ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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お待たせしました、ジャズです。
最近コロナも落ち着いて来ましたが、コロナの脅威が無くなった訳ではありません。油断せずに行きましょう。

そして今回、予告していた通りホロウフラグメント編前半戦のラストです。それでは本編スタートです。


四十四話 帰還

巨大ボス《オカルディオン・ジ・イクリプス》を撃破した直後に彼らの目の前に現れた《ホロウ・ジェネシス》。

 

「チッ、ここに来てそう言う趣向かよ……最後はホロウの俺が相手をする、ってか」

 

ジェネシスが目の前に現れた自身を見て忌々しげに呟く。

対する《ホロウ・ジェネシス》は虚ろな瞳を向けるだけで何も言葉を発さない。

 

「こいつも……ジェネシスと全く同じ強さってことなのか?」

 

キリトが掠れた声で疑問を口にする。

 

「…………」

 

ホロウのジェネシスは無言で大剣を右肩に担ぐ。

 

「ハッ、上等じゃねえか。ホロウの俺だろうが何だろうが、構わずぶった斬ってやるよ」

 

本物のジェネシスはホロウの彼に向けて不敵な笑みを浮かべながら大剣の切っ先を向けた。

 

「久弥……!」

 

「心配すんな、そこでじっと見てろ。ぜってぇに俺が勝つさ。

何より、俺が俺の偽物に遅れをとるなんざあるわけもねえしな!!」

 

ティアが心配そうな表情で見上げたのに対し、ジェネシスは自信ありげに言った後、その場を飛び出した。

対するホロウ・ジェネシスも同じモーションで駆け出す。

お互いの大剣が全く同じスピード、角度で振り下ろされ、金属音と火花を散らしてぶつかり合った。

その後もジェネシス同士の激しい攻防が続く。一方が不意を突いた一撃を加えるが、もう一方がそれを読んでいたかのような的確な対応を見せ、双方一歩も譲らない戦いが行われた。

 

「チッ……(やり辛ぇなこりゃ。戦っててここまで手応えがない相手は初めてだぜ。俺のデータを参考にしてるってのは間違い無いらしい)」

 

ジェネシスは内心そう愚痴ると、今度は右上から振り下ろすという振りをして下から攻めると言うフェイクを織り交ぜた攻撃を繰り出す。が、これもまた読まれていたらしく、フェイクなど意に介さず右下から接近する刃を難なく受け止めた。

 

「不味いですね……」

 

硬直状態で床に伏せた状態で戦いを観ていたサクラが不意に呟く。

 

「やはり、あのホロウ・ジェネシスは完全にお父さんの戦闘データをコピーしています。このままではホロウデータを倒す事は叶わないでしょう」

 

サクラは苦虫を噛み潰したような表情で言う。

事実、彼女の言う通りジェネシスは今も攻めあぐねている状態だ。

そしてこの状況は長続きしない。このまま同じ状況が続けば、不利になっていくのは本物のジェネシスの方だ。ここまでエリアボス、フロアボス戦と言う難関を十分な休息を取らずにこなしているのだ。このままでは疲労で本物のジェネシスが疲弊によって動かなくなる可能性もある。

 

「……っ」

 

麻痺によって行動が制限されているティアの表情に不安と焦りの色が現れ始めた。本当であれば今すぐにでも彼の救援に向かいたいのだが、システムによって動くことができないもどかしさに彼女は奥歯を噛み締めた。

 

しかし当のジェネシス本人の内心は非常に冷静だった。

焦りも不安も全くなく、不純物の全くない水のように彼の心は透き通っていた。

 

この時、彼の脳内には何故か目の前に一つの巨大な門があった。鍵穴は無く、その巨大さ故にこじ開ける事も叶わず、更に言えばその扉を開けたら何があるのかさえ分からない。その扉の正体が何なのかは不明だが、ジェネシスはその扉の事よりも、今目の前に立つ相手のことに集中する事にした。

 

目の前で自分と戦っているのは、紛い物とはいえ自分自身。

これに挑む事は即ち己の限界に挑むと同義である。

一撃一撃を打ち込むたびに、ジェネシスの集中力は徐々に高まっていき、剣を振るう速度が、一撃の重みが、技のキレが段々と増していく。

 

それまで両者一歩も譲らない戦闘を繰り広げていたが、本物のジェネシスの方がやや押し始めた。全く通らなかった攻撃もようやく入るようになり、ホロウ・ジェネシスの身体に切り傷ができる。

 

しかし次の瞬間、ホロウ・ジェネシスの大剣が赤黒い光を放ち始め、そしてその大剣の刃をジェネシスの首元目掛けて勢いよく振るった。暗黒剣ソードスキル《ヘイル・ストライク》。本物の彼と遜色ないキレと速度で放たれたその一撃は、ジェネシス本人に回避する暇も反撃の隙すらも与えなかった。間違いなく、この一撃は免れられない。正に、ホロウ・ジェネシスが土壇場で見せた渾身の一撃のと言える。

観念してジェネシスは目を閉じてその刃を受ける。

 

「久弥あぁーーっ!!!」

 

だがその時、ティアの叫びが彼の耳に届く。

 

それが引き金となったのだろうかーーーージェネシスの脳内に聳え立っていた門が、重々しい音を立てながら開き始めた。

 

その先には、何もない。今彼が立っている領域よりも更に深い深淵が広がっているのみ。 

 

しかし彼は、迷わずにその領域へと足を踏み入れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

『ナーブギアとのシンクロ率・120%オーバー』

 

『既定数の脳波を感知。ナーブギアのリミッターを解除』

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

その時、ジェネシスの戦いを観ていたティア達は信じ難い光景を目にする事になった。

 

確実に決まると思われたホロウ・ジェネシスの渾身の一撃。

ジェネシスの首はなす術もなく撥ねられると思われた次の瞬間、吹き飛ばされたのはホロウ・ジェネシスの方だった。

 

一体何が起きたのかーーーー普通のプレイヤーでは見抜けなかっただろう。しかしティア達の目には見えていた。

 

ジェネシスは首元に迫った刃を状態を伏せる事で回避し、そのまま右手に持った大剣をホロウ・ジェネシスの胴体に突き出して吹き飛ばしたのだ。ここまで約1秒程度。神速発動状態のアスナに迫る速度の動き。通常のジェネシスでは間違いなく出せない一撃だ。

 

「何だったんだ……今のは……?」

 

キリトが震えた声で問いかける。

それに応えるかのように、サクラが戦慄した表情で呟く。

 

「信じられない……お父さん、貴方は……『ゾーン』に入ったと言うのですか……?」

 

ゾーン

余計な思考、感情が排除された極限の集中状態。

鍛錬に鍛錬を積んだ者だけが、その扉の前に立つ権利を有する。が、それでも開くのはごく稀の事である。

其は正に、選ばれた者のみが入ることのできる究極の領域。

そこに入ったものは、実戦ではほぼ不可能な100%全力のパフォーマンスを発揮することが出来る。

 

そこからは正に一方的な蹂躙劇だった。

ゾーン状態に突入したジェネシスは、リミッターが外れた事によるものなのか、瞳に真紅の光を灯しながらホロウ・ジェネシスを完封して見せた。

普段の彼では有り得ない速度で動き回ることでホロウ・ジェネシスを翻弄していく。正面から背後に回って背中を斬りつけ、そのまま立て続けに正面に立って大剣を横一閃に振るい、ホロウの彼を吹き飛ばす。

 

「すごい……」

 

別人のようなジェネシスの動きを観て圧倒されたフィリアが思わずそう口にした。

 

本物のジェネシスの猛攻を受けたホロウ・ジェネシスは不利と見たのか暗黒剣最上級スキル《ジェネシス・ディストラクション》の発動モーションを取る。

 

「やめとけ。偽物のオレじゃそんな技使ったところで勝てやしねえよ。

こいつで終めえだ」

 

それに対して本物のジェネシスは淡々とした口調でそう告げると、大剣を正面に構える。

 

『───秘奥義開帳。

其は深淵より出で、万物を滅する暗黒の刃───』

 

ジェネシスがそう詠唱した直後、彼の大剣を中心に漆黒のオーラが彼を包み込む。

暗黒の雲はやがて大剣の刃を包み込んで暴風を伴う渦となり、禍々しい赤黒い光を放った。

ジェネシスの全身もすっぽりと黒いオーラに包まれ、二つの赤い双眸が光る。それはさながら『悪魔』のようだった。

 

ホロウ・ジェネシスが大剣を右腰の下段辺りに構え、そして駆け出す。同時にジェネシスは黒い渦を纏った大剣を上段に構える。

 

『《アビス・デストピア(死告の深淵)》」

 

瞬間、ジェネシスは大剣を勢いよく真下に振り下ろした。

漆黒の竜巻が真っ直ぐにホロウ・ジェネシスを呑み込み、粉砕する。

あっという間にホロウ・ジェネシスのHPは尽き、その身をガラス片に変えて消滅した。

 

それを確認したジェネシスは「フゥ」と一息つくと、大剣を左右に振って背中の鞘に収めた。戦闘が終わると同時に、先ほどまで発動していた『ゾーン』が解除され、彼の目に灯っていた赤い光が消えた。

 

「!……動ける!」

 

すると先ほどまで麻痺で倒れていたキリト達がゆっくりと起き上がる。

 

「おっ、やっと動けるようになったか」

 

「ああ、どうにかな……ってそうじゃない!

ジェネシス!!お前さっきのは何だよ?!」

 

キリトはそう言ってジェネシスに勢いよく詰め寄った。

 

「おいおい落ち着けって、正直俺もよくわかんねえんだよ。

気がついたらああなってたっつうか…」

 

ジェネシスは困惑した表情で答える。

 

「今のは《ゾーン》です。ナーブギアには一定の脳波を感知すると、動作処理のリミッターが外れるようになっています」

 

「ナーブギアにそんな機能まであったのか……茅場のやつ、そんなことまで想定してたのかよ」

 

サクラの説明を受け、キリトは呆れたような口調で呟く。

 

「けど、そんなのって意識して入ることは出来ないよね」

 

「ああ。多分『入れたらラッキー』程度のもんだと思うぜ」

 

アスナの問いにジェネシスが首を縦に振って答える。

 

「何じゃ、つまらん。いつでも入れるならばこれ以上ないアドバンテージになると言うに」

 

「いや、あんなのいつでも入れたらそれこそチートだから」

 

面白くなさそうに言うツクヨに対し、キリトが宥めるように言う。

 

「まあ、何はともあれこれで倒すべき敵は全て倒したはずだ。早くコンソールに行こう」

 

ティアがそう促し、皆はボスを倒したことで現れた転移石に向かう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

最下層・コンソール前

 

一行が転移した先は、何もないただっ広い空間だった。

数メートル歩いたところで、目の前にシステムコンソールを見つけたサクラがそれを操作する。

 

『エラーが解除されました。エラーの種類はデータの重複。原因は────』

 

システムアナウンスがなると共に、ここでようやくフィリアとツクヨのカーソルがオレンジからグリーンに戻る。

 

「あ、グリーンになった!」

 

「ふむ、やはりこの方がしっくりくるな」

 

自分のカーソルの色が戻ったフィリアとツクヨはほっと息を吐いた。

 

「よし。二人のエラーも解除した事だし、帰ろうか」

 

「うん!……でもなんか、変な感じがするね。

引越し前の家に帰る気分だよ」

 

「それは間違いねえな。ま、すぐに慣れるさ」

 

「そうそう。それに、あそこには頼れる仲間もいる。何も心配はいらない」

 

「そうか。それは楽しみじゃのう」

 

「ああ、楽しみにしていてくれ。

それじゃ戻ろうか!」

 

そして一行は管理区に戻ったのち、転移門からいよいよアークソフィアへと帰還していく。

 

 

 

 

〜七十六層・アークソフィア〜

 

中央の広場にある転移門が青白く光、中から複数の男女が現れる。

 

「ここが……」

 

「七十六層アークソフィア。紛れもないアインクラッドだ」

 

辺りをキョロキョロと見回すフィリア。

するとそこへ……

 

「こーらー。なにキョロキョロしてんのよ」

 

後ろから仲間の声が響く。

 

「こっちですよ!フィリアさん、ツクヨさん!」

 

「よかった、無事に戻ってこられたんだね!」

 

「フィリアさん、ツクヨさん。お帰りなさい!」

 

「やっとこっちで会えたわね」

 

「お二人が無事でよかったです!」

 

「ええ!本当に良かった……!!」

 

リズベット、シリカ、サチ、リーファ、シノン、サツキとハヅキが笑顔で駆け寄る。

 

「みなさーん!待ってましたよ!!」

 

「お二人が帰ってきてくれるのを心待ちにしていました!」

 

「わーい!二人とも無事でアタシもホッとしたよ〜!!」

 

さらに、レイ、ユイ、ストレアの3人も満面の笑みを浮かべながらやって来た。

 

「あ……えっと……」

 

「ほい、行ってこいよ」

 

戸惑った様子の二人の背中をジェネシスがそっと押し出す。

 

「うむ。……フィリア」

 

「うん……その……」

 

 

「「ただいま」」

 

『『『『おかえり!!!』』』』

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。この小説の連載が始まってから約半年が経過し、やっとここまで来たか……と少しホッとしています。
しかし、これはあくまで前半戦。今後もホロウフラグメント編はまだまだ続くので、頑張っていきたいと思います。
読者の皆様、改めてこれからもよろしくお願いします。



〜予告〜

ーー次回、ホロウフラグメント編後半戦、スタート!!ーー

「待たせたわね!
この私が、華麗に参上したのだわ!!」

「え?お菓子無いんですか?
……もう寝ますね」

新たなキャラクター、続々登場!

「さあて……ショータイムの始まりだぜェ」

「僕の前じゃ、君たちなんてゴミ同然だよ」

迫りくる新たな脅威!!

「待っていたよ……諸君」

そして物語はいよいよ終盤へ!!

「俺が……俺たちが《黒の剣士》だ」

  ソードアート・オンライン
   〜二人の黒の剣士〜
  ホロウフラグメント編後半戦
    次回よりスタート!!
















「うふふ…………

来 て く れ た ん で す ね 」
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