さて、今回はシリカのHMと風邪イベントの二本立てでお送りします。
01〜『シリカとピナの強化アイテム』〜
「あっ、ジェネシスさん!今お時間いいですか?」
ある日、アークソフィアの街を歩いていたジェネシスの元にシリカが駆け寄ってきた。
「おう、シリカじゃねえか。どうかしたのか?」
「えっと、実はですね。あたしのピナをパワーアップさせられるアイテムが見つかったんです!」
と、シリカは興奮気味に言った。
「マジでか?!どこでゲット出来るんだ?」
「えっと、七十八層の花形モンスターがドロップするらしいです!」
「あー、あそこか……うし、んじゃ早速いくか」
「はい!よろしくお願いします!!」
「にしても、よかったなぁピナ。テメェもようやくパワーアップだとよ?」
ジェネシスは彼女の肩に座り込んでいる子竜のピナは頭を撫でる。
ピナは彼に撫でられると『きゅるるっ!』と鳴き声を上げ、嬉しそうに飛び跳ねた。
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薄暗い煉瓦造りの道を二人は進んでいく。
「あの、今回倒すモンスターってどんな感じなんですか?」
「ん?ああ、植物型なんだが……なんつうの?四十八層のやつより数倍は気持ち悪い」
「……え゛」
その瞬間シリカは引きつった顔で立ち止まった。
「まあそうビビるな。そんな大した強さじゃねえから安心しろ。
ほら、来たぞ」
ジェネシスが顎をぐいっと動かした直後、目の前に青白い光が3つ現れ、その中から三体のモンスターが現れた。
緑色の草木状の胴体に巨大な花が付いており、そこには不気味な巨大な口があった。
「いやぁぁぁぁ!!!気持ち悪いですうぅぅぅーー!!」
シリカはそれを見るや否や即座に逃げ出した。
「おいおい、んなこと言ってたらアイテム取れねーぞ?」
一目散に走るシリカに対して呆れた顔でジェネシスは言った。しかし目の前のモンスターははっきり言って最悪に醜いもので、シリカのような無垢な少女が見るにはあまりにも悍しい見た目をしていた。
ジェネシスもそれを分かっているので、ここは自分が行こうと大剣に手をかけた。
しかしモンスター達はジェネシスを無視して一目散にシリカに向かって走って行く。
「やだあぁぁぁこっち来ないでえぇぇーー!!」
「っておーい、シリカ!気持ちは分かるが戦え!タゲが全部そっちに行ってっから俺が戦い辛ぇ!!」
「や、やだもうっ!こっち来ないでって……言ってるでしょ!!」
シリカは尚も付き纏うモンスターに嫌気がさし、短剣を引き抜いて勢いよく斬りつけた。
「よしよし、その調子で頼むぜ!」
ジェネシスは満足そうに頷き、大剣を引き抜いてモンスターの群れに向かって走り出す。
「せああああっ!!」
空中に飛び上がったシリカは回転切りの要領でソードスキル《ファッドエッジ》を繰り出す。
同時にジェネシスが大剣範囲技《サイクロン》で周囲のモンスターを纏めて斬り、消滅させた。
しかし残念ながら目当てのアイテムはドロップしなかったようだ。
「これはアレだな………しばらくここで周回ルートだな」
「しょんなあああぁぁ…………」
シリカはジェネシスの言葉を聞きガックリと肩を落とした。
それから五分が経過した。当初は逃げ腰気味だったシリカも、だんだんと耐性が付いてきたのか逆に攻勢になり始めた。
「少しは慣れたか?」
「まあ、ここまで戦うと流石に見慣れて来ますからね」
とは言えやはり抵抗はあるのか、シリカは苦笑しながら答えた。そうしているうちに、目の前に再び三体のモンスターがポップした。
シリカはそのモンスター達に向かって駆け出して行くと、短剣最上級スキル《エターナルサイクロン》を発動し、エメラルドグリーンの疾風を伴う斬撃を放ちながら瞬く間に斬り伏せた。シリカはもうジェネシスの手助け無しでもここまで戦えるまでに成長していたのだ。
するとモンスターが倒れた場所に一つの赤い鉱石が落ちていた。
「おっ、シリカ。アレが《進化の鉱石》ってやつだな」
「あっ、あれがそうなんですか!やったぁ〜、やっと出てきた……」
シリカはそれを確認して安堵のため息を溢すと、早速その鉱石のところまで足を進める。
が、その時ジェネシスは察知した。シリカの足元に何かが《潜伏》しているのに。
ジェネシスは走りだし、シリカを突き飛ばした。
「えっ、ジェネシスさん何を………」
次の瞬間、ジェネシスの足元から先程の植物型モンスターが出現し、彼の体を触手のような蔦で絡めとった。
「じ、ジェネシスさぁぁぁぁん!!」
「大丈夫だって、こんなもん平気だ。見てろ、こんなもんすぐに引きちぎって……」
ジェネシスは自身に巻き付く蔦を引きちぎろうと腕に力を込めるが……
「あ、あのっジェネシスさん!その……服が……服がぁ!!」
「は?服………って、なんじゃこりゃあぁぁぁ?!」
見ると、ジェネシスに巻き付く蔦から粘性の液体が噴出し、それによって彼の防具が溶け始めていたのだ。
「ウソでしょおぉぉぉぉーーーー?!!」
「ジェネシスさん!待っててください、今行きますから……って、ちょっとピナぁ?!」
『きゅるるっ!きゅるるるっ!』
シリカが短剣を引き抜いて救援に向かおうとした時、ピナが彼女の顔にへばり付いたのだ。
「ピナ!グッジョブだがそれは後にしてくれ!とりあえず先に助けてえぇぇーー!!!」
「そうだよピナ!先にジェネシスさんを助けないと……あぁでもこのままじゃジェネシスさんの裸が……!」
「いや、今ならまだ行けるから!まだギリギリセーフだから!」
「そ、そうは言ってもっ!ピナが顔にへばり付いてて……」
シリカは必死にピナを引き剥がそうとするが、中々引き剥がせない。
そうこうしているうちに……
「ギャアァァァァァ!!!溶けたらいけないとこまで溶け始めたアァァァァ!!!」
「なっ、溶けたらいけない場所ってどこですかあぁぁぁ?!!」
「言わせんなバカぁぁぁぁ!!!それよか誰か助けてくれえぇぇーー!!!」
身動きが取れず服を溶かされ続けるジェネシスの悲鳴が木霊したその瞬間。
銀色の疾風がジェネシスを捉えていたモンスターの首を撥ねた。
「はぁ……ダメだよ久弥。外でそんな姿を見せちゃ」
ティアは呆れた表情で地面に落ちたジェネシスを見下ろした。
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「ごめんなさいジェネシスさん、あたしのせいで……」
帰り道、シリカは終始申し訳なさそうに歩く。
「気にすんなって、俺も完全に油断してたからな」
ジェネシスはシリカの謝罪を笑って流した。因みに装備は既に元通りになっている。
「つーか、野郎の服が溶ける展開とかどんな需要があるんだよ」
「大丈夫、需要なら私にあるから」
げんなりするジェネシスの隣で歩くティアがそう言った。
その夜、シリカはピナに早速今日手に入れたアイテムを与えた。
「ピナ、これがパワーアップアイテムだよ」
『きゅるっ!』
ピナは嬉しそうな鳴き声を上げると、それを頬張った。
その次の瞬間、シリカの元に一通のシステムメッセージが現れた。
そこに書かれていたのは────
《ADVENT》という文字だった。
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《指定条件達成
上位EXスキルNo.09『テイマーズワルツ』解放》
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02〜『ジェネシス体調を崩す』〜
その日、攻略を終えて宿に戻ったジェネシス。
しかし、今日はいつもと何かが違った。
「…………フゥ」
何故か分からないが、身体が妙にだるいのだ。
「あ、お帰り久弥。今日もお疲れ様!」
「おう、ただいま………」
彼の帰りをティアが出迎えたその時、微かに目眩が襲った。
「……ん?久弥、大丈夫?なんだか顔色が悪いけど……」
「そうか?まあ確かに……なんかだるくてな……風邪でもひいたか?」
「SAOの中なのに?モンスターからバッドステータスを受けたりした?」
「いや、そんな敵とは戦ってねえけどな………ていうか、圏内に入れば解除される筈だし……」
しかしそんな話をしている間に、ジェネシスはどんどん気分が悪くなるのを感じる。
「やっっべ………」
ジェネシスは思わず目頭を押さえる。
「ねえ、ひょっとして…疲れてるんじゃない?」
「と、言うと?」
「現実ではずっと寝たきりって言っても、脳は働きづめな訳だし。それに、現実の身体がなにかの病気になったのかもしれないし………
うん、決めた」
そしてティアは一呼吸置くと、
「久弥はしばらく攻略禁止。部屋でゆっくりお休みしなさい」
きっぱりとそう告げた。
そう言うわけにもいかない、ジェネシスは言いたかったが、自身の体調を鑑みるに休まなずにはいられない様であるし、何よりティアの表情が有無を合わせないものだった。
「……分かった、今日はもう休むわ」
「よろしい!」
ジェネシスの答えにティアは満足げに頷く。
その後、後で見舞いに行くことをティアは伝え、ジェネシスは自室へと戻る。
「うっぷ、気分悪い……」
普段登り慣れている階段を上るだけで既に限界が来ており、ジェネシスはいかに自身が重傷かを悟った。
部屋に入るなり部屋着に着替え、即座にベッドインする。
「(あ………やべ……………ベッドに入ったら……急に眠気が……………)zzz」
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『きゅる………』
自身の頬を突かれる感覚に、ジェネシスは深淵の眠りから引き起こされる。
「(………なんだぁ………?何かが頬を突っついてやがる………)」
『きゅるきゅる……』
聞き覚えのある鳴き声。自身もよく知る生き物の声だ。
「ん……ピナ、か?」
瞳を開けると、自身の顔を心配そうに覗き込むピナがいた。
ピナがここにいると言うことは、必然的に彼女もいる。
「ジェネシスさん!」
彼が目覚めた事に気付いたシリカが慌てて駆け寄る。
「おう、シリカ………どうした?」
「どうした?はこっちのセリフです!びっくりしましたよ!!
もしものことがあったらと思うと、どうしようかと思いました……」
シリカの言葉で自分はベッドに入った瞬間すぐに寝落ちしてしまった事を思い出す。
「あ、起きちゃダメです!喉乾きましたか?今お水を出しますから!」
「おう、サンキュ」
シリカに冷水の入ったコップを手渡されたジェネシスは早速それで喉を潤す。
「悪い、助かったわ」
「いえいえ!
ティアさんから聞きました。ジェネシスさん、なんか疲れてるみたいだって。みんな心配してました。ピナもここで、ずっと看病してたんですよ?」
「そうか……迷惑かけちまったな」
「そんな、迷惑だなんて!
ジェネシスさんはみんなの希望ですから。それに……あたしのヒーローですし!
だから、こんな病気に負けちゃダメですよ?」
『きゅるきゅる!』
ピナも「頑張れ」と言わんばかりに首を縦に振った。
「ああ、分かった。ちゃんと治すから」
「はい!ちゃんと休んで、元気になって下さい!!」
シリカはそう言って部屋を後にした。
それを見送ったジェネシスは再び眠りにつこうと目を閉じる……
「ジェネシス?!」
「うおっ?!」
が、突如部屋に自身の名を呼ぶ声が響いたので飛び起きた。
入ってきたのはストレア。
「…………」
「な、なんだよ入ってくるなりじーっとこっち見て」
ストレアは険しい表情でジェネシスを見つめる。
「…ねぇ、病気になったって本当?」
「いや、病気っつうかただ体調崩したっつうか……」
「えへへ、ならアタシがジェネシスを元気にしてあげるね。
えい♪」
そしてジェネシスに向かって勢いよく両手を伸ばすストレアだったが、そんな彼女を背後から羽交い締めにして引き離す人物がいた。
「ダメですよ姉さん!今お父さんは身体を壊してるんですから!」
ストレアの妹分であるサクラだった。
「えー?だってアタシの胸でジェネシスが元気になるならいいかなって」
「何言ってるんですか!お父さんが元気になる胸はお母さんのだけです!」
「お前も何を言ってるんだ」
思わずサクラにそう突っ込みを入れるジェネシス。
「はーなーしーてー!サクラァーー!!」
「うるさくしてすみませんお父さん。早く治ってくださいね!」
そしてずるずるとストレアを引きずりながら部屋を後にするサクラ。
「……何しに来たんだあいつら」
困惑した顔で呟くジェネシス。
やれやれとため息を吐きつつ、今度こそ彼は眠りについた。
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「おーい、久弥生きてるー?」
「返事がありません。ただの屍のようです」
「生きてるわバカ。勝手に殺すんじゃねえ」
しばらくして、再び聞こえた声にジェネシスの意識は引き戻され、目を開ける。
部屋にはイシュタルとオルトリアがおり、イシュタルが自身の寝るベッドに腰掛けてこちらを見下ろしており、オルトリアはベッドの向かいにあるソファに寝そべってこちらを見ていた。
「なんだ生きてましたか。よかったです安心しました」
「全然そうは見えねえけどな」
「まあまあ、澄香もなんだかんだで心配してたのよ?雫から知らせを受けるなり、大急ぎでキッチンに入って何かを作ってこの部屋に来たんだから」
「勘違いしないでください。ただちょっと風に効くと言うお菓子の味見をして欲しかっただけですから」
そう言ってオルトリアは懐から冷たいお菓子の入ったタッパを手渡す。
「この世界じゃ栄養はあまり関係無いかもですけど、こう言う時はゼリーとかが良いそうです。
と言うわけで《みかんの寒天》です」
「へえ、こりゃ良いな。んじゃ早速……」
「あー待った待った」
受け取ったタッパの蓋を開けて早速開けようとした手をイシュタルが制した。
「もうすぐ雫が夕飯を作って持ってくるわ。それまでそれは冷蔵庫にでも冷やして置いときなさい」
「そっか、ならそうするわ」
「あ、起きないで良いわよ。私が直してあげるから」
「サンキュ、凛」
ジェネシスはタッパをイシュタルに手渡す。
「にしても、なんだか懐かしいわね」
「ん?何がだよ」
「昔、私が風邪ひいたとき、あんたよくこうして看病してくれてたわよね」
懐かしむようにイシュタルは言った。
「あー、そんな事あったな。そんときにてめぇ俺が帰ろうとしたら『まだ帰らないでぇ』って泣き喚いたっけ」
「しょうがないじゃない、あんたがいないと誰も付き添ってくれる人がいなかったんだもの」
「たく、わがままな困ったちゃんだったな、あの頃の凛は」
「うっさいわね!……まあでも、なんだか複雑な気分ね。今はこうして逆の立場になってる訳だし」
「……ああ、そうだな」
するとイシュタルは徐に立ち上がる。
「じゃ、大丈夫そうだから私たちは行くわ。もう少ししたら雫が来るみたいだから、それまで大人しく寝てなさいよ」
「おう、悪いな」
「いえいえ、それじゃあね」
「お大事にです」
イシュタルとオルトリアはそう言って部屋を後にした。
「はあ……しっかし、まさかあいつに看病される日が来るなんてなぁ」
一人そう呟いたジェネシスはゆっくりと瞳を閉じた。
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香ばしい匂いに釣られ、ジェネシスはゆっくりと目を開く。
「あっ、ママ!パパが起きました!!」
「レイ、本当?」
目の前には愛娘であるレイと、部屋の奥からティアの声が響く。
足音と共にティアが鍋を抱えてやって来た。
「おはよう、久弥。よく眠れた?」
「ああ、おかげさんでな」
「パパ、大丈夫ですか?顔色がまだ悪いみたいです。
このところ、ずっと休まず攻略してましたから……」
レイは心配そうな表情で言った。
「そうだよ。久弥は頑張りすぎなのよ」
「そうなの、か?」
「そうだよ。久弥の事は私が一番よく知ってるんだから。
ほら、起きちゃダメ。おかゆ食べさせてあげるから」
「いや、自分で食えるから……」
「ダ〜メ。今は少しでも安静にしてないといけないから。
ほら、あーんして?」
ティアは鍋の蓋を開け、蓮華で一口分掬うとジェネシスの口元まで持っていった。
最初は恥ずかしさもあって戸惑うジェネシスだったが、食べないわけにも行かないので大人しくそれを食べた。
「ふふっ、どう?美味しい?」
「……ああ、美味い」
その後もティアの介抱によっておかゆを完食したジェネシス。
「ふう……」
ジェネシスはまだ身体の調子が戻っていないようで、食事を終えた直後にまた寝息を立て始めた。
「パパ……」
そんな彼を不安げな顔で見るレイ。
「大丈夫だよ、レイ。パパは世界で一番強いんだから。こんな病気なんて、すぐに治っちゃうよ」
そんなレイを安心させるように優しい口調で諭した。
「……そうですね!パパならきっと、すぐに元気になりますよね!」
レイは母の言葉を受けて笑顔で頷いた。
「そう、きっと大丈夫。だから……早く元気になってね、久弥」
ティアは愛おしそうな目でジェネシスの頬を撫でた。
レイも父親であるジェネシスの手を握りしめた。
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その後は交代でジェネシスの看病をする事になった。
まずはサチとシノン。サチはジェネシスの眠るベッドの隣にある椅子に座り、シノンはソファで読書をしている。
サチは心配そうな表情でジェネシスを見守っていた。
「そんなに心配しなくても、コイツなら大丈夫よ」
シノンはサチに向かって淡々と告げた。
「だって……すごく心配だから」
「コイツは多分、そんな軟弱者じゃ無いわよ。明日になればいつも通りバカなこと言いながら起き上がってくるわ」
「あはは……シノンは落ち着いてるね」
「……ま、私たちが慌てても仕方ないしね。今はジェネシスの体調が回復する事を信じましょう」
「そうだね」
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続いてやって来たのはリズベットとリーファ。
「キリトもそうだけど、こいつも中々の女誑しね」
リズベットはジェネシスを見下ろしながら呆れた表情でそう呟いた。
「なんか、意外ですよね。ジェネシスさんがまさか体調を崩すなんて。一番風邪ひかなさそうなのに」
リーファはソファからジェネシスを見つめながら言った。
「ま、こいつも人間だしね。風邪くらい引くわよ。
意外なのはまあ、同感だけど」
「……ちゃんと、治りますよね?ジェネシスさん、きっと大丈夫ですよね」
「大丈夫大丈夫、コイツは殺しても死なないわよ。
あんたはそんなに不安にならなくてもいいわよ。
だから……さっさと起きなさいよね。あんたがそんなんじゃ、みんな調子狂うんだから」
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『主よ……どうか彼に御加護を』
ジェネシスの枕元に跪き、十字架を両手で握って祈りを捧げている。
「すごい、本物の聖職者みたい……」
「みたい、じゃなくて本物だよ。多分」
そんな彼女を後ろから見つめるハヅキとサツキ。
「でも、ほんとびっくりしたよね。ジェネシスさんが風邪だなんて」
「まあ、僕からみても人一倍攻略に勤しんでたからね。そりゃ体調も崩すよ」
ハヅキの呟きにサツキは苦笑しつつ答えた。
『ジェネシスさん、どうか早く治ってくださいね』
ジャンヌはジェネシスの手を両手で優しく包み込むように握りながら囁いた。その仕草はまさに聖女と呼ぶにふさわしいものだった。
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「で、今度はわっちらの番、と言うわけか」
続いての出番はツクヨとフィリア。
「……ま、コイツは放っておいても勝手に治るじゃろう。
フィリア、主はこの間にでも休んでおきなんし」
「え?でも、ジェネシスの看病を……」
「要らぬ。ただ眠っているだけの人間を見るだけなど時間の無駄にも程がある。それより主こそコイツの二の舞にならないよう休んだ方がいい。この男はわっちがみておく」
「それじゃツクヨさんも休めないじゃ無い」
「案ずるな。わっちはそんなやわな女では無い。主は日頃の鍛錬の疲れもあろう。いいから休め」
「わ、分かった。それじゃ、お言葉に甘えるね」
そしてフィリアは自室へと戻って行った。
「ふむ…………さて、この時間どうしたものかのう。
アイテム整理でもしておくか」
ツクヨは暇つぶしに自身のアイテム整理を行った。その間、ジェネシスはぐっすりと眠っていた。
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最後にキリトとアスナ組。
「ぐっすり寝てるね、ジェネシス」
「ああ。よっぽど疲れていたんだな……」
ソファに並んで座りながら、キリトとアスナはジェネシスを見ながら言った。
「彼、普段から本当に頑張ってるからね。誰よりも前でモンスターと戦って、周りのみんなに指示を出して、常に周りに気を配ってて」
「それだけじゃ無い。シリカやサチ、リーファみたいなレベルが足りてないやつの指導とか育成、リズの店に必要な素材集めまでジェネシスがやってるんだもんな。
正直、今の俺たちをここまで支えて来たのは紛れもないジェネシスだよ」
「正直、ジェネシスがいるだけでかなり心強かったからね。知らず知らずのうちに私、甘えてたのかもしれないな」
「それは俺も同じだよ。俺一人じゃここまでみんなと来れなかった。ジェネシスがいなかったら、もっと攻略は大変だったと思う」
二人はジェネシスの働きぶりに感謝しつつ、それに甘えていた自分たちを振り返り反省した。
「普段はぶっきらぼうで少しバカな発言とかしたりするけど、仲間の事を誰よりも考えてるのってやっぱり彼だよね」
「ああ。でも今後は、ジェネシス一人に背負わせないようにしないとな。あいつ一人の負担をもっと減らせるように、俺たちも頑張っていこう」
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「ティア、次頼むぜ」
交代の時間になり、次はティアの番となった。
キリトとアスナは下に降り、食堂で待つティアに伝える。
「分かった。ありがとうね、二人とも」
ティアはキリト達に礼を述べると即座に二階に上がり、ジェネシスの部屋へと向かう。
が、ここで異変が起きた。
「………ん?」
何故か彼の部屋に鍵がかかっていて入らないのだ。
ジェネシスの部屋は共有スペースのため普通であれば鍵など掛からない筈なのだが……
「久弥……まさか、何かあった?!」
ただならぬ異変を感じたティアは思い切りドアを叩く。
「久弥!久弥?!いるなら返事をして!!」
ドンドンとドアを叩く。しかし、反応は無い。
それが帰ってティアを焦らせた。
一方こちらはジェネシスの部屋。
ふと、何かが自身のベッドに座り込む感覚にジェネシスはゆっくりと目を開けた。
まず視界に飛び込んで来たのは、真っ白な着物。
自身のベッドに腰掛けるその女性は、いつしか見た貴婦人。
「こんばんは。気分はどうかしら」
青い瞳を向け、優しげな笑顔と共に声で話しかける。
「お前…………シキ、か?」
「ええ、噂を聞いて少し心配になって来てしまったわ。身体を壊してる時に、こんな無粋な真似をしてごめんなさいね」
シキはそう言って掌をゆっくりとジェネシスの額に当てる。
「……ナーブギアとの接続が少し悪いみたいね。恐らくこちら側の問題でしょう。
基幹プログラムを再構築すれば………」
するとジェネシスの額に押し当てられたシキの掌から青い光が一瞬光り、そしてそれが収まるとシキは手を戻してゆっくりと立ち上がった。
「これで大丈夫。あとはゆっくりと休めばすぐに治るわ」
「待て、お前………どうやって」
ジェネシスは寝起きではっきりしない意識の中、シキに問いかける。
「さて、そろそろ行かないと。貴方の奥さんが部屋の外で慌てているわ。
あとこれはお願いなのだけれど…私の存在は内緒にしておいて欲しいの。まだ私の存在は不安定なもので、こうして貴方と面と向かってお話できている事自体が奇跡のようなものなの。だから、適当に話を合わせておいてね」
シキは人差し指を口元に立ててそう言うと、青白い光に包まれて姿を消した。
同時に、ジェネシスは再び意識を手放した。
ーーーーーーーーーーーー
朝日が部屋に差し込み、ジェネシスはその光で目を覚ます。
ゆっくりと身体を起こし、固くなった身体を思い切り伸ばす。
ふと、ここで彼は気付いた。
昨日まで体を襲っていた倦怠感がスッキリと無くなっていることに。それどころか今までで一番身体の調子がいいように感じられた。
「ふう、スッとしたぜ……」
爽やかな笑顔と共にそう呟く。
ふと、自身の腰のあたりに重みを感じる。
見ると、ティアがベッドに突っ伏して眠っていたのだ。一晩中看病しているうちに眠ってしまったのだろう。
「ありがとな、雫」
ジェネシスはゆっくりとティアの頭を撫でると、起こさないように立ち上がり、去り際にティアに毛布をかけ、自身は普段の赤黒い装備に着替えて部屋を出た。
階段を降りて食堂に向かうと、エギルがカウンターでコーヒーを沸かしていた。
「よお、エギル」
「ん?ジェネシスか。身体の方はもう大丈夫なのか?」
エギルも昨日のジェネシスの事を聞いていたのだろう、彼にその事を問いかけた。
「ああ、あいつらのおかげでこの通りだ。むしろ今までで一番調子がいいかもしんねえ」
「おうおう、そりゃ良かったなジェネ公よ」
すると隣にクラインが座り、彼の肩を叩きながら言った。
「しかし、治ったのはいいが結局原因は分からなかったのか。
これじゃいつまた再発するかわかんねえぞ」
後ろからミツザネが腕を組みながら言うが、
「ああ、多分その心配には及ばねえと思う」
「ん?何でだ?」
何故か確信を持って言うジェネシスにエギルは疑問符を浮かべる。
「まあ……そうだな」
本当は昨日の晩、あの儚い貴婦人による助言なのだが、彼女の口約束を守るために敢えて黙っておくことにした。
それに、ジェネシスにとってはこちらの方が真実のように感じられたから。
「また体調崩しても、あいつらがいてくれるしな」
「ははっ、そうかいそうかい。全くおめぇは幸せもんだよ」
彼の言葉に、クラインが悪戯な笑みでそう答えた。
お読みいただきありがとうございます。
風邪ひいた時って、なんか嫌な夢とか怖い夢見たりしません?そのせいで余計にしんどさが増すんですよね……
では、次回もよろしくお願いします。評価、感想などお待ちしております。