ソードアート・オンライン〜二人の黒の剣士〜   作:ジャズ

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こんにちは皆さん、ジャズです。
今回、いよいよあの男が出ます。


五十六話 不審な男

七十六層リズベット武具店

 

「よう、来たぜ」

 

木製のドアを開け、ジェネシスが中に入る。

 

「ああ、いらっしゃい。剣のメンテナンス?」

 

リズベットが出迎え、要件を尋ねるとジェネシスはうなずき、自身の大剣を取り出す。

 

「しばらくロクなメンテナンスをして無かったからな。ここで一つ頼むわ」

 

「オッケー、任せて……って」

 

リズベットはジェネシスから大剣を受け取った瞬間その重みで倒れかかった。

 

「まあ見た目から分かってたことだけど、馬鹿みたいに重いわねこれ」

 

「まあかなり重めのやつつかってるからな」

 

するとリズベットは店の奥の方へ視線を移し、とある人物の名を呼ぶ。

 

「呼んだ?」

 

出て来たのは焦げ茶色の髪を持つ長身の男性。リズベット武具店の手伝いをしているヴォルフだ。

 

「ごめん、これ持ってくれない?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

ヴォルフはジェネシスの大剣を軽々と持ち上げ、店の奥へと運んでいった。

 

「悪いわね、あたしじゃ重すぎて」

 

「気にしないでくれ。これくらい平気だしさ」

 

「さっすが!やっぱ持つべきはあんたみたいな助手ね〜!!」

 

リズベットはヴォルフの背中を威勢よく叩く。

そんなリズベットからの称賛にどこか嬉しそうなヴォルフ。

彼ら二人のやり取りを後ろから見ていたジェネシスはこう思った。

“こいつら、いずれくっつくな”、と。

 

 

 

 

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ジェネシスは剣のメンテナンスを終えた後、特に当てもなく広場を散策していた。

その途中、広場の中央付近にキリトとアスナ、そして見知らぬ金髪の男性が立っているのが見えた。何をしているのか気になり、歩いて近づこうとした時だった。

キリトと謎の男は距離をとり、そしてその中央にデュエルカウントの表示が出現したのだ。それを見てジェネシスは察した。あの男は恐らく新たに攻略組に加わりたいと申し出た人物で、キリトはその腕試しを買って出たのだと。

ジェネシスも新参のプレイヤーがどんな物なのか興味が湧いたので、彼らに気づかれない程度の遠い距離からその戦いを見守る事にした。

 

男の武器は金色がベースのショートランス。グリップが黒で一部紫色の配色がなされている。その見た目からして中々の性能を誇る武器であることは遠目からも理解出来た。

 

カウントがゼロになると、男はランスの先端を真っ直ぐに向けてキリトに突っ込んでいった。出だしのスピードは文句なしのレベルだった。

だがその後の戦闘はあまりにも一方的なものだった。男の攻撃は尽くがキリトに弾かれ、躱され、まともな勝負にすらなっていなかった。

まあ、キリトの戦闘力が高いのも理由として挙げられるのだが、それを差し引いても男の戦闘スタイルはあまりにも稚拙なものだった。

 

「何だありゃあ……弱すぎるだろ。《惰弱惰弱ぅ!》ってエジプトのファラオに笑われんぞ」

 

ジェネシスは呆れた顔でそう呟いた。

結局試合はキリトの勝利で終わり、アスナが頭を下げ、男が大人しく引く形で幕を閉じた。

ジェネシスはため息をつき、あの男はダメだなときっぱり忘れる事にした。

 

その時だった。

 

「───気をつけて」

 

不意に聞き覚えのある優しげな声が後ろから響く。

驚いて振り向くと、そこにはシキが立っていた。しかし彼女の表情は普段の温厚で柔和な笑みではなく、険しく鋭い眼光を放つものだった。その視線は先ほどジェネシスが取るに足りないと判断した男の方に向けられていた。

 

「あの男こそ、全ての元凶。諸悪の根源よ」

 

シキはジェネシスに対してそう意味深な言葉を放つ。

そう言われてジェネシスは男の方にもう一度視線を移す。

その時、ジェネシスは見た。

男の視線がアスナに向いており、そしてその口元に不気味な笑みを浮かべていたのを。

 

「何としてもあの人の証拠を見つけ出して────全てが手遅れになる前に」

 

それはどう言う意味だ、と問おうと振り返るジェネシスだったが、そこには既にシキの姿は無かった。

理解が追いつかず、ジェネシスはただその場に立ち尽くすのみだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その日の夜、宿の食堂にて。

 

「アルベリヒ?」

 

今日起きた出来事をキリトとアスナが皆に話す。

 

「そう、新たに攻略組に加わりたいって来た人なんだけど…」

 

「何か妙だったんだ。レベルやステータスは確かに高い。けど、戦い方が何というか……初心者みたいだったんだ」

 

二人は今日出会った人物ーーアルベリヒという男をそう振り返る。

 

「なんか、不思議な人ですね」

 

「確かに……今までどこで過ごしてたんだろう?」

 

シリカとサチが首を傾げて疑問符を浮かべる。

 

「まあ、たいした強さも無かったんでしょ?別にそんなに気にする事ないんじゃない?」

 

「私も同意見ね。ま、放っておけばいいんじゃない?」

 

リズベットとイシュタルはアルベリヒについてそう片付けることを提案した。

 

「……まあ、そうだな。そんな奴がいたっておかしくはないか」

 

「とりあえず、私たちは私たちのやるべき事をやりましょう」

 

結局、アスナとキリトもそう言ってその日はアルベリヒの話題は消え去った。

しかしジェネシスはそんな中、昼間のシキから受けた警告についてずっと考え込み、アルベリヒのことが頭から離れなかった。

 

 

 

 

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それから数日後。

その日、ジェネシスとヴォルフは七十六層のとあるレストランにランチに来ていた。

 

「なる程、上層まで来るとこんなに豊富なメニューが…」

 

「ああ。美味そうなもんが多いだろ?お勧めはカルボナーラだ」

 

「なら、せっかくだし君のお勧めの一品を頂こうかな」

 

ジェネシスは七十六層に来たばかりのヴォルフに、この層について色々案内して回っていたのだ。

すると、店の一角で……

 

「ちょっと、何するのよ!」

 

「……?」

 

「何だろ?店の奥からだ」

 

聞き覚えのある女性の怒鳴り声が響き、二人は声のした店の奥の方を見る。

見ると、店の奥にはリズベットとサチが来ており、その席に複数の男性プレイヤーが集っていた。

サチは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯いており、リズベットが男性達に対して険しい顔で怒鳴っている。

 

「リズにサチちゃんだ。何かあったのかな?」

 

ヴォルフが心配そうに見つめる中、ジェネシスはその男性たちに見覚えがありじっと目を凝らした。

 

「(ありゃあ、確かアルベリヒの取り巻きか)」

 

そう、以前キリトとデュエルをしたアルベリヒ。その時に彼と一緒にいた男たちだ。

男たちは嫌がるサチとリズベットに対して手を伸ばし、その頬や首筋を撫で回した。

 

「いい加減にしなさいっての!!あんた達、監獄送りにされたいわけ?!」

 

リズベットは怒り心頭だ。男の手を乱雑に振り払うなり怒鳴り声を上げる。サチはもう恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして涙目になっている。

 

「いいよいいよ、やってみな。俺たちにそんな無粋な真似は意味ねえんだからよ」

 

リズベットはメニュー欄を開き、こういう場合に発動する犯罪防止コードの確認をする。

が……

 

「な……何で犯罪防止コードが出ないのよ?!」

 

リズベットは目を見開いて叫んだ。普通ならば有り得ない事態だからだ。

そんなリズベットの様子を見て勝ち誇ったように男たちは厭らしい笑みを浮かべ、

 

「な?俺たちにそんなもん効かないんだよ。

というわけで、もう少し……いいだろう?」

 

そして男たちはその手をリズベットとサチにゆっくりと伸ばす………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いいわけねぇだろおぉぉぉーーー!!」」」

 

ジェネシスとヴォルフがそれぞれ大剣とハルバードでその男たちを脳天から殴りつけた。

 

「「ぐおおぉぉぁわああああ?!!」」

 

男たちは凄まじい衝撃を脳天から受けて轟音と共に地面に頭を激突させた。

そんな男たちをジェネシスとヴォルフ呆れた顔で見つめる。

 

「人が飯食ってる時になに下品な事やらかしてんだコラ」

 

「君たちはテーブルマナー以前に、まず人としての常識を学んだ方がいいね」

 

二人はそれぞれの獲物を肩に担ぎながらそう告げた。

 

「あ、あんた達どうしてここに……」

 

「たまたまここに来てたんだよ」

 

驚くリズベットにジェネシスはそう答えた。

すると……

 

「おやおや、これは攻略組のお二方。こんな時間にここにいるとは、よほど暇なのかな?それとも……正義の味方のつもりかな?」

 

現れたのはアルベリヒ。

 

「てめぇんとこの取り巻きが馬鹿な事やってたから注意してやってたんだよタコ」

 

「ふむ……注意、ね……」

 

鋭い視線で睨みながら言うジェネシスの言葉に対し、アルベリヒは未だに地面に倒れ込んでいる二人の部下らしき男達を見下ろした。

 

「おたくの部下さん、この人たちに随分と迷惑かけてましたよ。貴方上司なら部下の管理くらいしっかりしてください」

 

ヴォルフがため息を吐きながらアルベリヒに対してそう告げると、アルベリヒは「はっ」と軽く笑い、

 

「まあいいさ。精々今のうちにカッコつけておくんだな。お前たちなんて何の力もない子供だって事を身をもって教えてやるよ。いずれな」

 

そう言い残すと、アルベリヒは倒れている二人の部下を叩き起こし、店を後にした。

 

「ケッ、キリトに手も足も出なかったザコが、何偉そうにしてやがるってんだ」

 

ジェネシスはアルベリヒ達の後ろ姿に対してそう吐き捨てた。

 

「…大丈夫だったか?二人とも」

 

ヴォルフが被害にあったサチとリズベットに問いかける。

 

「ええ、おかげさまでね」

 

「ありがとう、本当に助かったよ」

 

リズベットとサチはヴォルフとジェネシスに対してそう礼を言った。

 

「しっかし……犯罪防止コードが出ないなんざこりゃ大問題だぞ……」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「セクハラコードが出なかった?」

 

その夜、今日あった出来事をジェネシス達四人は皆に話した。

 

「そうなのよ。ほんとあの時は焦ったわ」

 

「ジェネシス達が来てくれなかったら、どうなっていたか……」

 

リズベットとサチはげんなりした顔でそう語った。

 

「大変だったね、リズ、サチちゃん……」

 

アスナが被害にあった二人を労った。

 

「とりあえず、一つ言えることがあるわね」

 

「ああ。アルベリヒを攻略組に入れなかったのは大正解だったな」

 

イシュタルの言わんとする事にキリトが同意し、そう結論付ける。

 

「女の人にそんな事するなんて人として最低です。万死に値します」

 

「オルトリアさんに同じですね。平気で痴漢行為をするなんて言語道断です」

 

オルトリアが殺意剥き出しの様子で呟き、リーファも頷く。

 

「でもその前に、犯罪防止コードが本当に発動しないのか調べた方が良さそうですよね」

 

「うん。セクハラコードが出ないなんて大問題だし」

 

サツキの提案にティアが頷いて肯定する。犯罪防止コードが出ないなら何かしらの対策を打たなければ、女性プレイヤーにとってかなり危険な事になる。アルベリヒ達による被害も拡大する事になるだろう。

 

「では、調査してみましょう!」

 

「調査、というと?」

 

「パパ達男性プレイヤーの皆さんが、ここにいる女性プレイヤーさん達に触ってみるんです!」

 

レイの提案にキリトが首を傾げ、ユイがその案を説明した。

 

「え、ええっ?!それじゃジェネシスさん達がその、ち、痴漢するって事ですか?!」

 

「シリカ、言い方考えろ」

 

途端、シリカが顔を真っ赤にして慌て始め、ジェネシスが冷静にツッコミを入れる。

 

「だ、ダメですよ……まだ心の準備が……」

 

「あ、あたし達、兄妹だから!そういうのどうかと思うよ!」

 

『わ、私は主に身を捧げた者……そ、そんなみだらな事は出来ましぇん!』

 

シリカ、ハヅキ、ジャンヌが顔を赤くして捲し立てた。

そこへ彼女らの眉間に苦無が刺さり、3人は同時に倒れ込む。

 

「誰も主らにやるとは言うておらぬ。落ち着きなんし」

 

苦無を投げたツクヨが呆れた顔でそう告げた。

 

「じゃあ、誰が触ってもらうかジャンケンで決めましょう!」

 

「レイ、そんな事みんなに頼めないわよ。

久弥、私で試してみて」

 

皆にそう呼びかけるレイを制し、ティアがジェネシスの元に歩み寄る。

 

「うわー、つまんなー」

 

するとイシュタルが大層堪らなさそうな顔で言った。

 

「ちょっと凛ちゃん!つまんないってどういうことよ!」

 

「だって、あんたは久弥に普段から触られまくってんでしょ?あんなとこやこんなとこまで」

 

「ちょ、変なこと言わないでよ!!

とにかく!久弥、少しお願い!」

 

有無を言わさずティアがジェネシスに促す。

 

「……じ、じゃあ……」

 

ジェネシスはゆっくりとティアに手を伸ばし、その頭に触れ、撫でる。

 

「〜〜♪」

 

何故かティアは頬を綻ばせて嬉しそうにされるがままになっている。

が、肝心の犯罪防止コードは発動していなかった。

 

「ちょ、雫!コード!セクハラコード!!出てないから戻りなさい!!」

 

凛が天国モードのティアの頭を引っ叩いて戻す。

 

「はっ!た、たしかに出てない……」

 

「嘘でしょ……」

 

その結果にアスナが愕然とした表情になる。

 

「うーん……もっと大胆に行かないとダメなんじゃない?」

 

「だ、大胆に?」

 

リズベットは腕を組みながら言い、ティアが首を傾げる。

 

「もっとこう……ギリギリのゾーンを攻めないといけないんじゃないの?」

 

「いや、これ以上は流石に……」

 

ジェネシスが戸惑って手を引っ込めた瞬間。

 

「〜〜〜えいっ///」

 

「んなっっ?!」

 

ティアがジェネシスの右手を両手で掴むなり思い切り引き寄せ、自身の胸元に押し付けた。

 

「ちょ…!!」

 

「わぁー……///」

 

「これは……」

 

「ティアさん、大胆です……」

 

少女達は突然のティアの行動に驚き、頬を赤く染めて見入ってしまった。

 

「ん……久弥っ……!」

 

ティアはジェネシスの手をがっしりと掴んだまま離さず、そのまま自身の双丘の中に埋めた。

ジェネシスは完全に放心状態で立っていた。

 

「……て、ティアちゃん!コード!犯罪防止コードは?!!」

 

思わず見とれてしまっていたアスナがハッとした顔でティアに言い、ティアは恥じらいと快感に苦悶する表情のまま画面を確認する。

 

が、これでも犯罪防止コードは出ていなかった。

 

「はーいそこまでーー!!」

 

そこでイシュタルがティアの手を振り解いてジェネシスの右手を解放した。

 

「はあ……はあっ……///」

 

ティアの顔は完全に紅潮しており、息が上がってしまっている。

 

「とりあえず久弥、あんた後でしばくから」

 

「なんでぇ?!」

 

ジト目でイシュタルがそう言い、あまりに理不尽な事を言われジェネシスは叫んだ。

 

「でも、結局犯罪防止コードは出なかったわね……」

 

実験の結果を受け、アスナはげんなりとした表情になった。

 

「おそらく、七十六層に来たときのシステムエラーが関係してるのかもな……」

 

キリトはこの結果に対してそう仮説を立てた。

それを受け、この場にいる女性プレイヤー達は一斉にため息をついた。

 

「ああぁーーーっ!!」

 

そのとき、ティアが何かを思い出して叫ぶ。

 

「わ、私…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………倫理コード、解除したままだった………」

 

その瞬間、場の空気が一瞬で凍りついた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

現在、ティアはイシュタル・シリカに踏まれている。

 

「あんた人に散々見せつけといてオチがこれってどう言うつもりよ!!」

 

「あたし達結局ジェネシスさんとティアさんがイチャついてるのを見てただけじゃないですか!!」

 

「ごめんなさいごめんなさい!私がうっかりしてましたぁ〜」

 

ティアは地面に蹲って涙目で謝り続けた。

 

「倫理コードを解除したままって……」

 

「つまり、そういうことよ」

 

何かを察したサチとリズベット。

 

「(危なかった……私も解除したままだったわ……)」

 

アスナはそれを横目に人知れず倫理コードを戻した。

 

「まあ、とりあえずは仕切り直しね。もう改めてジャンケンで決めましょう」

 

「あ、ティア。あんたは除外で」

 

「しょんなあああぁぁ………」

 

リズベットとイシュタルが仕切り、ティアがガックリと肩を落とす。

 

「んじゃ俺も除外で」

 

ジェネシスもテスターから外れる事を宣言するが、

 

「は?何言ってんの」

 

「あんたも引き続き強制参加よ」

 

「あんなの見せつけて……ちゃんと責任は果たしてもらうからね!」

 

が、リズベットとイシュタル、アスナが冷たい視線でそう告げた。

 

「Why Japanese People ?!!」

 

ジェネシスは頭を抱えて叫んだ。

 

しかし問答無用で始まるジャンケン。結果は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウソダドンドコドォーン!

 

「どんまい、ジェネシス」

 

「お、お願いします……」

 

男性陣は再びジェネシス。ヴォルフとサツキが同情の視線を向ける。

 

「な、ナジェダァ……」

 

「坊やだからさ。とりあえず行ってこい」

 

げんなりした表情でフラフラと歩くジェネシスの肩をポンと叩くキリト。

 

それに対して女性陣のテスターは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。わっちか」

 

「お願いします!ツクヨさん!」

 

どうやらツクヨのようだ。

テスターに決まったツクヨに、フィリアが激励を送る。

 

「頼んだわよツッキーさん!」

 

「もしもの場合は殺していいから!」

 

「任せよ。その時は蜂の巣にしてくれよう」

 

アスナとイシュタルもそう言葉を投げかけ、ツクヨも苦無をギラつかせて告げた。

 

「いやだあぁぁぁ!!死にたくない!死にたくないいぃぃぃ!!」

 

ツクヨからの威嚇を見たジェネシスは涙目で叫んだ。

 

「馬鹿者が、冗談に決まっておろう。ほれ、触れ」

 

ツクヨはため息をついて両手を腰に当てて胸を張って堂々と立った。

 

「テメェ!この流れでどうやって触れってんだ!!命がいくつあっても足りねぇわ!!」

 

「あのなぁジェネシス。ここは圏内なんだから死ぬ事は無いからな?」

 

捲し立てるジェネシスに対しキリトがやんわりと突っ込む。

 

「バカヤロウッ!!死ぬってのはそういう意味とは限らねえんだぞ!!大体なぁ…」

 

「だあぁぁぁもうこの後に及んでネチネチ言って!!

それでも男ですか軟弱者!!

さっさと行きなさい!!」

 

尚も騒ぎ立てるジェネシスに堪忍袋の尾が切れたイシュタルがジェネシスの尻を蹴飛ばした。

 

「あっ、ちょおまっ……」

 

蹴られた事でバランスを崩し倒れ込むジェネシス。

踏みとどまろうと右足を出すも、椅子の足に引っかかってよろけ、勢いよく前に顔が突き出る。

その頭部は真っ直ぐにツクヨへダイブし……

 

 

 

ポヨン……

 

 

 

ジェネシスの顔がそんな音を立てて何かに挟まれた。

 

「………」

 

「………?」

 

突然すぎる展開にジェネシスとツクヨは瞬きする。

そしてジェネシスは恐る恐る左手を伸ばし、自身の顔を包む柔らかいものを掴む。

瞬間、ツクヨの顔が真っ赤に染まり、同時に目もぐるぐると回り始める。

同時にジェネシスは何かを察して反対に顔が青ざめていく。

 

「あの、これって………」

 

「な、なに………!

 

なあぁぁぁぁに晒しとんじゃああぁぁぁ!!!

 

ツクヨはジェネシスの腰あたりに両手を回してホールドすると、そのままジャーマンスープレックスをかけて地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

結局、ツクヨには犯罪防止コードが出現しており、システムは問題ないことが判明した。

 

「まあ、無事にセクハラコードが出ることがわかってよかったじゃないか」

 

「ああ。まあ……ジェネシスはその、必要な犠牲だったという事だな」

 

キリトとヴォルフは結果に安堵した様子。

一方のジェネシスは先ほどツクヨから受けたダメージで意識を失い、ティアとサクラ、レイによって部屋に運び込まれた。

 

「とりあえず、アルベリヒには今後、注意していかないとね」

 

「ええ。何にせよあいつにはセクハラコードが出ないんだから。原因が何であれ、アルベリヒには近づかない方がいいわ」

 

アスナの言葉に実際被害を受けたリズベットが同意する。

 

「ま、奴に対してはジャーマンスープレックスでは済まさぬ。アルベリヒが手を出してきた時……それは奴が死ぬ時じゃ」

 

「ツクヨさんダメだからね?そんな事したらまたオレンジになっちゃうからね?」

 

冷ややかに言うツクヨをフィリアが諫めた。

 

「とりあえず、昼間は本当にありがとね。ヴォルフ」

 

「気にしないでくれ。リズが無事でよかったよ」

 

リズベットはこの場で改めてヴォルフに礼を述べた。

 

「も、もう………ずるいわよ……。あたしはキリトの事が好きなのに……これじゃあ気が移っちゃうじゃないの」

 

リズベットは誰にも聞こえない小さな声でボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

その夜、とあるフィールドで。

 

「な、何だてめぇらは!!」

 

一人の男性プレイヤーが3人の男達に囲まれている。

 

「まあまあそう警戒しなさんな。ちょっとだけ“実験”の協力をしてもらうだけだよ」

 

「そうそう。な?旦那」

 

二人の男がニヤリとしながら言い、後ろに立つ男がーーーーアルベリヒに対して言うと、

 

「安心したまえ。悪いようにはしないから」

 

アルベリヒは懐から紫色の光を放つ短刀を取り出す。

そしてそれを振り上げ、

 

「それじゃ、一名様ご案内〜」

 

勢いよく振り下ろす。

 

が、その時だった。

 

真っ白な吹雪のような一陣の風が吹き、3人を通過した。

 

その一瞬で、アルベリヒ達が取り囲んでいた男性はいなくなっていた。

 

「な、何だ今のは?!」

 

部下の一人が何が起きたのか分からず狼狽る。

 

「………まさか」

 

アルベリヒは何かに気づいたのか、目を見開いて辺りを見回す。

 

「だ、旦那?」

 

「………引くぞ。予定変更だ………我々の計画が漏れているかも知れん」

 

アルベリヒの様子を見て訝しむ部下に対し、アルベリヒは短く告げると、二人を引き連れてその場を後にした────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───それを背後から見つめる、青白い瞳に気づかずに。

 

「……貴方達の思い通りにはさせないわ。元凶」

 

純白の着物を着た女性……シキは、先ほど救出し気絶している男性プレイヤーを抱えたままアルベリヒの背中を睨んだ後、青白い光に包まれその場から去った。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
そしてついに登場しました、アルベリヒ。本作でも彼には大いにやらかしてもらうつもりでいます。
まあ、どうやら思わぬ邪魔が入っているようですが……

では、次回もよろしくお願いします。
評価、感想などお待ちしております。
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