ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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どうも皆さん、ジャズです。
やっぱ書いてて思います……ジェネティア尊い。


五話 攻略会議

デスゲームが始まって一ヶ月。

第一層は未だクリアされておらず、それどころか迷宮区のボス部屋すら見つかっていない。

この間、約二千人もの命が散った。

その多くは、モンスターに殺されたもの、デスゲームに絶望して自殺したもので分かれていた。

犠牲者の中には三百人の元テスターもいた。

 

この状況を打破すべく、迷宮区に最も近い街《トールバーナ》にて攻略会議が開かれることになった。最前線で活動する攻略組のプレイヤー達は皆情報屋からそれを仕入れ今この街に集まってきている。

 

ジェネシスとティアの二人も、攻略会議に参加するためこの街を訪れていた。

会議が開かれる闘技場に足を踏み入れ、辺りを見渡す。

 

「……ざっと45人、ってとこか」

 

「意外にいるんだね」

 

集まったプレイヤーの数を見て、ジェネシスとティアは交互に呟いた。

その後、闘技場の観客席に二人並んで腰を下ろす。

二人が座った直後、闘技場の真ん中に青い髪の青年が立ち、手を叩いて注目させる。

 

「はーい、それじゃあ始めさせてもらいます!今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!

俺は《ディアベル》。職業は…気持ち的に《騎士(ナイト)》やってます!」

 

ディアベルの言葉で会場はドッと笑いが起きた。

「ジョブシステムなんてねえだろ!」「まじめにやれよー」などと言ったツッコミが飛び交う。

ディアベルはそれを片手を挙げて制し、一旦目を伏せて真剣な表情に切り替える。

 

「────先日、俺たちのパーティが、迷宮区の最上階でボスの部屋と思われる扉を発見した!」

 

会場から笑顔が一瞬で消え、重々しい緊張感が辺りを包む。

 

「ここに来るまで、多くのプレイヤーが犠牲になった。

たくさんの時間がかかった。プレイヤー達の中には、クリアできないという空気が蔓延している」

 

ディアベルの真剣な演説に、皆は黙って耳を傾けていた。

 

「だからこそ、俺たちはここでボスを倒し、第二層に必ず到達して、このデスゲームはいつかクリアできるんだって事を、はじまりの街に残った者たちに示さなきゃやならない!それが、今最前線で戦ってる俺たちの義務なんだ。そうだろう?みんな!!」

 

ディアベルの訴えに、プレイヤーたちは賞賛の拍手や声援を送った。

 

「へっ、言うじゃねえか」

 

肘で頬をついて座っているジェネシスも感心したように呟いた。

 

「オッケー!それじゃあ今から、攻略会議を始めたいと思う。

まずは6人一組でパーティを組んでくれ!ボスは一つのパーティじゃ戦えない。パーティを集めてレイドを作るんだ」

 

ディアベルの言葉で周りのプレイヤー達は次々に集団を作り、パーティ申請をしていく。

 

「私達は固定だよね?」

 

「ん?まぁな……後4人はどうするか……」

 

ティアの問いにジェネシスは軽く頷いて辺りを見渡す。

 

「……おろ?」

 

すると、観客席の端の方で見覚えのあるプレイヤーがいた。黒髪で片手剣を背中に背負った少年は、赤いフードを被った少女の隣に行き、パーティ申請をしていた。

ジェネシスは彼の方に歩き、ティアもそれについて行く。

 

「おやおやキリト氏、何やってるかと思えばナンパですか?全くイケメンのやる事は違ぇなぁ〜?」

 

キリトの後ろから肩をポンと叩き、そう話しかける。

キリトはビクッと肩を震わせ後ろを振り向く。

 

「ジェネシス!それにティアも!!2人とも来てたのか」

 

「一ヶ月ぶりだな、キリト」

 

ティアは笑顔でキリトに手を振った。

 

「あ、そうだ。君にも、紹介しとこうか。ジェネシスとティアだ。はじまりの街からの付き合いなんだ」

 

キリトはフードの少女に向き直り、ジェネシスとティアを指しながら言った。

 

「せっかくだから、こいつらともパーティを組んでもいいか?」

 

少女は首を縦に振った。

キリトはそれを確認すると、ジェネシスとティアにパーティ申請をする。

2人は迷わずOKをタップし、パーティが成立した。

同時に、ジェネシスの視界の右上に現在パーティを組んでいるメンバーの名前とHPが表示される。

 

《Genesis》《Tia》《Kirito》《Asuna》

 

ティアは少女の隣に座り、話しかける。

 

「済まないな、飛び入りで参加する形になってしまって。だが同じ女性プレイヤー同士、仲良くやっていこう」

 

そう言った。

 

「……別に貴女と仲良くするつもりはない。私はここに友達を作りに来た訳じゃない」

 

少女ーーアスナは静かな声でそう告げた。

ティアは一瞬真顔でアスナを見つめていたが、直ぐに目を閉じて軽く笑い、

 

「……そうか。ならせめて、このボス戦だけでもよろしく頼むよ」

 

そう言った。

 

「……わかった」

 

アスナもそう言った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ディアベルはプレイヤー達がパーティを組んだのを確認すると、再び口を開いた。

 

「よしみんな、組み終わったかな?それじゃーー」

 

その時だった。

 

「ちょお待ってんか!!」

 

関西弁で叫ぶものが現れた。

声の主は颯爽と階段を降り、ディアベルの立つ舞台へ立った。

背中に片手剣を背負っており、サボテンのようなイガアガ頭の男性だった。

男は会場の方に向き直り、叫んだ。

 

「ワイは《キバオウ》っちゅうもんや!

会議を始める前に、一つ言っておきたいことがある!」

 

そして、一呼吸入れプレイヤー達を見回しながら再び叫んだ。

 

「こん中に、今まで死んでいった二千人に詫び入れなあかん奴がおるはずや!!」

 

「キバオウさん、貴方が言う“詫び入れなあかん奴”って言うのは、元βテスターのことかい?」

 

ディアベルはキバオウの方を向きながら尋ねた。

 

「決まっとるやろ!!β上がりどもは、こん糞ゲーが始まったその日に、ビギナーどもを見捨てて消えよった!うまい狩り場やボロいクエストを独占して自分らだけ強なってその後もずーっと知らんぷりや!!」

 

そしてプレイヤー達の方を指差し鋭い視線を向ける。

 

「この中にもおる筈やで!β上がりの卑怯もんが!!そいつらに土下座さして、溜め込んだ金や持ってるアイテム全部吐き出して貰わんと、パーティメンバーとして命を預けられんし預かれん!!」

 

堂々と宣言した。

プレイヤー達の間ではざわつきが起きている。

キリトもまた苦い表情をしていた。彼はβテスターだ。

バレたら間違いなく大変な目にあう。

どうするか思案していた時だった。

 

ちょお待ってんか!!

 

そう叫び勢いよく飛び出し、ディアベルとキバオウの立つ舞台に勢いよく着地するものがいた。

 

黒いブーツに黒いジーパン、黒生地に赤いラインの入ったTシャツ、背中にあるのは足元まで伸びる大剣。そして赤く逆立った髪につり上がった目、黄色い瞳。

 

「……ワイは《ジェネシス》っちゅうもんや」

 

「(お前かいいぃぃ〜!!)」

 

キリトはそう叫びそうになるのを必死に抑えた。

 

皆の注目を集める中、ジェネシスは皆の視線を気にすることなく、キバオウを威圧感ある目で見下ろす。

 

「さて()()()()さんよぉ〜」

 

「なっ、キバゴンって何や!ワイはキバオウじゃボケ!」

 

名前を間違えられたキバオウはジェネシスに食ってかかるがジェネシスは気にも止めず続ける。

 

「おめぇが言いてえのはつまりこう言うことだな?二千人が死んだのはβテスターのせいだ、ってこう言うことか?」

 

「そうや!βテスターどもがワイらを見捨てんかったら、二千人も死なんかった筈や!少なくとも、そいつらが持ってる情報をニュービーの奴らに教えたったらこんな事にはならんかった筈や!!」

 

喚くようにキバオウは叫び続ける。

ジェネシスはそれを黙って聞いていたが、

 

「βテスターがビギナー達を見捨てた、ねぇ……。

別に良いじゃねえか、見捨てたってよ」

 

「なっ?!」

 

ジェネシスの言葉にキバオウが、いやこの場にいる全員が目を見開いた。

 

「テスター達は自分達だけ強くなった?結構じゃねえか。そいつらが強くなってくれたら、結果的にゲーム攻略が速くなるんだ。わざわざ右も左もわからねぇビギナーどもに手取り足取り教えてる暇があんなら、寧ろどんどん強くなってゲームを進めて貰いたいね俺は」

 

「な、何やて……?!」

 

キバオウは信じられない、と言う表情でジェネシスを見上げる。

 

「それに、だ。死んだ二千人が全員ビギナーかと言えばそうじゃねえ。βテスターだっていたんだぜ?何人死んだと思う?」

 

「し、知るかそんな事!」

 

キバオウはそっぽを向いて言った。

 

「じゃあ今言うから覚えとけ……三百人だ。

いいか、βテスター千人のうちの……いや、おそらく全員はこの世界にゃいねぇだろうから、多くて八百人ってとこか。その中の三百人だぜ?

つまり何が言いてえかと言うとだな……テスター達が有利かと言うと、そりゃ否だってわけだ」

 

キバオウは何も言えずただジェネシスを睨みながら聞いていた。

 

「俺も発言いいか?」

 

すると、今度は野太い声が会場に響いた。

立ち上がったのは、ジェネシスよりもさらに高身長の黒人男性。

男はキバオウの近くに歩み寄り、ジェネシスと2人で挟み込むように立つ。

 

「俺は《エギル》だ。キバオウさん、あんたさっきテスター達が情報を独占してたみたいな言い方をしてたな」

 

そう言いながら、エギルはポケットから一冊の本を取り出す。

 

「このガイドブック、あんたも持ってるよな?はじまりの街の道具屋で無料配布してたやつだ」

 

「も、もろたで?それが何や!!」

 

キバオウは不遜な態度を崩さず噛みつくような口調で言った。

 

「配布してたのは、元テスター達だ」

 

エギルの言葉に、キバオウは勿論会場のプレイヤー達が目を見開く。

エギルは振り返って観客席に座るプレイヤー達の方を見て

 

「いいか、情報は誰にでも手に入れられたんだ!なのに沢山のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、俺たちはこれからどうボスに挑むべきなのか、それがここで論議されると俺は思っていたんだがな?」

 

キバオウはもう何も言い返せなくなり、不機嫌な態度で観客席に戻って行った。

それを見届けてジェネシスとエギルも席に戻る。

 

「ありがとよ、助かったぜ」

 

戻る直前、ジェネシスはエギルに言った。

 

「…別に礼を言われることはしてねぇさ。お前さんみたいな若ぇのが自分の意見を堂々と言ってんのに、年長者の俺が何もしねぇのは示しがつかんからな」

 

エギルも笑ってそう返し、自分の席に戻った。

ジェネシスがキリトの隣に戻ると、

 

「ジェネシス、何であんなことを……」

 

と尋ねた。

 

「俺は言いてぇことはビシッと言ってやんなきゃ気が済まねぇタイプなんだわ。特にああいう自分の意見曲げねぇような頑固な奴に好き放題言わせんのは我慢ならねぇ」

 

そう言ってジェネシスはキリトの方を向き、

 

「だからオメェも自分の意見きっちり言わねぇとダメだぜ?でねぇとああ言う奴は誰かが止めなきゃどんどんエスカレートして、しまいには無いことまで言いやんぞ?」

 

そう言われてキリトは気まずそうに目を伏せる。

 

「ああ、そうだな…済まない」

 

「謝ってどーすんだバカ」

 

そんな2人のやり取りを他所に、ディアベルは会議を続けた。

 

「よし、それじゃあ会議を再開しよう。

実はさっき言っていたガイドブックの最新版が配布された!」

 

ディアベルはその最新版のガイドブックを取り出し、ページを開けて読み上げる。

 

「この本によると、ボスの名は《イルファング・ザ・コボルドロード》。取り巻きに《ルインコボルド・センチネル》がいる。

ボスの装備は斧とバックラー。4段目のHPがレッドゾーンに達した時、武器を斧から曲刀カテゴリーのタルアールに持ち替えるらしい」

 

そこまで読み上げると、本を閉じて顔を上げる。

 

「攻略会議は以上だ。では最後にアイテムの分配だけど、金は自動均等割り、経験値はモンスターを倒したパーティ、アイテムはゲットした人の物とする。異存はないかな?」

 

ディアベルの問いかけに皆は首を縦に振った。

 

「よし!明日は朝10時に出発する!では解散!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜、トールバーナの宿屋のベッドでジェネシスは一人寝そべっていると、寝室のドアが開きティアが入って来た。

ジェネシスはそれに気づくとベッドの端により、ティアが寝るスペースを作る。この宿屋の寝室はシングルのため、二人が寝るには端に寄って寝るしかない。

 

「……ごめんね、狭くて」

 

ティアが申し訳なさそうに言いながら、ベッドに入る。

 

「気にすんじゃねぇよ。この部屋しか空いてなかったみてぇだしな」

 

ティアとジェネシスは背中合わせになって横になる。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

ティアが背中越しに話しかけた。

 

「久弥は、怖くないの?明日のボス戦」

 

「……怖くねぇ、って言ったら嘘になるわな」

 

「ふふっ……久弥でも怖いことってあるんだ」

 

「たりめぇだろ、命かかってんだぞ……けどやるしかねぇよ。俺にはてめぇをこの世界から絶対出すって義務があんだ。いきなり一層でゲームオーバーしてたまるか」

 

強い口調でジェネシスはそう言い切った。

 

「そっか………ねぇ久弥、お願いがある」

 

ティアはそう言いながら体の向きを変えると、後ろからジェネシスに抱きついた。

 

「お願い……絶対に、死なないで。少しでも危なくなったら直ぐに逃げて。貴方が戦うなら、私もその隣で戦う。貴方が逃げるなら、私も一緒に逃げるから」

 

ジェネシスはそれを聞くと、自身の前で交差している彼女の手をしっかり握り、

 

「……なら、俺からも一つ頼むわ。

てめぇこそ絶対に死ぬんじゃねえぞ。守るって決めた相手に死なれちゃやってられねぇからよ」

 

「うん……わかった」

 

その言葉を最後に、ティアとジェネシスは明日の激戦に備えて眠りについた。

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
そう言えば、ティアの口調がジェネシスと二人きりの時とそれ以外の時で違うのお気づきでしょうか。その理由は……まあそう言うことです。
それにしても、ジェネシスの声が脳内で杉田智和ボイスで再生されるんですよね。何でだろ。

評価、感想などお待ちしております。

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