はこれにて。
評価、感想などいつも通りお待ちしております。

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