今回は『純粋な子供って怖いよね』と言うお話です。
女子会が行われてから数日後。
皆は攻略を終え、ディナー後の談笑を楽しんでいた。
すると……
「ママ、少しいいですか?」
「ん?どうしたのレイ」
レイが隣に座るティアとジェネシスに問いかけた。
「子供ってどうやったら出来るんですか?」
「ブッッ?!!」
その瞬間、場の空気が一瞬で固まった。
ジェネシスは飲んでいたコーヒーを思わず吹き出してしまった。
「あっ、それ私も気になります!ママ、どうやればいいんですか?」
するとそれに便乗してユイまでもがアスナに尋ねた。
「なっ……ど、どうしてそんな事聞くの?!」
「この間、皆さんで女子会をやった時、子供を作るのは非常に複雑な過程があると教わったので」
アスナが驚きながら訊き返すと、レイがそう答えた。
「パパ、ママ、どうやったら子供が作れるのですか?」
レイはティア達に対して興味津々な様子で問いかけた。
「えーっと……」
返答に困ったジェネシスがとった行動は……
「……すまねえ、俺は全く知らねえんだ。こう言うのはママが知ってるからそっちに聞いてくれ」
あくまで知らないふりをする事だった。
するとそんな彼の顔面を『ガシッ』とティアの右手が掴み取る。
「へぇ〜、そーなんだぁ〜?久弥ったら知らないふりしちゃうんだぁ〜。
私にあんな事やこんな事までしておいてそんな事言っちゃうんだぁ〜?」
ティアはドスの聞いた声と真っ黒な笑みと共にジェネシスの耳元に顔を近づけて囁くように言った。
凄まじい力で握られた彼の顔からミシミシと痛々しい音が響く。
「ちょ……あの、ティアさん、落ち…落ち着いてっ……って痛いイィ!!」
思わず悲鳴を上げるジェネシス。
すると……
「あんな事やこんな事、ってどんな事ですか?」
レイがそう尋ね、ティアはハッとした顔でレイを見た。
「ママ、あんな事やこんな事って何ですか?」
「あ……えっと……」
ティアは知らぬ間に墓穴を掘ってしまった事に気づき、顔が真っ赤になった。
「き……キリト、お願い!!」
そしてキリトに丸投げした。
「な、丸投げは卑怯だろ?!
……アスナ、頼む!」
「ちょっ……何で私なのよ?!」
「こ、こう言うのは母親の役目だと思うんだよ。それに男の俺がこんな事教えるのはその……色々アウトだろ?」
「な、それはそうかもしれないけど……」
既に顔が真っ赤なアスナに対し、ユイとレイは期待に満ちた視線を向ける。義理堅いアスナはこれ以上誰かに丸投げすることもできず、必死に頭を働かせてどうすればオブラートに且つユイとレイが納得のいく答えになるかを考えた。
「そ、そうだ!!
ユイちゃん、レイちゃん。子供はね……
……愛し合う男女の共同作業で出来るんだよ!」
「「な、成る程……!」」
アスナが示した答えを聞き、ユイとレイは感動したように目を輝かせた。
「(おおお……これはオブラート且つ正しく真実を告げたいい答えだ……!)」
「(流石アスナ……俺たちに出来ないことを平然とやってのける。そこに痺れる、憧れるッ!!)」
「(でもこれ、具体的な行為を示してないからユイとレイ、そこに食いついてくるんじゃ……)」
ジェネシスとキリトがアスナの答えに感心する中、ティアは新たな不安を感じた。
「では、愛し合う男女の共同作業って、具体的にはどうするんですか?」
「ええっ?!」
「(やっぱりそこに食いついたかーーっ!!)」
ユイがそう聞き返し、ティアがやっぱりと頭を抱えた。
「私、どうやったら子供が作られるのか知りたいのです!」
「え、ええっと………それは………」
返答に困るアスナ。
その時、宿の扉が開かれ、中にミツザネがやって来た。
「お、お父さあぁぁぁん!!!」
「ちょっとヘルプウゥゥゥ!!!」
そんな彼に目掛けてティアとジェネシスがもうダッシュし、両腕を捕まえて確保する。
「ちょ、なんだぁ?何だってんだいきなり?!」
当然ながら訳がわからず困惑するミツザネ。
「ユイ、レイ!お父さんなら知ってるからこの人に聞いて!!」
ティアはユイとレイに向かってそう叫ぶ。
「わかりました!!それじゃあミツザネさん!!」
「子供はどうやったら出来るんですか?」
ユイとレイは未だ困惑しているミツザネに対してそう問いかけた。
「……あー、成る程。子供ね………そういや俺も昔、雫に聞かれた時は困ったもんだ……」
昔を思い出しミツザネは目頭を指で押さえた。
「よし、ユイにレイ。子供はな………
………愛し合う二人がベッドで一晩寝ることで出来るのさ」
ミツザネはキリッとした顔でそう答えた。
「お……お……」
「お父さんんんんんん?!!」
ティアとジェネシスはギョッとした顔でミツザネを見ながら叫んだ。
「な、成る程……でもそれだと、パパとママは毎日一緒のベッドで寝ていますけど……」
その答えを聞いたレイは首を傾げながら呟いた。
「それなら何故出来ないのでしょうか?」
「ぁぁ……えっと……それは、だな……」
しどろもどろに口籠るジェネシス。ティアはもう顔がリンゴのように真っ赤に染まっている。
「あ、そうか!」
すると突然ユイが合点がいった様子で叫んだ。
「お姉ちゃん、この世界ではどうやっても子供ができるシステムはないでしょう?
だから、ジェネシスさんとティアさんは予行練習をしているのですよ!」
「ああ、成る程!現実に戻ったらいつでも子供が作れるようにここで練習しているのですね!」
「………///」
「ぁう〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ///」
ジェネシスは顔を真っ赤にして頭を抱え、ティアは羞恥心のあまり地面を転げ回っている。
「……お前ら、まさかとは思うが」
そんな彼らをドン引きな表情で見つめるミツザネ。
「違うから!!人数が増えて部屋のスペースが無くなったから共有してるだけだから!!」
そんな彼に対して必死に否定するティア。
「ですがまだまだ謎です。何故睡眠を共にするだけで子供が出来るのでしょうか?」
「確かに……不思議ですね……」
ユイとレイはその答えに納得できていない様子だ。
キリトはどうにかして納得の答えが示すことが出来ないか思案する。
「……凛、頼む」
するとジェネシスはここで、イシュタルを指名する。
が、
「ざっけんじゃないわよ!!こう言うのは親であるあんた達が説明しなさいよ!!」
と必死に拒否した。
シリカ、サチも同様の理由でレイ達に対する説明を断った。
「では、ここは私にお任せください」
すると得意げな顔で名乗り出たのはサクラ。
本当に大丈夫なのかジェネシス達は不安だったが、とりあえず任せる事にした。
「姉さん、子供はですね………
……お父さんの剣をお母さんの鞘に挿れるんです」
「ぶっ?!」
「なっ………!!」
予想の斜め上を行くサクラの説明の仕方にジェネシスとキリトは思わず吹き出した。
「パパの剣を……ママの鞘に……???」
レイは言葉通りにジェネシスの大剣をティアの刀の鞘に挿れる様を思い浮かべるが、意味がわからずに止めた。
「そんな、入るわけないじゃないですか!
パパのが太くて大きすぎます!!」
「太くて」
「大きい……」
レイの反論を聞いたシリカとサチはなぜか恥ずかしそうに頬を赤く染めながらそう呟いた。
「やめんかぁ!!」
何やら違う世界に行っているシリカとサチの頭を引っ叩いて正気に戻す。
「で、でもさ……実際、どうだったのよ雫」
イシュタルがティアにそう問いかけるが
「………す……………
………凄かった/////」
「オイイィィィィィィィィーーー?!!!!」
ティアの返答にギョッとした顔で叫ぶジェネシス。
「あぁ…話がどんどん違う方向に……」
論点がズレていく展開にキリトはげんなりとする。
すると……
「話は聞かせてもらったぜ!」
突如カウンターから声が響く。
見ると、野武士面の男、クラインがやって来ていた。
「クライン?!お前、この間のデスソースで殺された筈じゃ……」
「残念だったな、トリックだよ。そりゃそうと、お前さん達子供の作り方が知りたいのか?」
クラインの問いにユイとレイは首を縦に振る。
「そうか、じゃあ俺様が直々に教えてやるぜ……」
(アイキャナビリー)
すると突如、どこからか軽快な音楽が流れ始める。
「え?何この音楽……」
アスナがそれを聞いて戸惑った瞬間。
「ユイちゃんにレイちゃんゥ!!子供の作り方の話をしよう」(アロワナノー)
クラインはニヤリと笑いながら大声で言った。
「何故愛し合う二人がいることで出来るのか……二人の共同作業とは何なのか……!」
「(やべえ、元ネタ的にロクなこと言わねえぞコイツ)
それ以上言うな!!」
何かを察知したジェネシスがクラインに向かって走り出す。
「その答えは……ただ一つ……!」
「止めろーーっ!!」
キリトもクラインへ駆け出す。
それに構わず、クラインは続ける。
「ユイちゃんにレイちゃんゥ!ずばり、子供は………
………キスによって出来るのさぁぁぁぁ!!!」(エキサーイエキサーイ)
勝ち誇ったような笑顔と共にヴェハハハハハ!と高笑いを上げるクライン。
それを聞いて拍子抜けしたのか、彼目掛けて走っていたジェネシスとキリトは途中で転んだ。
「そ、そんな……キスで出来るなんて……!」(ッヘーイ)
レイが信じられない、と言わんばかりの表情で愕然とする。
「そ、そうだ!キスだよキス!キスで出来るのよ!!」
「そうそう!キスよ、キス!」
クラインに便乗し、ティアとアスナは必死に肯定する。
「……あー、もうそれでいいわ」
ジェネシスは否定するのを諦め、彼もまた便乗した。
「なるほど、キスだったんですね!!」
「たしかに二人の共同作業です!!」
ユイとレイは満足のいく答えを得たようだ。
「これで、いいのか?」
キリトは疑問に思いながら呟いた。
ーーーーーーーーーーーー
〜数日後〜
最前線九十層迷宮区の攻略を終えたジェネシスとティアが宿に帰宅した。
「レイ、ただいま」
「パパ、ママ!お帰りなさいです!今回もご無事で何よりです!!」
彼らの帰りを愛娘のレイが出迎えた。
「悪いな、いつも留守番させちまって」
「いえいえ、ユイとストレアとサクラが居てくれるので大丈夫ですよ!
それで、今日はもう休まれますか?」
「そうだね、最前線の攻略だったから。今日はそうする」
「分かりました!では、ゆっくり休んでくださいね!」
そして二人は部屋へと上がった。
戻るとすぐに二人は防具をストレージに収納し、ラフな部屋着に着替える。ジェネシスは上が黒のTシャツ、下が黒生地に赤いラインの入ったジャージ姿。ティアは水色のキャミソール上に青いパーカーを羽織る。
「だぁ〜〜……疲っかれたぁ〜〜」
ジェネシスは着替えるなり即刻ベッドにダイブし、仰向けになって横になる。
彼がこうなるのも無理はない。現在は九十層。モンスターのレベルや攻略の難易度も当然高い。今まで以上に苦戦を強いられているのだ。
「ねえ、久弥。ちょっと失礼するね……」
するとベットで寛ぐ彼の元へティアが歩み寄る。
そして……
「えーい♪」
彼女も勢いよくダイブし、彼の頭部を自身の胸に抱き寄せた。
「む、むぐ……〜〜〜〜!!」
「うふふっ、ぎゅーー♪」
突然の事で驚き、ジェネシスはジタバタと手足をバタつかせる。しかしティアの抱擁の力が思いの外強く、彼の顔はティアの豊満な双丘に埋められているのだ。キャミソールの薄い布越しに、いつしか感じ取ったふんわりとした優しく温かな感触が顔面を包み込む。視界一杯に覆う彼女の双丘と谷間からは、ほのかに甘い香りがした。
1分以上そうした後、ティアは抱擁を解いた。
「あははっ、久弥ってば赤くなっちゃってる〜♪」
ティアはジェネシスの反応にご満悦の様子だ。
「お、おまっ……いきなり何を……!」
ジェネシスは突然のティアの行動を受け顔を真っ赤にして慌て問いかけた。
「しばらく、こんな事してなかったから……最近、ちょっと寂しかったんだよ……」
ティアは彼の上に跨がり、上から覆いかぶさると彼の顔を両手で包み込むように挟みながら、うっとりとした顔で言った。
「今日は、久弥に甘えさせて欲しいな………」
小さな声で囁く。赤くなった頬とやや細められた両目が妙に色っぽく、ギリギリまで近づけられた彼女の口から熱い吐息が漏れ出す。
ティアの誘惑は想像以上に破壊力が高く、ジェネシスはもう完全に固まってしまっている。そんな彼の様子を見て更にティアは身体を密着させていく。
「いいよね………久弥………っ……ん……」
そしてティアはゆっくりと自身と彼の唇同士を………
「わぁーーーーっ!!もしかしてこれから、子供を作るんですか?!!」
「にゃああぁぁぁーーーっ?!!!」
「ぶrrrrrぁーーーーっ?!!」
部屋に響いたレイの声に、驚きのあまりティアは思わずジェネシスをぶっ飛ばし、理不尽にも彼はベッドから叩き出されそのまま壁に激突する。
「な………な………レイ?!何でここに?!!」
「お疲れのようだったので、温かいお茶をお持ちしました。よく眠れるかと思って」
「サンキュー、レイ。気が効くいい娘だな!でもせめてノックはしような!!」
「ごめんなさい、パパとママの部屋なので大丈夫だと思ったので。
それより、お二人はこれから子供を作るところだったんですか?」
レイがは目を輝かせてそう問いかけた。
「こ、子供を作るって、どうしてそんな……」
「だって、パパとママ、これからキスしそうな感じでした!
キスで子供が出来るって、この前教わったので!!」
「あぁ〜………そうか、たしかにそう教えたな……」
ジェネシスはそれを聞いて思わず頭を抱えた。
「あ、でもSAOでは子供は作らないんでしたっけ……」
「そ、そうだレイ。だから別に子供を作ろうだとかそう言うのじゃなくてだな……」
ここでジェネシスは考えた。このままレイに『キスで子供が出来る』と信じ込ませたままにするのは不味いのでは無いかと。
もし仮に、自分たちとキリト達以外のカップルが街中でキスしようとしているのを、レイが見かけないとも限らない。
そうなったら大変な事になる。その事をティアに伝えると、彼女もそれに同意した。
「れ、レイ。あのね、キスで子供が出来るって話………」
「はい、何ですか?」
「………あれ、嘘なの」
瞬間、レイの表情がピタリと固まる。そして、
「えええぇぇぇぇーーーっ?!!そうなんですか?!どうしてそんな事を………」
「それは………はっきり言うと、とても恥ずかしい事だからだよ!!」
ティアはもう意を決してはっきりとそう告げた。
「子供を作るのが恥ずかしいこと…?でも、生物学的に子供を作るのは、種を残す上でとても大事なことだと思いますが……」
「ま、まあ確かにそうだけどな?けどそれとこれとは別の話なんだよ」
「むむむ……人間って難しいのですね」
「うんうん。それに、子供の作り方はレイに教えるにはまだ早いの。社会的とか責任能力的な問題もあるしね」
「な、なるほど…!確かにそれなら理解できます!」
レイは合点がいったのか首を縦に振りながら言った。
「では、子供の作り方は聞かないでおきますね。
私はまだまだ、パパとママの子供でいたいですから!」
「うんうん。それがいいよ!」
レイに何とか誤魔化す事に成功した二人はほっと胸を撫で下ろした。
レイが部屋から出た後、二人はナニもせずに静かに眠りについた。
お読みいただきありがとうございます。
皆さんは子供の時、親に『子供はどうやったら出来るのか?』と聞いたことはありますか?また、その時親に何と答えられましたか?
自分は『いずれわかる』と言われ、、今回のお話と同じく『まだそれを知るには早い』と告げられました。
今思うと、親もなんて答えたらいいのか非常に困っただろうなと苦笑してしまいます。
では、今回もありがとうございました。評価、感想などお待ちしております。