今回は久々の階層ボス戦。キリのいいところが見つからず、気づけば1万字を超えてましたww
でもその分かなりボリュームがある内容になってると思いますので、ゆっくりとお楽しみください。
その日、最前線の迷宮区攻略の際にようやくボス部屋を見つけた攻略組は、次の日にボス戦を行うことを決定し解散となった。
そして今回のボス戦から、いよいよシリカ・リーファ・シノンが参戦することも決定した。彼女達のレベルや実戦での動きを見て、問題ないと判断された為だ。
アークソフィアに戻り、夕食を済ませたあとメンバーは各々の部屋に戻り就寝に入った。
ジェネシスとティアも、部屋に戻るとそれぞれ風呂を済ませ、ベッドにならんで横になった。因みに以前までは違う部屋だったのだが、最近人数が増えたため二人は相部屋となったのだ。
いつもならベットに入ると、ティアと他愛もない談笑をしているうちに眠りにつくのだが、この日ジェネシスは中々眠りにつかなかった。
「はぁ〜……ダメだ、全然寝れねぇ……。
仕方ねえ、ちょっと夜風に当りに行くか」
ジェネシスは隣で寝息を立てるティアを起こさないように慎重に起き上がり、ベッドから離れると静かに部屋を出た。
深夜の時間帯で最低限の明かりしかついておらずやや薄暗い食堂を抜け、宿の木製の扉を開け広場に出る。
外は当然ながら暗く、通行人などは一人もおらずとても静かで、街を照らしているのはオレンジに光る街灯のみだった。
ジェネシスは深呼吸してひんやりとした空気を吸い込みながら周囲を見回すと、ベンチにはシノンが座っていた。
「よお、こんな時間にどうしたシノン」
急に背後から話しかけられたシノンは肩をビクッと震わせたあと振り向き、ため息を吐いた。
ジェネシスはそんな彼女の隣に腰掛ける。
「あれ?あんたこそどうしたのよ?」
「ちょいと眠れなくてな。そっちは?」
「……ちょっと、嫌な夢を見てね。昔の夢」
シノンは顔を伏せながらそう答えた。
「ふうん……って、昔の?」
「ええ……忘れるな、って事かしら。とにかく、夢を見たおかげでだいぶ思い出した」
「記憶をか?」
ジェネシスの問いにシノンは首を縦に振った。シノンはこの世界に迷い込んだ際に記憶を失っていたのだ。
「聞いても驚かないでね?私だって戸惑ってるんだから……」
そこからシノンは絞り出すように語り出した。
SAOを知ったのはテレビのニュースであった事。
沢山の死人が出て最悪のデスゲームだと話題になっていた事。
彼女はそんな中で、医療用のVR機器である《メディキュボイド》と言う、ナーブギアと同じシステムを積んだ機械で、カウンセリグの治療を受けるところだった事。
そしていざ始めようとしたときに、足元が崩れる感覚に襲われ、訳が分からないまま気がつけばここに来ていた事。
「そうか……まあ、記憶が戻ったんならよかったじゃねえか」
「そうでもないけどね……忘れていたかった事まで思い出してしまったから」
ジェネシスはシノンの言う“忘れていたかった事”がなんなのか気になったが、彼女の表情を見て聞くのを止めた。彼女の顔が『あまり話したくない』と語っていたからだ。
「でも、私がここに来るのは運命だったのかも知れない。
この世界じゃ、敵にやられたらプレイヤーは本当に……」
「心配すんな、てめぇは死なねえよ。俺がぜってぇに守ってやるから安心しろ」
ジェネシスは震えながら話すシノンに対して強気な口調で言った。
「あ、あんたそれ…本気で言ってるの?」
「ばっか、こんなこと冗談で言う奴があるか」
やや頬を赤らめながら、呆れたように言うシノンに対してジェネシスはそう答えた。
「どうしてよ、行きずりの私なんかに……」
「それ言い出したら全員行きずりなんだがな……」
そう言いながらジェネシスは少し考え込む。
ジェネシスにとって、シノンを含む仲間達はどう言う存在なのか。何故守りたいと思えるのか。
仲間たちと過ごした時間を思い出しながら、その理由を考える。
「……まあ、同じ屋根の下で寝て、同じ釜の飯食ってる仲間だしな。いや、ここまで来たら家族同然だろ」
「は?何よそれ……家族って、私たちみんな赤の他人じゃない」
ため息を吐きながら言い返すシノンの言葉を受け、バツが悪そうに頭をかきながらジェネシスは答える。
「ああ、自分でも正直何言ってんだって感じだが……」
そこで一旦一呼吸置き、数秒経ってから口を開く。
「……俺には家族がいねえんだ」
「……!」
彼の言葉を聞き、シノンは目を見開いて隣に座る彼の顔を見た。
「物心つく前に親は死んじまってな。ずっと爺ちゃんと婆ちゃんの家で育てられたんだが……それもいなくなってな。
もし俺が1人だったら、周りの奴らみてえに攻略に躍起になんざなってなかっただろうな。何せ俺が死んでも悲しむ奴がいねえんだから。
けど今はそうじゃねえ……ティアもそうだが、あいつらと過ごす時間は正直言って楽しい。失いたくねえって思ってる。
それはお前も同じだ、シノン」
シノンは黙って彼の話を聞いたあと、やがて軽く笑みをこぼしながら
「あんたって、今までは失礼でぶっきらぼうで変なやつくらいにしか思ってなかったわ」
「悪かったな」
「でも…私たち、意外と似たもの同士なのかもね。なんだか、そんな気がした……」
「そうなるの、か?」
ジェネシスは戸惑いながらそう呟いた。
するとシノンは自身の身をジェネシスに委ねるように傾けた。彼の肩でシノンは「すぅ……」と息を立てている。
「こいつ寝やがった……さて、こんなとこ雫に見られちゃ修羅場になんのは不可避だが……どうしたもんかね」
ジェネシスはため息を吐きつつ、そのままの体勢でシノンに自身の肩を貸したまま、夜更まで過ごした。
翌朝、案の定ティアに詰め寄られた。
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この日、いよいよ最前線・第89層のボス攻略が行われる。
参加するメンバーはアークソフィアの転移門前に集められ、戦いの前の最終確認が行われる。
今回のボスは、事前調査の結果で分かっているのは、ボスはドラゴン型エネミーである事。遠距離ブレス攻撃を主体とするモンスターで、常に空中を飛行しているため近接戦闘に持ち込むのは至難の技だ。
その為今回のボス攻略の要となるのは、遠距離攻撃ができる者。即ちハヅキ・イシュタル・シノンの3人をいかにして援護しつつうまく立ち回らせるかが鍵となる。
ハヅキは既にボス戦を何度も経験済みだが、イシュタル・シノンは今回が初のボス戦である。が、2人の表情は恐怖を微塵も感じさせない毅然とした者だった。
「まっかせなさい!私がいるんだもの、大船に乗ったつもりで構えていればいいのだわ!」
「うっか凛にならねえようにしろよ」
「うっさいわね!!」
自信満々な表情で言うイシュタルに対し、ジェネシスがそう苦言を呈した。
「……」
シノンはと言うと、何も言わずに黙ってジェネシスの方を見ていた。
そんな彼女の視線に気づいたジェネシスはシノンの方を振り返る。
「その……昨夜はありがとうね。お陰で大分気が楽になったわ」
「そうか。まあ、あんま気合いすぎずやりな。てめぇはてめぇのやれることをやったらいい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
2人はそう交わした後、いよいよ出発となった。
「久弥………シノンとイチャイチャしてない?」
「してません」
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89層の迷宮区の奥にあるボス部屋までは、回廊結晶を使用して一瞬で到着した。
到着後数分間の最終確認を終えた後、いよいよボス戦が始まる。先頭に立つアスナの手によって部屋の扉が解放された瞬間、攻略組のプレイヤー達は一斉に部屋に飛び込む。
部屋は真っ暗で、周囲を取り囲むように取り付けられた最低限の明かりがあるのみだった。
しかし、この部屋の最大の特徴はそれまで彼らが経験してきたボス部屋の中でも最大級の広さがあることだ。恐らく直径は数百メートルに及ぶ。
部屋には真っ黒な黒曜石で出来た高さ6メートルほどもある塔が8つあり、その頂上には紫の光を放つクリスタルがある。
そして部屋の中央にいたのは、全身が真っ黒の鱗に覆われた全長約6メートルはある巨大な黒竜だった。
竜はプレイヤー達の侵入を確認した瞬間部屋中を振動させる程の巨大な雄叫びを上げ、自身の身体を優に超える程の大きな翼を羽ばたかせて飛翔した。
それとともにボスの名前とHPバーが表示される。
ボスの名は《ジ・オブシディアンドラゴン》。HPバーの数は3本だ。
「戦闘……開始!」
アスナの号令と共に、ボス戦がついに開始された。
ボスは空中を浮遊しているので、手始めにハヅキが射撃スキル《ウルフ・シューティングブラスト》を放つ。
ハヅキの放った矢はボス部屋の宙を縦横無尽に飛び回るドラゴンに向かって真っ直ぐに飛び、見事に命中する。
しかし、今や攻略組のメンバー達にも引けを取らないレベルに達したハヅキの放った一射であるにも関わらず、先程の攻撃でボスが受けたダメージはHPバーの僅か数ドットに留まった。
「なっ……!」
「嘘でしょう…?!」
キリトとアスナはその光景を見て驚きのあまり目を見開いた。
このドラゴンは余りにも防御力が高すぎるのだ。ただでさえ自分達の攻撃が届かない上に、遠距離武器でさえ決定打になり得ないとなればかなりの苦戦が予想される。何かしらの突破方法が無ければいずれジリ貧になるのは明らかだ。
「ならこれはどうかしら?」
すると今度はイシュタルが動いた。
黒曜石を手に取るとそれを空中で弾けさせ、それによって発生したエネルギーを自身の武器《天弓 マアンナ》に集める。紫のエネルギーが収束し、矢の形状となっていく。
「これでも食らいなさい!」
右腕を真っ直ぐに伸ばし、指先で照準をドラゴンに向ける。
そしてドラゴンの動きを予測し、次に飛ぶであろう方向に向けて光の矢を放つ。
イシュタルの狙い通り矢が飛ぶ方向に向かってドラゴンは真っ直ぐに飛翔する。それに気づいたドラゴンは慌てて回避行動をとるも、時すでに遅くイシュタルの矢はドラゴンの腹部を直撃した。
イシュタルの一撃はやはり重かったのだろう、ハヅキの時と違いHPはバーの2割ほど削ることができた。
「なら、私も」
シノンも負けじとボウガンに矢を装填し、左手を銃身に添えて狙いを定める。ボスは未だプレイヤー達には目もくれずただ空中を飛行している。
これを好機と見たシノンは迷わずボウガンのトリガーに指をかけ、一思いに引いた。
『シュッ』と言う小さな空切り音と共に矢が射出され、青白い尾を引きながら真っ直ぐにドラゴンへ向かって飛翔していく。
ハヅキとイシュタルが保有する弓スキルの上位互換である、射撃スキルの技《グランドストライク》。
水色の光の尾を引き、矢は飛び回るドラゴンの頭部に突き刺さった。
するとダメージを受けたドラゴンは、部屋に聳え立つ八本のタワーの上で輝くクリスタルの方へ向かう。
ドラゴンが接近すると、クリスタルから紫色の光の光線が飛び、ドラゴンの身体を包む。その光を浴びると、ドラゴンのHPが一気に回復し、瞬く間に元通りになった。
「そんな…!」
「こんなの無茶苦茶です!」
「どうやって倒せって言うのよこんなやつ…!」
それをまたサチ、シリカ、リズベットが回復したドラゴンを見てそう叫んだ。
飛び回っているためこちらの攻撃は届かず、届いたとしてもその防御力の高さから大したダメージは入らないのに加え、仮に入ったとしても、クリスタルがある限り即座に回復してしまう。これでは倒そうにも倒すことなど不可能に近い。
「大丈夫!倒す方法はあるよ!!」
やや諦観の空気が現れ始めたその時、ストレアが叫ぶ。
「あのクリスタル!あれを壊せば回復手段は消せるよ!どうにかしてあれを壊して!!」
MHCPである彼女は自身の保有する知識と分析能力を持って皆にそう伝えた。
「壊すったって…あんな高さだぞ?」
「登る手段なんてなく無いか?」
しかしプレイヤー達の間ではそんなざわめきが起きていた。
彼らの言う通り、タワーの高さは約6メートル。梯子は愚かロープの類は付けられておらず、しかもそれは黒曜石のような物質で出来ており、よじ登るのは容易では無い。
「ねえ、キリト」
するとリズベットが何かを思い出し、キリトに声をかける。
「あんたなら、この間のアレで登れるんじゃ無いの?」
するとキリトはニヤリと口角を上げ、
「…なるほどな」
そう言って数歩交代する。
クラウチングスタートの体勢を取り、その場から一気に駆け出す。
トップスピードで塔の方へ走り、そして地面から垂直に立つ塔の壁を走り始めた。
数秒で塔の頂上までたどり着くと、右手のエリュシデータを左肩に担ぐように構え、ソードスキル《ソニックリープ》でクリスタルを叩き切った。
「壁走りとかマジかよあいつ…」
それを見たジェネシスが呆れた表情で呟いた。
すると隣に立つティアが徐に刀を左腰の鞘に納め、スタンディングスタートの体勢を取る。
「何してんだお前?」
「私にだって、あれくらい出来るもん」
ティアは膨れっ面でそう答えると、その場から飛び出す。
そのまま塔の方へ走り続け、次の瞬間ティアは塔の壁を走っていた。
「お前も出来んのかよ!!」
下からジェネシスがそう叫ぶ。
ティアはそのまま頂上まで到達すると、そのまま空中へ飛び出し、抜刀術の構えをとる。
「はっっ!!」
そして左腰から素早く刀を引き抜き、抜刀術ソードスキル《蓮華》でクリスタルを一刀両断した。
着地したティアはジェネシスの方を向くと、どんなもんだとばかりに「ふふん」と息を吐いて胸を張って立った。
「んなっ……くそ、だったら俺だってやってやんよ!」
するとジェネシスは背中の鞘に大剣を収めると、キリトやティアと同じように助走距離を取ると、塔へと駆け出す。
「うおおおおおおおお!!」
そして塔に到達すると、彼はそのまま壁を走り始めた。
順調に登っていたジェネシスだったが、半分くらい登った時だった。
ズルリ、と彼は足を滑らせてしまったのだ。
「あああああああーーーー!!!」
そのまま地面に土煙を上げて落下した。
「ぶふっ…w」
「だっさ」
「あっはははは!!誰か、誰か今の撮ってない?!!決定的瞬間よ!!永久保存版なのだわ!!」
それを見たキリトが吹き出し、リズベットが呆れた顔で呟き、イシュタルが大爆笑しながら叫んだ。
「てめぇらアァァァァ!!後で覚えてろよおおぉ!!」
ジェネシスは赤面しつつそう叫び返した。
すると彼の元へオルトリアが歩み寄る。
「ジェネシスさん大丈夫です。何事もチャレンジが大事なのです。出来もしない事を無理にやろうとしてかっこ悪いとか微塵も思ってませんよええ。むしろ今の奇行でボス戦のみんなの緊張感が解れたのでぐっじょぶです」
「おめぇはフォローすんのか貶めんのかどっちかにしろ!!」
「もう、そんなに怒らないでくださいよ。糖分が足りて無い証拠ですよ。はい、これお饅頭です」
「なんでボス戦にそんなもん持ってきてんだコラァ!!まあありがたくいただくけど!!
……うん、美味いぜちくしょう!!」
ジェネシスはオルトリアから饅頭を受け取ると一口で頬張ってそう叫んだ。
「全く喧しい奴らじゃ…」
ジェネシスとオルトリアのやり取りを横目に、ツクヨは嘆息しながら懐から苦無を3本取り出し、指の間で挟み込むように持つ。
そしてキリト達と同じように軽々と壁を走り、塔の頂上まで登ると、クリスタルに向けて苦無を投げつけた。
これであと5本。するとサツキが何かを思いつき、ハヅキを呼ぶ。
「なあハヅキ。あのクリスタル、弓で撃って壊せないかな?」
「うーん…ちょっと距離があるけど……やってみる」
ハヅキは背中から矢を取り出し、弦に引っかかると照準を合わせる。
そして指を離し、矢を放つ。放たれた矢はクリスタルの方へ飛んでいくが、その手前で軌道が落ちクリスタルよりも僅かに下のところで矢が刺さった。
「ああっ、惜しい!」
「でも、今ので掴めたよ…今度は当てる」
ハヅキはそう言って二発目の矢を構える。
再び放たれた矢は、今度はしっかりとクリスタルを捉え、そして命中した。
これで残り4本。それらは先ほどと同じ容量でキリトやティア・ツクヨが破壊した。
「後はあのボスのHPをどうやって削るか……」
アスナが顎に手を当てて思案する。クリスタルを破壊したのはいいものの、依然としてあの防御力は驚異だ。
「あのドラゴンは近接攻撃に弱いみたいです。地面に接近した時を狙ってください」
するとサクラがアスナにそう進言した。
「なるほど……でもあのボス、地面に降りてくる気配がないわ」
「なら、地面に叩き落としてやればいいじゃねえか」
するとミツザネが不敵な笑みを浮かべたままそう告げた。
そしてそこからトップスピードで駆け出し、塔の天辺まで登り詰めるとそこで停止した。
そこでドラゴンの動きをじっと見つめ続け、機会を窺う。
やがてドラゴンがミツザネの立つ塔まで接近した時だった。
ミツザネの拳が赤い放電を伴う赤黒いオーラに包まれ始め、そして彼はそこから跳び上がった。
ドラゴンがそこへタイミングよく通過し、ミツザネは右拳をその頬に思い切り叩き込んだ。
闘拳スキル《覇王鉄槌》
ドラゴンはその一撃でバランスを崩し、そのまま地面に墜落した。
「みんな、今よ!!」
アスナが号令をかけ、それと共にプレイヤー達が雄叫びを上げて一斉に突っ込む。
中でも一番勢いよく突っ込んで行ったのは……
「このクソドラゴンがコラアァァァァーー!!てめぇのせいで恥かいたじゃねえかあぁぁぁぁぁ!!!」
先ほどクリスタルの破壊に失敗して恥をかいたジェネシスだった。
「テメェだけは絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!
野郎ぶっ殺してやらあぁぁぁぁーー!!!」
眉間に血管を立たせるほど激昂しながら、暗黒剣の大技である《ディープ・オブ・アビス》を発動してドラゴンを滅多斬りにしていく。
「ひどい理不尽かもだけど……まあ是非も無いよね。切捨御免っ!」
ティアはジェネシスの勢いに苦笑しつつも、抜刀術の三十九連撃スキル《緋吹雪》でその胴体を切り刻んでいく。
続けてキリト、アスナが続き、さらにシリカ・リーファ・リズベットやフィリア・サチがそれに続く。
シリカは自身の敏捷性を生かして素早い動作で短剣を振り、ドラゴンの胴体を斬り、リーファは剣道の動きを生かした華やかで整った動きで剣を振るう。リズベットはメイスのパワーを用いてドラゴンの体を殴りつける。
フィリアはホロウエリアでの経験を生かし、ソードブレイカーの刃で的確にダメージを加え、サチは彼女達よりも早くから参加したボス戦の経験で、それまでの恐怖心や臆病さを克服し果敢にボスに飛び込む。
サクラの言葉通りボスは近接攻撃に弱いらしく、最初の一撃とは比べ物にならないほどの勢いでHPが急減していき、あっという間に一つ目のバーが消えた。
するとボスは『グオオオオアアアアアア!!!』と雄叫びを上げ、猛攻の中4本の足で立ち上がる。
直後、巨大な羽を思い切り羽ばたかせて爆風を起こし、自身を囲んでいたプレイヤー達を一気に吹き飛ばした。そして先ほどと同じように、ボスは空中へと飛翔する。
するとボスは空中で静止すると、その巨大な頭をプレイヤー達の方に向ける。そして口を開くと、その口内に禍々しい紫の光を放つエネルギーを凝縮し始めた。
『皆さん、私の後ろに!!』
異変に気付いたジャンヌが旗を構えて前に飛び出す。彼女の指示を受けたプレイヤー達は、言う通りに後ろへ下がる。
『我が旗よ、我が同胞を守りたまえ』
ジャンヌは旗を展開し、地面と垂直にそれを突き立てる。
彼女の旗から黄金の光が放出され、扇状のバリアが展開する。
『リュミノジテ・エテルネッル!!』
同時にドラゴンの口から紫色のブレス攻撃が放たれた。
強烈な爆風を伴って放たれたが、ジャンヌの防壁によってそれは防がれた。
すると、ボスはジャンヌに向かって一気に急降下し始めた。
『えっ……』
ジャンヌが驚いた次の瞬間、ドラゴンはジャンヌに頭から思い切り突進した。ジャンヌは先ほどの技の技後硬直もあって回避できず、その突進を受けて数メートル吹き飛ばされた。
そのまま勢いよく地面を転がり、壁に轟音を立てて激突した。
「ジャンヌ!!」
リーファ、リズベット、シリカが慌てて彼女の元へ駆け寄る。ジャンヌは壁に全身を強打したダメージで気を失っている。HPも既にイエローゾーンの手前まで下がっていた。
「なんて突進力だ…」
キリトは先ほどのドラゴンの攻撃を見て唖然とした。
防御力で言うならジャンヌは現在の攻略組の中でもかなり上位に入る。彼女の耐久性は普通のプレイヤーと違いフロアボスの攻撃を直で受けても簡単には倒れない程だ。そんな彼女をたった一撃で沈めたボスの攻撃、とりわけそれによって発生するノックバックには最大限の警戒をする必要があるようだ。
しかし一方でドラゴンの防御力は低下しているらしく、その後はハヅキやシノンの攻撃でも簡単にダメージを出すことができ、順調にHPを削っていった。
やがてドラゴンのHPが2本目のレッドゾーンに突入した時だった。
『グルルルアァァァァッ!!』と唸り声を上げたのち、再び先ほどのブレスの発射態勢を取った。その標的はーーーー
ハヅキだ。
「やらせないっ!!」
その時、兄であるサツキがハヅキを庇うように前に出た。
「お兄ちゃん?!」
「大丈夫、必ず守るから」
サツキは不敵な笑みでハヅキにそう言うと、双頭刃を自身の前に両手で持ち上げる。
そして両手の指で器用にプロペラのように回転させていくと、桃色の光が刃を中心に円形のシールド状に展開していく。
「《ロー・アイアス》ッ!!」
次の瞬間、サツキの展開した桃色のシールドがドラゴンのブレスを受け止めた。これは、サツキの保有するエクストラスキル《双頭刃》の防御スキル《ロー・アイアス》。片手剣スキル《スピニングシールド》の上位互換に当たる技だ。
「っぐうううぅぅぅ!!!」
とはいえ、ドラゴンのブレスはジャンヌの《リュミノジテ・エテルネッル》で漸く受け止められるほどの威力を持つので、サツキは歯を食いしばってそれに耐える。しかしやはりアイアスでは保たないのか、桃色のシールドにピシリ、パシリとヒビが入って行く。
「お兄ちゃん、そのまま動かないで!!」
すると後ろのハヅキが懐から何かを取り出す。
それは矢にしては余りにも大きいものだった。恐らく片手剣サイズはあるほどだ。形状は非常に独特で、目を引くのはドリルのような螺旋構造となっている刃だ。
その間に、ドラゴンはサツキのバリアが解除されるタイミングを見計らって、先ほどと同じ突進攻撃を繰り出す。
猛スピードで急接近するドラゴンの頭部に、ハヅキは矢の照準を合わせる。それは、とある地方では知らないものはない、伝説の魔剣を弓矢として昇華したもの。
其はーーーー
「《カラドボルグ》!!」
そしてハヅキはその矢を放つ。
放たれた矢は音速を超える速度で飛翔し、ドラゴンに回避の猶予も与えず頭から一直線に貫いた。
ドラゴンは『グギャアアアアァァァァー!!!』と悲鳴を上げ、のたうち回るように乱雑に飛び回る。
「よし、ゲージがこれであと一本だ!サツキとハヅキの技は後で詳しく聞くとして、パターンがまだ変わるから気をつけるんだ!」
キリトが攻略組のメンバー全員に対してそう叫び、皆はもう一度家を引き締め直し、ドラゴンの動きを注視する。
するとドラゴンは、一度部屋の上空へ急上昇したのちに、床へ向けて真っ逆さまに急降下し始めた。
「全員、散開して!!」
アスナの指示を受け、ドラゴンの落下地点を予測したプレイヤー達は即座に部屋の壁付近まで後退する。
直後、ドラゴンは部屋の真ん中に轟音と地響きを上げて床に突撃した。土煙が発生し、プレイヤー達の視界を奪う。
次の瞬間、煙の中からドラゴンの巨大な尾が飛び出し、横薙ぎに振るわれた。
ジェネシス達は寸前の所で回避に成功するが、1人だけそれに巻き込まれた者がいた。
「きゃあっ?!」
シノンだった。回避が遅れた彼女は巨大な尾が自身に直撃し、吹き飛ばされる。
更に不安なことに、落下した先はドラゴンの真正面だった。
ドラゴンはシノンに向けて巨大な前足を振り上げ、一思いに踏み潰そうと其を一気に下ろす。
「ぁっ………」
シノンはただ呻き声を上げることしかできず、その前足が振り下ろされるのを待つ事しか出来なかった。
「こんのやろおおぉぉぉぉぉぉーー!!!」
その時、ジェネシスがシノンの前に割って入り、大剣でその前足を受け止めた。
「あ、あんた……」
「言ったろ、死なせねえってよ」
そう言ってジェネシスはドラゴンの前足を容易く押し返し、大剣を右腰あたりに構える。
「だがてめぇは……今死ねエエェェェー!!」
どうやらジェネシスはあの時のことをまだ根に持っているらしく、そう叫んだ後に暗黒剣最上級スキル“ジェネシス・ディストラクション》を発動し、その胴体にとてつもない破壊力を持つ10連撃を叩き込んでいく。
その攻撃でボスのHPは一気に半分まで落ちた。
するとドラゴンは反撃とばかりに反対側の前足をジェネシスに向けて突き出す。ジェネシスは技後硬直時間のため回避が出来ない。
しかしそこへ、今度はティアがすれ違い様に抜刀術最上級スキル《飛閃一刀》を発動し、その腕を斬り落とした。
さらにオルトリアがビーム状の双頭刃を振るって双頭刃最上級スキル《ロイヤルストレートフラッシュ》を繰り出し、その胴体を切り刻む。
「《
「そこは変えねえのなお前!!」
「ええ、何となくこれは変えてはいけない気がするので」
ジェネシスのツッコミに対しオルトリアは何の悪びれる様子もなく淡々と答えた。
兎も角これで、ボスのHPはイエローゾーンだ。
「よし、とどめは私に任せなさい!!」
そして最後の引導を渡す役に名乗り出たのはイシュタルだった。
彼女はハンドボールくらいの大きさがある黄金の水晶玉を取り出し、空中に放った。
「刮目しなさい…これが私の、全力全霊!!」
すると、黄金の水晶玉が空中で弾け、神々しいオーラを形成してイシュタルを包み込む。
そしてエネルギーが彼女の弓に集まっていき、それまでとは比較にならないくらいの巨大な紫に輝く光の矢を形成した。
かつてシュメル神話に伝わる美の女神イシュタルは、神々の王でさえ恐れ敬った霊峰エビフ山を“ただ気に食わないから”と言う(理不尽極まりない)理由で蹂躙したと言う逸話がある。
この技はその逸話を、(この世界の)イシュタルが持つ伝説級ウェポン《天弓 マアンナ》に備わる唯一の必殺技として実装されたもの。
「打ち砕け!《
次の瞬間、マアンナから極太の光線が発射され、ドラゴンの巨大な身体を丸ごと呑み込んだ。
そしてドラゴンを中心に大爆発が起き、巨大地震レベルの地響きと共に半径数百メートルはある部屋中を爆煙が包み込んだ。
言うまでもなくボスはHPが全て消し飛ばされ消滅したのだが、しかしイシュタルの放った技はこの部屋で撃つにはあまりにも威力が強すぎたようだ。
部屋中のあちこちから咳き込む声やざわめきが起き、中には今の衝撃で多少のダメージを受けたものまでいた。
「ゲホッ、ゲホッ……!このバカヤロウッ!!ちったあ加減しろや!!俺らまで死ぬかと思ったぞ!!」
「ちょ、しょうがないでしょう?!あんなに強い威力だとは思わなかったんだもの!!」
「あはは……やっぱりうっか凛だね」
「なぁんでよぉ〜!!」
1人の犠牲者も出さない素晴らしい勝利であるはずなのに、勝利ムードどころかイシュタルの泣き叫ぶ声がこだました。
お読みいただきありがとうございます。
そして今回、イシュタルの宝具を発動させていただきました。個人的にアニメでイシュタルの方が見た時、BGMの壮大さも相まってかなり鳥肌が立ったシーンでして、ジャズのお気に入りのシーンでもあります。なのでこの小説でも使わせていただきました。まあ、威力が高すぎて仲間すら巻き込みかねないところはうっか凛という所でしょうww
それとともに、サツキとハヅキがエミヤの技を使ったのもお気づきになられたでしょうか?
では、評価感想などお待ちしております。