ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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連投でございます。
思ったより書くスピードが速くて自分でもびっくりしてます。


四話 絶望

 

ティアの声に三人は耳を疑った。

ログアウトボタンが無い、そんな事があるはずがない。

だが、続けてクラインも同じことを呟いた。

 

「俺の方にもねぇな」

 

そんなクラインに対し、キリトは訝しんだ表情で

 

「そんなわけないだろ。よく見ろって」

 

「いや、本当にねぇんだよ」

 

しかし返ってくるのは同じ反応。

そんな彼に、ジェネシスが少し煽るような口調で言う。

 

「いやいやいやクライン氏、そんなバァカなこと言っちゃいかんよ〜。

ログアウトボタンが無い?そんなことあるわけ……」

 

〜数秒後〜

 

「……ほんまや」

 

「だろ?」

 

お笑い界のレジェンドのようなやり取りをするクラインとジェネシスを他所に、キリトもメニュー欄を確認するが、やはり彼にもログアウトボタンは見つけられなかった。

 

「……ま、正式サービス初日だからな。こんなバグもあるだろうさ。運営も今頃半泣きだろうな」

 

「貴方もですね、クライン」

 

「え?」

 

呑気なことを言っているクラインに、ティアが苦笑しながら言う。

 

「ピザ、5時半に届くのでしょう?今25分ですよ」

 

「……ぬおぉぉぉーーー?!!俺のピザがあぁぁーー!!」

 

頭を抱えて絶叫するクラインを他所に、キリトとジェネシスは怪訝な表情を浮かべた。

 

「……おかしいな」

 

「ああおかしい。ぜってぇにおかしい」

 

深刻な表情で顔を見合わせる二人に、ティアが疑問符を浮かべながら言う。

 

「おかしいって……まあそれはそうだろう?バグなんだから……」

 

そんなティアに対し、ジェネシスは首を横に振りながら答える。

 

「いやいや、バグにしたってタチが悪すぎんだろ。ログアウト出来ないなんざ、今後のゲームの運営に関わる重大な案件だろうがよ」

 

キリトもその意見に頷き続ける。

 

「ああ、その通りだ。俺たちプレイヤーには、メニュー欄からログアウトボタンを押す以外にこの世界から出る手段はない。

こんなの、サーバーを停止してプレイヤー達を強制ログアウトさせればいいのに……運営から連絡すらないなんて、一体どうなってるんだ?」

 

ジェネシスとキリトの深刻な表情と言葉で、ティアとクラインもまた不安げな表情になる。

彼らの心境に呼応するように、夕日が雲によって隠れ、辺りが暗くなる。

 

その時、第一層のフロア全体に、はじまりの街の鐘が鳴り響いた。

そして、ジェネシス達四人が青白い光に包まれその場から消えた。

 

四人が飛ばされた先は、はじまりの街の中央広場。

そこにはこの世界に現在ログインしている約一万人のプレイヤー達が集められていた。

皆何が起きたのかわからない様子で不安げな表情を浮かべ、中には苛立っているものもいる。

 

「ん?ありゃあ何だ?」

 

ジェネシスの声に三人は視線を上に向ける。

 

そこには赤い文字で、《Warning》《System Announcement》と書かれたパネルがあり、それは徐々に無数に広がっていく。

そして、そのパネルの隙間から赤い血のような液体が滴り、集合し、やがて二十メートル長のフードを被った人の形を象った。

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

 

赤いフードの巨男は声を発した。

 

『私の名は《茅場晶彦》、現在この世界を唯一コントロール出来る存在だ』

 

「あいつが茅場晶彦か……」

 

ジェネシスは少し感心したような顔で呟いた。

彼こそ、この《ソードアート・オンライン》の開発者にして、ナーブギアやその他フルダイブ機器を開発した天才科学者だ。

 

『既に諸君らの中には、メインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいている者もいるだろう……だが、これはバグでは無い。

繰り返す……これはバグでは無く、ゲーム本来の仕様である』

 

彼の言葉で広場は静寂に包まれた。

ログアウトボタンが無いのがゲームの仕様……つまりプレイヤー達は皆、この世界から自発的に出られないと言うことだ。

 

『諸君らはこの世界から自発的にログアウトすることは出来ない。また、外部の人間によるナーブギアの強制停止もあり得ない。もしそれが実行された場合……ナーブギアの高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

告げられた言葉はあまりに現実離れしており、プレイヤー達の中には馬鹿馬鹿しいだの早く終われだのぼやいている者もいる。

 

「何言ってんだあいつ?んなこと出来るわけねぇだろ、なあキリト?」

 

クラインが茅場を指差しながら言う。

が、彼の言葉に答えたのはジェネシスだった。

 

「いや、信号素子のマイクロウェーブってたしか電子レンジと同じなんだろ?」

 

「ああ。そして、リミッターさえ外せば、限界値の42度を超えることも可能だ……ナーブギアは人の脳を破壊できる」

 

キリトも頷きながら同調する。

 

「けどよ、電源を抜いちまえば……」

 

そう言うが、ティアが首を横に振って

 

「いや、確かあれには内臓バッテリーがあったはず」

 

「な……でも無茶苦茶だろ!なんなんだよ!!」

 

クラインは痺れを切らしたように叫んだ。

 

『残念ながら、警告を無視したプレイヤーの家族あるいは友人が、ナーブギアの強制解除を試みた結果、既に213人の人間がこの世界および現実世界から永久退場している』

 

「そんな……213人もだと?!」

 

戦慄したキリトが思わず呟いた。

 

「信じねぇ……信じねぇぞ俺は!!」

 

クラインが首を横に振りながら叫ぶ。

だがクラインのそんな叫びをも否定するかのように、茅場のアバターの周囲に複数のディスプレイが表示される。

それらはテレビのニュースメディアを始め、TwitterなどのSNSなどもあり、それらは全て《ゲーム内で死亡》などと言った見出しで埋め尽くされている。

 

『ご覧のように、既に多くのメディアが多数の死者が出たことをこの状況を含め報じている。

よって、諸君らがナーブギアの強制解除によって死亡する危険性は低くなっていると言ってよかろう。諸君らは安心してプレイしてくれて良い』

 

「ふざけるな……この状況で呑気に遊んでいろと言うのか!」

 

我慢できずにティアが叫んだ。

 

『だが十分に留意してほしい。今後この世界においてあらゆる蘇生手段は存在しない。諸君らのHPが消滅した瞬間────ナーブギアが諸君らの脳を焼き尽くし、生命活動を停止させるだろう』

 

静かに放たれた言葉。

プレイヤー達にはもう既に余裕はなく、ただ重苦しい空気が広場を覆い尽くす。

 

『諸君らがこの世界から出る方法はただ一つ……このゲームをクリアすることだ。現在の第一層から最上層の第百層までをクリアすることでのみ、生き残ったプレイヤーはログアウトすることが出来る』

 

再びざわつく広場。「ふざけるな!」「出来るわけないだろ!」と言った罵声が飛び交う。

しかし茅場はそれらを無視し、言葉を続けた。

 

『では最後に、私からプレゼントがある。確認してくれたまえ』

 

言われたプレイヤー達は自身のアイテムストレージを開く。中に入っていたのは『手鏡』。

ジェネシスはそれをオブジェクト化し、鏡を覗き込む。

映ったのは現在の自分のアバター。やや細目で黒い髪型の優男がそこにいた。

 

だが次の瞬間、ジェネシスの身体は青白い光に包まれる。

 

光が晴れ、ジェネシスは辺りを見回す。

 

何かが違う。ジェネシスは咄嗟にそう感じた。

 

「大丈夫、ジェネシス?」

 

ティアが自身を呼ぶ声がし、振り向くとジェネシスは息を飲んだ。

そこにいたのは、ティアではなかった。

スラリとした体つきは変わらないが、銀髪にやや大人びた顔立ちの女性。

見間違うことなどあるはずもない。現実世界で毎日過ごした女性、雫がそこにいた。

 

雫ーー否、ティアもジェネシスを見た瞬間はっとした顔になる。

 

「え……久弥…?」

 

ジェネシスは慌てて鏡で自分の顔を確認する。

荒々しく逆立つ赤い髪に吊り上がった目、黄色い瞳。

 

「俺……?いや、正確には現実の俺か……!」

 

ふと、ジェネシスはキリト達の方を見る。

 

たしかにそこには先程と同じく二人の男性プレイヤーが立っていた。

しかし一人は赤いバンダナに無精髭を生やしたおっさん、もう一人は艶のある黒髪に中性的な顔立ちの、自分と同い年くらいの少年がいた。

 

「ええと……つまりそこのおっさんがクラインで、そこの美少年がキリトか」

 

「俺とキリトの扱い違くねぇ?!」

 

ジェネシスがクラインとキリトの方を指差して確認する。

 

「それじゃあ、そこの赤髪がジェネシスで、銀髪がティアか」

 

クラインの悲痛な叫びを無視し、キリトはジェネシスと同じように自分たちを確認する。

 

「これって現実の顔……でもどうして」

 

ティアが鏡を見ながら疑問符を浮かべる。

 

「そうか、スキャンだ。ナーブギアは高密度の信号素子で顔をすっぽり覆っている」

 

「なるほど……でも、身長や体格は…?」

 

キリトの答えにクラインが納得したように頷くが、新たな疑問が浮かんだ。

 

「あー、あれじゃね?確かナーブギアかぶった時に、キャリブレーションとかで身体のあちこち触らされたろ」

 

ジェネシスが思い出したように答える。

 

「でも……でもよ、なんだってこんなことを…」

 

クラインの疑問に対し、キリトは茅場を指差し答える。

 

「それも、すぐ答えてくれるさ」

 

キリトの言葉通り、茅場は口を開いた。

 

『諸君らは今、“何故?”と思っているだろう。《ソードアート・オンライン》及び《ナーブギア》開発者の茅場晶彦は何故こんな事をしたのかとと疑問に思っているだろう。

私の目的は既に達成されている。私はこの世界を鑑賞する為だけに、ナーブギアを、そして《ソードアート・オンライン》を開発したのだ』

 

告げられた言葉にプレイヤー達は何も言えず、ただ沈黙が続く。

 

『以上で、《ソードアート・オンライン》のチュートリアルを終了する。諸君らの検討を祈る』

 

そう言い残し、赤いフードの巨体は溶けるように消滅し、赤いパネルも消え再びオレンジ色の夕日が広場を照らす。

 

しばし静寂が続いたが……

 

「い……いやあぁぁぁぁ!!!」

 

少女の悲鳴を皮切りに、一斉にプレイヤー達が悲鳴を、怒号を上げ始めた。中には呆然と立ち尽くす者もいる。

 

「クライン、ティア、ジェネシス!少し来てくれ」

 

するとキリトが、三人の手を引いて街の裏路地まで引っ張ってきた。

 

「よく聞いてくれ。俺は街を出る。お前らもすぐに出るんだ」

 

未だに状況を飲み込めていないクラインとティアに対し、ジェネシスが何かを察して補足する。

 

「こういうMMORPGは基本、リソースの奪い合いなんだよ。奴の言ったことが本当なら、俺たちはこれから自分自身を強化しなきゃならねぇ。だが自分を強くするにはモンスターの狩場みてぇな場所が必要だ。

おそらく、すぐにこの辺の狩場は独占される。だからもう次の村に行っといたほうが良いんだよ」

 

ジェネシスの説明に納得したように頷くティアとクライン。

 

「…その通りだ。そして俺は、そこに行くまでの危険なポイントや安全な道も把握してる。低レベルでも、誰かひとりなら守れる」

 

つまりキリトは、この中の誰かひとりを連れて次の街に行こうと言うのだ。

 

「……悪い、キリト。俺は前のゲームで知り合った仲間がいるんだ。あいつらを、置いて行けねぇ」

 

申し訳なさそうな顔で目を伏せるクライン。

 

「そうか……分かった」

 

「へっ、別に心配すんな!これでも前のゲームじゃ、ギルドの頭張ってたんだからよ。お前にもらった知識で何とかやってみるさ!」

 

笑ってそう告げた。

 

「よし、それならここで別れよう…気をつけてな」

 

「おう!」

 

そう言ってクラインは広場へと駆け出す。

が、不意に立ち止まって振り返り、

 

「おいキリト!おめぇ本当は可愛い顔してんな!結構好みだぜ!!んで、ジェネシスとティア!おめぇらにあってんぞ!!とっとと爆発しろ!!」

 

満面の笑みで叫んだ。

 

「お前も、その野武士面の方が10倍にあってるよ、クライン!」

 

「お前は一生童貞だろうがな!!」

 

爽やかな笑顔で返すキリトと、悪戯な笑みで返すジェネシス。

 

「おいジェネシス!!てめぇ今に見てろよ!ぜってぇに可愛い彼女見つけてやんだからな!!」

 

そう言い残し、今度こそ姿を消した。

キリトはジェネシスとティアに向き直り、

 

「…さて、ティアとジェネシスはどうする」

 

ここでティアがジェネシスの腕を掴んで口を開いた。

 

「済まない、私はこの人と一緒に行く。私たちをサポートしてくれるのなら、お前と行ってもいのだが……」

 

そこでキリトは、自身のレベルを確認する。

現在彼はレベル1。流石のキリトでも、このレベルでニュービーの二人を守りながらフィールドを抜けるのは至難の業と言っていい。

そこで察したジェネシスがキリトの肩をポンと叩きながら

 

「…心配すんな。俺たちなら大丈夫だ。クラインと同じように、テメェから教わったテクでやってくよ」

 

「ああ。だからお前は気にせず先に進め」

 

二人の心遣いにキリトは苦い顔をする。

 

「そんな顔すんなよ。お前とは、またすぐ会える気がする。そん時はよろしく頼むぜ」

 

そんなキリトに、ジェネシスは不敵な笑みを浮かべて拳を突き出す。

キリトはそれを見て一瞬戸惑うが、すぐに彼も笑顔で返す。

 

「…ああ、俺も同じだ。お前はこれから、無くてはならない存在になる気がする。だから死ぬなよ?」

 

「へっ、テメェこそな」

 

そう言って拳を打ち付けあった後、キリトは駆け出した。

 

キリトの姿が見えなくなってしばらくした後、ティアが口を開いた。

 

「……それで、私達はどうしようか?」

 

「そうだな……先ずは狩場を抑えなきゃならねぇが………その前にティア、一つ言っておかなきゃならねぇことがある」

 

言いながらジェネシスは、その場で膝をついた。

突然のことで目を見開き驚くティア。

ジェネシスはそのまま手をつき、土下座をした。

 

「すまねぇ!お前がこうなったのは全部俺のせいだ。俺がお前を誘いさえしなければこんなことにはならなかった……許してくれとは言わねぇ。斬りたきゃ斬ってもいい。お前にはその権利がある!」

 

そう、ティアーー雫をこの SAOに誘ったのは紛れもなくジェネシスだ。もしジェネシスが彼女を誘わなければ、雫はこのデスゲームに巻き込まれることは無かった。

 

しばらくの沈黙の後、ティアはゆっくりとしゃがみ込む。

 

「……顔を上げて?久弥」

 

優しく慈しむような声でティアは語りかけた。

ジェネシスはその言葉に従いゆっくり顔を上げる。

 

ティアの表情は怒りでも悲しみでも無く、ただ穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

「久弥のせいじゃない。私がこうなったのは、私の選択。だから、自分を責めないで?

私はあの時から貴方について行くと決めた。私をあのいじめから救ってくれた時から、久弥は私のヒーローだった」

 

そしてティアは優しくジェネシスを抱きしめた。

 

「久弥がこの世界に誘ってくれた時、凄く嬉しかった。久弥と一緒に冒険できるんだって思うと、凄くワクワクした。たとえこれがデスゲームなんだとしても、久弥がいるなら大丈夫だよ。

だから約束して?これからもずっと……私と一緒にいるって」

 

ジェネシスはティアの言葉に何も言えなくなった。

しばし沈黙した後、ジェネシスはふっと笑い、

 

「……ああ、約束だ。俺は絶対にお前を現実世界に返す。お前は絶対に、俺が守ってやらぁ」

 

不敵な笑みで返し、二人は立ち上がる。

 

そして並んで路地を歩き、フィールドに出る。

 

「とりあえず、どうしようか?」

 

「さっきキリトがこの辺の狩場は独占されるって言ってたな……なら、俺らも次の村へ行くか」

 

「分かった」

 

そして二人はそれぞれの剣を手に取り、同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
これは全くの余談なのですが、ジェネシスの声は杉田智和さんで再生してます。ジェネシスの声って杉田さんボイスでも多分違和感無いと思うんですよね。
ちなみにティアは渡辺明乃さんです。

評価、感想などお待ちしてます。
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